イチネンホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イチネンホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場しており、自動車リース関連事業を主力に、ケミカル、パーキング、機械工具販売、合成樹脂、農業関連と多角的に事業を展開しています。2025年3月期の連結業績は、売上高が前期比12.1%増の増収、経常利益が同9.1%増の増益となりました。


※本記事は、株式会社イチネンホールディングス の有価証券報告書(第63期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. イチネンホールディングスってどんな会社?


自動車メンテナンス受託付きリースを主力とし、ケミカルや機械工具販売、農業など多角化経営を推進する企業グループです。

(1) 会社概要


1963年に黒田商事として設立され、1969年にイチネンへ商号変更し自動車リース等を開始しました。2005年に東証・大証一部へ上場し、2008年には持株会社体制へ移行して現商号となりました。その後、2012年のイチネンアクセス子会社化による機械工具販売事業の強化や、2023年のマルイ工業および日東エフシーの子会社化など、M&Aを通じた事業拡大を続けています。

2025年3月31日現在、グループ全体の従業員数は2,067人(単体89人)です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は事業会社の第一燃料、第3位は日本カストディ銀行(信託口)となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 12.06%
第一燃料株式会社 11.74%
株式会社日本カストディ銀行(信託口) 4.45%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役社長は黒田雅史氏が務めています。社外取締役比率は35.7%です。

氏名 役職 主な経歴
黒田雅史 代表取締役社長 1988年同社入社。常務、専務、副社長を経て2009年4月より現職。グループ各社の会長も兼務。
黒田勝彦 取締役副社長 1983年同社入社。常務、専務を経て2006年4月より現職。営業部門を管掌し、イチネン代表取締役社長などを兼務。
村中正 取締役グループ管理本部長CSR担当 2001年同社入社。経理・財務部長などを経て2017年6月より取締役。2024年4月より現職。
井本久子 取締役総合企画部長兼グループ事業開発室長 2002年同社入社。社長室長などを経て2019年6月より取締役。2024年4月より常務執行役員。
木村平八 取締役 1988年同社入社。経理・財務部長、人事総務部長などを経て2011年6月より現職。日東エフシー代表取締役社長などを兼務。


社外取締役は、廣冨靖以(元りそな銀行代表取締役副社長)、川村群太郎(ダイキン工業特別顧問)、常陰均(元住友信託銀行社長)、下村信江(近畿大学教授)、宮口亜希(公認会計士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「自動車リース関連事業」「ケミカル事業」「パーキング事業」「機械工具販売事業」「合成樹脂事業」「農業関連事業」および「その他」事業を展開しています。

自動車リース関連事業

自動車リース、メンテナンス受託、車両販売、燃料販売などを法人・個人向けに提供しています。メンテナンス受託では独自の整備工場ネットワークを活用したサービスを展開しています。
リース料やメンテナンス料、燃料販売代金等が主な収益源です。運営は主に株式会社イチネン、株式会社イチネンTDリース、野村オートリース株式会社などが行っています。

ケミカル事業

自動車用、機械・設備用、工業用のケミカル製品の製造・販売を行っています。自動車整備工場や機械工具商などが主な顧客です。
製品の販売代金が主な収益源です。運営は株式会社イチネンケミカルズが行っています。

パーキング事業

「OnePark」ブランド等で来客用駐車場およびコイン駐車場の運営を行っています。病院や商業施設の駐車場管理も受託しています。
駐車場利用者からの利用料や施設オーナーからの管理料が主な収益源です。運営は株式会社イチネンパーキングが行っています。

機械工具販売事業

自動車整備工具、電動工具、空調工具、自動車部品、産業機械部品などの企画・製造・販売を行っています。プロ向けからDIY向けまで幅広い商材を扱っています。
製品の販売代金が主な収益源です。運営は株式会社イチネンアクセス、株式会社イチネンMTM、株式会社イチネンTASCOなどが行っています。

合成樹脂事業

遊技機部品、自動車装飾部品、合成樹脂製品の設計・製造・販売を行っています。また、合成樹脂の再生加工なども手掛けています。
製品の販売代金が主な収益源です。運営は株式会社イチネン製作所、マルイ工業株式会社などが行っています。

農業関連事業

農産物の生産販売および肥料の製造・販売を行っています。高知県などに自社農場を展開するほか、肥料事業では全国に拠点を有しています。
農産物や肥料の販売代金が主な収益源です。運営は株式会社イチネン農園、日東エフシー株式会社などが行っています。

