※本記事は、澁澤倉庫株式会社の有価証券報告書(第179期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 澁澤倉庫ってどんな会社?
同社は、国内外での総合物流サービスと、オフィスビルなどの不動産賃貸事業を展開する企業です。
■(1) 会社概要
1897年に澁澤榮一を営業主として東京・深川で創業し、1909年に設立されました。1950年に東証へ上場し、1972年には倉庫・海運・陸運を一体化した総合物流体制を開始しました。近年では、2022年にフィリピンで合弁会社を設立したほか、2026年に名鉄ワールドトランスポートの全株式を取得して澁澤ワールドトランスポートへ改称するなど事業を拡大しています。
連結従業員数は1,320名、単体では558名です。筆頭株主は小売業などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスで、第2位は資産管理業務を行う信託銀行です。事業会社や信託銀行が上位株主となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス | 10.01% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.86% |
| 清水建設 | 5.18% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。
取締役社長(代表取締役)は大隅毅氏が務めています。役員のうち社外取締役は6名であり、過半数を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 大隅毅 | 取締役社長(代表取締役)兼社長執行役員物流部門管掌 | 1987年同社入社。総合企画部長や営業開発部長を経て、2015年に取締役兼常務執行役員に就任。2017年より取締役社長兼社長執行役員を務める。2025年ヤクルト本社社外取締役に就任し現職。 |
| 倉谷伸之 | 取締役(代表取締役)兼専務執行役員不動産部門・管理部門管掌 | 1986年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。同社顧問、上級執行役員等を経て、2019年に取締役兼常務執行役員に就任。2023年より現職。 |
| 大橋武 | 取締役兼常務執行役員物流部門副担当兼神戸支店長 | 1989年同社入社。営業開発部長やイノベーション推進室長を経て、2021年に取締役兼常務執行役員に就任。2026年より現職。 |
| 星正俊 | 取締役常勤監査等委員 | 1984年同社入社。財経部長、上級執行役員等を経て、2024年に監査役に就任。2025年より現職。 |
| 森進 | 取締役常勤監査等委員 | 1983年同社入社。北関東支店長、大阪支店長、上級執行役員等を経て、2024年に監査役に就任。2025年より現職。 |
社外取締役は、松本伸也(元丸の内総合法律事務所パートナー代表弁護士)、力石晃一(元日本郵船代表取締役専務経営委員)、馬場佳子(よこはま都市未来研究所代表)、志々目昌史(志々目法律事務所開設)、吉田芳一(元東京国税局調査第四部長)、柏﨑博久(元第一勧業銀行取締役副頭取)です。
2. 事業内容
同社グループは、「物流事業」および「不動産事業」を展開しています。
■(1) 物流事業
主に倉庫における貨物の保管・入出庫や流通加工、港湾での船内・沿岸荷役、国内の貨物自動車運送および引越サービス、国際間の貨物運送などを提供しています。主な顧客は飲料、食品、化粧品関連の企業などです。
寄託貨物の保管料や荷役料、運送料などを顧客から受け取ります。運営は同社のほか、澁澤陸運、大宮通運、日正運輸などの子会社が担当しています。
■(2) 不動産事業
オフィスビルや物流施設などの開発、賃貸、管理業務を提供しています。また、これらの施設の設備管理や各種工事の請負サービスも手掛けています。
施設の賃貸料などを顧客から受け取ります。運営は同社が主体となり、施設の設備管理や工事請負などは子会社の澁澤ファシリティーズが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は700億円台で安定して推移しており、当期は過去最高となっています。一方で経常利益はやや減少傾向にあり、利益率は低下しています。しかし、当期純利益は政策保有株式の縮減に伴う投資有価証券売却益の計上により大きく増加しました。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 717億円 | 785億円 | 734億円 | 786億円 | 797億円 |
| 経常利益 | 69億円 | 58億円 | 51億円 | 56億円 | 49億円 |
| 利益率(%) | 9.6% | 7.4% | 6.9% | 7.1% | 6.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 53億円 | 38億円 | 37億円 | 49億円 | 63億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益を見ると、売上高は増加していますが、新設拠点の稼働に伴う初期費用の先行や、トラックドライバー等の人件費の増加が影響し、営業利益および営業利益率は低下しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 786億円 | 797億円 |
| 売上総利益 | 89億円 | 87億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.3% | 10.9% |
