※本記事は、第一稀元素化学工業株式会社の有価証券報告書(第70期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月15日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 第一稀元素化学工業ってどんな会社?
酸化ジルコニウムをはじめとするジルコニウム化合物の製造・販売を展開する化学メーカーです。
■(1) 会社概要
1956年に設立し、ジルコニウム防水材の販売を開始しました。1990年に自動車排ガス浄化触媒用セリア・ジルコニア複合酸化物の販売を開始しています。2004年に東京証券取引所市場第二部に株式を上場、2018年に同市場第一部へ指定され、2022年にプライム市場へ移行しました。2012年にはベトナムに子会社を設立するなどグローバルに展開しています。
従業員数は連結で709名、単体で457名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は創業家等の個人株主である國部克彦氏、第3位は第一稀元素化学工業従業員持株会となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 6.50% |
| 國部克彦 | 5.01% |
| 第一稀元素化学工業従業員持株会 | 3.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性2名の計9名で構成され、女性役員比率は22.2%です。代表取締役社長執行役員は國部洋氏が務めています。取締役における社外取締役比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 國部洋 | 代表取締役社長執行役員 | 1995年三和銀行入行。2004年同社入社。営業部長、事業本部長等を経て2022年より現職。 |
| 大内公夫 | 取締役常務執行役員 | 1992年同社入社。営業部長、研究開発室長、技術本部担当等を経て2024年より現職。 |
| 板橋正幸 | 取締役常務執行役員 | 1993年同社入社。企画部長、経営企画部長、経営本部長等を経て2026年より現職。 |
社外取締役は、梅原俊志(元日東電工代表取締役専務執行役員)、田中純一(元村田製作所取締役監査等委員)、飛田尚美(元バンダイナムコビジネスアーク常務取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「化学工業製品の製造販売事業」の単一セグメントで事業を展開しています。
■化学工業製品の製造販売事業
同社は、酸化ジルコニウムを中心としたジルコニウム化合物を製造・販売しています。自動車排ガス浄化触媒向けを主力とし、半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア等の戦略分野にも製品を提供しています。湿式製法と乾式製法の両方の設備を有し、鉱石から最終製品までの一貫生産システムを強みとしています。
収益は、自動車メーカーや電子部品メーカー等の顧客に対するジルコニウム化合物の製品販売によって得ています。事業の運営は主に第一稀元素化学工業が行っており、海外の販売拠点として迪凱凱(上海)材料貿易有限公司やDKK America Materials, Inc.などの子会社が展開をサポートしています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は350億円前後で堅調に推移していますが、経常利益は原料価格や為替変動の影響を受け変動が見られます。直近の当期は、自動車排ガス浄化触媒分野の需要回復や為替差益の計上などにより、増収および大幅な経常増益を達成しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 294億円 | 357億円 | 352億円 | 336億円 | 358億円 |
| 経常利益 | 60億円 | 60億円 | 29億円 | 6億円 | 33億円 |
| 利益率(%) | 20.4% | 16.7% | 8.4% | 1.9% | 9.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 13億円 | 40億円 | 35億円 | 25億円 | 25億円 |
■(2) 損益計算書
直近の当期は、売上高の増加に加えて原料市況の影響を受けた高額在庫による利益圧迫要因が解消し、売上総利益率が改善しました。それに伴い、営業利益率も上昇しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 336億円 | 358億円 |
| 売上総利益 | 84億円 | 103億円 |
| 売上総利益率(%) | 24.8% | 28.9% |
| 営業利益 | 23億円 | 35億円 |
| 営業利益率(%) | 6.8% | 9.7% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が14億円(構成比21%)、給与及び手当が13億円(同19%)を占めています。売上原価では、材料費が147億円(構成比62%)、労務費が28億円(同12%)、経費が62億円(同26%)となっています。
■(3) セグメント収益
自動車排ガス浄化触媒分野はハイブリッド車需要の堅調な推移により増収となりました。エネルギー分野は燃料電池関連の需要増加で伸びた一方、半導体・エレクトロニクス分野は一部市場の構造変化により減収となっています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 半導体・エレクトロニクス | 18億円 | 16億円 |
| エネルギー | 14億円 | 17億円 |
