本記事は、玉井商船の有価証券報告書(第117期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月8日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 玉井商船ってどんな会社?
同社は内外航船舶を用いた海上貨物運送を中心に、不動産賃貸業なども展開する海運企業です。
■(1) 会社概要
1929年に中外商船として創業し、1932年に玉井商船を設立して大型貨物船による不定期船海運事業を開始しました。1959年には日本軽金属と資本提携し、ボーキサイトの専属輸送契約を締結しています。1961年に東京・大阪証券取引所第二部へ上場し、2022年にはスタンダード市場へ移行しました。
従業員数は連結で61名、単体で22名です。筆頭株主は事業会社であり主要顧客でもある日本軽金属で、第2位は日本ガスライン、第3位は資産管理業務を行う証券会社のINTERACTIVE BROKERS LLCとなっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本軽金属 | 12.86% |
| 日本ガスライン | 7.75% |
| INTERACTIVE BROKERS LLC | 7.56% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性0名の計10名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は清崎哲也氏が務めており、社外取締役比率は40.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 清崎哲也 | 代表取締役社長 | 1973年同社入社。海務部長、取締役、大四マリン代表取締役社長などを経て、2024年より現職。 |
| 松本和成 | 取締役船舶部管掌経理部管掌 | 1991年大同汽船(現同社)入社。内航営業部長、大四マリン代表取締役社長などを経て、2026年より現職。 |
| 永井仁 | 取締役営業部管掌 | 1995年大同汽船(現同社)入社。外航営業部長、T.S. Central Shipping取締役社長等を経て、2026年より現職。 |
社外取締役は、岡本泰憲(日本軽金属ホールディングス副社長執行役員)、樹下健(日本軽金属上席執行役員)、玉井裕(新神戸ドック代表取締役社長)、左合輝行(左合・赤塚法律事務所代表弁護士)です。
2. 事業内容
同社グループは、「外航海運業」、「内航海運業」および「不動産賃貸業」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。
■外航海運業
T.S. Central Shipping等からの長期定期用船を中心に適宜短期用船を行い、主要顧客である日本軽金属向けの水酸化アルミや全国農業協同組合連合会向けの穀物輸送を行っています。
運賃や貸船料を収益源とし、長期輸送契約とスポット契約をバランス良く組み合わせることで市況変動リスクを抑えつつ安定収益を確保しています。運営は同社およびT.S. Central Shippingが行っています。
■内航海運業
同業他社から内航貨物船を長期定期用船して水酸化アルミ輸送を行うほか、所有する内航タンカーや液化ガスばら積船を用いた定期貸船、および船員派遣業を行っています。
顧客からの運賃や貸船料、船員派遣に伴う収入が主な収益源です。運営は同社および船員配乗などを担う大四マリンが行っています。
■不動産賃貸業
東京都や兵庫県神戸市などにおいて、賃貸用集合住宅やアスレチック施設などの不動産物件を所有し、不動産賃貸事業を展開しています。
入居者からの不動産賃貸料を主な収益源としています。運営は同社および本山パインクレストが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は2023年3月期の73億円をピークに減少傾向にあり、直近の2026年3月期は51億円となっています。経常利益も運賃市況の変動や新造船の船費負担増加などが影響し、直近では6億円台へと低下しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 67億円 | 73億円 | 62億円 | 54億円 | 51億円 |
| 経常利益 | 16億円 | 12億円 | 10億円 | 9億円 | 6億円 |
| 利益率(%) | 23.6% | 16.3% | 16.1% | 16.5% | 12.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 12億円 | 8億円 | 7億円 | 21億円 | 8億円 |
■(2) 損益計算書
売上高および各段階利益ともに減少傾向にあります。特に当期は、外航海運業における貨物輸送から短期貸船への運航比率の変化に伴う運賃の減少と、新造船竣工に伴う船費の増加により、売上総利益と営業利益がともに落ち込んでいます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 54億円 | 51億円 |
| 売上総利益 | 14億円 | 12億円 |
| 売上総利益率(%) | 26.6% | 23.3% |
| 営業利益 | 9億円 | 7億円 |
| 営業利益率(%) | 16.5% | 12.9% |
