栗林商船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

栗林商船 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場する栗林商船は、国内の定期航路や近海航路を運航する海運事業を中心に、ホテル事業や不動産事業を展開しています。直近の業績では、物流のモーダルシフト進展を背景に増収を達成した一方で、燃料費や運航費の高騰により経常減益となるなど、堅調な売上とコスト課題が同居する状況です。


※本記事は、栗林商船株式会社の有価証券報告書(第153期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 栗林商船ってどんな会社?


同社は海陸一貫輸送を強みとする海運事業を中核に、ホテルや不動産事業を展開する総合物流企業です。

(1) 会社概要


1919年に栗林合名会社の船舶部門を分離して設立され、1950年に東京証券取引所へ上場しました。1988年には所有船舶をすべてRORO船へ転換し輸送効率を向上させました。2020年には北日本海運を連結子会社化して青函フェリー事業を強化し、2025年には豆類・雑穀卸の鈴木商店を子会社化しています。

現在の従業員数は連結で1,110名、単体で55名です。筆頭株主は事業会社であり主要株主でもある栗林で、第2位および第3位はそれぞれ主要取引先である王子ホールディングスと日本製鋼所となっています。主要な取引先との安定的な資本関係を構築し、強固な事業基盤を維持しています。

氏名 持株比率
栗林 9.31%
王子ホールディングス 6.71%
日本製鋼所 6.64%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性0名の計12名で構成され、女性役員比率は0.0%です。代表取締役社長は栗林宏吉氏が務めており、社外取締役比率は16.7%です。

氏名 役職 主な経歴
栗林宏吉 代表取締役社長 1982年同社入社。1995年代表取締役社長就任。セブンや登別グランドホテル等の関連企業で会長を歴任し、2025年栗林物流システム代表取締役会長に就任。現職。
楠肇 専務取締役社長補佐兼営業本部長 1979年日本通運入社。日本海運常務等を経て2018年同社入社。2021年専務取締役社長補佐に就任し、2022年より現職。
稲田博久 専務取締役船舶本部長 1981年来島どっく入社。1988年同社入社。栗林物流システム出向等を経て2017年取締役船舶部長。2022年常務取締役船舶本部長などを経て、2023年より現職。
栗林広行 専務取締役経営管理本部長 2013年アサヒビール入社。2015年同社入社。セブン代表取締役社長等を兼任し、2025年専務取締役経営管理本部長、鈴木商店代表取締役に就任し現職。
松井伸二 常務取締役経営管理本部副本部長 1984年北海道東北開発公庫入庫。地域総合整備財団開発振興部長等を経て、2020年監査役として同社入社。2021年取締役経営企画部長などを経て、2025年より現職。
栗林良行 常務取締役営業本部副本部長兼第二営業部長 2017年同社入社、日本郵船出向。2022年栗林物流システム取締役営業部長を経て、2025年常務取締役営業本部副本部長、栗林物流システム代表取締役に就任し現職。
加藤智 取締役船舶本部副本部長兼船舶部長 1998年同社入社。栗林マリタイム取締役船舶部長等を経て、2019年同社船舶部長。2024年船舶本部副本部長に就任し、2025年より現職。


社外取締役は、北村正一(元海上保安庁装備技術部長)、太田佳明(コーポレート・ドクターパートナー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「海運事業」、「ホテル事業」、「不動産事業」および「その他事業」を展開しています。

(1) 海運事業


国内の定期航路や近海航路による海陸一貫の貨物輸送サービスを提供しています。主に紙製品や一般消費財、商品車両などを輸送するほか、港湾荷役やフェリーによる一般旅客輸送も展開しています。

顧客からの海上運賃や貨物運賃、フェリー乗船料が主な収益源です。事業の運営は同社のほか、栗林物流システムや青函フェリー、栗林運輸などの各子会社が担い、グループ全体で複合的な物流網を構築しています。

