※本記事は、日本製紙株式会社 の有価証券報告書(第101期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本製紙ってどんな会社?
製紙業界の大手企業であり、紙・板紙事業を基盤に、生活関連やエネルギー事業への多角化を進めています。
■(1) 会社概要
同社は1949年に十條製紙として設立されました。1993年に山陽国策パルプと合併し日本製紙へ商号変更、2001年には大昭和製紙と共同で持株会社日本ユニパックホールディングを設立しました。その後、2003年にグループ内合併を経て、2013年に持株会社と合併し現在の体制となりました。近年は海外事業やパッケージ事業の強化を進めています。
同グループの連結従業員数は15,145名、単体では4,983名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に資産管理を行う株式会社日本カストディ銀行(信託口)、第3位は従業員持株会となっており、機関投資家や従業員が主要株主となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.79% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.22% |
| 日本製紙従業員持株会 | 2.69% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長社長執行役員は野沢徹氏が務めています。社外取締役比率は23.1%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 野沢徹 | 代表取締役社長社長執行役員 | 1981年十條製紙入社。管理本部財務部長、企画本部長等を歴任し、2019年6月より現職。 |
| 飯塚匡信 | 代表取締役副社長副社長執行役員社長補佐白板・包装用紙営業本部管掌 | 1984年十條製紙入社。Opal社社長、日本東海インダストリアルペーパーサプライ社長等を歴任し、2025年6月より現職。 |
| 安永敦美 | 取締役 | 1990年十條製紙入社。石巻工場長、岩国工場長等を歴任し、2023年6月より現職。日本製紙クレシア社長を兼任。 |
| 杉野光広 | 取締役常務執行役員バイオマスマテリアル事業推進本部長 | 1988年山陽国策パルプ入社。技術本部長、エネルギー事業本部長等を歴任し、2023年6月より現職。 |
| 板倉智康 | 取締役常務執行役員管理本部長 | 1988年十條製紙入社。管理本部経理部長、管理本部長等を歴任し、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、藤岡誠(元経済産業省・元日本軽金属副社長)、八田陽子(元KPMGパートナー)、救仁郷豊(元東京ガス副社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「紙・板紙事業」、「生活関連事業」、「エネルギー事業」、「木材・建材・土木建設関連事業」および「その他」事業を展開しています。
■紙・板紙事業
洋紙、板紙、特殊紙、パルプ等の製造販売を行っています。新聞用紙や印刷・情報用紙などの洋紙はデジタル化の影響を受けていますが、産業用の板紙や特殊紙などの需要に対応しています。主な顧客は新聞社、出版社、印刷会社、包装材メーカーなどです。
収益は、製品の販売代金から得られます。運営は、洋紙・板紙・パルプの製造販売を日本製紙が、販売を日本紙通商や日本東海インダストリアルペーパーサプライなどが担っています。また、欧州では十條サーマル社が感熱紙等の製造販売を行っています。
■生活関連事業
家庭紙、雑種紙、紙加工品、段ボール、化成品等の製造販売を行っています。ティシューやトイレットペーパーなどの家庭用品、飲料用の液体紙容器、段ボール、および機能性フィルムやセルロース製品などの化成品を提供しており、一般消費者や食品・飲料メーカー等が顧客です。
収益は、製品の販売代金から得られます。家庭紙は日本製紙クレシアが、段ボールは海外でOpal社が、国内で日本トーカンパッケージが製造販売を行っています。紙容器関連は日本製紙や海外の日本ダイナウェーブパッケージング社、化成品は日本製紙やフローリックなどが担当しています。
■エネルギー事業
電力の卸供給販売を行っています。自社工場の発電設備を活用した電力供給事業を展開しており、電力会社や市場等が顧客となります。
収益は、電力の販売代金から得られます。運営は、発電設備の運転・管理を日本製紙が行い、電力の卸供給販売を日本製紙石巻エネルギーセンターや勇払エネルギーセンター合同会社などが行っています。
■木材・建材・土木建設関連事業
木材や建材の仕入販売、建材の製造販売、および土木建設事業を行っています。住宅メーカーや建設会社などが主な顧客です。
収益は、製品・資材の販売代金や工事代金から得られます。運営は、木材・建材の仕入販売を日本製紙木材が、建材の製造販売をエヌ・アンド・イーなどが、土木建設事業を日本製紙ユニテックなどが行っています。
■その他
上記セグメントに含まれない物流事業やレジャー事業などを行っています。グループ内外の物流業務や、スポーツ施設・緑化事業などを展開しています。
収益は、運送・倉庫保管料や施設利用料などから得られます。運営は、物流事業を日本製紙物流などが、レジャーその他の事業を日本製紙総合開発などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
2021年3月期から2025年3月期までの業績を見ると、売上高は緩やかな増加傾向にあり、直近では1兆1824億円に達しています。利益面では、2023年3月期に大幅な損失を計上しましたが、その後は回復基調にあります。特に2024年3月期には黒字転換を果たし、2025年3月期も経常利益は増加しましたが、当期純利益は減少しました。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 10,073億円 | 10,451億円 | 11,526億円 | 11,673億円 | 11,824億円 |
| 経常利益 | 123億円 | 145億円 | -245億円 | 146億円 | 155億円 |
| 利益率(%) | 1.2% | 1.4% | -2.1% | 1.2% | 1.3% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 32億円 | 20億円 | -504億円 | 227億円 | 45億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上原価率は80%台半ばで推移しており、製造業としてのコスト構造が読み取れます。販管費率は14%前後で安定しています。営業外収益として持分法投資利益などが貢献している一方、支払利息などの営業外費用も発生しています。特別損益では、減損損失や事業構造改善費用の計上が影響を与えています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 11,673億円 | 11,824億円 |
| 売上総利益 | 1,814億円 | 1,911億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.5% | 16.2% |
| 営業利益 | 173億円 | 197億円 |
| 営業利益率(%) | 1.5% | 1.7% |
