※本記事は、東京汽船株式会社の有価証券報告書(第88期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東京汽船ってどんな会社?
曳船や洋上風力発電向けの交通船の運航を通じて、海上安全のサポートを担うマリンサービス企業です。
■(1) 会社概要
同社は1947年5月に会社を創立し、1949年3月に横浜港で入出港船舶の離接岸作業を主とする曳船業を開始しました。1956年に東京湾内での定期旅客船事業などを開始して事業を拡大し、1962年9月に東京証券取引所市場第二部(現在のスタンダード市場)へ株式を上場しています。2013年12月には、日本初となる洋上風力発電アクセス専用船の運航を開始しました。
現在の従業員数は連結で446名、単体で238名です。筆頭株主は代表取締役社長執行役員を務める齊藤宏之氏で、第2位は事業会社である商船三井、第3位は共栄火災海上保険となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 齊藤宏之 | 17.42% |
| 商船三井 | 11.18% |
| 共栄火災海上保険 | 5.02% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。代表取締役社長執行役員は齊藤宏之氏が務めています。社外取締役比率は36.4%(11名中4名)です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 齊藤宏之 | 代表取締役社長執行役員 | 1995年同社取締役、2003年同社代表取締役専務取締役、2009年同社代表取締役社長を経て、2025年6月より現職。 |
| 佐藤晃司 | 取締役専務執行役員財務担当 | 1981年同社入社。同社経理部次長、取締役経理部長、常務取締役経理部長などを経て、2025年6月より現職。 |
| 沼井秀男 | 取締役常務執行役員工務部長 | 1985年同社入社。同社工務部次長、取締役工務部長などを経て、2025年6月より現職。 |
| 巻島康行 | 取締役執行役員総務部長 | 1987年同社入社。同社総務部次長、取締役総務部長を経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、山﨑潤一(東海汽船代表取締役社長)、Kees van Biert(JBR Strategy, Corporate Finance & Restructuring BV Founder & Associate)、南川政恵(人事コンサルタント)、矢部延弘(みずほ丸紅リース代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「曳船事業」「海事関連事業」「旅客船事業」の3つの報告セグメントを展開しています。
■(1) 曳船事業
東京湾の各港で船舶の離着桟を補助するハーバータグ業務、浦賀水道や中ノ瀬航路での進路警戒などのエスコートタグ業務、湾口水先艇の運航や警戒船業務などのサービスを提供しています。海難事故へ即応し、海上交通の効率化や海洋環境保全に貢献しています。
顧客である海運会社などから、曳船料や作業料等の対価を受け取ります。運営は主に東京汽船や、東港サービス、東亜汽船が行っています。また、香港でも関連会社を通じて曳船事業を展開しています。
■(2) 海事関連事業
洋上風力発電交通船(CTV)の運航をはじめ、港湾内での交通船事業、保有船舶の貸船サービス、海上防災事業などを展開しています。特に洋上風力発電向け事業は、国内外でのプロジェクト進展を見据えた成長分野と位置づけています。
顧客から用船料や交通船作業に係るサービス料などを受け取ります。運営は主に東京汽船が行うほか、ポートサービスが交通船事業を提供し、関連会社のインディゴオーシャンサポートが国内で曳航曳船事業を行っています。
■(3) 旅客船事業
地域貢献型マリン事業として、神奈川県の久里浜港と千葉県の金谷港間を結ぶカーフェリー定期航路事業を中心に展開しています。あわせて、カーフェリー事業に伴う物品販売やターミナル内のレストラン・食堂事業なども手掛けています。
一般顧客や観光客から、運賃や飲食・物品の販売代金を受け取ります。カーフェリー事業は東京湾フェリーが運営し、売店・食堂事業はフェリー興業が行っています。なお、横浜港の観光船事業は関連会社のYCruiseへ移管しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は一時的な減少を挟みつつも全体として増加傾向にあります。経常利益は変動が大きく赤字を計上する期もありましたが、直近では港湾曳船作業料率の値上げや洋上風力関連の稼働増が寄与し、黒字転換を果たしています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 107.0億円 | 118.7億円 | 125.2億円 | 120.4億円 | 131.4億円 |
| 経常利益 | -3.3億円 | 4.4億円 | 6.8億円 | -2.6億円 | 3.5億円 |
| 利益率(%) | -3.1% | 3.7% | 5.5% | -2.2% | 2.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -0.8億円 | 3.1億円 | 4.7億円 | 22.6億円 | 7.4億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴って売上総利益も拡大し、利益率は改善しています。観光船事業の移管による費用削減効果や退職給付費用の減少なども寄与し、営業損益は黒字に転換しました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 120.4億円 | 131.4億円 |
| 売上総利益 | 14.6億円 | 21.7億円 |
| 売上総利益率(%) | 12.1% | 16.5% |
| 営業利益 | -5.1億円 | 1.1億円 |
