玉井商船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

玉井商船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所 スタンダード市場に上場する海運会社です。主要事業として外航・内航海運業と不動産賃貸業を展開しています。当期の連結業績は、営業収益が減収となったものの、固定資産売却益の計上により親会社株主に帰属する当期純利益は前期比で大幅な増益となりました。


※本記事は、玉井商船株式会社 の有価証券報告書(第116期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月20日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 玉井商船ってどんな会社?


ボーキサイト輸入のパイオニアとして歴史を持つ海運会社です。日本軽金属との関係が深く、安定した輸送基盤を持ちます。

(1) 会社概要


同社は1929年に中外商船として創業し、1932年に玉井商船を設立して大型貨物船による海運事業を開始しました。1952年には神戸証券取引所に上場し、1959年に日本軽金属と資本提携を行っています。1978年にはリベリアに子会社を設立し、外航海運業の体制を強化しました。

2025年3月31日現在、従業員数は連結63名、単体23名です。筆頭株主は事業提携先である日本軽金属(10.19%)で、第2位はあいおいニッセイ同和損害保険(5.46%)、第3位は個人株主の大佐古幸典氏(4.99%)となっており、主要荷主や金融機関が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本軽金属 10.19%
あいおいニッセイ同和損害保険 5.46%
大佐古幸典 4.99%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性0名の計10名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は清崎 哲也氏が務めています。社外取締役比率は40.0%です。

氏名 役職 主な経歴
清崎 哲也 代表取締役社長 1973年同社入社。海務部長、取締役海務部長、大四マリン社長、常務取締役などを歴任し、2024年6月より現職。
松本 和成 取締役内航営業部長経理部管掌 1991年大同汽船(現同社)入社。内航営業部長などを経て、2024年6月より現職。大四マリン代表取締役社長を兼務。
永井 仁 取締役外航営業部管掌 1995年大同汽船(現同社)入社。外航営業部長、T.S. Central Shipping Co.,Ltd.社長などを経て、2025年4月より現職。


社外取締役は、岡本泰憲(日本軽金属ホールディングス副社長執行役員)、樹下健(日本軽金属執行役員)、玉井裕(新神戸ドック社長)、左合輝行(左合・赤塚法律事務所代表弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「外航海運業」「内航海運業」および「不動産賃貸業」事業を展開しています。

(1) 外航海運業


長期定期用船や市場からの短期用船を活用し、日本軽金属向けの水酸化アルミ輸送、全農向けの穀物輸送、国外向けのスラグ輸送などを行っています。ドライバルク輸送が中心で、顧客ニーズに応じた海上輸送サービスを提供しています。

主な収益源は、荷主との長期契約やスポット契約に基づく運賃および貸船料です。主要顧客である日本軽金属や全国農業協同組合連合会(全農)との取引が中心です。運営は主に玉井商船および連結子会社のT.S. Central Shipping Co., Ltd.が行っています。

(2) 内航海運業


国内において、定期用船した貨物船による水酸化アルミ輸送や、所有するタンカー・液化ガスばら積船の定期貸船を行っています。また、連結子会社では船員派遣業も手掛けており、海運に関わる多様なサービスを提供しています。

収益は、貨物輸送による運賃収入、同業他社への船舶貸渡による貸船料、および船員派遣による収入から構成されています。運営は玉井商船と連結子会社の大四マリンが行っており、大四マリンは船員の確保・育成機能も担っています。

(3) 不動産賃貸業


東京都やその他の地域において、賃貸用集合住宅(マンション)やアスレティック施設などの不動産を所有し、賃貸事業を行っています。海運業の市況変動リスクを補完する安定収益源としての役割を果たしています。

収益源は、所有する不動産のテナントや入居者からの賃貸料収入です。運営は玉井商船および連結子会社の本山パインクレストが行っており、一部物件では賃料の適正化による収益改善にも取り組んでいます。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、海運市況の影響を受けつつも、一定の利益水準を維持しています。第113期に大幅な増収増益を記録した後、第116期にかけて営業収益は減少傾向にありますが、利益面では底堅く推移しています。特に第116期は、営業収益が減少したものの、固定資産売却益の計上により当期利益が過去最高水準となりました。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
営業収益 47億円 67億円 73億円 62億円 54億円
経常利益 -0.8億円 16億円 12億円 10億円 9億円
利益率(%) -1.8% 23.6% 16.2% 16.0% 16.5%
当期利益(親会社所有者帰属) -0.8億円 12億円 8億円 7億円 21億円