(2) ホテル事業


北海道登別市において、国内外の観光客を対象としたリゾートホテルを運営しています。客室や食事、温泉などの付加価値の高いサービスを提供し、観光需要に応えています。

宿泊客からの客室利用料や飲食代、館内での物品販売収入などを主な収益としています。ホテルの運営は、子会社の登別グランドホテルが行っています。

(3) 不動産事業


北海道室蘭市などを中心に、保有する土地や店舗、倉庫などの不動産を企業や一般の顧客向けに賃貸・管理する事業を展開しています。

賃貸物件の入居者から毎月受け取る不動産賃貸料が主な収益源です。運営は同社に加えて、子会社のセブンが担当しています。

(4) その他事業


北海道エリアを地盤として、青果物や豆類、雑穀類の卸売事業などを展開しています。安定した仕入れと全国への販売ネットワークを構築しています。

卸売先からの商品販売代金が収益源です。運営は、子会社の北千生氣や2025年にグループ入りした鈴木商店がそれぞれ担当しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の売上高は453億円から538億円へと拡大基調にあり、特に物流のモーダルシフト需要を取り込み成長しています。経常利益は燃料価格高騰などの影響で増減を繰り返していますが、2025年3月期以降は30億円前後で底堅く推移し、当期純利益も改善傾向にあります。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 453億円 499億円 489億円 531億円 538億円
経常利益 6億円 24億円 21億円 33億円 29億円
利益率(%) 1.4% 4.9% 4.2% 6.2% 5.4%
当期利益(親会社所有者帰属) -7億円 8億円 5億円 11億円 24億円

(2) 損益計算書


売上高が堅調に推移する一方で、売上総利益率は約20.9%から約20.6%へと微減しています。営業利益率も悪化しており、燃料費や船員費など運航コストの増加が利益を圧迫する構造となっています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 531億円 538億円
売上総利益 111億円 111億円
売上総利益率(%) 20.9% 20.6%
営業利益 27億円 21億円
営業利益率(%) 5.1% 3.9%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が25億円(構成比28%)、役員報酬が7億円(同8%)、法定福利費が6億円(同6%)を占めています。

(3) セグメント収益


海運事業は紙製品や商品車両の輸送が好調だったものの、原価上昇が響き減収となりました。ホテル事業は観光需要が底堅い反面、物価高による経費増に直面しています。その他事業は新規子会社の連結化により大きく増収しました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
海運事業 488億円 484億円
ホテル事業 25億円 25億円
不動産事業 6億円 6億円
その他 11億円 23億円
連結(合計) 531億円 538億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスとなっており、本業で稼いだ資金で投資を行い、有利子負債の返済も進めている「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 68億円 56億円
投資CF -16億円 -12億円
財務CF -41億円 -58億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は11.6%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は41.4%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「環境保全に努め、安全で効率的な海陸一貫輸送を通して社会に貢献する」ことを経営理念に掲げています。また、「付加価値の高いサービスの提供」や「顧客ニーズに的確に応える輸送体制の確立」を通じて、すべてのステークホルダーの信頼に応える企業を目指しています。

(2) 企業文化


日々の業務遂行における精神的バックボーンとして、「誠実」「信頼」「社会貢献」の3つを社是に定めています。あらゆる場面において誠実に行動し、社会やステークホルダーからの信頼を高めるとともに、企業を「社会の公器」と位置づけ、公共的使命を果たして社会に貢献する文化を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


同社は中長期的な方向性として、2025年度から2027年度までの中期経営計画を策定しています。グループ全体の2027年度の数値目標として、以下の指標を掲げています。

* 経常利益:35億円
* ROE:8%

(4) 成長戦略と重点施策


持続可能な物流体制の構築に向けて、トラックから船舶へのモーダルシフト対応を推進し、RORO船を増隻して輸送能力を強化しています。また、船舶の安全運航を最優先課題とし、安全管理体制の強化を図っています。さらに、船員や乗務員などの専門人材の確保・育成や、IT統制を強化するDX戦略にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


海運・物流を支える専門性の高い人材(船員、乗務員、港湾荷役作業員等)の確保・育成を経営課題とし、就業環境の整備や外部連携による採用強化を進めています。また、陸上職員にはジェネラリスト育成の研修体系構築や人事制度の見直しを行い、多様な人材が個性と能力を発揮できる組織づくりを推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.9歳 11.5年 8,468,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.0%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規雇用) -
男女賃金差異(非正規雇用) -


※同社は従業員規模が300人以下のため、一部の指標については公表義務の対象ではなく、有報には記載がありません。

また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、グループ全体の女性管理職比率(11.1%)、ハラスメント研修の受講率(100%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 船舶運航上のリスク


不慮の事故やテロなどに遭遇し、業績に影響を及ぼすリスクです。安全管理規程の遵守や保険加入に加え、年1回の海陸合同演習など全社的な教育・訓練を実施して安全運航に努めています。

(2) 石油関連製品の価格変動リスク


世界情勢の影響による船舶燃料油などの価格高騰が業績を圧迫するリスクです。取引先への「燃料油価格変動調整金」の協力を依頼するほか、運航の効率化や安定的な燃料調達を推進しています。

(3) 人材の確保に伴うリスク


船員や乗務員、港湾作業員など専門性の高い人材の不足や人件費増加が業績に影響するリスクです。就業環境の改善、DXを活用した業務効率化、マニュアル整備による技術伝承などに注力しています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。