※本記事は、太平洋セメント株式会社の有価証券報告書(第28期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 太平洋セメントってどんな会社?
国内最大手のセメントメーカーとして、資源、環境、建材・建築土木事業をグローバルに展開しています。
■(1) 会社概要
1881年に小野田セメントとして創立し、その後日本セメントや秩父セメント等の合併を経て、1998年に現在の太平洋セメントが発足しました。2015年に米国カリフォルニア州のオログランデ工場を買収するなど海外展開を推進し、2023年にはデンカのセメント販売事業を譲受しました。
従業員数は連結12,626名、単体1,783名です。筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位はSTATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001、第3位は日本カストディ銀行(信託口)といずれも信託銀行等の金融機関が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 16.40% |
| STATE STREET BANK AND TRUST COMPANY 505001(常任代理人 みずほ銀行決済営業部) | 7.46% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 4.95% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長は田浦良文氏です。取締役9名中3名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 田浦良文 | 代表取締役社長 | 1983年入社。海外事業本部営業部長、常務執行役員海外事業本部長兼太平洋水泥(中国)投資有限公司董事長、専務執行役員などを経て、2024年4月より現職。 |
| 不死原正文 | 取締役会長 | 1978年入社。環境事業カンパニー営業部長、執行役員環境事業部長、取締役常務執行役員セメント事業本部長、代表取締役社長などを経て、2024年4月より現職。 |
| 朝倉秀明 | 代表取締役副社長 | 1982年入社。ギソンセメントコーポレーション社長、執行役員セメント事業本部営業部長、取締役専務執行役員などを経て、2024年4月より現職。 |
| 深見慎二 | 代表取締役副社長 | 1986年入社。海外事業本部企画部長、執行役員環境事業部長、取締役専務執行役員海外事業本部長などを経て、2026年4月より現職。 |
| 吉良尚之 | 取締役専務執行役員 | 1984年入社。関西四国支店長、執行役員セメント事業本部営業部長、常務執行役員セメント事業本部長などを経て、2025年6月より現職。 |
| 伴政浩 | 取締役専務執行役員 | 1986年入社。経理部長、執行役員経理部長、常務執行役員、専務執行役員などを経て、2026年6月より現職。 |
| 松井功 | 取締役 | 1985年入社。執行役員建材事業部長、常務執行役員海外事業本部副本部長・ギソンセメントコーポレーション社長、取締役専務執行役員などを経て、2026年4月より現職。 |
社外取締役は、小泉淑子(シティユーワ法律事務所パートナー)、振角秀行(元財務省財務総合政策研究所長)、堤晋吾(元東ソー取締役常務執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「セメント」「資源」「環境事業」「建材・建築土木」および「その他」事業を展開しています。
■セメント
各種セメントや生コンクリートの製造および販売を行っており、国内の建設会社や生コンクリート業者などを主な顧客としています。
収益源はセメントや関連製品の販売代金です。運営は太平洋セメントや、デイ・シイ、明星セメントのほか、米国やアジアの海外子会社が行っています。
■資源
骨材や石灰石製品の採掘・販売を行っており、土壌ソリューション事業による固化不溶化材の提供等も行っています。
収益源は骨材等の販売代金です。運営は太平洋セメントのほか、武甲鉱業や大分太平洋鉱業などの子会社が担っています。
■環境事業
セメント製造プロセスを活用した各種廃棄物の再資源化や、石炭の埠頭中継業務、リニア建設発生土の受け入れなどを行っています。
収益源は廃棄物処理の受託手数料や再生品の販売代金です。運営は太平洋セメントや、東京たまエコセメント、三井埠頭などの子会社が担っています。
■建材・建築土木
コンクリート二次製品やALC(軽量気泡コンクリート)などの建設・土木材料の製造・販売および土木・建築工事を行っています。
収益源は建材の販売代金や工事の請負代金です。運営はクリオンや太平洋マテリアルなどの子会社が行っています。
■その他
不動産、エンジニアリング、情報処理、運輸・倉庫、化学製品、電力供給など、幅広い周辺事業を展開しています。
収益源は各事業におけるサービスの提供対価や販売代金です。運営は太平洋セメントやパシフィックシステムなどの関連子会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は安定して成長を続けており、堅調な推移を見せています。一方で利益面は、原材料価格の高騰や減損損失の計上など外部環境の影響を受けやすく、期によって変動が生じています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 7,082億円 | 8,095億円 | 8,863億円 | 8,963億円 | 8,984億円 |
| 経常利益 | 502億円 | 10億円 | 595億円 | 754億円 | 751億円 |
| 利益率(%) | 7.1% | 0.1% | 6.7% | 8.4% | 8.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 225億円 | -329億円 | 334億円 | 173億円 | 84億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で微増となりましたが、販売費及び一般管理費などの増加により、営業利益はやや減少する結果となりました。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8,963億円 | 8,984億円 |
