※本記事は、東北新社の有価証券報告書(第64期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 東北新社ってどんな会社?
広告やコンテンツの制作、CSチャンネルの運営などを幅広く手がける総合クリエイティブプロダクションです。
■(1) 会社概要
1961年に設立され、テレビ映画の日本語版制作から事業を開始しました。1964年にはCM制作事業へ参入し、1987年にはCG等を手がけるオムニバス・ジャパンを設立しました。2002年にジャスダック(現・東証スタンダード)へ上場を果たし、2026年にはアパレル事業等を手がけるグラニフを完全子会社化しています。
現在の従業員数は連結で1,163名、単体で705名です。筆頭株主は個人株主の植村久子氏であり、第2位には外国法人ファンドの常任代理人である銀行が名を連ね、第3位も同じく個人株主である植村綾氏となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 植村 久子 | 21.18% |
| 3D WH OPPORTUNITY MASTER OFC - 3D WH OPPORTUNITY HOLDINGS(常任代理人 みずほ銀行決済営業部) | 18.70% |
| 植村 綾 | 16.01% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性15名、女性3名の計18名で構成され、女性役員比率は16.7%です。代表取締役社長は小坂恵一氏が務めており、取締役の社外取締役比率は約44%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 小坂 恵一 | 代表取締役社長 | 1977年同社入社。2001年取締役、2004年常務執行役員などを経て、2022年より現職。2024年よりナショナル物産代表取締役社長。 |
| 家氏 太造 | 取締役 | 博報堂、デジタルガレージなどを経て、2005年カカクコム取締役。2014年カカクコム・インシュアランス代表取締役社長などを歴任し、2022年より現職。 |
| 江草 康二 | 取締役 | 電通などを経て、2013年テー・オー・ダブリュー代表取締役社長兼CEO。2022年に同社執行役員として入社し、同年より現職。 |
| 中野 智司 | 取締役 | 電通入社後、経理局企画調査部長などを歴任。2017年電通マネジメントサービス代表取締役社長等を経て、2023年顧問として同社に入社し、同年より現職。 |
| 二宮 清隆 | 取締役 | 2000年同社入社、取締役に就任。常務、専務、代表取締役副社長等を経て、2019年に代表取締役社長。2021年特別顧問を経て、2023年より現職。 |
| ロケット和佳子 | 取締役 | リクルートなどを経て、朝日監査法人(現あずさ監査法人)に入所。パートナー、マネージングディレクターを経て2024年より現職。 |
| 沖山 貴良 | 取締役 | 2001年同社入社。2004年執行役員、衛星放送事業本部長などを歴任。上席執行役員、常務執行役員、取締役常務執行役員などを経て、2022年より現職。 |
| 山口 哲史 | 取締役 | ソニーを経て2019年同社入社。メディア事業統括部統括部長代理等を経て、2022年に執行役員およびメディア事業部長に就任。2023年より現職。 |
| 小松 哲郎 | 取締役 | 2005年同社入社。経理部長、執行役員等を経て、2024年上席執行役員に就任。2025年より現職。 |
| 箕輪 俊之 | 取締役・監査等委員 | 2002年同社入社。内部監査室長などを経て、ナショナル物産にて常務、専務執行役員などを歴任し、2024年より現職。 |
社外取締役は、鈴木咲江子(元フジテレビジョン経営企画局経営企画部長)、岩倉正和(TMI総合法律事務所パートナー弁護士)、上村はじめ(元カカクコム取締役)、William Ireton(アイアトン・エンタテインメント代表取締役)、中川有紀子(青山学院大学経営学研究科特任教授)、小野直路(元NHKエンタープライズ代表取締役社長)、長坂武見(元ソニーシニアヴァイスプレジデント経理部門長)、加計本誠(元博報堂九州支社マーケティング部長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「広告プロダクション」「コンテンツプロダクション」「メディア」「プロパティ」および「その他」の各事業を展開しています。
■(1) 広告プロダクション
CM制作やセールスプロモーションなどのサービスを提供しています。広告主や広告会社などの多様な顧客に対して、リアルとデジタルを組み合わせたプロモーション映像を制作しています。
顧客からのCM制作やプロモーション企画の対価として収益を得ています。制作物を引き渡し、検収を受けた時点で売上を計上します。運営は東北新社のほか、二番工房、ソーダコミュニケーションズ、ENJINなどが担っています。
■(2) コンテンツプロダクション
デジタルプロダクション業務としてTVCMや番組の編集、CG・VFX制作を行うほか、映画や番組の制作、海外映像作品の日本語版制作(音響字幕制作)などを幅広く手がけています。
制作した映像や音響字幕データを動画配信サービス会社やゲーム会社などの顧客へ納品し、対価を受け取ります。運営は東北新社や、デジタルプロダクション業務等を担うオムニバス・ジャパンなどが行っています。
■(3) メディア
各種専門チャンネルであるCSチャンネルの運営や、CSチャンネルの運営会社に対する番組販売、編成、放送関連業務の受託サービスを提供しています。
チャンネルの加入者からの視聴料収入や、運営会社へ向けた放送関連業務の受託および番組販売の対価として収益を得ています。運営は東北新社、ファミリー劇場、囲碁将棋チャンネルなどが担っています。
■(4) プロパティ
映像コンテンツの共同企画や製作、国内外における版権事業、さらには劇場配給およびテレビ配給などを展開しています。
自社保有または国内外の権利元から買い付けた映像コンテンツ等を顧客にライセンス供与し、その使用許諾等の対価として収益を得ています。運営は主に東北新社が担っています。
■(5) その他
映像用メディアの販売のほか、スーパーマーケット等を通じた物販事業、インテリア商品の販売、酒造および酒販事業などを展開しています。
商品および製品を顧客に引き渡した時点で販売代金として収益を得ています。運営はナショナル物産や木村酒造などが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績推移を見ると、売上高は一時減少したものの、直近では広告制作事業の好調などにより回復傾向にあります。経常利益率も直近では改善しており、安定的な収益性を確保しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 528億円 | 559億円 | 528億円 | 457億円 | 477億円 |
| 経常利益 | 55億円 | 48億円 | 22億円 | 33億円 | 47億円 |