販売費及び一般管理費のうち、運賃諸掛が811億円(構成比47%)、給料及び手当が445億円(同26%)を占めています。売上原価については内訳の記載はありません。
■(3) セグメント収益
セグメント別の状況を見ると、主力の紙・板紙事業は減収減益となりました。一方、生活関連事業は増収となったものの営業損失が続いています。エネルギー事業は減収ながら大幅な増益を達成しました。木材・建材・土木建設関連事業は増収減益となりました。全体としては、生活関連事業の赤字幅縮小とエネルギー事業の利益貢献が全体の増益に寄与しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 紙・板紙事業 | 5,702億円 | 5,659億円 | 117億円 | 83億円 | 1.5% |
| 生活関連事業 | 4,368億円 | 4,579億円 | -81億円 | -61億円 | -1.3% |
| エネルギー事業 | 537億円 | 483億円 | 16億円 | 36億円 | 7.4% |
| 木材・建材・土木建設関連事業 | 755億円 | 788億円 | 98億円 | 96億円 | 12.2% |
| その他 | 311億円 | 316億円 | 28億円 | 30億円 | 9.5% |
| 調整額 | - | - | -5億円 | 14億円 | - |
| 連結(合計) | 11,673億円 | 11,824億円 | 173億円 | 197億円 | 1.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業の営業活動から得た資金で借入金の返済を進めつつ、投資も行っている「健全型」のキャッシュ・フロー状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 903億円 | 728億円 |
| 投資CF | -220億円 | -334億円 |
| 財務CF | -466億円 | -183億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は1.0%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も28.3%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「世界の人々の豊かな暮らしと文化の発展に貢献します」というグループ理念を掲げています。また、2030年に目指す姿として「木とともに未来を拓く総合バイオマス企業として持続的な成長を遂げる」を策定し、成長事業への経営資源シフトや社会情勢の変化への対応を基本方針としています。
■(2) 企業文化
同社は「成長事業への経営資源のシフト」と「GHG削減、環境課題等の社会情勢激変への対応」を基本方針としています。グラフィック用紙の需要減少に対応しつつ、経営資源を成長事業に集中させ、社会的要請に応える筋肉質な体質への変革を重視しています。また、持続可能な社会の構築に向けて、サステナビリティ経営を推進する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
同社は「中期経営計画2025」(2021年度~2025年度)を推進しており、2025年度の数値目標として以下を掲げています。
* 売上高:1兆2,000億円以上
* D/Eレシオ:1.7倍台
* ROE:5.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は「事業構造転換の加速」を基本戦略とし、「生活関連事業の収益力強化」「グラフィック用紙事業の基盤強化」「GHG排出量削減の加速」「財務体質の改善」に取り組んでいます。
生活関連事業では、家庭紙やパッケージ分野の拡大を進め、Opal社の収益改善に注力しています。グラフィック用紙事業では、生産体制の再編成により競争力を高めつつ、GHG排出量削減と連動させた構造改革を実行しています。また、バイオマス素材製品の開発やグリーン戦略の展開により、新たな収益源の創出を目指しています。
* 営業利益目標:400億円以上(早期に)
* EBITDA目標:1,000億円(安定的に)
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「従業員のエンゲージメント向上」を基本方針とし、事業戦略と連動した人材の確保・育成・定着に取り組んでいます。グラフィック用紙事業では適正配置による省人化と競争力強化を、生活関連事業などの成長分野へは人材を重点的に投入することで事業構造転換を加速させています。また、多様な働き方の実現やキャリア形成支援を通じて、社員と企業が共に成長できる環境づくりを推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 43.8歳 | 21.2年 | 6,772,567円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 2.1% |
| 男性育児休業取得率 | 81.3% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 73.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 74.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 66.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、入社10年後の在籍率(70.9%)、女性総合職採用比率(47.3%)、年次有給休暇取得率(78.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 人材確保のリスク
事業構造転換や既存事業の維持には適切な人材の確保と育成が不可欠ですが、労働力人口の減少や人材流動化により確保が困難になる可能性があります。人材不足は事業運営や競争力に悪影響を及ぼす恐れがあります。これに対し、同社はエンゲージメント向上、多様な人材の採用、育成強化、職場環境の整備、省人化技術の導入等に取り組んでいます。
■(2) Opal社収益改善の遅延に関するリスク
豪州連結子会社Opal社の再建は喫緊の課題であり、パッケージ事業への転換などを進めていますが、計画通りに進捗しない場合、業績や財政状態に影響を与える可能性があります。同社は、メアリーベール工場の生産体制最適化、人員合理化、パッケージ事業の設備投資や営業強化等により、収益改善と早期黒字化を目指しています。
■(3) 気候変動に関するリスク
エネルギー多消費型の事業特性上、脱炭素化への対応遅れは規制リスクやコスト増大を招く可能性があります。同社は2030年度のGHG排出量54%削減(2013年度比)を目標に掲げ、省エネや燃料転換、石炭ボイラーの停止などを推進しています。また、森林吸収や製品のリサイクル等を通じ、多面的に脱炭素化を進めています。
■(4) グラフィック製品の需要減少に関するリスク
デジタル化等によりグラフィック用紙市場は縮小傾向にあり、生産体制の再編成等が計画通り進まない場合、業績に影響する可能性があります。同社は、生産能力削減やコストダウンによる基盤強化、輸出拡大、環境配慮型製品の拡販などを進めるとともに、既存リソースを成長分野へシフトすることで収益確保を図っています。



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