冨士ダイス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

冨士ダイス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所プライム市場に上場する冨士ダイスは、超硬合金を用いた耐摩耗工具や金型の製造販売を行うメーカーです。自動車部品や製缶金型向け製品などを展開しています。直近の業績は、売上高が前期比0.5%減の166億円、経常利益が31.6%減の6億円となり、減収減益で着地しました。


※本記事は、冨士ダイス株式会社 の有価証券報告書(第69期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 冨士ダイスってどんな会社?


超硬合金を用いた耐摩耗工具の専業メーカーとして、自動車や製缶等の幅広い産業向けに高精度な金型や工具を提供しています。

(1) 会社概要


1949年に創業者が冨士ダイス製作所を設立し、1953年より超硬耐摩耗工具の製造を本格化させました。1956年に冨士ダイスへ改組後、国内各所に工場を建設し生産体制を強化しました。2015年に東証二部へ上場し、2017年に東証一部へ変更、2022年にはプライム市場へ移行しました。近年はタイやインドネシア等の海外拠点展開を進めています。

同社グループは連結従業員数1,090名、単体855名の体制で事業を展開しています。筆頭株主はカストディ業務を行う外国銀行等の顧客勘定、第2位は資産管理業務を行う信託銀行、第3位は従業員持株会です。

氏名 持株比率
CHARLES SCHWAB FBO CUSTOMER(常任代理人 シティバンク、エヌ・エイ東京支店) 9.48%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 8.79%
冨士ダイス社員持株会 8.44%

(2) 経営陣


同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は春田善和氏です。社外取締役比率は38.5%です。

氏名 役職 主な経歴
春田 善和 代表取締役社長 1987年同社入社。業務本部長、企画本部長等を歴任し、専務取締役を経て2024年1月より現職。
津田 雅宣 常務取締役海外事業本部長 1988年同社入社。輸出部長、営業本部長等を経て、2024年1月より現職。
篠宮 護 取締役技術開発本部長 1994年同社入社。開発センター長、製品開発部長等を経て、2020年7月より現職。
馬渡 和幸 取締役品質保証本部長 1990年同社入社。生産本部長、生産管理統括センター長等を経て、2025年1月より現職。
松岡 恭弘 取締役営業本部長 1991年同社入社。生産本部生産管理統括センター郡山製造所長等を経て、2023年7月より現職。
髙安 真生 取締役業務本部長兼情報システム部長 1982年日本電気入社。2017年同社入社後、人事部長等を経て、2024年10月より現職。
輪竹 暢久 取締役生産本部長兼生産技術部長 1994年同社入社。タイ現地法人社長等を経て、2025年6月より現職。
古谷 高宏 取締役常勤監査等委員 1984年イリエトレーディングコーポレーション入社。同社常勤監査役を経て2025年6月より現職。


社外取締役は、澤井英久(新四谷法律事務所代表)、内田伊知郎(元三菱UFJニコス執行役員)、上田典由(元ニスカ代表取締役社長)、江口泰志(公認会計士)、中村美智子(プラス法律事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「耐摩耗工具関連事業」を展開しています。

(1) 超硬製工具類


線材やパイプの生産に使用されるダイス、プラグ、ロールなどを製造・販売しています。鉄鋼、非鉄金属、自動車、電機・電子部品といった幅広い業界の生産工程で利用される耐摩耗工具です。

収益は、顧客への製品販売による対価を受け取ることで発生します。運営は主に同社およびグループ各社が行っています。

(2) 超硬製金型類


自動車部品、飲料缶、電池関連部材などを大量生産するための金型を製造・販売しています。高精度、高強度および耐摩耗性が求められる生産工程において使用される主力製品群です。

収益は、顧客への製品販売による対価を受け取ることで発生します。運営は主に同社およびグループ各社が行っています。

(3) その他の超硬製品・超硬以外の製品


各種装置部品や、中間製品である超硬合金チップ(素材)のほか、鋼やセラミックスを用いた耐摩耗工具などを製造・販売しています。用途やコストなどの顧客ニーズに応じて素材を使い分けています。

