太平洋セメント 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

太平洋セメント 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証市場第一部上場のセメント業界最大手。セメント、資源、環境、建材・建築土木事業等を展開しています。第22期の連結業績は、国内需要の減少等により売上高は8,844億円で減収、経常利益は605億円で減益となりましたが、自己資本比率は改善傾向にあります。


※本記事は、太平洋セメント株式会社 の有価証券報告書(第22期、自 2019年4月1日 至 2020年3月31日、2020年6月29日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 太平洋セメントってどんな会社?


セメント製造販売を中核に、資源、環境、建材事業等をグローバルに展開する社会インフラ関連企業です。

(1) 会社概要

同社は、1881年創業の小野田セメントと1883年創業の日本セメントを源流とし、1998年に秩父小野田と日本セメントが合併して発足しました。1990年には米国カルポルトランドを買収し海外進出を加速。2016年には株式会社デイ・シイを完全子会社化しました。2020年5月には本社を東京都文京区に移転しています。

連結従業員数は13,119名、単体では1,798名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も同様に日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口)となっており、機関投資家が上位を占めています。第3位も信託銀行の信託口が続いています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8.92%
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 6.89%
日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口9) 3.16%

(2) 経営陣

同社の役員は男性9名、女性2名(社外含む)の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長は不死原正文氏です。取締役7名のうち2名が社外取締役であり、社外取締役比率は28.6%です。

氏名 役職 主な経歴
不死原 正文 代表取締役社長 1978年小野田セメント入社。環境事業部長、セメント事業本部長などを歴任し、2018年4月より現職。
北林 勇一 代表取締役副社長 1978年日本セメント入社。上磯工場長、生産部長などを経て、2017年4月より現職。
福田 修二 取締役会長 1974年小野田セメント入社。経理部長、人事部長を経て2012年社長就任。2018年4月より現職。
苅野 雅博 取締役専務執行役員 1980年日本セメント入社。法務部長などを経て、2019年4月より現職。
安藤 國弘 取締役専務執行役員 1980年小野田セメント入社。大船渡工場長、資源事業部長などを経て、2020年4月より現職。


社外取締役は、小泉淑子(弁護士)、江守新八郎(元東ソー代表取締役常務取締役)です。

2. 事業内容


同社グループは、「セメント」「資源」「環境事業」「建材・建築土木」の4つの報告セグメントおよび「その他」事業を展開しています。

(1) セメント事業

各種セメントおよび生コンクリートの製造・販売を行っています。国内では都市再開発や防災・減災対策、リニア中央新幹線工事などの需要に対応しています。海外では米国西海岸、中国、ベトナム、フィリピン等で事業を展開し、グローバルな供給体制を構築しています。

収益は、顧客へのセメントや生コンクリート製品の販売対価として得ています。運営は、同社を中心に、株式会社デイ・シイ、明星セメント株式会社などの国内子会社や、米国カルポルトランド、ベトナムのギソンセメントコーポレーションなどの海外現地法人が担っています。

(2) 資源事業

石灰石製品や骨材(砕石、砂利等)の採掘・加工・販売を行っています。セメント原料となる石灰石鉱山を保有し、自社グループ内への供給だけでなく、鉄鋼・化学業界向けなど外部への販売も行っています。また、建設用骨材の供給も重要な事業柱です。

収益は、石灰石製品や骨材等の販売代金として得ています。運営は、同社のほか、有恒鉱業株式会社、安倍川開発株式会社、武甲鉱業株式会社、大分太平洋鉱業株式会社などのグループ会社が各地で行っています。

(3) 環境事業

セメント製造プロセスを活用した廃棄物・副産物のリサイクル事業を行っています。廃棄物焼却灰、下水汚泥、廃タイヤ、廃プラスチックなどをセメントの原燃料として受け入れ、再資源化しています。また、排煙脱硫用石灰石の販売なども手掛けています。

収益は、自治体や排出事業者からの廃棄物処理手数料や、リサイクル製品等の販売代金により得ています。運営は同社および市原エコセメント株式会社、東京たまエコセメント株式会社、株式会社ナコードなどが連携して行っています。

(4) 建材・建築土木事業

コンクリート二次製品、ALC(軽量気泡コンクリート)、その他建設資材の製造・販売および土木・建築工事を行っています。インフラ整備や建築需要に対応した製品・工法を提供しています。

収益は、製品販売および工事施工の対価として得ています。運営は、クリオン株式会社、太平洋マテリアル株式会社、太平洋プレコン工業株式会社、秩父コンクリート工業株式会社、小野田ケミコ株式会社などが担っています。

(5) その他

上記セグメントに含まれない多角的な事業を展開しています。不動産事業、エンジニアリング、情報処理、金融、運輸・倉庫、化学製品、スポーツ事業、電力供給事業などが含まれます。大船渡発電株式会社によるバイオマス発電事業も開始しています。

収益は、不動産賃貸料、エンジニアリング請負代金、情報処理サービス料、輸送料、売電収入など多岐にわたります。運営は、太平洋不動産株式会社、太平洋エンジニアリング株式会社、パシフィックシステム株式会社、三井埠頭株式会社、大船渡発電株式会社などが行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、売上高は9,000億円前後で推移していましたが、当期は前期比で減収となりました。利益面では、経常利益率が7%前後を維持しています。当期は売上高、利益ともに前期を下回る結果となりましたが、自己資本比率は年々上昇傾向にあり、財務基盤の強化が進んでいます。

