※本記事は、株式会社東京汽船 の有価証券報告書(第87期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東京汽船ってどんな会社?
曳船(タグボート)事業を中核に、東京湾フェリーなどの旅客船事業や売店・食堂事業を展開するマリンサービス企業です。
■(1) 会社概要
1947年に創立し、1949年に横浜港において曳船業を開始しました。1963年には旅客船部門を東京湾フェリーに譲渡し資本参加しています。海外展開として1987年に香港でSOUTH CHINA TOWING COMPANY LIMITEDの設立に参加しました。2013年には日本初となる洋上風力発電アクセス専用船の運航を開始しています。
同社の連結従業員数は488名(単体240名)です。筆頭株主は代表取締役社長の齊藤宏之氏で、第2位は曳船事業における顧客であり取引関係のある商船三井、第3位は取引関係のある共栄火災海上保険です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 齊 藤 宏 之 | 17.41% |
| 商船三井 | 11.18% |
| 共栄火災海上保険 | 5.02% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性0名の計10名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は齊藤宏之氏が務めています。社外取締役比率は20.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 齊 藤 宏 之 | 代表取締役社長 | 1995年同社取締役。専務取締役総務部・事業企画部管掌などを経て、2009年6月より現職。 |
| 山 﨑 淳 一 | 常務取締役営業統括・営業部長 | 1979年同社入社。営業部次長、取締役営業部長を経て、2019年6月より現職。 |
| 佐 藤 晃 司 | 常務取締役経理部長 | 1981年同社入社。経理部次長、取締役経理部長、取締役総務部長兼経理部長等を経て、2021年6月より現職。 |
| 沼 井 秀 男 | 取締役工務部長 | 1985年同社入社。工務部次長を経て、2017年6月より現職。 |
| 巻 島 康 行 | 取締役総務部長 | 1987年同社入社。総務部次長を経て、2019年6月より現職。 |
社外取締役は、山 﨑 潤 一(東海汽船代表取締役社長)、Kees van Biert(JBR Strategy創業者)です。
2. 事業内容
同社グループは、「曳船事業」「旅客船事業」「売店・食堂事業」を展開しています。
■(1) 曳船事業
東京湾全域において、大型船舶の離着岸を補助する曳船(タグボート)サービス、水先艇の運航、海上防災業務、洋上風力発電交通船(CTV)の運航などを提供しています。顧客は海運会社や電力会社などです。
収益源は、顧客からの曳船料や用船料、貸船料などです。運営は主に東京汽船および連結子会社の東港サービスが行っています。また、東亜汽船などの子会社から曳船を用船して事業を行っています。
■(2) 旅客船事業
神奈川県久里浜港と千葉県金谷港を結ぶカーフェリー事業、および横浜港における観光船事業や交通船事業を行っています。一般観光客や車両利用者が主な顧客です。
収益源は、フェリーや観光船の運賃・料金収入です。運営は、カーフェリー事業を連結子会社の東京湾フェリー、横浜港の観光船事業等を連結子会社のポートサービスが担当しています。
■(3) 売店・食堂事業
カーフェリー事業に付随して、フェリーターミナルや船内における物品販売、レストラン・食堂の運営を行っています。フェリー利用者や観光客が顧客となります。
収益源は、売店での商品販売代金やレストランでの飲食代金です。運営は連結子会社のフェリー興業が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの推移を見ると、売上高は2024年3月期まで増加傾向にありましたが、当期は減少に転じました。利益面では、経常損益は黒字と赤字を行き来しており、当期は営業損失および経常損失を計上しています。しかし、当期純利益に関しては、投資有価証券売却益などの特別利益計上により、過去最高益を記録しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 99億円 | 107億円 | 119億円 | 125億円 | 120億円 |
| 経常利益 | -3.4億円 | -3.3億円 | 4.4億円 | 6.8億円 | -2.6億円 |
| 利益率(%) | -3.4% | -3.1% | 3.7% | 5.5% | -2.2% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -0.3億円 | -0.8億円 | 3.1億円 | 4.7億円 | 22.6億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で減少しました。コスト面では、人件費や減価償却費の増加により売上原価率が上昇し、営業損益は赤字に転落しました。一方、政策保有株式の売却等による特別利益が大きく寄与し、最終的な当期純利益は大幅な増益となっています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 125億円 | 120億円 |