| 営業利益率(%) | -4.2% | 0.8% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が4.4億円(構成比21%)、役員報酬が3.1億円(同15%)、雑費が2.5億円(同12%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の曳船事業は作業料金の値上げや危険物積載船の入港増により増収となりました。海事関連事業は洋上風力発電交通船の稼働が大幅に増加し売上が倍増した一方、旅客船事業は観光船部門の事業移管により大幅な減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 曳船事業 | 86.0億円 | 95.2億円 |
| 海事関連事業 | 9.8億円 | 19.6億円 |
| 旅客船事業 | 24.7億円 | 16.7億円 |
| 連結(合計) | 120.4億円 | 131.4億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CF、投資CF、財務CFの状況から、同社は営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」と判定できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 12.1億円 | 18.2億円 |
| 投資CF | 6.4億円 | -19.7億円 |
| 財務CF | -4.3億円 | -10.5億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は19.4%で、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も74.5%と、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、社是として「海上安全のサポート」を掲げています。曳船や水先艇、洋上風力発電向けの交通船などのスペシャリスト船舶の運航を通じて、東京湾全域で船舶の安全航行を支援しています。海難事故への即応による海上交通の効率化や、海洋環境保全への貢献など、マリンサービス企業として公共的な役割を果たすことを使命としています。
■(2) 企業文化
同社は、地球規模の資源や環境汚染問題に対する影響を認識し、事業活動が地球全体の環境に過大な負荷を与えないよう最大限の配慮をすることを企業行動基準に設定しています。総合的な品質管理システムの運用強化や、労働安全・健康に配慮した高いHSEQ(健康・安全・環境・品質)基準の確立を重視し、社会的責任を意識した企業経営を実践しています。
■(3) 経営計画・目標
曳船事業の業績は船舶の寄港数など外部要因に左右されやすく、公共的な性格も強いことから、同社は中長期ビジョンにおける具体的な数値目標(KPI)を設定していません。一方で、総売上高の確保とともに、適正な船隊規模を維持する観点から船舶一隻当たりの売上高を重視しています。また、売上高営業利益率や総資産利益率などの改善を目標としています。
■(4) 成長戦略と重点施策
主力である曳船事業の収益性回復と、洋上風力発電関連などの新分野での成長を図る戦略を推進しています。曳船事業ではAIを活用した配船支援システムの導入による業務効率化や、ハイブリッド型電気推進曳船で得た知見を活かした純バッテリー曳船の開発を進めています。成長分野の海事関連では、サービス範囲の拡大や船員の教育訓練強化を通じて案件獲得を目指しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、既存事業の競争力強化と将来事業への成長投資を支える人材基盤の構築を重点課題と位置づけています。高い専門的技能を持つ乗組員の育成や専門性の高い陸上スタッフの確保に注力しており、シミュレーター等を活用した教育環境の整備を進めています。また、中途採用を中心に、多様な人材が能力を発揮し持続的な成長の原動力となる組織づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 41.4歳 | 17.5年 | 10,663,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.7% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | 58.2% |
| 男女賃金差異(正規労働者) | - |
| 男女賃金差異(非正規労働者) | - |
※男性育児休業取得率および正規・非正規労働者の男女賃金差異については、有報に記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 燃料油価格の変動と調達リスク
曳船や旅客船の運航に不可欠な燃料油は原油市場の動向に左右されるため、価格高騰が収益を圧迫するリスクがあります。また、地政学リスクの顕在化などにより燃料油の調達が困難となり、運航に支障をきたす恐れがあります。同社は複数の業者からの調達や、原油価格の動向に応じたヘッジ取引の活用などでリスク緩和を図っています。
■(2) 海難事故の発生リスク
曳船事業における海上災害への出動や日常業務において、船舶の物理的破損や人的被害、燃料流出による海洋汚染などのリスクを抱えています。また、自社の運航ミスが海難事故を招く可能性もあります。同社は統合的なHSEQ(健康・安全・環境・品質)体制の強化と、高度な技能教育プログラムの確立・改善によって事故抑止に努めています。
■(3) 港湾の入出港船舶数減少リスク
主力である曳船事業の売上は、日本経済の低迷や自然災害などを背景とした東京湾への入出港船舶数の減少など、自社のコントロールが及ばない外部環境の変化に大きく影響を受けます。また、船舶運航に関連する法規制の変更に伴って曳船の利用が減少し、収益が悪化するリスクも抱えています。



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