| 売上総利益 | 2,171億円 | 2,233億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.2% | 24.9% |
| 営業利益 | 778億円 | 746億円 |
| 営業利益率(%) | 8.7% | 8.3% |
販売費及び一般管理費のうち、販売運賃諸掛が583億円(構成比39%)、労務費が409億円(同28%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力のセメント事業は海外子会社での減損損失等により減益となりましたが、資源や環境事業、その他事業において増益を確保しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| セメント | 6,630億円 | 6,617億円 |
| 資源 | 652億円 | 658億円 |
| 環境事業 | 765億円 | 784億円 |
| 建材・建築土木 | 428億円 | 417億円 |
| その他 | 488億円 | 508億円 |
| 連結(合計) | 8,963億円 | 8,984億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である健全型となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 1,179億円 | 1,142億円 |
| 投資CF | -1,065億円 | -986億円 |
| 財務CF | -206億円 | -268億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は3.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は46.0%で市場平均をわずかに下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「持続可能な地球の未来を拓く先導役をめざし、経済の発展のみならず、環境への配慮、社会への貢献とも調和した事業活動を行う」ことをグループ経営理念として掲げています。社会インフラを支える企業として、脱炭素・循環型社会の構築に貢献し、人々の安全と安心を守る企業グループを目指しています。
■(2) 企業文化
「行動指針」において、「事業環境の変化に即応し、柔軟に行動する」ことを宣言しています。リスクマネジメントを経営の基盤と捉え、変化に対する適応力や自律性を重んじる文化が根付いています。サステナビリティ経営を推進し、多様な人材が能力を最大限に発揮できる環境づくりに取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
「26中期経営計画」において、持続的な成長を実現するための中期的な目標を設定しています。収益力の創出と向上を重要な経営課題として位置づけ、資本効率を意識した経営を推進しています。
* 売上高営業利益率:10%以上
* ROE:10%以上
* 株主還元:総還元性向33%以上を基本とし、安定配当の継続(年間配当金80円以上)
■(4) 成長戦略と重点施策
「3D Approach for Sustainable Future~持続可能な社会の実現に向けた3次元の挑戦~」を掲げ、以下の3つの施策を複合的に推進しています。国内では収益重視への転換と生産体制の最適化を進め、海外では米国・フィリピンの基盤強化や未進出エリアへの展開を図ります。さらに、革新的セメント製造技術によるカーボンニュートラル戦略を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
個人の持てる力を最大限発揮し、一人ひとりが社内外に通用する人材の育成を目指しています。多様な人材の自主性や自律性を醸成し、「個」の成長を図るとともに、世界に通ずるグローバル人材の育成を推進しています。また、従業員が働き甲斐をもって能力を発揮できる社内環境の整備にも注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.6歳 | 16.8年 | 8,456,736円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 3.7% |
| 男性育児休業取得率 | 81.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 71.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 71.6% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 61.9% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(85.9%)、定期健康診断受診率(100.0%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国内需要の減少
建設投資の減少により、セメントや生コンクリート、建築土木事業における需要が大幅に減少した場合、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 原燃料・輸送コストの高騰
石油や石炭などの輸入原燃料価格、および海上輸送運賃等の国際価格が上昇した場合、そのコスト増を適切に製品価格へ転嫁できなければ、収益性が圧迫されるリスクがあります。
■(3) 環境規制の強化と気候変動
セメント製造過程で発生するCO2排出に関し、温室効果ガス排出抑制のための公的規制が強化された場合、対応コストが増加するリスクがあります。また、異常気象による設備被害等の物理的リスクも懸念されます。



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