ステムリム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

ステムリム 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証グロース上場の創薬バイオベンチャー。「再生誘導医薬」という新しい医薬品の研究開発を行っています。当期はマイルストーン収入等の売上収益がなく、研究開発費等の先行投資により赤字となりましたが、パイプラインの開発は進捗しています。


※本記事は、株式会社ステムリム の有価証券報告書(第20期、自 2024年8月1日 至 2025年7月31日、2025年10月21日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. ステムリムってどんな会社?


大阪大学発の創薬ベンチャーとして、怪我や病気で損傷した組織を薬で再生させる「再生誘導医薬」を開発しています。

(1) 会社概要


同社は、大阪大学の玉井克人教授らが発見した骨髄多能性幹細胞動員因子を医薬品として開発することを目的に、2006年に設立されました。2014年には塩野義製薬とレダセムチドに関するライセンス契約を締結し、2019年に東証マザーズ(現・グロース)へ上場しました。2020年には大阪大学内に再生誘導医学協働研究所を開設し、産学連携による研究体制を強化しています。

同社(単体)の従業員数は45名です。筆頭株主は創業者の玉井克人氏で、第2位は同氏の親族である玉井佳子氏、第3位は元取締役会長の冨田憲介氏です。

氏名 持株比率
玉井 克人 15.90%
玉井 佳子 8.70%
冨田 憲介 8.10%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長CEOは岡島正恒氏です。社外取締役比率は50.0%です。

氏名 役職 主な経歴
岡島 正恒 代表取締役社長CEO 住友銀行、大和証券SBキャピタルマーケッツを経て、2007年にメディシノバ製薬を設立し社長に就任。2023年10月より現職。
玉井 克人 取締役CSO 弘前大学医学部助教授、大阪大学大学院医学系研究科准教授などを経て、2007年に同社取締役就任。2022年10月より現職。大阪大学大学院医学系研究科招聘教授を兼任。


社外取締役は、澤井典子(NTTプレシジョンメディシン室長)、永井宏忠(元厚生労働省医薬食品局)です。

2. 事業内容


同社グループは、「再生誘導医薬事業」を展開しています。

再生誘導医薬事業


同社は、怪我や病気により損傷した組織の再生を促進する「再生誘導医薬」の研究開発を行っています。独自のスクリーニング技術を用いて候補物質を探索し、特許出願や非臨床・初期臨床試験まで実施して知的財産価値を高めた上で、製薬企業へライセンスアウトすることを目指しています。

収益モデルは、製薬企業とのライセンス契約に基づき、契約一時金、開発進捗に応じたマイルストーン収入、製品上市後のロイヤリティ収入等を得る形式です。また、共同研究契約に基づく収入も得ています。主な提携先として塩野義製薬があり、開発・販売等の権利を供与しています。運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上収益(事業収益)はライセンス契約に基づくマイルストーン収入等の有無により大きく変動しており、計上されない期もあります。利益面では、研究開発費が先行して発生するため、一時金収入があった期を除き、損失を計上する傾向にあります。

項目 2021年7月期 2022年7月期 2023年7月期 2024年7月期 2025年7月期
売上収益(または売上高) 14.0億円 0.2億円 23.5億円 - -
経常利益 -5.8億円 -19.7億円 1.5億円 -20.8億円 -19.7億円
利益率(%) -41.7% -8584.2% 6.2% - -
当期利益(親会社所有者帰属) -5.8億円 -19.5億円 1.7億円 -20.2億円 -19.3億円

(2) 損益計算書


直近2期間の傾向を見ると、両期とも事業収益の計上はありませんでした。一方で、将来の収益源となる医薬品開発のための研究開発費や事業運営のための一般管理費が継続的に発生しており、営業損失を計上しています。

項目 2024年7月期 2025年7月期
売上高 - -
売上総利益 - -
売上総利益率(%) - -
営業利益 -20.8億円 -19.7億円
営業利益率(%) - -


