※本記事は、弁護士ドットコムの有価証券報告書(第21期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月22日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 弁護士ドットコムってどんな会社?
主要事業として専門家ポータルサイト運営とクラウド型電子契約サービスを展開しています。
■(1) 会社概要
2005年にオーセンスグループとして設立され、同年に「弁護士ドットコム」の運営を開始しました。2014年のマザーズ上場を経て、2015年には契約マネジメントプラットフォーム「クラウドサイン」を開始しています。2023年のエル・アイ・シーの買収などで事業領域を広げ、2025年にプライム市場へ市場変更しました。
同社グループの従業員数は連結で639名、単体で613名です。筆頭株主は創業者である元榮太一郎氏の資産管理会社とみられるAuthense Holdings合同会社で、第2位も元榮太一郎氏個人となっており、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| Authense Holdings合同会社 | 42.97% |
| 元榮 太一郎 | 20.01% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 5.55% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長兼CEOは元榮太一郎氏が務めています。取締役7名のうち4名が社外取締役です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 元榮 太一郎 | 代表取締役社長兼CEO | 元榮法律事務所設立、オーセンスグループ(現:同社)設立、代表取締役社長就任、参議院議員などを経て、2023年6月より現職。 |
| 内田 陽介 | 取締役会長 | 三菱商事、カカクコム取締役、みんなのウェディング社長などを経て、2022年6月より現職。 |
| 澤田 将興 | 取締役 執行役員 | SBIイー・トレード証券、パラカを経て同社入社。執行役員等を経て、2022年6月より現職。 |
社外取締役は、石丸文彦(元デジタルガレージ執行役員)、村上敦浩(現カカクコム代表取締役)、上野山勝也(現PKSHA Technology代表取締役)、塩野紀子(元エスエス製薬代表取締役社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「プロフェッショナル支援事業」および「クラウドサイン事業」を展開しています。
■プロフェッショナル支援事業
法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」や「税理士ドットコム」などのメディア運営に加え、判例データベース「判例秘書」、法務領域特化のAIエージェント等の専門家向け業務支援ツールを提供しています。弁護士や税理士といった専門家と、法的トラブルを抱える一般ユーザーをつなぐ役割を担います。
収益源として、弁護士からの月額定額料金、一般ユーザーからの有料会員費、税理士からの紹介成功報酬などを受け取ります。運営は主に弁護士ドットコムが行い、一部の業務支援ツールはエル・アイ・シーなどの子会社が提供しています。
■クラウドサイン事業
契約マネジメントプラットフォーム「クラウドサイン」を主に企業ユーザーへ提供しています。「紙と印鑑」で行っている契約行為をクラウド上で完結させ、利用者がスピーディーかつ低コストで契約を締結できる環境を実現するサービスです。
収益源として、プラン内容や提供機能に応じた月額固定料金と、月間の契約送信件数に応じた従量料金を企業ユーザーから受け取ります。当該事業の運営は弁護士ドットコムが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近3年間の業績を見ると、売上高は右肩上がりで成長を続けており、113億円から163億円へと順調に拡大しています。利益面でも、経常利益が13億円から22億円へと増加し、利益率も10%台から13%台へと向上傾向にあります。事業の拡大に伴い、収益性も着実に高まっていることが分かります。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 113億円 | 141億円 | 163億円 |
| 経常利益 | 13億円 | 14億円 | 22億円 |
| 利益率(%) | 11.6% | 10.0% | 13.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 7億円 | 10億円 | 14億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い、売上総利益も順調に拡大しています。売上総利益率は70%台後半の高い水準を維持しており、営業利益率も前期の9.9%から当期は13.5%へと改善し、本業の収益性が一段と高まっている状況が確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 141億円 | 163億円 |
| 売上総利益 | 108億円 | 128億円 |
| 売上総利益率(%) | 76.6% | 78.5% |
| 営業利益 | 14億円 | 22億円 |
| 営業利益率(%) | 9.9% | 13.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が40億円(構成比38%)、広告宣伝費が21億円(同20%)を占めています。売上原価については、外注費が15億円(構成比42%)、労務費が11億円(同30%)となっています。
■(3) セグメント収益
両セグメントともに売上と利益が拡大しています。特にクラウドサイン事業の売上高は前期比26%増と成長を牽引しており、利益率も34%近くに達し、同社グループの重要な収益の柱として機能しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| プロフェッショナル支援事業 | 71億円 | 75億円 | 15億円 | 19億円 | 24.9% |
| クラウドサイン事業 | 70億円 | 88億円 | 20億円 | 30億円 | 33.9% |
| 調整額 | - | - | -21億円 | -26億円 | - |
| 連結(合計) | 141億円 | 163億円 | 14億円 | 22億円 | 13.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 14億円 | 16億円 |
| 投資CF | -6億円 | -10億円 |
| 財務CF | - | 5億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は24.2%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も53.2%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「『プロフェッショナル・テック』で、次の常識をつくる。」をミッションとし、「まだないやり方で、世界を前へ。」をビジョンに掲げています。専門知とテクノロジーを融合したサービスの提供を通じて、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
「真なるセンスを磨く」をWayに据え、「ポジティブ魂」「チャレンジ魂」「愚直魂」「インテグリティ魂」「感動魂」をSouls(価値観)として掲げています。従業員一人ひとりがこれらの価値観を重視し、専門知へのアクセス向上やIT人材の創出に向けた行動を実践する文化があります。
■(3) 経営計画・目標
中長期的な成長に向けて、収益基盤の強化と事業領域の拡大に取り組んでいます。認知度の向上および顧客基盤の拡大を実現し、広く社会から専門家へのアクセスをより容易にすることで、法的トラブルの解決と予防に貢献するインフラとしての役割を強化していく方針です。
■(4) 成長戦略と重点施策
「弁護士ドットコム」等におけるコンテンツ拡充とユーザビリティ向上により、サイト利用者と専門家の支持を獲得し収益拡大を図ります。また、「クラウドサイン」の普及による電子契約の市場拡大に加え、AI技術を活用したリーガルブレイン構想を推進し、新たな価値創出と生産性向上を進めます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業成長を支える専門人材の確保と育成を重要な経営課題と位置づけています。積極的な採用活動に加え、1on1の実施やマネージャー研修などの学習機会を提供し、多様な知識や価値観を有する人材が柔軟かつ生産性高く働ける社内環境の整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 36.4歳 | 3.4年 | 7,247,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 23.1% |
| 男性育児休業取得率 | 216.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 72.4% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 74.6% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 87.7% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術革新への対応遅れ
生成AIをはじめとする技術革新のスピードや顧客ニーズの変化が激しく、同社が予期しない急激な変化に対応が遅れた場合、サービスの陳腐化や競争力の低下を引き起こす可能性があります。
■(2) 競合の台頭と競争激化
弁護士業界や企業ユーザーから一定の支持を受けた競合他社が参入または拡大した場合、競争激化により同社グループの市場優位性が揺らぎ、事業展開に支障が生じる可能性があります。
■(3) 新規事業の収益化リスク
新規事業への取り組みには人材採用や開発費用などの追加的支出が発生します。事業が計画通りに推移しない場合、追加支出が回収できず、同社グループの利益率が一時的に低下する可能性があります。
■(4) システム障害リスク
事業の基盤となるインターネット環境において、ハードウェアの不具合、サイバー攻撃、自然災害などによる想定外のシステム障害が発生した場合、サービスの安定供給が阻害され、事業および業績に影響を及ぼす可能性があります。



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