※本記事は、株式会社IDホールディングスの有価証券報告書(第58期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年5月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. IDホールディングスってどんな会社?
システムマネジメントやアプリケーション開発を主力とし、企業のIT投資を支援する情報サービス企業です。
■(1) 会社概要
1969年10月にインフォメーション・ディベロプメントとして設立されました。2004年にジャスダックへ上場し、2014年には東京証券取引所市場第一部へ指定されています。2019年に持株会社制へ移行し、現在のIDホールディングスに商号を変更しました。近年は国内外での拠点拡充やM&Aを積極的に進めています。
従業員数は連結で2,241名、単体で153名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位はエイ・ケイです。第3位にはPERSHING-DIV. OF DLJ SECS. CORP.が名を連ねており、国内外の機関投資家による保有割合が高い株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.85% |
| エイ・ケイ | 9.10% |
| PERSHING-DIV. OF DLJ SECS. CORP. | 6.89% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.3%です。代表取締役社長兼グループ最高経営責任者は舩越真樹氏が務めています。社外取締役比率は36.4%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 舩越 真樹 | 代表取締役社長兼グループ最高経営責任者 | 1983年慶應義塾大学卒業、1995年同社入社。取締役、代表取締役副社長などを経て、2006年代表取締役社長に就任。米国子会社等の要職を歴任し、2023年より現職。 |
| 高橋 かおり | 代表取締役副社長 | 2009年同社入社。グループ総務部長や採用・トレーニング部長を歴任。執行役員、常務執行役員、専務執行役員などを経て、2025年より現職。 |
| 小島 恭 | 取締役兼専務執行役員 | 2021年インフォメーション・ディベロプメント入社、執行役員。2022年同社執行役員に就任し、常務執行役員などを経て、2025年より現職。 |
社外取締役は、西川理恵子(慶應義塾大学法学部名誉教授)、白畑尚志(公認会計士・元あらた監査法人代表社員)、Thomas Owsley Rodes(Kaname Capital, L.P.共同創業者・最高投資責任者)、小林泰子(元日本アイ・ビー・エム製品事業部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「情報サービス」の単一セグメントにおいて、複数のサービス領域と「その他」事業を展開しています。
■システムマネジメント
ITシステムの運営・管理やオペレーション業務を提供しており、金融、公共、製造業など幅広い業界の顧客のシステムを長期にわたりサポートしています。大規模かつ高品質なサービスに強みを持っています。
主にインフォメーション・ディベロプメントなどのグループ企業が運営を担い、顧客から継続的な運用保守費用を受け取ります。国内だけでなく、中国やシンガポール、オランダの子会社を通じたグローバルなサービス提供体制を構築しています。
■アプリケーション開発
システムの企画・計画から設計開発、運用保守、プロジェクト管理支援までをワンストップで提供しています。顧客の要望に応じたオーダーメイドのシステム構築や、既存システムのモダナイゼーションに対応しています。
インフォメーション・ディベロプメントを中心に、中国の武漢子会社やオランダ子会社などが開発を担います。請負契約や準委任契約に基づき、開発やシステム構築に伴う対価を顧客から受け取る収益モデルです。
■ITインフラ
クラウド環境の普及やデータ利活用の進展を背景に、ITプラットフォームの設計から構築、運用、保守までのサービスを総合的に提供しています。データセンター関連のインフラ構築需要にも対応しています。
事業の運営は主にインフォメーション・ディベロプメントが行っており、インフラ基盤の設計・構築費用や、継続的な運用保守費用を顧客から収益として得ています。
■サイバーセキュリティ
サイバー攻撃の高度化に対応するため、セキュリティシステムの構築・導入支援、セキュリティ監査や脆弱性診断、情報漏洩対策サービスなどを提供しています。各種セキュリティ製品の販売も行っています。
インフォメーション・ディベロプメントや米国、オランダの子会社が事業を展開しています。製品の販売益や、セキュリティ運用・監査サービスに対する対価を収益源としています。
■コンサルティング・教育
企業の業務改革(BPR)やITガバナンス、ITサービスマネジメント、プロジェクト管理に関するコンサルティングおよびトレーニング業務を提供しています。AI導入に向けたコンサルティング需要にも対応しています。
主にインフォメーション・ディベロプメントとプライドが運営を担っています。専門的な知見に基づくコンサルティングフィーや、研修・教育プログラムの実施費用を顧客から受け取ります。
■その他
各種ネットワークセキュリティ製品やコンサルティング以外の製品販売に加え、事務代行、現地市場調査、人材採用・トレーニング支援などのサービスを提供しています。また、特例子会社による植物工場運営も行っています。
米国、オランダ、中国の子会社や愛ファクトリーなどが運営しています。製品の販売益や各種代行サービス料のほか、米国子会社を通じた外食事業からの収益も含まれています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、売上高および利益ともに継続的な成長を遂げています。売上高は278億円から394億円へと着実に拡大し、経常利益率も6.9%から10.7%へと向上しました。IT投資需要の拡大を背景に高付加価値サービスへのシフトが奏功し、収益力が大きく強化されています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 278億円 | 311億円 | 327億円 | 363億円 | 394億円 |
| 経常利益 | 19億円 | 25億円 | 29億円 | 39億円 | 42億円 |
| 利益率(%) | 6.9% | 8.1% | 8.8% | 10.6% | 10.7% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 11億円 | 14億円 | 17億円 | 20億円 | 29億円 |
■(2) 損益計算書
収益性の改善が顕著に表れています。売上高の増加に加えて売上総利益率が23.9%から25.7%に上昇し、利益の押し上げに貢献しました。人材投資等の増加をこなしながら、営業利益率も安定した水準を維持しており、着実な増収増益基調が続いています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 363億円 | 394億円 |
| 売上総利益 | 87億円 | 101億円 |
| 売上総利益率(%) | 23.9% | 25.7% |
| 営業利益 | 38億円 | 41億円 |