(2) 損益計算書


直近2期間の傾向を見ると、海運市況の変動や船舶売却の影響により、営業収益は減少しました。一方で、一般管理費などのコスト削減効果もあり、営業利益は微増し、営業利益率は改善しています。本業の収益性は維持・向上していることが読み取れます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 62億円 54億円
売上総利益 14億円 14億円
売上総利益率(%) 23.0% 26.6%
営業利益 9億円 9億円
営業利益率(%) 14.0% 16.5%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給与等が1.6億円(構成比29%)、役員報酬が1.3億円(同24%)を占めています。売上原価(海運業費用・その他事業費用)においては、借船料が24億円(売上原価の61%)、船費が22億円(同55%)を占めています。

(3) セグメント収益


セグメント別の状況を見ると、主力の外航海運業は短期貸船へのシフトや船舶売却の影響で減収となりましたが、利益率は高い水準を維持しています。内航海運業は輸送量の増加や単価上昇により増収増益となりました。不動産賃貸業も賃料改定により増収増益となり、収益の安定化に寄与しています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
外航海運業 52億円 43億円 13億円 13億円 29.8%
内航海運業 10億円 10億円 0.7億円 0.7億円 6.8%
不動産賃貸業 0.9億円 1.2億円 0.1億円 0.3億円 27.1%
調整額 - - -5億円 -5億円 -
連結(合計) 62億円 54億円 9億円 9億円 16.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

同社は、船舶の購入に係る設備資金、運転資金、借入金の返済、配当金の支払い等を主な資金需要としています。
営業活動では、事業活動から得られた資金が前年度より減少しました。投資活動では、有形固定資産の売却収入が主な要因となり、資金を得る結果となりました。財務活動では、長期借入金の返済や配当金の支払いに資金を使用しました。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 15億円 13億円
投資CF -5億円 17億円
財務CF -0.9億円 -13億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「国内及び国際海上輸送を通して社会に貢献します」を経営理念として掲げています。この理念のもと、所有船舶の安全運航を第一の課題と位置付け、徹底した船舶管理による効率的な運航管理に日々努めることで、社会インフラとしての責任を果たしていく方針です。

(2) 企業文化


同社は、株主・取引先・従業員・地域社会との調和のとれた経営を行い、社会的に尊敬される企業を目指しています。永年培った海運技術とノウハウを活用し、顧客ニーズに柔軟に対応することで信頼される「特色ある優良企業」を目指す文化があります。また、法令順守や透明性のある情報開示、地球環境保全への取り組みも重視しています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、2025年3月期から2027年3月期までの中期経営計画を策定しています。この計画において、営業利益の確保を前提としつつ、EBITDA、ROE、流動比率を目標指標として設定しています。また、株主還元として配当性向20%以上を目標に掲げ、安定配当の実施を目指しています。

(4) 成長戦略と重点施策


中長期的な成長に向け、外航海運業では新規取引先の開拓や長期契約による収益安定化、環境対応船への投資を進めています。内航海運業では若手船員の確保・育成を最重要課題とし、船員派遣の拡大や適正運賃への改定交渉に取り組みます。また、環境規制への対応として、GHG排出削減に向けた新技術の導入や効率的な運航を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、事業規模拡大と企業価値向上のため、将来を見据えた人材採用・育成を実践する方針です。特に内航海運業界における船員不足に対応するため、若手船員の計画的な雇用と教育訓練に注力しています。また、多様な価値観を尊重し、社員一人ひとりが能力を発揮できる労働環境の整備や、働き方改革の実現にも取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 40.6歳 14.1年 8,193,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は従業員規模が300人以下のため、有報には本稿の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 海運市況の変動リスク


外航海運部門において、中長期契約の更改やスポット契約締結時の市況(輸送量、船舶需給等)により、運賃・貸船料収入が大きく変動する可能性があります。同社は中長期契約を主体とし、所有船と用船のバランスを調整することでリスク低減を図っていますが、業績に影響を与える可能性があります。

(2) 為替変動リスク


外航海運業の収入の大部分が米ドル建てである一方、費用には円建てのものも多く含まれます。為替予約等のヘッジ策を講じていますが、為替相場の変動により収支バランスが崩れ、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 燃料油価格変動リスク


船舶の燃料油価格は原油市場の動向により変動します。価格上昇時には運航燃料費が増加するため、バンカーサーチャージ等で運賃への転嫁を進めていますが、全ての増加分を転嫁できない場合、業績に悪影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。