※本記事は、インフロニア・ホールディングス株式会社 の有価証券報告書(第4期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. インフロニア・ホールディングスってどんな会社?
前田建設工業、前田道路、前田製作所の経営統合により誕生した、インフラの企画から運営までを担う持株会社です。
■(1) 会社概要
同社は2021年10月、前田建設工業、前田道路、前田製作所の3社による共同株式移転により、完全親会社として設立されました。同日、東京証券取引所市場第一部(現プライム市場)に上場しています。2024年1月には、風力発電事業を展開する日本風力開発を完全子会社化し、再生可能エネルギー分野の強化を進めています。
連結従業員数は8,076名、単体従業員数は102名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は建設資材販売や不動産事業を行う関連当事者の光が丘興産です。大手不動産会社や金融機関、取引先持株会なども株主に名を連ねており、安定した株主構成となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.10% |
| 光が丘興産 | 9.46% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.39% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性13名、女性1名の計14名で構成され、女性役員比率は7.1%です。代表執行役社長兼CEOは岐部 一誠氏です。社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 岐部 一誠 | 取締役代表執行役社長兼 CEO | 1986年前田建設工業入社。経営管理本部副本部長、事業戦略本部長等を経て、2021年同社代表取締役副社長。同年10月より現職。 |
| 前田 操治 | 取締役会長 | 1997年前田建設工業入社。建築本部長、エネルギー管掌等を経て、2016年同社代表取締役社長。2021年10月より現職。 |
| 今泉 保彦 | 取締役 | 1981年前田建設工業入社。建築事業本部長等を経て、2020年前田道路代表取締役社長。2023年6月より現職。 |
| 塩入 正章 | 取締役 | 1981年前田製作所入社。産業機械本部長等を経て、2013年同社代表取締役社長。2025年4月より同社代表取締役会長。2021年10月より現職。 |
社外取締役は、橋本 圭一郎(元首都高速道路会長兼社長)、米倉 誠一郎(一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)、森谷 浩一(元パイオニア社長)、村山 利栄(元ゴールドマン・サックス証券マネージングディレクター)、髙木 敦(元モルガン・スタンレー証券マネージングディレクター)です。
2. 事業内容
同社グループは、「建築事業」、「土木事業」、「舗装事業」、「機械事業」、「インフラ運営事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 建築事業
集合住宅や工場・物流施設を中心とする建設工事およびこれに付帯する事業を展開しています。官公庁や民間企業などが主な顧客です。
収益は、顧客からの工事請負代金等から得ています。運営は主に前田建設工業などの子会社が行っており、施工する工事の一部および資材納入等を関係会社に発注する体制をとっています。
■(2) 土木事業
橋梁やトンネルを中心とする建設工事およびこれに付帯する事業を展開しています。国や地方自治体などの官公庁が主な顧客となります。
収益は、発注者からの工事請負代金等から得ています。運営は主に前田建設工業などの子会社が行っており、これらの会社は施工する工事の一部および資材納入等を関係会社に発注しています。
■(3) 舗装事業
舗装工事等の建設工事およびアスファルト合材等の製造・販売事業を中心に展開しています。官公庁や民間企業などが顧客です。
収益は、工事請負代金や製品の販売代金から得ています。運営は主に前田道路などの子会社が行っており、これらの会社は施工する工事の一部および資材納入等を関係会社に発注しています。
■(4) 機械事業
建設機械の製造・販売およびレンタル事業を展開しています。建設会社やレンタル会社などが主な顧客です。
収益は、製品の販売代金やレンタル料から得ています。運営は主に前田製作所などの子会社が行っており、これらの会社は建設機械の一部を関係会社に販売・賃貸しています。
■(5) インフラ運営事業
太陽光・風力発電事業等の開発、運営・維持管理、売却を行う再生可能エネルギー事業や、公共インフラ等の運営権を取得し運営・維持管理を手掛けるコンセッション事業を展開しています。
収益は、売電収入や施設利用料金等から得ています。運営は、日本風力開発(風力発電)、愛知道路コンセッション(道路)、みおつくし工業用水コンセッション(工業用水)、仙台国際空港(空港)などの子会社および関連会社が行っています。
■(6) その他
建築・土木の建設事業、リテール事業、建設用資材製造・販売、ビル管理および不動産事業等を幅広く展開しています。
収益は、工事請負代金、商品販売代金、管理料、不動産販売・賃貸収入等から得ています。運営は、JM(点検・修繕)、フジミ工研(コンクリート製品)、エフビーエス(ビル管理)、光が丘興産(不動産)、東洋建設(建設・不動産)などが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近3期間の業績を見ると、売上収益は順調に拡大しており、増収基調が続いています。一方、税引前利益は440億円台から490億円台へと推移し、比較的安定しています。当期利益については320~330億円台で推移しており、売上規模の拡大に対して利益水準は横ばい傾向にあります。
| 項目 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|
| 売上収益(または売上高) | 7,118億円 | 7,933億円 | 8,475億円 |
| 税引前利益 | 447億円 | 494億円 | 498億円 |
| 利益率(%) | 6.3% | 6.2% | 5.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 335億円 | 326億円 | 324億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の損益構成を見ると、売上高の増加に伴い売上総利益も増加していますが、利益率はほぼ横ばいです。営業利益は販売費及び一般管理費等の増加により減益となりました。事業規模の拡大に対してコストコントロールが課題となっている様子がうかがえます。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 7,933億円 | 8,475億円 |
| 売上総利益 | 1,119億円 | 1,155億円 |
| 売上総利益率(%) | 14.1% | 13.6% |
| 営業利益 | 511億円 | 471億円 |
