※本記事は、西松建設株式会社の有価証券報告書(第89期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月19日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. 西松建設ってどんな会社?
国内外での土木・建築事業を中核とし、環境・都市開発分野へも事業領域を広げる総合建設企業です。
■(1) 会社概要
1874年に土木建築請負業として創業し、1937年に設立されました。1948年に西松建設へ社名を変更し、総合建設業者としての地位を確立しました。1961年には東京証券取引所第二部へ上場し、後に第一部へ指定変更されています。近年は2010年に西松地所を設立し、不動産などの周辺事業も展開しています。
現在の従業員数は連結で3,442名、単体で2,706名です。筆頭株主は事業展開で提携関係にある伊藤忠商事で、第2位および第3位には資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。強固な事業基盤を背景に、異業種との協業による新たなシナジー創出も推進する体制を整えています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 伊藤忠商事 | 21.92% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.69% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 6.41% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長執行役員社長は細川雅一氏が務めています。社外取締役は4名選任されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 細川雅一 | 代表取締役社長執行役員社長 | 1987年4月同社入社。2019年4月執行役員新規事業統括部長、2021年4月執行役員環境・エネルギー事業統括部長などを経て、2024年6月より現職。 |
| 一色真人 | 代表取締役執行役員副社長コーポレート部門担当 | 1984年4月同社入社。2016年6月取締役専務執行役員土木事業本部長、2018年4月代表取締役執行役員副社長土木事業本部長などを経て、2025年4月より現職。 |
| 渋井修 | 取締役専務執行役員管理統括室長・IR担当 | 1985年4月同社入社。2013年4月人事部長、2020年4月常務執行役員社長室長、2025年4月専務執行役員管理統括室長などを経て、2025年6月より現職。 |
| 濵﨑伸介 | 取締役常務執行役員経営戦略室長 | 1983年4月同社入社。2016年4月九州支社副支社長、2019年4月執行役員北日本支社長、2025年4月常務執行役員経営戦略室長などを経て、2025年6月より現職。 |
| 川野秀之 | 取締役(常勤監査等委員) | 1987年4月同社入社。2013年11月法務部法務課長、2017年4月人事部長、2023年4月監査等委員会事務局部長などを経て、2024年6月より現職。 |
社外取締役は、久保俊裕(元クボタ副社長)、伊藤弥生(元ヤマトホールディングスIT戦略部長)、大下元(元JFEエンジニアリング社長)、菊地美佐子(元三井物産フォレスト社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、土木事業、建築事業、国際事業、アセットバリューアッド事業、地域環境ソリューション事業の5つの報告セグメントで事業を展開しています。
■土木事業
同社グループの中核として、国内におけるトンネル、シールド、ダム、リニューアル工事などの土木工事の請負および関連事業を提供しています。官公庁や民間企業を主な顧客としています。
収益源は、発注者からの工事請負代金です。同セグメントの運営は主に西松建設と同社の子会社などが担当し、高度な技術開発やDX推進によって生産性の向上や受注の拡大を図っています。
■建築事業
国内において、事務所、データセンター、物流施設などの建築工事の請負および関連事業を展開しています。メーカーや不動産開発会社などの民間企業が主な顧客となっています。
収益源は、建築物の設計および施工に伴う発注者からの工事請負代金です。主に西松建設が運営を担い、BIMの活用や現場業務の改革を進めながら、多様な建築ニーズに応える建造物を提供しています。
■国際事業
東南アジアや南西アジアを中心に、海外でのインフラ整備や生産工場などの土木および建築工事の請負事業を展開しています。現地の政府機関や外資系企業、日系企業が顧客です。
収益源は、海外における工事請負代金です。西松建設のほか、タイ王国にある泰国西松建設やラオ西松建設などの現地子会社や関連会社が運営を担い、現地のニーズに対応した建設サービスを提供しています。
■アセットバリューアッド事業
国内および海外において、オフィスビル、マンション、ホテルなどの収益不動産に対する投資、開発、販売、賃貸事業を展開しています。一般消費者や企業などが顧客となります。
収益源は、不動産の販売代金や賃貸収入、および物件の管理手数料などです。西松建設のほか、西松地所などの子会社が国内で運営を行い、海外では西松リアルエステート・デベロップメントなどが担当しています。
■地域環境ソリューション事業
再生可能エネルギー発電やPPP(官民連携)事業など、環境に配慮したまちづくりに関連する事業を展開しています。地方自治体や電力会社などが主な顧客として想定されています。
収益源は、発電施設からの売電収入やインフラ運営に伴うサービス料などです。山陽小野田グリーンエナジーなどの連結子会社や関連会社が運営主体となり、持続可能な社会の実現に寄与するサービスを提供しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
同社の直近5年間の業績推移を見ると、売上高は3,200億円台から3,900億円台へと拡大傾向にあります。一時的に経常利益が減少した時期もありましたが、直近では工事の順調な進捗や採算の改善により、増収増益の基調を取り戻しています。売上拡大と利益水準の向上が同時に進んでおり、堅調な成長を続けていることが分かります。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,238億円 | 3,398億円 | 4,016億円 | 3,668億円 | 3,960億円 |
| 経常利益 | 235億円 | 132億円 | 196億円 | 202億円 | 274億円 |
| 利益率(%) | 7.3% | 3.9% | 4.9% | 5.5% | 6.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 150億円 | 94億円 | 122億円 | 175億円 | 244億円 |
■(2) 損益計算書