収益は、顧客への製品販売による対価を受け取ることで発生します。運営は主に同社およびグループ各社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は160億円から170億円前後の水準で推移していますが、直近2期間は減少傾向にあります。利益面では2023年3月期をピークに減少が続いており、直近の当期利益はピーク時の約3分の1の水準まで低下しました。利益率も低下傾向にあり、収益性の改善が課題となっています。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 142億円 169億円 172億円 167億円 166億円
経常利益 3億円 12億円 12億円 9億円 6億円
利益率(%) 2.1% 7.1% 7.1% 5.3% 3.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 5億円 8億円 13億円 7億円 4億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で微減となりました。売上原価は横ばいでしたが、販売費及び一般管理費が増加したことにより、営業利益は前期の約6割の水準まで大きく減少しました。売上総利益率は低下しており、コスト増加が利益を圧迫している状況が見受けられます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 167億円 166億円
売上総利益 42億円 41億円
売上総利益率(%) 25.4% 24.9%
営業利益 8億円 5億円
営業利益率(%) 4.9% 2.9%


販売費及び一般管理費のうち、給与手当が15億円(構成比41%)、福利厚生費が3億円(同9%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社は「耐摩耗工具関連事業」の単一セグメントであるため、セグメント別の詳細な利益情報は開示されていませんが、製品区分別の売上動向を見ると、製缶金型や電池向け金型が堅調で超硬製金型類が増加した一方、海外向けロールの在庫調整などにより超硬製工具類が減少しました。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
耐摩耗工具関連事業 167億円 166億円
連結(合計) 167億円 166億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、本業で得た資金を借入金の返済や投資に回しており、健全な財務状態を示唆する「健全型」に分類されます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 21億円 18億円
投資CF -17億円 -8億円
財務CF -7億円 -7億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は81.0%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「事業を通じて広く社会に貢献し、幸せな人を育てる」「人間尊重、人間中心の経営」を企業理念として掲げています。広く産業とくらしを支え、社会に貢献できる人や、社会に対して感謝の気持ちを持つことができる「幸せな人」を育て、人間が働く喜びを味わえる企業経営を行うことを基本方針としています。

(2) 企業文化


同社グループは、基本的な考え方として「報恩感謝」「和」「創造と革新」「誠実」「質実剛健」という価値観を大切にしています。これらを基礎とし、製品を提供し続けることで企業価値の向上と持続可能な社会の発展に貢献することを目指しています。

(3) 経営計画・目標


「変化に対応できる企業体質への転換」を中期方針とした「中期経営計画2026」(2025年3月期-2027年3月期)を策定しています。安定的な成長と収益性を重視し、「売上高経常利益率」と「ROE(自己資本当期純利益率)」を目標とする経営指標として掲げています。

* 海外売上高比率25%以上(2027年3月期)

(4) 成長戦略と重点施策


「中期経営計画2026」に基づき、国内事業を成長基盤としつつ、海外事業による成長牽引と新事業の実現を目指しています。具体的には、品質保証体制や人的資本等の「経営基盤の強化」、ロボット導入等による「生産性向上・業務効率化」、中国・アセアン・インド等での「海外事業の飛躍」、環境対応製品の開発による「脱炭素・循環型社会への貢献」、および新組織発足による「新事業の確立」の5つを成長戦略として推進しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人間尊重、人間中心の経営」のもと、環境変化に対応できる自立型人財の育成を目指しています。採用では多様な人財の確保を進め、育成では階層別研修やジョブローテーションを積極的に実施しています。また、従業員のエンゲージメント向上に向けた評価・報酬体系の整備や、働きがいのある職場づくり、心身の健康保持・増進に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 44.7歳 21.8年 5,572,621円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.2%
男性育児休業取得率 27.8%
男女賃金差異(全労働者) 68.1%
男女賃金差異(正規雇用) 73.1%
男女賃金差異(非正規雇用) 63.0%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、スキルアップ研修の実施(延べ1,823人)、ストレスチェック高受検率維持(99.7%)、企業理念研修(集合研修)の実施(85回)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 原材料調達リスク


主力製品である超硬工具は、タングステンカーバイドやコバルトといった希少金属を原材料としています。これらの原料相場の高騰や円安による価格上昇、あるいは中国やアフリカ等の産出国の政情不安による調達困難が生じた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 景気変動リスク


日本およびアジアを中心に事業を展開しており、幅広い業種と取引していますが、進出する国・地域の景気後退や経済危機が発生した場合、業績に影響を与える可能性があります。特に同社製品の多くは生産財であり、顧客の設備投資需要の低下は受注・売上の減少につながる恐れがあります。

(3) 人財の育成・確保リスク


中長期的な成長には優秀かつ多様な人財の確保・育成が不可欠です。適切な時期に必要な人財を採用・育成できない場合や、優秀な人財が流出した場合、事業目的の達成が困難となり、業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、階層別研修の充実や労働環境の整備を進めています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。