項目 2016年3月期 2017年3月期 2018年3月期 2019年3月期 2020年3月期
売上高 8,354億円 7,986億円 8,711億円 9,161億円 8,844億円
経常利益 602億円 598億円 644億円 643億円 605億円
利益率(%) 7.2% 7.5% 7.4% 7.0% 6.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 364億円 476億円 385億円 435億円 392億円

(2) 損益計算書

前期と比較すると、売上高の減少に伴い売上総利益、営業利益ともに減少しました。売上総利益率は22.1%と前期から微減しています。営業利益率は6.9%となりました。特別損失として固定資産処分損や減損損失を計上した影響もあり、税金等調整前当期純利益も減少しています。

項目 2019年3月期 2020年3月期
売上高 9,161億円 8,844億円
売上総利益 2,034億円 1,950億円
売上総利益率(%) 22.2% 22.1%
営業利益 660億円 610億円
営業利益率(%) 7.2% 6.9%


販売費及び一般管理費のうち、販売運賃諸掛が634億円(構成比47%)、労務費が322億円(同24%)を占めています。物流コストや人件費が主要な費用項目となっています。

(3) セグメント収益

主力のセメント事業は、国内販売数量の減少などにより減収減益となりました。資源事業も販売数量減により減収減益です。一方、環境事業は廃プラスチック処理拡大等で増益、その他事業もバイオマス発電開始等により増益となりました。建材・建築土木事業は工事着工遅れの影響で減収減益でした。

区分 売上(2019年3月期) 売上(2020年3月期) 利益(2019年3月期) 利益(2020年3月期) 利益率
セメント 6,364億円 6,178億円 417億円 365億円 5.9%
資源 594億円 560億円 82億円 72億円 12.8%
環境事業 851億円 763億円 66億円 77億円 10.1%
建材・建築土木 779億円 770億円 50億円 45億円 5.9%
その他 573億円 572億円 47億円 53億円 9.3%
調整額 - - △2億円 △3億円 -
連結(合計) 9,161億円 8,844億円 660億円 610億円 6.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

太平洋セメントは、営業活動で資金を獲得し、投資活動と財務活動で資金を使用しました。営業活動によるキャッシュ・フローは、利益の増加や売上債権の減少などにより、前年度と比較して増加しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得や事業譲受による支出が主な要因でした。財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入れによる収入があったものの、借入金の返済や自己株式の取得による支出がありました。

項目 2019年3月期 2020年3月期
営業CF 973億円 909億円
投資CF △580億円 △655億円
財務CF △338億円 △294億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同グループは、「持続可能な地球の未来を拓く先導役をめざし、経済の発展のみならず、環境への配慮、社会への貢献とも調和した事業活動を行う」ことをグループ経営理念として掲げています。社会基盤産業としての役割を果たしながら、環境配慮型社会の構築に貢献することを目指しています。

(2) 企業文化

同社は、将来の事業環境の変化を先取りし、あらゆる角度からのイノベーションを図る姿勢を重視しています。また、社会基盤産業として高品質な製品の安定供給やソリューション提供を通じ、安全・安心な社会の構築に貢献することを行動の基本としています。グループガバナンスの強化やCSR目標の実現に向けた取り組みも推進しています。

(3) 経営計画・目標

「20中期経営計画」では、強固な事業基盤の構築に向けた基本方針を掲げ、以下の経営目標を設定しています。
* 2020年度目標:売上高営業利益率 9%以上
* 2020年度目標:ROA(経常利益) 8%以上

(4) 成長戦略と重点施策

既存事業の徹底的なコスト削減による収益基盤の強化を進めると同時に、成長分野への投資を積極的に実行する方針です。特に、リニア中央新幹線関連工事や国土強靭化などの国家的プロジェクトへの対応に総力を結集します。また、イノベーションの推進による新たな価値創造や、社会課題解決に資する研究開発にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

グローバル人材の確保・育成に取り組むとともに、働き方改革と健康経営の推進を通じて労働生産性の向上と快適な職場環境の構築に努めています。また、グループ全体の成長に資する研究開発を支える人材や、社会課題解決の一翼を担う人材の育成にも注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2020年3月期 41.2歳 19.2年 7,363,166円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

(3) 人的資本開示

同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 国内需要の減少

建設投資が減少し、セメント、生コンクリート、建築土木等の事業で需要が大幅に減少した場合、グループの業績に影響を与える可能性があります。特に、新型コロナウイルス感染症の影響による建設工事の中断や延期、民間設備投資の抑制などが懸念されます。

(2) 原燃料品代、船運賃等の国際価格の動向

石油・石炭等の輸入原燃料品代および船運賃等の国際価格が上昇した場合、製品価格への転嫁状況によっては業績に影響を与える可能性があります。これに対し、一部取引でデリバティブ取引を利用する等によりリスク抑制を図っています。

(3) 為替の変動

原燃料品の輸入や製品輸出、在外子会社からの配当金などの外貨建て取引において、大幅な為替変動があった場合、業績に影響を与える可能性があります。また、在外子会社の財務諸表の円貨換算においても影響を受ける可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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