※本記事は、ニデック株式会社 の有価証券報告書(第52期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年9月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. ニデックってどんな会社?
精密小型モータで世界トップシェアを誇り、車載や家電・産業用など幅広い分野で駆動技術を展開する総合モータメーカーです。
■(1) 会社概要
1973年に設立され、1988年に大証二部および京証へ上場しました。その後、M&Aを成長の原動力として事業を拡大し、1998年には東証一部(現プライム)へ上場しました。2023年4月には、創立50周年を機に社名を「日本電産」から「ニデック」へと変更し、グローバルブランドの統一を図っています。
連結従業員数は約104,285名、単体では1,714名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行で、第2位は創業者の永守重信氏、第3位は日本カストディ銀行となっており、創業者と機関投資家が上位を占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 13.62% |
| 永守 重信 | 8.61% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 5.26% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性4名の計11名で構成され、女性役員比率は36.4%です。代表取締役社長執行役員最高経営責任者は岸田光哉氏です。社外取締役比率は63.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 岸田 光哉 | 代表取締役社長執行役員最高経営責任者 | ソニー(現ソニーグループ)入社。ソニーモバイルコミュニケーションズ社長、ソニー常務を経て、2022年同社入社。常務、専務、副社長を経て、2024年4月より現職。 |
| 永守 重信 | 代表取締役グローバルグループ代表(取締役会議長) | 1973年同社設立、社長。会長兼社長を経て、2018年会長。2022年最高経営責任者。2024年4月代表取締役グローバルグループ代表、同年6月より取締役会議長を兼務。 |
| 小部 博志 | 取締役会長 | 1973年同社設立に参加。取締役、副社長、最高執行責任者などを歴任。2022年社長執行役員最高執行責任者を経て、2024年4月より現職。 |
| 落合 裕之 | 取締役(常勤監査等委員) | 通商産業省(現経済産業省)入省。同省退官後、2013年同社入社。総務部長、常勤監査役を経て、2020年6月より現職。 |
社外取締役は、吉井浩(元大阪国税局長)、佐藤慎一(元財務事務次官)、小松弥生(元文部科学省研究振興局長)、酒井貴子(大阪公立大学大学院教授)、山田文(京都大学大学院教授)、豊島ひろ江(中本総合法律事務所パートナー)、梅田邦夫(元駐ベトナム特命全権大使)です。
2. 事業内容
同社グループは、「SPMS」「AMEC」「MOEN」「ACIM」「機械事業」「グループ会社事業」の6つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) SPMS(精密小型モータ)
HDD(ハードディスクドライブ)用モータおよびその他小型モータの開発・製造・販売を行っています。主な顧客は情報通信機器メーカーなどです。近年はAIデータセンター向けの水冷モジュールなど、新分野への展開も強化しています。
収益は、製品の販売対価として顧客から受領します。運営は、同社およびニデックエレクトロニクスタイランド、ニデックプレシジョンタイなどの海外子会社が主に行っています。
■(2) AMEC(車載)
電気自動車(EV)用トラクションモータシステム(E-Axle)をはじめ、電動パワーステアリング用モータ、ブレーキ用モータなどの車載用製品を提供しています。世界の自動車メーカーやティア1サプライヤーが主な顧客です。
収益は、車載用モータやシステムの販売により得ています。運営は、ニデック自動車モータ(浙江)有限公司、ニデックGPM、ニデックモータ(大連)などの子会社が担っています。
■(3) MOEN(家電・商業・産業用)
家電製品、商業用機器、産業用機器向けのモータや制御機器、発電機などを提供しています。特にデータセンター向け発電機やバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)などのエネルギー関連需要に対応しています。
収益は、製品およびソリューションの販売から得ています。運営は、ニデックホールディングアメリカ、Nidec ASI、Nidec Control Techniquesなどの海外子会社が中心となって行っています。
■(4) ACIM(家電・商業・産業用)
冷蔵庫用コンプレッサーや洗濯機・乾燥機用モータなどを中心に、家電・商業・産業用製品を展開しています。欧米市場を中心に、家電メーカーなどが主な顧客です。
収益は、コンプレッサーやモータ等の製品販売から得ています。運営は、ニデックグローバル・アプライアンス・ブラジル社などが担っています。
■(5) 機械事業
工作機械、プレス機、減速機などの機器装置を提供しています。自動車、ロボット、半導体関連など幅広い産業の生産設備として利用されています。
収益は、機械装置の販売およびアフターサービスから得ています。運営は、ニデックマシンツール、ニデックミンスターなどが担っています。
■(6) グループ会社事業
上記セグメントに含まれない国内子会社の事業を集約しており、精密小型モータ、車載、機器装置、電子・光学部品など多岐にわたる製品を取り扱っています。
収益は、各製品の販売から得ています。運営は、ニデックインスツルメンツ、ニデックモビリティ、ニデックプレシジョン、ニデックコンポーネンツなどの国内グループ会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は着実に拡大傾向にあり、2025年3月期には2兆6,000億円を超え過去最高を更新しました。利益面では、2023年3月期に一時的な落ち込みが見られたものの、その後は回復し、2025年3月期には税引前利益、当期利益ともに高水準を記録しています。全体として成長基調を維持しています。
| 項目 | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 16,181億円 | 19,182億円 | 22,300億円 | 23,472億円 | 26,078億円 |
| 税引前利益 | 1,529億円 | 1,700億円 | 1,104億円 | 2,017億円 | 2,333億円 |
| 利益率(%) | 9.5% | 8.9% | 5.0% | 8.6% | 8.9% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,219億円 | 1,358億円 | 370億円 | 1,245億円 | 1,644億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高の増加に伴い売上総利益も拡大しています。営業利益率は前期の6.9%から当期は9.1%へと改善しており、収益性が向上しています。これは、HDD用モータの需要回復や新分野の伸長、構造改革の効果などが寄与したことによるものです。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 23,472億円 | 26,078億円 |
