第一稀元素化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

第一稀元素化学工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所 プライム市場に上場するジルコニウム化合物のトップメーカーです。自動車排ガス浄化触媒向けを中心に、半導体や燃料電池材料なども展開しています。直近の業績は、自動車向けの販売減少やエネルギー分野の伸び悩みにより、売上高は336億円、経常利益は6億円となり、前期比で減収減益となりました。


※本記事は、第一稀元素化学工業株式会社 の有価証券報告書(第69期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月19日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 第一稀元素化学工業ってどんな会社?


酸化ジルコニウムを中心とした無機化学品メーカーです。自動車触媒や電子材料など幅広い産業に素材を供給しています。

(1) 会社概要


1956年に大阪市で設立され、ジルコニウム防水材の販売を開始しました。1996年には島根県江津市に工場を新設し、自動車触媒用材料の本格生産を開始しています。2004年に東京証券取引所市場第二部に上場し、2018年には市場第一部へ指定替えとなりました。2012年にはベトナムに子会社を設立するなどグローバル展開を進めており、2022年の市場区分見直しに伴いプライム市場へ移行しています。

2025年3月31日時点で、連結従業員数は698名、単体では461名です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は第一稀元素化学工業従業員持株会、第3位は個人株主の國部克彦氏となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行株式会社(信託口) 11.30%
第一稀元素化学工業従業員持株会 5.25%
國部 克彦 5.00%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性2名(社外取締役含む)の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長執行役員は國部洋氏が務めています。社外取締役は3名で、取締役会全体の3分の1を占めています。

氏名 役職 主な経歴
國部  洋 代表取締役社長執行役員 1995年三和銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2004年同社入社。資材部長、営業部長、事業本部長などを経て、2022年6月より現職。
大内 公夫 取締役常務執行役員 1992年同社入社。営業部長、アイ・ディ・ユー代表取締役、技術部・企画部担当などを経て、2024年4月より管理本部長。
板橋 正幸 取締役常務執行役員 1993年同社入社。企画部長、経営企画部長などを経て、2024年6月より経営本部長。ベトナム子会社取締役を兼任。


社外取締役は、梅原俊志(元日東電工代表取締役専務執行役員CTO)、田中純一(元村田製作所取締役監査等委員)、飛田尚美(元バンダイ取締役チーフたまごっちオフィサー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「化学工業製品の製造販売事業」の単一セグメントですが、製品の用途別に「戦略分野(半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア)」「自動車排ガス浄化触媒分野」「基盤分野」に区分して事業を展開しています。

(1) 戦略分野(半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア)


電子部品(積層セラミックコンデンサ等)やスマートフォンの筐体、燃料電池材料、歯科材料など、成長が見込まれる先端産業向けに高付加価値なジルコニウム化合物を提供しています。特に半導体研磨剤や二次電池材料などの開発・販売に注力しています。

これらの製品は主に電子部品メーカーや電池メーカー、医療機器メーカーなどに販売され、製品代金が収益となります。運営は主に第一稀元素化学工業が中心となって行っていますが、海外販売子会社を通じてグローバルに展開しています。

(2) 自動車排ガス浄化触媒分野


自動車の排ガスを浄化する三元触媒やGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)、酸素センサーなどの原料となるジルコニウム系化合物を製造・販売しています。同社の主力事業であり、環境規制の強化に対応した高機能材料を提供しています。

自動車触媒メーカーやセンサーメーカーなどが主な顧客であり、製品販売による収益を得ています。第一稀元素化学工業が国内工場で製造し、国内外の顧客へ供給を行っています。

(3) 基盤分野


工業用触媒、耐火物、ブレーキ材、ファインセラミックス構造部材など、産業の基盤となる多様な用途に向けたジルコニウム化合物を供給しています。長年培った技術を活かし、幅広い産業分野のニーズに対応しています。

化学メーカーや耐火物メーカー、ブレーキ部品メーカーなど多岐にわたる顧客に対し、製品を販売して収益を得ています。製造・販売は第一稀元素化学工業および関連会社が連携して行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は2023年3月期まで増加傾向にありましたが、その後は横ばいから微減で推移しています。経常利益は2022年3月期と2023年3月期に高い水準を記録しましたが、直近2期は原材料価格や販売構成の変化等により低下しており、特に当期は大幅な減益となりました。

項目 2021年3月期 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期
売上高 235億円 294億円 357億円 352億円 336億円
経常利益 21億円 60億円 60億円 29億円 6億円
利益率(%) 9.1% 20.4% 16.7% 8.4% 1.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 16億円 13億円 40億円 11億円 8億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で減少しましたが、売上総利益は微増を維持しました。しかし、販売費及び一般管理費の増加などにより営業利益は減少しました。売上総利益率は約24〜25%の水準で推移していますが、営業利益率は低下傾向にあります。

項目 2024年3月期 2025年3月期
売上高 352億円 336億円
売上総利益 83億円 84億円
売上総利益率(%) 23.6% 24.8%
営業利益 24億円 23億円
営業利益率(%) 6.9% 6.8%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が12億円(構成比20%)、給料及び手当が12億円(同20%)を占めています。

