※本記事は、三菱HCキャピタル株式会社の有価証券報告書(第55期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 三菱HCキャピタルってどんな会社?
法人向けファイナンスや航空機リースなど、多様なアセット事業をグローバルに展開する総合リース企業です。
■(1) 会社概要
1971年にダイヤモンドリースとして設立され、1979年に東京証券取引所へ上場しました。1999年に菱信リース、2007年にUFJセントラルリースと合併し、三菱UFJリースへと商号を変更しています。その後、2021年に日立キャピタルと合併し、現在の三菱HCキャピタルが誕生しました。
現在の従業員数は連結で7,950名、単体で2,111名となっています。筆頭株主は事業会社の三菱商事で、第2位も同じく事業会社の三菱UFJフィナンシャル・グループ、第3位には資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 三菱商事 | 18.35% |
| 三菱UFJフィナンシャル・グループ | 14.48% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.38% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性3名の計12名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長執行役員は久井大樹氏が務めています。また、社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 久井 大樹 | 代表取締役社長執行役員 | 1985年三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。営業第一本部長などを経て、2021年同社副社長就任。2023年より現職。 |
| 柳井 隆博 | 取締役会長 | 1982年三菱銀行入行。リテール部門長等を経て、2017年同社社長就任。2023年より現職。 |
| 松永 愛一郎 | 代表取締役副社長執行役員 | 1986年三菱商事入社。中南米統括等を経て、2024年同社副社長就任。同年より現職。 |
| 安栄 香純 | 取締役副社長執行役員 | 1985年日立リース(現同社)入社。法人事業本部長等を経て、2021年同社取締役就任。同年より現職。 |
| 佐藤 晴彦 | 取締役常務執行役員 | 1989年三菱商事入社。北米三菱商事会社CFO等を経て、2021年同社取締役就任。同年より現職。 |
| 柴 義隆 | 取締役(監査等委員)(常勤) | 1986年東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行。グループCAO等を経て、2024年同社顧問就任。同年より現職。 |
社外取締役は、佐々木百合(明治学院大学経済学部教授)、川村佳世子(楽天銀行取締役)、近藤祥太(三菱商事常務執行役員)、中田裕康(東京大学名誉教授)、金子裕子(金融庁企業会計審議会委員)、斉藤雅之(DIC顧問)です。
2. 事業内容
同社グループは、「カスタマーソリューション」など複数の事業を展開しています。
■(1) カスタマーソリューション
法人・官公庁向けファイナンスソリューションや省エネソリューション、不動産リース、金融サービスなどを提供しています。幅広い国内顧客を対象とし、グループ全体を底支えする最重要安定基盤として事業を展開しています。
収益は、顧客企業や官公庁などからのリース料や各種サービス手数料によって得られています。事業の運営は、親会社である同社を中心とし、日医リースや三菱HCキャピタルエステートプラスなどの国内子会社と連携して行われています。
■(2) 海外カスタマー
欧州、米州、中国、ASEAN地域において、各種ファイナンスソリューションやベンダーと提携した販売金融などを提供しています。グローバル市場での顧客ニーズに応えるファイナンス基盤として展開しています。
収益は、各地域の顧客からのファイナンス金利やリース料などによって得られています。事業の運営は、Mitsubishi HC Capital UK PLCをはじめとする世界各地のグループ子会社が主体となって行われています。
■(3) 環境エネルギー
再生可能エネルギー事業や環境関連のファイナンスソリューションを提供しています。脱炭素社会の実現に向け、国内外で太陽光や風力を中心とする発電事業などへの事業投資活動を行っています。
収益は、電力の売電収入や環境関連事業への投資リターンなどによって得られています。事業の運営は、同社を中心に、三菱HCキャピタルエナジーなどの子会社や出資先などを通じて行われています。
■(4) 航空
世界の航空会社などを対象に、航空機リース事業および航空機エンジンリース事業を提供しています。現行の航空機に比べて燃費効率が良く、二酸化炭素排出量の少ない新型航空機の比率を高める取り組みなどを進めています。
収益は、航空会社からのオペレーティング・リース料や、リース期間満了後の機体・エンジンの売却収入によって得られています。事業の運営は、主に海外子会社のJSA International Holdings, L.P.やEngine Lease Finance Corporationなどが行っています。
■(5) ロジスティクス
グローバルな物流を支えるため、海上コンテナリース事業や鉄道貨車リース事業を提供しています。海上や陸上の輸送インフラに関わる優良なアセットを保有し、高稼働率を維持しながらサービスを展開しています。
収益は、コンテナや鉄道貨車の利用者からのリース料やアセットの売却収入などによって得られています。事業の運営は、主に海外子会社であるCAI International, Inc.やPNW Railcars, Inc.などが担っています。
■(6) 不動産
商業不動産などに対する不動産ファイナンス事業、不動産投資事業、および不動産アセットマネジメント事業を提供しています。オフィス、住宅、商業施設、物流施設、ホテルなどを対象に、バランスの取れた事業展開を行っています。
収益は、賃貸料収入などのインカムゲインや、不動産の売却によるキャピタルゲイン、各種ファイナンス収入によって得られています。事業の運営は、同社や三菱HCキャピタルリアルティなどのグループ会社が連携して行っています。
■(7) モビリティ
法人などを対象に、オートリース事業および各種の付帯サービスを提供しています。なお、組織改編にともない翌年度よりロジスティクスセグメントへの統合が予定されています。
収益は、車両の利用者からのリース料や、付帯するサービスの手数料、リース満了車両の売却収入などによって得られています。事業の運営は、持分法適用関連会社である三菱オートリースなどが中心となって行われています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、売上高は毎年着実に成長を続け、5年間で約25%の増収となっています。利益面でも力強い成長を示しており、経常利益および当期利益ともに毎期連続で増益を達成し、安定した成長トレンドを描いています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1兆7656億円 | 1兆8962億円 | 1兆9506億円 | 2兆908億円 | 2兆2154億円 |
| 経常利益 | 1172億円 | 1461億円 | 1516億円 | 1936億円 | 2361億円 |