| 営業利益率(%) | 10.4% | 10.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当及び賞与が20億円(構成比33%)、法定福利及び厚生費が4億円(同7%)を占めています。また、売上原価は293億円となっており、売上高に対する原価率は74%を占めています。
■(3) セグメント収益
主力であるシステムマネジメントが底堅く推移するなか、アプリケーション開発やサイバーセキュリティ、ITインフラ事業が大きく売上を伸ばしました。特にサイバーセキュリティは需要増を捉えて大幅な増収となり、アプリケーション開発は価格適正化等の効果で利益率が大きく改善しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| システムマネジメント | 151億円 | 155億円 | 36億円 | 37億円 | 23.6% |
| アプリケーション開発 | 125億円 | 138億円 | 25億円 | 37億円 | 27.0% |
| ITインフラ | 42億円 | 47億円 | 13億円 | 13億円 | 26.7% |
| サイバーセキュリティ | 22億円 | 31億円 | 6億円 | 9億円 | 30.0% |
| コンサルティング・教育 | 18億円 | 17億円 | 6億円 | 6億円 | 33.3% |
| その他 | 5億円 | 6億円 | -0.2億円 | -0.1億円 | - |
| 連結(合計) | 363億円 | 394億円 | 87億円 | 101億円 | 25.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業であることを示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 36億円 | 31億円 |
| 投資CF | -23億円 | -3億円 |
| 財務CF | -15億円 | -23億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は20.2%で市場平均を上回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も63.3%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、経営理念「IDentity」のもと、「お客さまのニーズにあった付加価値の高い情報サービスを提供し、情報化社会に貢献すること」を経営の基本方針としています。また、「私たちはWaku-Wakuする未来創りに参加します」というミッションを掲げ、事業活動を通じた社会課題の解決と企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
多様性を尊重する企業文化のもと、社員一人ひとりの個性や能力が最大限に発揮できる組織づくりを推進しています。失敗を恐れず許容する風土の醸成を目指しており、イノベーション・マネジメントシステムの国際規格「ISO56001」の認証を取得するなど、自律思考と未知への挑戦を後押しする文化が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
2026年3月期を初年度とする3か年の中期経営計画「Next 50 Episode Ⅲ "JUMP!!!"」を策定しています。最終年度である2028年3月期の目標として、以下の数値を掲げています。
* 売上高:440億円
* 営業利益:57億円
* 営業利益率:13.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
戦略テーマに「高収益モデルへのシフト」と「カルチャーの革新」を掲げています。ITインフラやサイバーセキュリティを注力領域と位置づけ、高付加価値サービスの提供を拡大する方針です。また、AIの積極的な活用や自社開発のバーチャルオペレーションセンター(ID-VROP)の浸透など、先端技術を取り入れたビジネスモデルの進化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人」こそが企業の競争力を高め、持続的成長をもたらす重要な財産であると考えています。中期経営計画において人的資本投資を重点戦略に掲げ、「なりたい」「やりたい」を実現できる環境の整備を進めています。社内研修やメンター制度、自己啓発支援を通じて、卓越した技術力と人間力を兼ね備えたプロフェッショナル人材の育成を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 47.2歳 | 13.3年 | 6,517,563円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 40.0% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(全労働者) | 68.9% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(正規雇用労働者) | 77.7% |
| 労働者の男女の賃金の額の差異(パート・有期労働者) | 71.9% |
※同社は配偶者が出産した従業員がいないため、男性労働者の育児休業取得率は「-」となっています。
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(82.3%)、平均所定外労働時間(12.1時間)、障がい者雇用率(2.66%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場環境の変化と人材確保の課題
IT投資ニーズは拡大・高度化する一方で、AIやクラウドなどの先端技術分野における高度専門人材の確保と育成が急務となっています。人材の採用やリスキリングが計画通りに進まず、顧客が期待する付加価値を十分に提供できない場合、事業成長が制約され、同社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) プロジェクトの採算悪化リスク
アプリケーション開発およびITインフラ構築業務においては、プロジェクトの高度化・複雑化が進んでいます。開発途中の要件変更や品質低下によって納期遅延等が発生し、追加費用の負担や損害賠償責任を負った場合、プロジェクトの採算が悪化するリスクがあります。これに対し、品質管理部門による厳格なプロセス管理を徹底しています。
■(3) システム障害と情報漏洩リスク
システムマネジメント業務において、誤操作によるシステム障害や情報の紛失・漏洩が発生した場合、損害賠償責任の発生や社会的信用の失墜につながるリスクがあります。特にサイバー攻撃の巧妙化や内部不正のリスクが高まるなか、同社グループは各種セキュリティ対策の強化やインシデント対応体制の整備を図り、リスクの低減に努めています。
■(4) 業務委託先の要員調達リスク
受注量の急激な変動に機動的に対応するため、パートナー会社からの要員調達を積極的に活用しています。しかし、市場環境の変化等により必要な要員がタイムリーに確保できない場合や、サービス品質に問題が生じた場合、業務遂行に支障を来す可能性があります。同社はコアパートナー会社との関係強化により、安定的な生産体制の構築を進めています。



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