| 売上総利益 | 4,972億円 | 5,364億円 |
| 売上総利益率(%) | 21.2% | 20.6% |
| 営業利益 | 1,619億円 | 2,381億円 |
| 営業利益率(%) | 6.9% | 9.1% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が254億円(構成比12%)、支払手数料が64億円(同3%)を占めています(単体ベース)。連結ベースでは研究開発費は806億円となっています。
■(3) セグメント収益
全セグメントで増収となりました。「SPMS」はHDD用モータの回復と水冷モジュール等の新分野が牽引し大幅増益。「MOEN」は発電機等の需要増と原価改善で増益。「AMEC」は構造改革費用計上により営業赤字ですが、赤字幅は縮小しました。「ACIM」や「機械事業」は拠点合理化等の費用により減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年3月期) | 売上(2025年3月期) | 利益(2024年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| SPMS | 3,333億円 | 3,956億円 | 260億円 | 411億円 | 10.4% |
| AMEC | 3,397億円 | 3,509億円 | -557億円 | -30億円 | -0.9% |
| MOEN | 4,635億円 | 5,779億円 | 613億円 | 703億円 | 12.2% |
| ACIM | 4,380億円 | 4,678億円 | 426億円 | 406億円 | 8.7% |
| 機械事業 | 2,071億円 | 2,209億円 | 284億円 | 178億円 | 8.1% |
| グループ会社事業 | 6,346億円 | 6,651億円 | 756億円 | 876億円 | 13.2% |
| 調整及び消去 | -691億円 | -703億円 | -163億円 | -164億円 | - |
| 連結(合計) | 23,472億円 | 26,078億円 | 1,619億円 | 2,381億円 | 9.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業で稼いだ資金で借入金の返済を進めつつ、成長のための投資も継続しており、財務健全性の維持と成長投資を両立している状態です。
| 項目 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 3,208億円 | 2,844億円 |
| 投資CF | -1,536億円 | -1,473億円 |
| 財務CF | -1,816億円 | -802億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は18.8%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「100年を超えて成長し続けるグローバル企業」「人類が抱える多くの課題を解決する世界No.1のソリューション企業集団」を目指す姿として掲げています。創業以来の精神に基づき、高い成長と収益性を追求し、社会に必要とされる技術・製品を提供し続けることを経営の基本としています。
■(2) 企業文化
同社は「情熱・熱意・執念」「知的ハードワーキング」「すぐやる・必ずやる・できるまでやる」という三大精神を大切にしています。また、「One Nidec」としてグループ全体でシナジーを追求し、多様な個性を尊重しながらもベクトルを合わせ、困難な課題にも挑戦し続ける企業風土の醸成に努めています。
■(3) 経営計画・目標
2027年度をターゲットとする新中期経営計画「Conversion2027」を策定しました。事業再編や収益構造の抜本的転換を図り、以下の業績目標の達成を目指しています。
* 連結売上高:2.9兆円
* 営業利益:3,500億円(営業利益率12%)
* ROIC(投下資本利益率):12%
■(4) 成長戦略と重点施策
「高収益構造への転換」「事業5本柱への転換」「真のグローバル体制への転換」を掲げています。不採算事業の見直しや固定費削減を進める一方、AI、サステナブル・インフラ、産業効率化、Better Life、モビリティの5分野に注力します。また、CxO制の強化や新たな人材制度の導入により、グローバル経営体制を盤石なものにします。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「100年を超えて成長し続けるグローバル企業」の実現に向け、多様な個性を尊重しつつ、「One Nidec」としてベクトルを合わせた人材育成を推進しています。経営層の後継者育成、次世代リーダーの開発、理念の浸透に注力するとともに、ジョブ型人事制度の導入やグローバルな適所適材の配置を進め、組織と人材の活性化を図る方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 42.2歳 | 13.3年 | 7,604,284円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 8.5% |
| 男性育児休業取得率 | 42.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 70.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 77.4% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 33.4% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職候補比率(13.7%)、一人当たりの研修時間(14.9時間)、ビジョンの浸透度(79.2%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 政治・経済状況の変動
世界40カ国以上で事業を展開し、海外売上比率が高いため、各国の政治・経済情勢の影響を受けます。保護主義的な貿易政策や地政学的リスクの顕在化は、需要変動、サプライチェーンの寸断、コスト上昇などを招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。これに対し、地産地消体制の推進やサプライチェーンの多元化で対応しています。
■(2) 技術環境・産業構造の変化
AIや自動運転技術の進化など、急速な技術革新は従来の製品需要を減少させる可能性があります。競合の台頭や技術変化への対応が遅れれば、市場シェアや収益を失う恐れがあります。これに対し、研究開発の強化、外部との連携、M&Aによる技術獲得などを通じて競争力の維持・向上を図っています。
■(3) 適正決算に係るリスク(第三者委員会の設置)
同社およびグループ会社の経営陣の関与等の下、不適切な会計処理が行われていた疑いがあるとして、2025年9月に第三者委員会を設置しました。在庫の評価減時期の調整や、子会社における貿易取引・関税に関する問題などが調査対象となっています。調査結果によっては、過去の財務諸表の訂正や社会的信用の低下など、広範な影響が生じる可能性があります。



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