| 利益率(%) | 10.4% | 8.6% | 4.2% | 7.3% | 9.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 31億円 | 31億円 | 40億円 | 84億円 | 70億円 |
■(2) 損益計算書
売上高と営業利益はともに増加しており、堅調な業績を示しています。営業利益率も改善傾向にあり、コストコントロールや利益率の向上施策が成果を上げていることがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 457億円 | 477億円 |
| 売上総利益 | 125億円 | 129億円 |
| 売上総利益率(%) | 27.3% | 27.0% |
| 営業利益 | 27億円 | 29億円 |
| 営業利益率(%) | 5.9% | 6.2% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が25億円(構成比25%)、役員報酬が6億円(同6%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の広告プロダクションやコンテンツプロダクションが増収となり、全体の成長を牽引しています。一方、メディア事業は子会社や事業の売却による影響で減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 広告プロダクション | 287億円 | 316億円 |
| コンテンツプロダクション | 82億円 | 89億円 |
| メディア | 53億円 | 36億円 |
| プロパティ | 14億円 | 15億円 |
| その他 | 20億円 | 20億円 |
| 連結(合計) | 457億円 | 477億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動で得たキャッシュを投資や借入金の返済・株主還元に充てる、財務的に安定した「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 0.4億円 | 12億円 |
| 投資CF | 232億円 | -68億円 |
| 財務CF | -66億円 | -40億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.2%、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は85.0%であり、いずれも市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは「映像文化の創造と発展」を使命として掲げています。より豊かな社会の実現に貢献することを目指し、総合的なクリエイティブプロダクションとして社会の多様なニーズに応えながら、質の高い映像やクリエイティブコンテンツを制作するという本質的な価値を追求し、成長を図ることを基本方針としています。
■(2) 企業文化
同社グループでは、社員の行動規範や価値観として「PCTS(ピクツ)」という精神を掲げています。これはPassion(ほとばしる情熱)、Creativity(豊かな想像力)、Technology(最新技術の追求)、Speed(変化への迅速な対応)の頭文字をとったものであり、プロフェッショナルとして自律自走する組織文化を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、2029年3月期を最終年度とする中期経営計画を推進しており、「健全な収益性を伴った総合クリエイティブプロダクション」を目指す姿として掲げています。収益力の強化とともに、クリエイティブに関連するあらゆる生活シーンへビジネスを拡大することを目指しています。
* DOE(純資産配当率)目標:2.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画において、3つの重点課題に取り組んでいます。1つ目は組織再編や事業規模の適正化による構造改革です。2つ目は、従来のメディアにとらわれない積極的な事業開発や企業買収による新たな収益基盤の確保です。3つ目に、遊休資産の売却による資産活用効率の改善や株主還元の強化といった財務・資本戦略を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社グループは、クリエイティブの質を左右する人的資本を企業競争力の最大の源泉と位置付けています。事業環境の変化に合わせた組織編成を進めるとともに、高度な専門スキルを持つ人材の採用や育成に注力しています。全社的なeラーニングプラットフォームの導入や各種研修を通じ、個々の能力を最大限に引き出すことで少数精鋭の組織構築を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.5歳 | 12.5年 | 6,000,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 23.9% |
| 男性育児休業取得率 | 77.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 74.4% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 72.8% |
| 男女賃金差異(有期労働者) | 86.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性育児休業取得率(100.0%)、育児休業からの復帰率(100.0%)、採用数の女性比率(45.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 新たに取得したアパレル・小売事業に関するリスク
アパレルや多店舗を展開する小売業を新たに取得したことにより、過剰在庫などの需給管理リスクや、EC運営におけるシステム障害などのリスクが存在します。同社グループでは、需要予測の精度向上による在庫の適正化や店舗の採算管理、サプライチェーンの統制強化などを通じてリスクの軽減に努めています。
■(2) 委託先経由のサイバーリスク
外部の制作会社や業務委託先、あるいはグループ会社のシステムを経由してサイバー攻撃や侵入が発生した場合、業務の停止や情報漏洩につながるリスクがあります。同社グループでは、サイバーリスク保険の付保に加えて、委託先を含めたセキュリティ水準の確認と評価を進め、防御体制の強化に取り組んでいます。
■(3) 特定事業および取引先への依存リスク
同社グループの収益は広告プロダクション事業の比重が高く、特定の広告会社や顧客に対して取引が集中する傾向があります。そのため、景気の変動や主要取引先の方針変更、広告主による内製化が進展した場合、業績に影響が及ぶ可能性があります。これに対し、事業ポートフォリオの見直しや取引先の多様化を進めています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。