※本記事は、冨士ダイス株式会社の有価証券報告書(第70期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 冨士ダイスってどんな会社?
超硬合金を用いた耐摩耗工具の専門メーカーとして、多様な産業を支える企業です。
■(1) 会社概要
1949年の創業以来、超硬耐摩耗工具の製造を本格的に開始し、1956年に冨士ダイスへ改組しました。以降、国内各地に製造拠点や営業所を開設し、2003年のタイ子会社設立を皮切りに中国やインドネシアなどアジアへも幅広く展開しています。2015年には東証二部への上場を果たし、着実な成長を遂げています。
現在、従業員数は連結で1,078名、単体で845名です。筆頭株主は外資系金融機関のCHARLES SCHWAB FBO CUSTOMERで、第2位はCS企画、第3位には従業員持株会が名を連ねており、安定した株主構成を維持しつつ、事業の持続的な成長を支える強固な体制を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| CHARLES SCHWAB FBO CUSTOMER | 9.63% |
| CS企画 | 8.99% |
| 冨士ダイス社員持株会 | 7.54% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は春田善和氏が務めています。社外取締役比率は38.5%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 春田善和 | 代表取締役社長 | 1987年入社。業務本部企画部長、常務取締役業務本部長などを経て、2024年1月より現職。 |
| 津田雅宣 | 常務取締役海外事業本部長 | 1988年入社。営業本部輸出部長、取締役営業本部長などを経て、2024年1月より現職。 |
| 篠宮護 | 取締役技術開発本部長 | 1994年入社。生産開発本部開発センター長などを歴任し、2020年7月より現職。 |
| 馬渡和幸 | 取締役品質保証本部長 | 1990年入社。生産本部生産管理統括センター長や生産本部長などを経て、2025年6月より現職。 |
| 松岡恭弘 | 取締役営業本部長 | 1991年入社。生産管理統括センター熊本製造所長などを歴任し、2023年7月より現職。 |
| 髙安真生 | 取締役業務本部長 | 1982年日本電気入社。2017年同社入社。業務本部人事部長等を経て、2025年7月より現職。 |
| 輪竹暢久 | 取締役生産本部長 | 1994年入社。タイ子会社のMANAGING DIRECTORなどを歴任し、2025年7月より現職。 |
| 古谷高宏 | 取締役常勤監査等委員 | 2003年入社。営業本部輸出部長や冨士シャフト代表取締役社長などを経て、2025年6月より現職。 |
社外取締役は、澤井英久(新四谷法律事務所代表)、内田伊知郎(トラベルブック元常勤監査役)、上田典由(キヤノンファインテックニスカ元取締役)、江口泰志(公認会計士江口泰志事務所所長)、中村美智子(プラス法律事務所)です。
2. 事業内容
同社グループは、「耐摩耗工具関連事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■(1) 超硬製工具類
線材やパイプの生産に用いるダイスやプラグ、熱間圧延ロールなどの工具を提供しており、鉄鋼、非鉄金属、自動車、電機分野など幅広い業界の顧客を対象としています。創業時からの主力製品であり、社名の由来にもなっています。
収益源はこれらの顧客に対する製品の販売代金です。同事業の運営は主に冨士ダイスおよびタイやインドネシアなどの海外子会社が担い、顧客ごとのカスタムメイド要求に応える多品種少量生産体制を構築して収益を上げています。
■(2) 超硬製金型類
自動車部品の製造や飲料缶の生産に用いられる金型を中心に提供しています。大量生産が必要な自動車部品や歩留まりが重視される飲料缶などの製造において、高い精度と耐摩耗性が求められる顧客のニーズに直接応えています。
収益源は、これら高精度な金型の販売代金です。主に冨士ダイスおよびグループの国内外生産拠点が連携して製造を担っており、顧客の設計思想や生産プロセスを色濃く反映した製品を提供することで安定した収益基盤を形成しています。
■(3) その他の超硬製品および超硬以外の製品
超硬合金チップなどの素材販売に加え、精密加工技術を活かした鋼製品やセラミックス製品など、超硬合金以外の素材を用いた耐摩耗工具の提供も行っており、顧客の多様な生産ラインのニーズに対応しています。
これらの製品販売から収益を得ており、超硬合金チップは冨士ダイスでのみ製造し海外へも広く展開しています。鋼製品などは冨士シャフトなどの子会社とも連携しながら、求められる工具性能に応じた製品ラインナップで事業を運営しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、売上高が166億円から174億円の範囲で安定して推移しています。経常利益は一時的な落ち込みが見られたものの、当期は販売の好調と効率化により回復しました。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 169億円 | 172億円 | 167億円 | 166億円 | 174億円 |
| 経常利益 | 12億円 | 12億円 | 9億円 | 6億円 | 9億円 |
| 利益率(%) | 7.1% | 7.1% | 5.3% | 3.6% | 5.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 8億円 | 13億円 | 7億円 | 4億円 | 6億円 |
■(2) 損益計算書
当期は売上高の増加に伴い売上総利益も拡大し、利益率が向上しました。営業利益は生産効率の改善や経費節減の取り組みにより、前期から大幅な増益を達成しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 166億円 | 174億円 |