同社の損益構成を比較すると、売上高の増加に加えて売上総利益率が大きく改善しており、本業の収益性が高まっていることが分かります。これにより営業利益も大きく伸びており、効率的な事業運営による利益創出が進んでいることが確認できます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,668億円 | 3,960億円 |
| 売上総利益 | 334億円 | 423億円 |
| 売上総利益率(%) | 9.1% | 10.7% |
| 営業利益 | 211億円 | 280億円 |
| 営業利益率(%) | 5.8% | 7.1% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が125億円(構成比48%)と最も大きな割合を占めており、次いで退職給付費用が6億円(同2%)となっています。また、売上原価においては完成工事原価が3,254億円(構成比95%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セグメント別の売上高を見ると、主力の建築事業および土木事業が順調に売上を伸ばしており、全体の成長を牽引しています。一方、国際事業やアセットバリューアッド事業は減収となっています。基盤となる国内建設事業が底堅く推移していることが全体の業績拡大につながっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 土木事業 | 1,080億円 | 1,219億円 |
| 建築事業 | 1,932億円 | 2,167億円 |
| 国際事業 | 383億円 | 316億円 |
| アセットバリューアッド事業 | 268億円 | 250億円 |
| 地域環境ソリューション事業 | 5億円 | 7億円 |
| 連結(合計) | 3,668億円 | 3,960億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態にあります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 59億円 | 30億円 |
| 投資CF | -363億円 | -75億円 |
| 財務CF | 161億円 | 80億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.1%で市場平均を上回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も28.4%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「価値ある建造物とサービスで安心して暮らせる持続可能な社会をつくる」という企業理念を掲げています。この理念のもと、サステナビリティスローガンとして「みんなでつくる みんなが輝く」を策定し、ひと、まち、自然を大切につなぎ、人々が活き活きできる場を創ることで持続可能な社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
創業以来培ってきた「現場力」を企業文化の強みとして重視しています。現場力とは、粘り強さ、堅実さ、誠実さ、そして多様な関係者をまとめ上げる力といった同社らしさそのものです。この強みを発揮して多様なステークホルダーを巻き込み、社会課題の解決に広く、深く、そして永く貢献していく姿勢を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
長期ビジョン「西松-Vision 2035」において、2035年度のありたい姿「魅力あるゼネコンNo.1」を目指しています。企業としての質を伴った量の拡大を追求し、以下の定量目標を掲げています。
- 営業利益:650億円
- ROE:12%程度
- 自己資本比率:35%程度
- D/Eレシオ:1.0倍程度
- 一人当たり付加価値額:3,500万円以上
■(4) 成長戦略と重点施策
「中期経営計画2028」では、基盤事業である国内建設事業を強化しつつ、成長分野への積極投資や組織の効率化を推進しています。積極的なM&Aや人的資本経営による価値の最大化、DX・AIを活用した組織の筋肉質化に取り組み、以下の目標達成を目指しています。
- 売上高:5,000億円
- 営業利益:350億円
- ROE:11%程度
- 自己資本比率:35%程度
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人的資本経営による社員の創出価値の最大化を方針としています。エンゲージメントスコアの向上を起点とし、活躍や貢献に応じた適切な評価・処遇制度の導入を進めています。また、多様な人材の確保と育成、自律的なキャリア形成の支援、柔軟な働き方の推進を通じて、誰もが意欲的に成長・挑戦できる環境を整備しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.8歳 | 18.9年 | 10,618,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.0% |
| 男性育児休業取得率 | 98.8% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 57.4% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 67.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 77.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性採用率(19.1%)、キャリア採用数(55名)、定期健康診断後の精密検査受診率(60.8%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 技術者および現場管理者の不足
国内の生産年齢人口の減少に伴い、基幹である土木および建築分野の技術者や現場所長候補の人材不足が懸念されています。人材の確保や育成が計画通りに進まない場合、将来の事業継続や事業成長に大きな支障をきたす可能性があります。同社は採用体制の強化や技術革新による生産性向上などの対策を進めています。
■(2) 建設業界における担い手不足
労働規制の強化や建設業界全体の入職者減少により、事業活動に不可欠な協力会社や建設労働者の確保が困難になる可能性があります。これにより、下請け構造の変化や労務費の上昇が引き起こされ、工事の進捗遅延やコスト増加を通じて、同社グループの業績に悪影響を及ぼすリスクが存在します。
■(3) 資材価格および労務費の高騰
長期にわたる建設工事において、契約締結後に資材の調達価格や労務費が急激に上昇する可能性があります。これらのコスト増加分を工事請負金額に十分に転嫁できない場合、当初計画していた工事採算が悪化し、同社グループの業績や財務状況に重要な影響を与えるリスクがあります。



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