(3) セグメント収益


用途別の売上状況を見ると、主力である自動車排ガス浄化触媒分野が減収となりました。戦略分野では、半導体・エレクトロニクスやヘルスケアが増収となった一方、エネルギー分野は電動車市場の減速等の影響で減収となりました。基盤分野は堅調に推移し増収となっています。

区分 売上(2024年3月期) 売上(2025年3月期)
戦略分野(半導体・エレクトロニクス) 17億円 18億円
戦略分野(エネルギー) 22億円 14億円
戦略分野(ヘルスケア) 18億円 20億円
自動車排ガス浄化触媒分野 226億円 208億円
基盤分野 70億円 77億円
連結(合計) 352億円 336億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動によるキャッシュ・フローはプラスを維持しており、本業で現金を獲得できています。一方、投資活動および財務活動はマイナスとなっており、借入金の返済や自己株式取得などの支出が上回りました。これは、本業の収益で借入返済等を行っている**健全型**のキャッシュ・フロー状態と言えます。

項目 2024年3月期 2025年3月期
営業CF 53億円 35億円
投資CF -34億円 -6億円
財務CF -24億円 -35億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は2.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は58.6%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「世に価値あるものを供給し続けるには、価値ある人生を送るものの手によらねばならぬ。価値ある人生を送るためには、その大半を過ごす職場を価値あるものに創り上げていかねばなるまい。」という経営理念を掲げています。また、「稀な元素とともに、「100年企業」へ」をビジョンとし、社会課題解決に貢献する製品の供給と、社員の充実した人生および価値ある職場の実現を目指しています。

(2) 企業文化


「価値ある職場」とは、ジルコニウムのトップメーカーの一員であることに誇りを持ち、「キゲンソらしさ」を体現する仲間がいる職場であると定義しています。この「キゲンソらしさ」の更なる醸成を中期経営計画の柱の一つとして掲げ、人材の多様性と挑戦を尊重する企業風土づくりに取り組んでいます。

(3) 経営計画・目標


2032年3月期までの長期ビジョンを見据えた中期経営計画「DK-One Next」を推進しています。「新たな事業を創出し続け、今後10年に起こる大きな環境変化を乗り越える」ことを方針とし、以下の数値目標を掲げています。

* 2029年3月期:売上高410億円、営業利益30億円、ROE 5%
* 2032年3月期:売上高500億円以上、営業利益75億円以上、ROE 11%以上

(4) 成長戦略と重点施策


自動車の電動化に伴う内燃機関向け市場の縮小を見据え、事業ポートフォリオの転換を進めています。半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケアを「戦略分野」と位置づけ、これらの売上構成比を2032年3月期には50%以上とすることを目指しています。また、ベトナム新工場による主原料の安定調達体制の確立や、生産性向上による収益構造改革にも取り組んでいます。

* 戦略分野増産投資:75億円
* 研究開発投資:80億円

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「100年企業」への飛躍のため、果敢に挑戦し事業を拡大させる人材および次世代を担う人材の育成に投資する方針です。多様な人材が活躍できる基盤づくりとして、海外人材の採用・育成、若手の積極登用、女性管理職候補者の育成、シニア人材が貢献できる制度整備を進めています。また、役割・成果に応じた報酬制度の運用や、心身ともに健康で安全な職場づくりを推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 39.1歳 14.1年 6,829,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 8.3%
男性育児休業取得率 70.0%
男女賃金差異(全労働者) 72.8%
男女賃金差異(正規雇用) 80.0%
男女賃金差異(非正規雇用) 50.8%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) ベトナム事業について


主原料であるジルコニウム化合物の安定調達のため、ベトナム現地法人で中間原料(ZOC)の内製化を進めています。2025年7月の本格稼働に向け準備中ですが、生産初期の安定稼働やコスト最適化に課題が生じる可能性があります。稼働遅延やコスト改善の遅れが生じた場合、収益を圧迫するリスクがあります。

(2) 戦略分野の進展について


自動車排ガス浄化触媒向けへの依存度を下げるため、半導体・エネルギー・ヘルスケアの戦略分野を強化しています。しかし、エネルギー分野のように主要顧客の在庫調整や市場減速の影響を受ける可能性があります。これらの分野での拡販や新製品開発が計画通り進まない場合、中長期的な収益構造の改善が遅れるおそれがあります。

(3) 原料の仕入れについて


主要原料であるジルコニウムや希土類などは海外からの輸入に依存しており、特定国への偏在リスクがあります。ZOCは中国とベトナムの2拠点体制でリスク分散を図っていますが、一部の原料は供給元が限定されています。地政学的リスクや輸出規制等により調達難や価格高騰が生じた場合、生産活動や採算性に影響を与える可能性があります。

(4) 為替変動について


外貨建ての取引が多く、特にベトナム現地法人との親子ローン取引が為替差損益に影響を与えます。為替予約などで対策を講じていますが、急激な為替変動が発生した場合、経常利益が大きく変動する可能性があります。実際、当連結会計年度においても為替差損の計上が経常利益減少の一因となりました。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。