| 営業利益 | 47億円 | 41億円 |
| 営業利益率(%) | 6.0% | 5.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び賞与が16億円(構成比36%)、支払手数料が6億円(同13%)を占めています。売上原価の内訳としては、作業費が500億円(構成比70%)、賃借料が49億円(同7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
物流事業は、陸上運送業務等の好調により増収となりましたが、新設拠点の初期費用等により減益となりました。不動産事業は、前期にあった大型工事案件の完了による反動で減収減益となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 物流事業 | 727億円 | 740億円 | 39億円 | 37億円 | 5.0% |
| 不動産事業 | 59億円 | 58億円 | 34億円 | 31億円 | 53.4% |
| 連結(合計) | 786億円 | 797億円 | 47億円 | 41億円 | 5.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFがプラス、財務CFがマイナスとなっており、営業利益と資産売却(有価証券の売却等)で得た資金を活用し、借入金の返済を進める改善局面のパターンを示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 64億円 | 57億円 |
| 投資CF | -60億円 | 3億円 |
| 財務CF | -14億円 | -67億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.5%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も57.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「物流を越えた、新たな価値創造により、持続可能で豊かな社会の実現を支えること」をグループミッションとして掲げています。また、「Shibusawa 2030 ビジョン」にて、「お客さまの事業活動に新たな価値を生み出す Value Partner」となることを目指しています。
■(2) 企業文化
持続的な価値向上のためのESG経営の確立に取り組み、創業者の精神である「正しい道理で追求した利益だけが永続し、社会を豊かにできる」を体現する企業であり続けることを価値観として共有しています。
■(3) 経営計画・目標
「Shibusawa 2030 ビジョン」の実現に向けて、強みを深化させた物流サービスの確立や不動産ポートフォリオのスマート化を目標としています。
・2030年度営業収益あたりCO2排出量:2019年度比50%削減
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画「澁澤倉庫グループ中期経営計画 2026」の事業戦略に基づき、物流事業の収益力強化や国内外における物流ネットワークの拡充、物流の枠を超えた業域の拡大、不動産ポートフォリオの拡充、ESGへの取組み強化を重点施策として推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人的資本が事業活動を支える最重要の無形資産であると認識し、「挑戦と成長を原動力とする」方針を掲げています。従業員一人ひとりの自律的成長を促す人材育成や、多様性を力に変えるダイバーシティの推進、挑戦を支える健康経営と職場環境の整備を進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.8歳 | 17.4年 | 8,215,906円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.1% |
| 男性育児休業取得率 | 116.7% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.2% |
| 男女賃金差異(正規) | 73.5% |
| 男女賃金差異(非正規) | 70.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(51.8%)、有給休暇年間平均取得日数(12.8日)、階層別研修のべ年間受講者数(211人)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 事業環境の変化
国内外の経済環境や社会情勢の変動、天候等による景気動向の変化が業績に大きな影響を及ぼすリスクがあります。また、地政学リスクの高まりによる国際物流の輸送ルートの制限や遅延、物価上昇に伴う国内消費への影響も懸念されます。
■(2) 特有の法的規制等に係るもの
物流事業は国内外で様々な法的許認可や規制を受けており、施設や設備の安全性、車両の安全運行のために法令が適用されています。今後これらの法的規制が改廃されたり、新たな規制が設けられた場合には、事業や業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 車両燃料油価格の変動
物流事業の車両運行において燃料の調達は不可欠です。燃料油の市場価格は原油価格に連動しており、世界の景気動向や産油地域の情勢、投機資金の流入等によって価格が変動し、調達コストが上昇するリスクがあります。



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