販売費及び一般管理費(一般管理費)のうち、従業員給与等が1.6億円(構成比30%)、役員報酬が1.3億円(同24%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力である外航海運業は短期貸船への運航比率変更や船費の増加により減収減益となりました。一方、内航海運業は貸船料の増加等で減収増益、不動産賃貸業も堅調に推移し増収増益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 外航海運業 | 43億円 | 40億円 | 13億円 | 10億円 | 24.7% |
| 内航海運業 | 10億円 | 10億円 | 0.7億円 | 0.9億円 | 9.5% |
| 不動産賃貸業 | 1億円 | 1億円 | 0.3億円 | 0.5億円 | 41.7% |
| 連結(合計) | 54億円 | 51億円 | 9億円 | 7億円 | 12.9% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFと財務CFがともにマイナスのため、「健全型」と判定されます。営業利益で借入返済を進めつつ、手元資金で投資を賄う優良な状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 13億円 | 11億円 |
| 投資CF | 17億円 | -26億円 |
| 財務CF | -13億円 | -12億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.9%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は66.0%で、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「国内及び国際海上輸送を通して社会に貢献します」という経営理念を掲げています。社会的に尊敬に値する企業を目指し、長年培った海運技術とノウハウを活かして柔軟に顧客ニーズに応えるとともに、安全運航の徹底と海洋・地球環境の保全を第一の課題として事業を展開しています。
■(2) 企業文化
同社は、株主・取引先・従業員・地域社会との調和のとれた経営を行い、社会的に尊敬に値する企業を目指すという方針を重視しています。安全運航を第一の課題として船舶管理を徹底するほか、法令および社会的規範を遵守し、公正かつ透明な事業活動を通じて広く社会とのコミュニケーションに努める文化を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2025年3月期から2027年3月期にかけての中期経営計画を策定しています。安定したキャッシュを創出し、各セグメントの収益性や中長期の船舶投資等を通じて企業価値の向上を目指しています。
* EBITDA:10億円
* ROE:5~10%
* 流動比率:200%以上
* 配当性向:30%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
外航海運業では、既存貨物・航路の最効率化や長期契約獲得による収益の安定化を目指し、バランスの取れた用船を計画しています。内航海運業では、契約単価・期間の適正化による運航採算性の向上と、若手船員の確保・育成に注力しています。また、温室効果ガス排出抑制など環境保全に対応する設備投資への対応も進めます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、多様な個性と価値観を尊重し、一人ひとりが能力を最大限に発揮できる企業グループを目指しています。社員の成長を促すために適宜研修や講習の機会を設け、責任ある業務を任せています。また、海上従業員には安全教育や安全管理技術の指導を通じて海技の伝承を行い、男女を問わず定期昇給やベースアップを実施して処遇改善に努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.3歳 | 14.8年 | 8,617,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は従業員規模が300人以下のため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 海運市況の変動リスク
中長期契約を主体として安定的な収益確保に努めていますが、契約更改時やスポット輸送契約時の海上輸送量の増減、需給バランスの変化により、運賃収入や貸船料収入が大きく変動し、業績に影響を与える可能性があります。
■(2) 為替変動リスク
主要事業である外航海運業の運賃や貸船料等の収入は大部分が米ドル建てです。燃料費や外地港湾経費などの費用も米ドル建てが多くを占めますが、円建て経費も多いため、為替相場の変動による収支バランスの変化が業績に影響する可能性があります。
■(3) 燃料油価格変動リスク
外航および内航海運業で運航する船舶の燃料油価格は原油市場の動向により変動します。バンカーサーチャージ等の設定で運賃への転嫁に努めていますが、急激な価格上昇分をすべて転嫁できない場合、運航燃料費の増加が業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 海難事故リスク
安全運航の徹底に努め「事故ゼロ・漏油ゼロ」を目指し、安全管理システムの構築や乗組員の教育・訓練を行っていますが、万一海難事故が発生した場合、人命・貨物・船舶の損失や海洋汚染につながり、業績や財務状況に影響する可能性があります。



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