| 利益率(%) | 6.6% | 7.7% | 7.8% | 9.3% | 10.7% |
| 当期利益 | 516億円 | 822億円 | 828億円 | 475億円 | 725億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益状況を見ると、売上高の増加にともなって売上総利益も拡大しており、売上総利益率は22%台で安定的に推移しています。さらに営業利益率も上昇傾向にあり、本業における収益性の向上が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2兆908億円 | 2兆2154億円 |
| 売上総利益 | 4626億円 | 5002億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.1% | 22.6% |
| 営業利益 | 1871億円 | 2404億円 |
| 営業利益率(%) | 9.0% | 10.9% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料・賞与・手当が793億円(構成比31%)、賞与引当金繰入額が209億円(同8%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の状況を見ると、航空や不動産を中心とした事業が全社の事業規模拡大を牽引しています。また、海外カスタマーセグメントの収益回復やロジスティクスセグメントの着実な成長も、グループ全体の安定的な売上拡大に貢献しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| カスタマーソリューション | 9689億円 | 10210億円 |
| 海外カスタマー | 4941億円 | 5111億円 |
| 環境エネルギー | 460億円 | 460億円 |
| 航空 | 3219億円 | 3397億円 |
| ロジスティクス | 1362億円 | 1789億円 |
| 不動産 | 1167億円 | 1106億円 |
| モビリティ | 56億円 | 68億円 |
| 調整額 | 16億円 | 13億円 |
| 連結(合計) | 2兆908億円 | 2兆2154億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業は赤字ですが、将来成長のため借入で投資を継続する「勝負型」のキャッシュ・フローとなっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -2969億円 | -3675億円 |
| 投資CF | -97億円 | -339億円 |
| 財務CF | 3536億円 | 4694億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.6%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は15.2%であり、いずれも市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「わたしたちは、アセットの潜在力を最大限に引き出し社会価値を創出することで、持続可能で豊かな未来に貢献します。」という経営理念を掲げています。中長期的に目指すありたい姿としてこれを定め、社会的課題の解決と企業価値の向上を推進しています。
■(2) 企業文化
社員一人ひとりが持つべき価値観・心構えとして、6つの行動指針を定めています。「チャレンジ(挑戦)」「デジタル(変革)」「コミュニケーション(相互理解)」「ダイバーシティ(多様性受容)」「サステナビリティ(共生)」「インテグリティ(倫理観)」を重視し、自由闊達で魅力ある企業文化の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
中期経営計画において、収益性を高め企業価値の向上を加速することを目標として掲げています。
* ROE:10.0%
* ROA:1.7%
* 親会社株主に帰属する当期純利益:2,100億円
■(4) 成長戦略と重点施策
「ビジネスモデルの進化・積層化2.0」を推進し、資産規模拡大による成長から収益性を重視した成長モデルへの転換を図っています。従来以上にメリハリの利いた事業ポートフォリオの入替を加速させ、ファイナンス中心のモデルから、サービスやアセットマネジメントなど収益性の高い事業領域の拡充を重点的に進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人財を価値創造の原動力と位置づけ、「皆が挑戦・協創・成長し、変わり続ける企業」を理想の姿として掲げています。従業員エンゲージメントの向上や、経営戦略上必要なポジションへの適切な人財配置を図るとともに、採用力の強化や人財育成のための積極的な投資を行うことで、多様な人財が能力を最大限に発揮できる環境を整備しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 40.6歳 | 15.1年 | 10,292,000円 |
※平均年間給与は賞与および基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 22.1% |
| 男性育児休業取得率 | 81.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 68.1% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 66.3% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 65.5% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新型航空機比率(78.0%)、グリーンビルディング比率(62.0%)、リース満了物件の有効利用率(96.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 地政学リスクと経済情勢の変動
中東情勢の緊迫化にともなうエネルギー価格の高騰やサプライチェーンの混乱、主要国間の政治的摩擦の激化により、取引先の業績悪化や金利の急激な上昇が生じる可能性があります。これにより、同社グループのビジネス環境や事業投資の採算性にマイナスの影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) サイバー攻撃と情報セキュリティ
事業運営においてさまざまな情報システムを利用しているため、同社グループや提携先に対するサイバー攻撃によってシステム障害やサービス停止が発生するリスクがあります。万が一、機密情報や取引先情報の漏洩が起きた場合、賠償対応や社会的信用の低下につながり、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 与信費用の増加と信用リスク
リースやファイナンスなど中長期にわたり信用を供与する事業を展開しているため、グローバルな経済・金融環境の不安定化や急激な市況の悪化によって取引先の業績が低迷するリスクがあります。これにともない、不良債権の増加や貸倒引当金の追加繰入などが発生し、同社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。



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