※本記事は、あすか製薬ホールディングス株式会社の有価証券報告書(第5期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. あすか製薬ホールディングスってどんな会社?
同社は、産婦人科等のスペシャリティ領域に強みを持つ医療用医薬品を中核に、医療関連ビジネスを展開しています。
■(1) 会社概要
同社のルーツは1920年に創設された帝国社臓器薬研究所に遡ります。2005年にグレラン製薬と合併しあすか製薬へ商号を変更しました。2013年にはあすかアニマルヘルスを設立して動物用医薬品分野へ進出しています。2021年に単独株式移転によりあすか製薬ホールディングスを設立して上場し、2025年にはベトナム企業を連結子会社化するなど事業領域を拡大しています。
従業員数は連結で1,611名、単体で94名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位には海外の機関投資家が名を連ねています。また、第3位には販売提携先などの重要な取引関係にある事業会社である武田薬品工業が入っており、安定した資本・業務関係が構築されています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 9.40% |
| NIPPON ACTIVE VALUE FUND PLC | 8.44% |
| 武田薬品工業 | 7.76% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性3名の計13名で構成され、女性役員比率は23.1%です。代表取締役社長は山口惣大氏が務めており、取締役における社外取締役の比率は30.8%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山口惣大 | 取締役社長(代表取締役) | 日立製作所を経て2016年にあすか製薬へ入社。創薬研究、開発などを歴任。2021年の体制移行に伴い同社代表取締役専務に就任。2025年6月より現職。 |
| 山口隆 | 取締役会長(代表取締役) | 1978年にあすか製薬へ入社し、1991年より同社代表取締役社長を歴任。2021年の持株会社設立に伴い同社代表取締役社長に就任。2025年6月より現職。 |
| 丸尾篤嗣 | 専務取締役(代表取締役) | 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)を経て2010年にあすか製薬へ入社。2021年の持株会社設立に伴い同社代表取締役専務に就任。2023年4月より現職。 |
| 森麻衣子 | 取締役常務執行役員 | 1987年にあすか製薬へ入社。医薬情報部長などを経て、2020年より信頼性保証本部長を歴任。2022年6月より同社取締役常務執行役員に就任し、現在に至る。 |
| 山口文豊 | 取締役常務執行役員 | 2011年にあすか製薬へ入社。新規事業開発等を担当し、2021年よりあすかアニマルヘルス代表取締役社長に就任。2022年6月より現職。 |
社外取締役は、粟林稔氏(元日本オムニグロー代表取締役社長)、榎戸康二氏(元パナソニック代表取締役専務)、苅田香苗氏(杏林大学医学部教授)、加藤聖子氏(福岡山王病院病院長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品事業」、「アニマルヘルス事業」、「海外事業」および「その他」事業を展開しています。
■医薬品事業
産婦人科、内科、泌尿器科領域を中心とした医療用医薬品の製造・販売を行っています。子宮筋腫・子宮内膜症治療剤や月経困難症治療剤などの女性の健康に関わる製品や、甲状腺ホルモン剤などを主要な製品ラインナップとして展開し、医療現場のニーズに応えています。
収益は、医療機関や調剤薬局などに向けた医療用医薬品の販売代金から得ています。武田薬品工業などの特約店を通じた販売体制を構築しています。当事業の運営は主に中核事業会社であるあすか製薬が行っています。
■アニマルヘルス事業
動物用医薬品や飼料添加物などの製品を製造・販売しています。主に繁殖および内分泌領域を中心とした製品を展開し、畜産農家や獣医療機関に向けて動物の健康維持や生産性向上に貢献する製品ラインナップを揃えています。
収益は、動物用医薬品や飼料などの製品販売代金から得ています。製品の拡充を進めるとともに、アジアを中心とした海外展開を推進することで早期の売上創出を図っています。当事業の運営はあすかアニマルヘルスが行っています。
■海外事業
主に海外市場において医療用医薬品の製造・販売を展開しています。東南アジア地域を重点市場と位置づけ、競争力のある製品展開を通じて地域の医療ニーズに応えるとともに、グローバルな事業基盤の強化を推進しています。
収益は、海外での医薬品販売代金から得ています。ベトナムの連結子会社であるHa Tay Pharmaceutical Joint Stock Companyを中核として、新工場の稼働を軸に生産体制を強化し、収益性の向上を目指しています。
■その他
臨床検査および医療機器などの事業を展開しています。非侵襲性ホルモン量測定キットの普及拡大や微量分析技術の活用により、医薬品事業とのシナジーを活かした検査事業や医薬周辺領域でのトータルヘルスケアの提供を進めています。
収益は、臨床検査の受託や医療機器の販売代金などから得ています。スタートアップ企業との協業や新規事業の創出にも取り組み、新たな収益機会の確保を図っています。当事業の運営はあすか製薬メディカルなどのグループ会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は566億円から711億円へと順調な拡大を続けています。これは主力である産婦人科領域の製品が堅調に推移したことや、ベトナムの製薬企業を連結子会社化したことなどが寄与しています。経常利益も概ね50億円規模で安定して推移しており、堅実な収益基盤を維持しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 566億円 | 605億円 | 628億円 | 641億円 | 711億円 |
| 経常利益 | 49億円 | 52億円 | 65億円 | 51億円 | 57億円 |
| 利益率(%) | 8.6% | 8.7% | 10.4% | 8.0% | 8.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 7億円 | 6億円 | 25億円 | 32億円 | 24億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の業績を比較すると、売上高は641億円から711億円へと増加し、売上総利益も順調に拡大しています。売上総利益率は約48%を維持しており、海外事業の新規連結や製品ミックスの改善が影響しています。営業利益も53億円から58億円へと伸びており、本業の収益力が向上していることが伺えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 641億円 | 711億円 |