| 売上総利益 | 41億円 | 46億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.9% | 26.5% |
| 営業利益 | 5億円 | 8億円 |
| 営業利益率(%) | 2.9% | 4.7% |
販売費及び一般管理費のうち、給与手当が15億円(構成比39%)、福利厚生費が4億円(同9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
超硬製金型類やその他の超硬製品を中心に売上が伸長しました。一方で、超硬以外の製品は混錬工具等の販売が低調に推移し、前年を下回りました。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 超硬製工具類 | 42億円 | 43億円 |
| 超硬製金型類 | 43億円 | 47億円 |
| その他の超硬製品 | 43億円 | 49億円 |
| 超硬以外の製品 | 39億円 | 35億円 |
| 連結(合計) | 166億円 | 174億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CF・投資CF・財務CFの推移から、営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である「健全型」と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 18億円 | 12億円 |
| 投資CF | -8億円 | -7億円 |
| 財務CF | -7億円 | -11億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は79.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「社員一人ひとりの幸せを尊重し、事業を通じて広く社会に貢献する」を企業理念に掲げています。広く産業とくらしを支え、社会に貢献できる人、社会に対して感謝の気持ちを持つことができる人を育て、真に人間が働く喜びを味わえる企業経営を行うことを基本方針としています。
■(2) 企業文化
同社は、人間尊重と人間中心の経営を重視する文化を根底に持っています。行動指針として「誠実」「好奇心」「スピード」「挑戦」「一体感」を掲げ、従業員一人ひとりの主体性や「やってみよう」を応援することで、それぞれの個性を企業の成長につなげ、よりよい社会の実現を目指しています。
■(3) 経営計画・目標
安定的な成長と資本効率の向上を目指し、「売上高経常利益率」と「ROE(自己資本当期純利益率)」を重視する方針を掲げています。また、中期経営計画(2025年3月期〜2027年3月期)に基づく株主還元策として、「株主資本配当率(DOE)4%」を目途に配当を実施する目標を設定しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
「変化に対応できる企業体質への転換」を中期方針に掲げ、以下の重点施策に取り組んでいます。
* 経営基盤の強化
* 生産性向上・業務効率化
* 海外事業の飛躍
* 脱炭素・循環型社会への貢献
* 新事業の確立
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「自立型人財」の育成を重視し、性別や経歴にとらわれない公正な登用や多様な採用チャネルの活用を進めています。また、ジョブローテーションによる多面的なスキル習得や、自ら課題を設定する目標管理制度、エンゲージメントサーベイを通じた職場環境の改善により、社員の成長と定着を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 44.8歳 | 21.9年 | 5,705,659円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.9% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.3% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 73.6% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 84.2% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、スキルアップ・自立型人材育成研修等の実施(25,114時間)、女性採用比率(20.0%)、ストレスチェック高受検率(98.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 市場の縮小に関するリスク
同社の販売品目は生産財が中心であり、国内外の景気後退や市場縮小による設備投資需要の低下が受注や売上に直結するリスクがあります。これに対し、国内外の市場動向を迅速に把握する体制を整備し、新材料や高付加価値製品の開発により市場開拓を進めることで影響の軽減を図っています。
■(2) 原材料調達に関するリスク
超硬工具の主原料であるタングステンやコバルトは産出地が限定されており、需給逼迫による価格高騰や為替変動、地政学リスク等により調達コストが上昇する可能性があります。調達先の複線化やリサイクル原料の活用、脱タングステン合金などの新材料開発を推進し、安定調達への対策を講じています。
■(3) 人財の育成及び確保に関するリスク
中長期的な成長は優秀な人財の確保と育成に依存しており、必要な人財を採用・育成できない場合や社外へ流出する場合には事業運営に影響を及ぼすリスクがあります。このため、階層別教育研修プログラムの充実や多様なライフスタイルに応じた労働環境の整備を進め、人財の定着と育成に注力しています。



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