※本記事は、朝日インテック株式会社 の有価証券報告書(第49期、自 2024年7月1日 至 2025年6月30日、2025年9月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 朝日インテックってどんな会社?
カテーテル治療に不可欠なガイドワイヤーで高い世界シェアを持つ、医療機器および産業機器の開発・製造メーカーです。
■(1) 会社概要
1976年に極細ステンレスロープの販売を目的として設立され、1992年に国内初の心筋梗塞治療用PCIガイドワイヤーの製品化に成功しました。2005年に東京証券取引所および名古屋証券取引所の市場第二部へ上場し、2018年には両市場の第一部へ指定替えを行いました。その後、2022年の市場区分見直しに伴い、プライム市場およびプレミア市場へ移行しています。近年は海外企業の買収等を通じて事業領域を拡大しています。
2025年6月30日現在の従業員数は連結で9,473名、単体で1,196名です。大株主の状況を見ると、筆頭株主は信託銀行、第2位はボウエンホールディングス、第3位は信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 14.02% |
| ボウエンホールディングス | 8.56% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.45% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長 CEOは宮田憲次氏です。取締役会における社外取締役の比率は46.2%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 宮田 憲次 | 代表取締役社長 CEO | 1993年同社入社。デバイス事業部長、品質保証本部長、生産統括本部長などを歴任し、2024年9月より現職。 |
| 宮田 昌彦 | 取締役会長 | 1994年同社入社。メディカル事業部長、代表取締役社長CEOなどを経て、2024年9月より現職。日本医療機器テクノロジー協会会長を兼務。 |
| 松本 宗近 | 常務取締役基盤技術研究本部長 | 1979年朝日ミニロープ(現同社)入社。デバイス事業部長などを経て、2021年9月より現職。 |
| 西内 誠 | 常務取締役メディカル事業統括本部長兼 ブランドビジネスユニット長兼 CDO | 三菱重工業を経て2005年同社入社。メディカル事業部研究開発統括などを経て、2024年9月より現職。 |
| 寺井 芳徳 | 取締役新規事業開発本部長 | ヤマハを経て1998年同社入社。ASAHI INTECC USA, INC.社長などを経て、2019年7月より現職。 |
| 伊藤 瑞穂 | 取締役 CFO管理本部長兼経営戦略室長 | 監査法人トーマツを経て2003年同社入社。経営戦略室長、管理本部長を経て、2016年9月より現職。 |
| 石原 和人 | 取締役メディカル事業統括本部ブランドビジネスユニット研究開発副統括兼基盤技術研究本部副本部長 | テルモを経て2018年同社入社。メディカル事業部研究開発統括などを経て、2024年9月より現職。 |
社外取締役は、伊藤清道(元Toyota Kirloskar Auto Parts社長)、草刈貴弘(カタリスト投資顧問共同社長)、田口晶弘(元オリンパスメディカルシステムズ社長)、富田隆司(弁護士)、深谷玲子(公認会計士)、森口茂樹(元三菱UFJリサーチ&コンサルティング常務)です。
2. 事業内容
同社グループは、「メディカル事業」および「デバイス事業」を展開しています。
■(1) メディカル事業
主に血管内治療に使用される低侵襲治療製品(治療用のガイドワイヤー・カテーテル製品)を開発・製造し、病院等へ販売しています。主力製品は循環器系のPCIガイドワイヤーや貫通カテーテルですが、末梢・腹部・脳血管系などの非循環器領域へも展開しています。
収益は、製品の販売対価として医療機関や販売代理店から得ています。また、OEM・ODMビジネスとして他社ブランド製品の供給も行っています。運営は、製造をASAHI INTECC THAILANDや朝日インテック等が担い、販売を朝日インテック、朝日インテックJセールス、ASAHI INTECC USA等の各拠点が担当しています。
■(2) デバイス事業
医療機器分野および産業機器分野における部材について開発・製造し、国内外のメーカーへ販売しています。独自の素材加工技術(伸線、ワイヤーフォーミング、コーティング、トルク技術)を応用し、顧客の要望に応じた構成部品を供給しています。
収益は、部材の販売対価としてメーカーから得ています。運営は、開発を朝日インテック、ASAHI INTECC THAILANDが、製造をASAHI INTECC THAILAND、ASAHI INTECC HANOI、TOYOFLEX CEBU、朝日インテックが主に行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5期間の業績を見ると、売上高は一貫して増加傾向にあり、事業規模の拡大が続いています。利益面では、経常利益も売上高の伸長に伴い増加トレンドにあります。当期純利益については、直近期で減益となっていますが、高い利益率を維持しています。
| 項目 | 2021年6月期 | 2022年6月期 | 2023年6月期 | 2024年6月期 | 2025年6月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 615億円 | 777億円 | 901億円 | 1,075億円 | 1,200億円 |
| 経常利益 | 132億円 | 163億円 | 176億円 | 220億円 | 296億円 |
| 利益率(%) | 21.5% | 21.0% | 19.6% | 20.4% | 24.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 100億円 | 109億円 | 131億円 | 158億円 | 127億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期比で増加し、売上総利益率も改善傾向にあります。営業利益率は上昇しており、本業の収益性が高まっていることがうかがえます。
| 項目 | 2024年6月期 | 2025年6月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,075億円 | 1,200億円 |
| 売上総利益 | 691億円 | 812億円 |