販売費及び一般管理費のうち、役員報酬、給与手当、株式報酬費用、支払手数料、減価償却費などが主要な構成要素となっていますが、特に株式報酬費用が2.9億円(構成比約50%)を占めています。なお、事業費用の大半は研究開発費(約14億円)が占めています。

(3) セグメント収益


同社は再生誘導医薬事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略します。

(4) キャッシュ・フローと財務指標

項目 2024年7月期 2025年7月期
営業CF -18.8億円 -14.1億円
投資CF -0.0億円 -0.4億円
財務CF 0.8億円 0.4億円


**財務指標**
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失計上のため記載がありません。財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.0%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、「再生誘導医薬」をはじめとした最先端生命科学研究の成果をもとに、新しいコンセプトの治療薬を生み出し続けることで、世界の健康と幸福の実現に貢献することを経営理念として掲げています。

(2) 企業文化


同社は、「再生誘導で難治性疾患を克服する」を企業理念に掲げ、人体が本来備えている組織修復能力を引き出す医薬品の開発に取り組んでいます。独自の技術基盤を用いて、低コストかつ高い安全性を保ちながら機能回復や組織再生を可能にすることで、「細胞治療の常識を変えていく」ことを目指す風土があります。

(3) 経営計画・目標


同社は研究開発段階にあるため、ROAやROEなどの数値目標は設定していません。主要パイプラインであるレダセムチドの開発推進に加え、適応症の拡大、後発パイプラインの開発、新規候補品の探索等を行い、開発パイプラインを質・量ともに充実させることを経営の安定と企業価値向上のための目標としています。

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、塩野義製薬へ導出したレダセムチドの臨床開発支援を継続しつつ、次世代の再生誘導医薬候補品(TRIM3, TRIM4, TRIM5など)の導出活動を促進し、新たな事業提携につなげることを重要課題としています。また、間葉系幹細胞を標的とした遺伝子治療技術の開発や、大阪大学との連携による生体幹細胞高機能化医薬開発など、技術基盤の強化と応用範囲の拡大を進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


国内外のバイオ・製薬企業との競争激化を見据え、独創的な研究活動を支える優秀な研究人材の育成と獲得を喫緊の課題としています。研究進捗に対するインセンティブとしてストック・オプション制度を導入しているほか、フレックスタイム制度の活用や研修制度の充実により、社員が能力を最大限発揮できる環境づくりを進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年7月期 40.6歳 5.2年 6,874,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。

また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職比率(54.5%)、女性の育児休暇取得率(100%)、年次有給休暇取得日数(年間取得平均日数:14.6日)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 再生医療事業全般に係るリスク

医療用医薬品の開発には多額の投資と長期間を要しますが、臨床試験の結果次第では開発の中止や遅延が発生する可能性があります。また、再生医療分野は技術革新が速く、新たな知見や法規制の変更、競合技術の出現などが事業に影響を与える可能性があります。さらに、予期せぬ副作用の発現による補償や社会的信頼の低下のリスクもあります。

(2) 固有のパイプラインに関するリスク

同社の事業収益は、塩野義製薬とのレダセムチドに関するライセンス契約等に大きく依存しています。相手先の経営方針変更等により契約が終了した場合や、開発の遅延によりマイルストーン収入が得られない場合、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。後続パイプラインの開発も不確実性を伴います。

(3) 資金繰りに関するリスク

研究開発型企業として先行投資が続くため、継続的に営業損失を計上する傾向があり、安定的な収益源確保までは資金調達が必要です。必要な時期に資金確保ができない場合、事業継続に懸念が生じる可能性があります。また、事業進捗によっては繰越利益剰余金のマイナスが続き、配当等の株主還元が遅れる可能性があります。

(4) 小規模組織及び少数の事業推進者への依存

同社は小規模な組織であり、経営陣や特定の研究開発人員に事業活動が強く依存しています。優秀な人材の確保・育成が進まない場合や人材流出が生じた場合、事業活動に支障をきたす可能性があります。また、大阪大学との共同研究等の関係維持が困難になった場合も、事業展開に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。