その他

ガラス加工製品(合わせガラス、強化ガラス等)の製造販売、不動産の賃貸・管理を行っています。
製品販売代金や不動産賃貸料が主な収益源です。運営は新光硝子工業株式会社、株式会社イチネンファシリティーズなどが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、特に直近の2025年3月期は過去最高を更新しています。利益面では、経常利益も増加基調ですが、当期純利益については2024年3月期に負ののれん発生益による押し上げがあった反動で、2025年3月期は減少しています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,126億円 1,206億円 1,278億円 1,383億円 1,549億円
経常利益 75億円 87億円 91億円 95億円 103億円
利益率(%) 6.7% 7.2% 7.1% 6.8% 6.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 30億円 56億円 59億円 123億円 67億円

(2) 損益計算書


売上高の伸長に伴い売上総利益も増加していますが、販管費の増加などにより営業利益率は前年並みの水準で推移しています。全体として増収増益基調を維持しています。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 1,383億円 1,549億円
売上総利益 298億円 340億円
売上総利益率(%) 21.5% 22.0%
営業利益 90億円 103億円
営業利益率(%) 6.5% 6.6%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当及び賞与が86億円(構成比36%)、福利厚生費が23億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


自動車リース関連事業、パーキング事業、合成樹脂事業、農業関連事業が増収増益となり全体の成長を牽引しました。特に農業関連事業はM&A効果により大幅な増収増益となっています。一方、機械工具販売事業やケミカル事業は、原材料価格高騰や為替変動の影響等により利益面で苦戦しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期) 利益(2024年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
自動車リース関連事業 584億円 611億円 58億円 65億円 10.7%
ケミカル事業 113億円 112億円 10億円 8億円 7.6%
パーキング事業 75億円 79億円 11億円 13億円 16.0%
機械工具販売事業 360億円 360億円 4億円 -1億円 -0.4%
合成樹脂事業 173億円 190億円 3億円 3億円 1.8%
農業関連事業 57億円 176億円 2億円 12億円 6.6%
その他 21億円 22億円 2億円 2億円 11.0%
調整額 -億円 -億円 0億円 0億円 -%
連結(合計) 1,383億円 1,549億円 90億円 103億円 6.6%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、本業の儲け(営業CF)で借入金を返済しつつ投資も行っている「改善型」のキャッシュ・フロー状態です。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 53億円 40億円
投資CF -165億円 -21億円
財務CF 96億円 -13億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は10.7%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は31.5%で市場平均(非製造業)を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「最高の品質とサービスで、より多くの顧客に満足を与え、適正な利潤を確保することにより、株主及び従業員に報い、かつ社会に奉仕すること」を経営の基本理念として掲げています。

(2) 企業文化


同社グループは、「いちねんで、いちばんの毎日を。」をスローガンに掲げています。既存事業の強化と次代に向けた経営基盤の強化に努めながら、事業領域にとらわれず幅広く顧客に「快適さ」を提供し、持続可能で豊かな社会の実現に貢献することを目指す風土があります。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、企業価値向上と継続的成長のために財務基盤の確立を重視しており、中期的には以下の数値を重要指標として掲げています。

* 自己資本比率:35%超
* 自己資本:750億円超
* 営業利益:150億円超

(4) 成長戦略と重点施策


同社グループは、既存事業の強化とM&Aを含む新規事業・新商品開発による規模拡大を成長戦略の柱としています。自動車リース関連事業では地方市場や中小口規模企業への販売強化、メンテナンス網の拡充を推進し、各事業セグメントにおいて顧客件数の増加と業務効率化によるコスト削減を図っています。また、投資効率の向上と有利子負債の抑制により財務体質の強化にも取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社グループは、社員一人ひとりの努力と挑戦により人財価値を高め、企業価値向上につなげることを目指しています。「社会の変化、自社の変化を理解し、その対応策を考え実行できる人財」の採用・育成を掲げ、階層別研修やグローバル人材育成プランを導入しています。また、ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、シニア人材の活用や非正規社員の正社員登用制度化など、多様な人材が活躍できる環境整備に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 42.7歳 13.3年 7,347,977円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.6%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) 63.5%
男女賃金差異(正規雇用) 66.1%
男女賃金差異(非正規) 63.7%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 原油価格変動によるリスク

自動車リースやメンテナンス受託、燃料販売、ケミカル事業において、原油価格の変動が仕入価格の上昇を招き、販売価格への転嫁が困難な場合、グループの経営成績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 競合に関するリスク

主力の自動車リース事業は多数の競合他社が存在します。同社は中小口規模企業をターゲットとし差別化を図っていますが、新規参入や過度な価格競争が発生した場合、経営成績に影響を与える可能性があります。

(3) 流動性及び資金調達に関するリスク

事業資金を主に金融機関からの借入や社債等で調達しているため、金融市場の混乱や銀行の貸出姿勢の変化等により資金の安定的確保が困難になった場合、新規契約の縮小等を通じて経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(4) M&A及び新規事業への参入に係るリスク

事業拡大のためM&Aを推進していますが、対象企業の選定にあたり事前に詳細な精査を行っているものの、当初想定した効果が得られず、のれんの減損処理等が発生した場合、経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。