| 売上総利益率(%) | 64.2% | 67.7% |
| 営業利益 | 221億円 | 301億円 |
| 営業利益率(%) | 20.6% | 25.1% |
販売費及び一般管理費のうち、その他が174億円(構成比34.0%)、給与手当及び賞与が129億円(同25.3%)、研究開発費が122億円(同23.9%)を占めています。
■(3) セグメント収益
メディカル事業は国内外ともに好調で、特に海外市場でのシェア拡大が増収に寄与しました。デバイス事業も医療部材の取引増加により増収となりましたが、セグメント利益は減少しました。全体としてメディカル事業が収益を牽引しています。
| 区分 | 売上(2024年6月期) | 売上(2025年6月期) | 利益(2024年6月期) | 利益(2025年6月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| メディカル事業 | 957億円 | 1,078億円 | 244億円 | 334億円 | 31.0% |
| デバイス事業 | 119億円 | 122億円 | 53億円 | 46億円 | 37.8% |
| 調整額 | - | - | -76億円 | -80億円 | - |
| 連結(合計) | 1,075億円 | 1,200億円 | 221億円 | 301億円 | 25.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社は、営業で利益を出し、その範囲内で投資や借入返済を行っている「健全型」です。
| 項目 | 2024年6月期 | 2025年6月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 347億円 | 405億円 |
| 投資CF | -212億円 | -134億円 |
| 財務CF | -139億円 | -81億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.4%で市場平均をやや下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は77.9%で市場平均を大きく上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、医療および産業機器の分野において、安全と信頼を基盤とする「Only One」技術や「Number One」製品を世界に発信し続けることにより、全てのお客様の「夢」を実現するとともに、広く社会に貢献することを企業理念として掲げています。
■(2) 企業文化
同社は「チャレンジ」「現場力」「自活力」「グローバルベスト」「創造的ものづくり集団」をDNAとして掲げています。これらの価値観をベースに、失敗を恐れず挑戦し続ける姿勢や、現場で現物を見て現実を知る姿勢、自ら考え行動する自立性などを重視する企業文化の醸成を図っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は「2035年のありたい姿」として、健康寿命の延伸に貢献し、臨床課題を総合的に解決できるグローバルニッチトップ企業を目指しています。長期的な目標として、2035年6月期に連結売上高3,000億円、営業利益率30%の達成を掲げています。また、中期的な目標として、2030年6月期において連結売上高1,800億円、営業利益率28%を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
新中期経営計画「Building the Future 2030」に基づき、グローバル市場での成長再加速に向けた事業ポートフォリオの構築を進めます。循環器領域でのニッチトップ維持に加え、非循環器領域(末梢・脳・腹部)でのシェア拡大、および高付加価値治療デバイスへの参入を目指します。また、研究開発体制のグローバル化や生産拠点の最適化により、経営基盤の強化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
グローバル規模での市場拡大を目指し、「グローバル人財基盤の強化」を重要課題としています。同社のDNAである「チャレンジ」「現場力」などの価値観を浸透させるとともに、多様性を理解し、多面的な視点で物事を図れる人材の育成に注力しています。また、グローバル人事機能を強化し、国内外の拠点における組織開発や人事戦略の連携を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年6月期 | 37.1歳 | 7.2年 | 6,950,333円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 14.3% |
| 男性育児休業取得率 | 68.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 62.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 80.1% |
| 男女賃金差異(非正規) | 30.9% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性社員比率(グローバル)(74.8%)、女性管理職比率(グローバル)(33.5%)、新卒採用女性比率(単体)(29.1%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 医療機器分野の法的規制
同社の事業は、各国の医薬品医療機器等法や規制当局(FDA、CE、NMPA等)による承認・許可制度の規制を受けます。法規制の変更や強化、承認等の遅延や取り消しが発生した場合、新製品の投入遅れや販売停止などにより、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 医療制度改革
国内外で進められる医療制度改革、特に保険償還価格の引き下げや入札制度の導入などが業績に影響を与える可能性があります。例えば、日本国内での償還価格引き下げや中国での集中購買(帯量採購)など、価格下落圧力が強まる場合、収益性が低下するリスクがあります。
■(3) 品質管理体制
人命に関わる医療機器を取り扱っているため、製品の不具合や医療事故が発生した場合、大規模な回収(リコール)や損害賠償請求、社会的信用の失墜につながる可能性があります。製造物責任への対応も含め、品質問題は業績に重大な影響を及ぼすリスク要因です。



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