| ヘルスケア | 20億円 | 22億円 |
| 自動車排ガス浄化触媒 | 208億円 | 224億円 |
| 基盤分野 | 77億円 | 79億円 |
| 連結(合計) | 336億円 | 358億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業の状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 35億円 | 52億円 |
| 投資CF | -6億円 | -15億円 |
| 財務CF | -35億円 | -10億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は57.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「世に価値あるものを供給し続けるには、価値ある人生を送るものの手によらねばならぬ。価値ある人生を送るためには、その大半を過ごす職場を価値あるものに創り上げていかねばなるまい。」という経営理念を掲げています。また、「稀な元素とともに、『100年企業』へ」をビジョンとし、永続的に成長を続ける企業グループを目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、フラットでフランクに話ができる関係性を重視し、従業員が主体的に行動してチャレンジを促進する風土づくりに取り組んでいます。ジルコニウムのトップメーカーの一員であることに誇りを持ち、「キゲンソらしさ」を体現する仲間がいる職場を「価値ある職場」と定義し、自身の夢や理想の実現に向かって成長する充実した生き方を推進しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2023年3月期から2032年3月期までの10年間を対象とする中期経営計画「DK-One Next」を推進しています。最終年度となる2032年3月期(第76期)の経営目標として、以下の数値を掲げています。
・売上高500億円以上
・営業利益75億円以上
・EBITDA105億円以上
・ROIC9%以上
・ROE11%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
自動車排ガス浄化触媒材料への依存度を低減し、次世代の事業の柱を育成するため、半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケア等の戦略分野への経営資源の重点配分を進めています。また、ベトナム子会社工場の本格稼働による主原料の安定供給と原価低減を図り、成長加速の土台を固めることで事業ポートフォリオの転換を着実に進めていきます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、人材を最も重要な経営資源と位置付け、人的資本への投資を通じて中長期的な企業価値の向上を目指しています。経営理念・行動規範を基軸とし、自律的なキャリア形成の支援や、多様な価値観を有する人材の活躍推進、将来の経営を担う後継人材の計画的な育成などを通じて、挑戦を促進する組織風土の醸成に取り組んでいます。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 39.3歳 | 14.2年 | 7,261,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 7.6% |
| 男性労働者の育児休業取得率 | 86.7% |
| 労働者の男女の賃金の差異(全労働者) | 72.3% |
| 労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) | 80.6% |
| 労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) | 48.5% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) ベトナム事業の安定稼働と収益化
同社は、ジルコニウム化合物の安定調達体制を強化するため、ベトナム現地法人での生産体制整備を進めています。設備の適切な保全や現地従業員の技能向上が計画通りに進まない場合、生産効率の低下や追加費用の発生、供給面への影響等により、同社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 戦略分野における事業ポートフォリオの転換
同社は特定用途への依存度を下げるため、半導体・エレクトロニクス、エネルギー、ヘルスケアを戦略分野と位置付けています。これらの分野での用途開発や量産案件の立ち上げ、顧客基盤の拡大が想定通りに進まない場合、収益構造の多様化が遅れ、事業計画や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 主要原料の中国等からの調達依存
事業に必要な原料の多くは海外からの調達に依存しています。特にイットリウムや中重希土類は産出国が中国に偏在しており、輸出規制の影響を受けています。原料の安定確保が困難となった場合、製品の供給制約や販売数量の減少につながり、事業継続や業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 外貨建て取引と借入金に伴う為替・金利変動
外貨建ての資産・負債やグループ内貸付を有しており、特にベトナム事業に関する取引ではドル円およびドルとベトナムドンの為替変動の影響を受けます。また、同事業に関連する借入残高が一定水準にあるため、金利上昇局面では金融費用が増加し、利益を圧迫するリスクが存在します。



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