| 売上総利益 | 23億円 | 15億円 |
| 売上総利益率(%) | 18.6% | 12.1% |
| 営業利益 | 3.7億円 | -5.1億円 |
| 営業利益率(%) | 2.9% | -4.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が約5.9億円(構成比30%)、役員報酬が約3.1億円(同16%)を占めています。
■(3) セグメント収益
曳船事業は入出港船舶数の減少等により減収となりました。旅客船事業は観光船が好調で増収となったものの、コスト増により営業損失が拡大しました。売店・食堂事業はカーフェリー運航休止の影響を受け減収となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) |
|---|---|---|
| 曳船事業 | 96億円 | 90億円 |
| 旅客船事業 | 24億円 | 25億円 |
| 売店・食堂事業 | 6億円 | 6億円 |
| 連結(合計) | 125億円 | 120億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
東京汽船は、営業活動によるキャッシュ・フローが大幅に増加し、事業活動から潤沢な資金を生み出しています。投資活動においては、設備投資はあったものの、有価証券や関係会社株式の売却により資金獲得に転じました。財務活動では、借入金の返済や配当金の支払いがありましたが、全体としては資金の流出が抑えられています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 6.2億円 | 12.1億円 |
| 投資CF | -6.4億円 | 6.4億円 |
| 財務CF | 1.2億円 | -4.3億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「海上安全のサポート」を社是とし、曳船(タグボート)や水先艇、洋上風力発電向けの交通船などのスペシャリスト船舶の運航を通じて、海上交通の効率化や海洋環境保全に貢献するマリンサービス提供会社を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、海難事故への即応や船舶の安全航行サポートといった公共的役割を果たすことを重視しています。また、社会的責任として環境マネジメントシステムに基づいた経営を行い、労働安全や健康に配慮した高いHSEQ(健康・安全・環境・品質)基準の確立に取り組む姿勢を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループの主力である曳船事業は、船舶の寄港数など外部要因に大きく左右されることや、業務の公共的性格から、中長期ビジョンにおいて具体的な数値目標としてのKPIは設定していません。一方で、総売上高や船舶一隻当たりの売上高、売上高営業利益率などの改善を目標としています。
■(4) 成長戦略と重点施策
既存の曳船事業については、コストに見合った料金改定や運航定員の削減、AIによる配船最適化等により収益性回復を図ります。成長分野である洋上風力発電向け事業では、交通船(CTV)の運航に加え、サービス提供範囲の拡大を目指します。旅客船事業では、横浜港の観光船事業を合弁会社へ移管し収益性向上を図るとともに、カーフェリー事業の再構築を進めます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、高い専門的技能を持った乗組員の育成と専門性の高い陸上スタッフの確保・育成を重視しています。中途採用を中心に女性を含む多様な人材が能力を発揮できる企業を目指し、教育訓練や人事・報酬制度改革を一体で行う方針です。また、洋上風力発電関連などの新分野やDX推進に必要な人材の採用・育成にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 41.3歳 | 17.3年 | 10,086,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 燃料油・原材料価格変動および調達リスク
曳船や旅客船で使用する燃料油の価格は原油市場の影響を受けやすく、価格高騰は収益を圧迫します。また、地政学リスク等により燃料油の安定調達が困難になる可能性があります。これに対し、同社は燃料油価格の繰延ヘッジ取引や複数の調達先確保等の対策を講じています。
■(2) 海難事故リスク
曳船業務における衝突や、燃料油流出による海洋汚染などの海難事故が発生するリスクがあります。これらは損害賠償責任の発生や社会的信用の失墜につながる可能性があります。同社は統合的なHSEQ体制の強化や高度な技能教育プログラムの実施により、事故抑止に努めています。
■(3) 市場環境の変化リスク
主力の曳船事業は、景気動向や物流の変化による東京湾への入出港船舶数の増減に大きく影響を受けます。入出港船舶数の減少は曳船作業数の減少に直結し、売上高の減少要因となります。また、船舶運航に関する規制変更も曳船需要に影響を与える可能性があります。



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