| 営業利益率(%) | 6.4% | 5.6% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が354億円(構成比52%)、その他費用が180億円(同26%)を占めています。売上原価においては、従業員給付費用が568億円(構成比8%)を占めています。
■(3) セグメント収益
建築事業は大型工事の進捗や新規受注により大幅な増収増益となりました。一方、土木事業は大型工事の反動減により減収減益です。舗装事業は受注時利益率の向上等により増益を確保しました。インフラ運営事業は売上高が増加したものの、損失を計上しています。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 建築事業 | 2,737億円 | 3,207億円 | 44億円 | 140億円 | 4.4% |
| 土木事業 | 1,624億円 | 1,420億円 | 291億円 | 155億円 | 10.9% |
| 舗装事業 | 2,518億円 | 2,631億円 | 152億円 | 198億円 | 7.5% |
| 機械事業 | 398億円 | 410億円 | 22億円 | 23億円 | 5.5% |
| インフラ運営事業 | 184億円 | 306億円 | -11億円 | -22億円 | -7.3% |
| その他 | 472億円 | 502億円 | 22億円 | 25億円 | 4.9% |
| 調整額 | -200億円 | -526億円 | -5億円 | -33億円 | - |
| 連結(合計) | 7,933億円 | 8,475億円 | 515億円 | 485億円 | 5.7% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
インフロニア・ホールディングスグループは、事業運営に必要な流動性と資金源を安定的に確保することを基本方針としています。
営業活動によるキャッシュ・フローは、建築・土木事業における受注・売上実績に支えられています。投資活動によるキャッシュ・フローは、インフラ運営事業等への投資に関連しています。財務活動によるキャッシュ・フローは、有利子負債の返済等により、資金調達の状況を示しています。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 389億円 | 396億円 |
| 投資CF | -2,793億円 | -275億円 |
| 財務CF | 2,613億円 | -49億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「どこまでも、インフラサービスの自由が広がる世界。」をビジョンに掲げ、「インフラストラクチャー・ビジネスの既成概念に挑み、イノベーティブなアイデアで世界中に最適なサービスを提供する。」を使命としています。環境・社会課題の解決を通じ、社会と地球の持続可能な発展に貢献する「総合インフラサービス企業」を目指しています。
■(2) 企業文化
「社会・地域の安全安心とサステナビリティ」をバリュー(価値観)とし、企業が果たすべき社会的責任を共有しながら、ステークホルダーの理解と共感が得られる開かれた経営に努めています。また、公正性・透明性を確保したガバナンス体制のもと、信頼関係を構築し、社会価値の創造に貢献する姿勢を重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年度を最終年度とする中長期経営計画において、以下の目標数値を掲げています。
* 事業利益:1,000億円以上
* 当期利益:700億円以上
* ROE:12%以上
また、2027年度を最終年度とする中期経営計画では、以下の目標を設定しています。
* 事業利益:700億円
* EBITDA:1,100億円
* ROE:9.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、インフラの上流から下流までをワンストップでマネジメントする「総合インフラサービス企業」への転換を推進しています。請負事業の強化と脱請負事業の拡大により、安定的かつ高収益なビジネスモデルの確立を目指します。今後3年間を「投資事業拡大フェーズ」と位置付け、官民連携事業や再生可能エネルギー事業への積極的な投資、M&Aによる事業領域の拡大、DX推進による生産性向上に注力します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「請負」と「脱請負」の連携と融合を加速させるため、グループ全体で多様性を確保し、知恵とアイデアを重ね合わせて共創する人材と組織をつくる戦略を掲げています。エンジニアリング力、地域ビジネス、組織文化の3つの視点から、多様な人材の計画的な確保と、彼らが活躍できる組織づくりを推進し、価値創造人材の育成と組織強化を図っています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.8歳 | 14.2年 | 11,055,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 10.5% |
| 男性育児休業取得率 | 0.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.0% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 64.8% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | -% |
※男女賃金差異(非正規雇用)については、対象者がいない等の理由により記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 国内における事業領域・インフラサービス事業の更なる拡大
国内市場における競争激化や顧客ニーズの多様化により、既存戦略が陳腐化するリスクがあります。また、M&Aや事業売却において、対象企業の評価誤りや統合プロセスの不調により、期待したシナジー効果が得られない、あるいはのれんの減損損失が発生する可能性があります。経済情勢の変動(インフレ、金利上昇等)も収益性に影響を与える要因です。
■(2) 海外における事業領域拡大・インフラサービス事業への参入
海外展開において、進出国の政治的不安定さや法規制の変更、地政学的リスクが事業運営に悪影響を及ぼす可能性があります。現地企業との提携における企業文化の違いや、現地の調達網・物流インフラの未整備によるコスト増加や遅延も懸念されます。市場ニーズの把握不足により、目標とする事業拡大が達成できないリスクもあります。
■(3) バリュー思考に基づく、価値創造プロセスの最適化
グループ全体戦略が機能せず、市場変化への対応が遅れるリスクがあります。企業文化の醸成不足や多様な人材の採用・育成が不十分な場合、従業員のモチベーション低下や離職率の上昇を招き、組織の創造性や競争力が低下する恐れがあります。これにより、経済的価値と社会的価値の両立という目標達成が困難になる可能性があります。



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