| 売上総利益 | 313億円 | 341億円 |
| 売上総利益率(%) | 48.9% | 48.0% |
| 営業利益 | 53億円 | 58億円 |
| 営業利益率(%) | 8.3% | 8.2% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が71億円(構成比25%)、運送保管料が66億円(同23%)、給料手当・賞与が48億円(同17%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別に見ると、医薬品事業が全体の売上を牽引しており、産婦人科・内科領域の主力製品が堅調に推移し増収増益となりました。アニマルヘルス事業も安定的な収益を確保しています。また、当期から新たに追加された海外事業が売上高と利益の両面で貢献を開始しており、新たな成長ドライバーとして機能しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医薬品事業 | 567億円 | 589億円 | 63億円 | 71億円 | 12.1% |
| アニマルヘルス事業 | 72億円 | 73億円 | 3億円 | 3億円 | 4.7% |
| 海外事業 | - | 46億円 | - | 1億円 | 2.3% |
| その他事業 | 2億円 | 2億円 | - | - | -5.8% |
| 調整額 | - | - | -13億円 | -17億円 | - |
| 連結(合計) | 641億円 | 711億円 | 53億円 | 58億円 | 8.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で稼いだ資金で積極的な投資と借入金の返済を賄う「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。安定した収益力と財務体質を兼ね備えた優良な状態と言えます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 25億円 | 63億円 |
| 投資CF | -61億円 | -58億円 |
| 財務CF | -30億円 | -8億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.0%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は62.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「先端の創薬を通じて人々の健康と明日の社会に貢献する」という経営理念を掲げています。医療用医薬品事業を中核としつつ、アニマルヘルス事業、海外事業、検査事業の医療関連ビジネスを通じて、社会から信頼される企業として成長・発展することを目指し、「いのち」に関わる企業として社会課題の解決に取り組んでいます。
■(2) 企業文化
同社は、長年培ってきた産婦人科領域などでの専門性をさらに深化させ、持続的な成長と社会課題の解決を両立する企業文化を醸成しています。持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた活動を推進し、多様な価値観を尊重することで、新たなイノベーションを生み出す組織づくりと豊かな社会の実現に向けた行動を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、長期ビジョン「ASKA VISION 2035」のもと、2026年4月から2029年3月末までの中期経営計画2028を策定し、持続的成長と社会課題解決の両立を目指しています。最終年度となる2028年度には以下の数値目標の達成を掲げています。
* 売上高850億円
* 営業利益率10%
* 自己資本当期純利益率(ROE)10%
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画2028では、成長を牽引する5本の柱として、国内医療用医薬品事業でのスペシャリティ領域の拡充、創薬事業のグローバル展開、海外事業での新工場稼働による基盤強化、アニマルヘルス事業の拡大、検査・アラウンドピル事業の展開を掲げています。また、資本コストを意識した財務戦略やガバナンスと組織力の強化を下支えとしています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人的資本への投資を通じた次世代経営人材および専門人材の育成・獲得」を推進しています。変化を機会と捉えて挑戦し、新たな価値を創出できる人材の育成を目指し、多様な人材が能力を最大限に発揮できる職場環境の整備に取り組んでいます。自律的な成長を支援し、高い倫理観と誠実さを持つ人材の活躍を通じて組織全体の競争力強化を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 46.7歳 | 17.8年 | 10,213,546円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.3% |
| 男性育児休業取得率 | 129.4% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 75.1% |
| 男女賃金差異(パート・有期) | 62.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員に占める女性比率(34.7%)、自己都合退職率(3.4%)、新卒採用女性比率(51.9%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 研究開発に関するリスク
医薬品の研究開発には多額の費用と長い年月を要しますが、新薬の創出に成功する確率は高くありません。期待した有効性が証明できない場合や安全性に問題が発覚した場合、開発を断念せざるを得ず、同社グループの経営成績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 法規制・制度改革に関するリスク
同社グループの売上の大部分を占める医療用医薬品は、薬事行政による様々な規制を受けています。継続的な薬価基準の改定をはじめとする医療費抑制政策や、医療制度・健康保険に関わる行政施策の動向によっては、収益性の低下を招き、業績に影響を与える可能性があります。
■(3) 製造・安定供給に関するリスク
同社グループおよび提携先の製造・物流施設において、技術上や法規制上の問題、火災などの災害により操業停止に陥った場合、医薬品の供給が停滞する恐れがあります。また、原材料の需給逼迫や価格高騰、サプライチェーンの寸断が発生した場合、製造コストの上昇等により安定供給に支障をきたすリスクがあります。



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