※本記事は、デジタルグリッド株式会社 の有価証券報告書(第9期、自 2024年8月1日 至 2025年7月31日、2025年10月30日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. デジタルグリッドってどんな会社?
電力と環境価値の取引プラットフォームを運営し、AIを活用した需給管理で電力取引の自由化を推進する企業です。
■(1) 会社概要
2017年に設立された同社は、2020年に需要家主体の電力取引プラットフォーム「DGP」を商用リリースしました。その後、2021年に非化石証書代理調達サービス、2022年にバーチャルPPAサービスを開始するなど事業を拡大し、2025年に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしました。
連結従業員数は79名(単体79名)です。筆頭株主は事業会社である株式会社東芝で、第2位は創業者の豊田祐介氏、第3位は株式会社FDです。東芝とは2021年の第三者割当増資等を通じて関係を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 東芝 | 12.91% |
| 豊田祐介 | 5.22% |
| FD | 5.16% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名、計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長CEOは豊田祐介氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 豊田 祐介 | 代表取締役社長CEO | ゴールドマン・サックス証券、インテグラルを経て、2018年同社入社。2019年7月より現職。一般社団法人再エネ推進新電力協議会理事も務める。 |
| 嶋田 剛久 | 取締役CFO | ゴールドマン・サックス証券、UBS証券投資銀行本部マネージングディレクター等を経て、2020年同社入社。同年9月より現職。デジタルグリッドアセットマネジメント代表取締役を兼務。 |
| 近清 拓馬 | 取締役COO | マッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンを経て、2019年5月同社入社。同年8月より現職。 |
| 黒川 達也 | 取締役CTO | ディー・エヌ・エー、PKSHA Technologyを経て、2020年同社入社。CTO執行役員を経て、2023年10月より現職。 |
社外取締役は、井上龍子(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業弁護士)、大槻陸夫(元東京電力ホールディングス常務執行役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「電力PF事業」「再エネPF事業」および「その他」事業を展開しています。
■(1) 電力PF事業
デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)を通じて、再生可能エネルギー以外の電源(火力発電等)や日本卸電力取引所(JEPX)からの電力調達を支援しています。需要家は自らのリスク許容度に応じて、市場連動価格や固定価格などの調達方法を組み合わせ、最適な電源ポートフォリオを構築できます。
収益は、プラットフォームを利用する需要家から受領する取引量に応じた手数料(DGP手数料)です。運営はデジタルグリッドが主体となり、AIを活用した需給管理システムによって、本来複雑な電力取引業務を自動化・効率化しています。
■(2) 再エネPF事業
DGP上で再生可能エネルギー電源の直接取引を支援する事業です。非化石証書の代理調達サービス「エコのはし」や、コーポレートPPAのマッチングプラットフォーム「RE Bridge」などを提供し、企業の脱炭素化ニーズに対応しています。発電家には需給管理機能を提供し、インバランスリスクの低減を図ります。
収益源は、再エネ電源の取引にかかるプラットフォーム手数料や、非化石証書の調達量に応じた手数料です。運営はデジタルグリッドが行っており、発電家と需要家の長期契約(PPA)のマッチングから、契約後の需給管理までをワンストップでサポートしています。
■(3) その他
電力系統用蓄電池の制御・運用を行う調整力事業や、企業の脱炭素化実務を支援する教育コンテンツ「GX navi」の提供(2026年終了予定)、J-クレジット等の環境価値取引を行っています。特に調整力事業は、再エネ普及に伴う需給調整ニーズの高まりを受け、注力領域として位置づけられています。
調整力事業では、蓄電池保有者へのアグリゲーションサービスを通じ、市場収益の一部を報酬として受領します。また、連結子会社のデジタルグリッドアセットマネジメントが蓄電所の開発・保有・運用を担い、売電収入等を得るビジネスモデルを展開しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
第9期より連結財務諸表を作成しているため、過去との比較はできませんが、当期はDGP手数料売上の拡大により高い利益水準を確保しています。売上高に対する利益率は非常に高く、プラットフォームビジネス特有の収益構造が見て取れます。
| 項目 | 2025年7月期 |
|---|---|
| 売上高 | 62億円 |
| 経常利益 | 26億円 |
| 利益率(%) | 42.5% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 19億円 |
■(2) 損益計算書
当期の売上総利益率は74.4%と高い水準にあります。これは、同社が在庫リスクを負わず、プラットフォーム手数料を主たる収益源としているためです。営業利益率は44.6%に達しており、効率的な事業運営が行われていることが分かります。
| 項目 | 2025年7月期 |
|---|---|
| 売上高 | 62億円 |
| 売上総利益 | 46億円 |
| 売上総利益率(%) | 74.4% |
| 営業利益 | 27億円 |
| 営業利益率(%) | 44.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が5億円(構成比25%)、賞与引当金繰入額が2億円(同13%)を占めています。売上原価においては、代理店報酬費用が11億円(構成比72%)と大半を占めており、パートナーを通じた販路拡大にコストを投じていることが分かります。
■(3) セグメント収益
電力PF事業が全社売上の約86%を占める主力事業であり、高い利益率で全社の利益を牽引しています。再エネPF事業も黒字化していますが、その他事業(調整力事業等)は先行投資フェーズのため損失を計上しています。
| 区分 | 売上(2025年7月期) | 利益(2025年7月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|
| 電力PF事業 | 46億円 | 35億円 | 76.2% |
| 再エネPF事業 | 4億円 | 1億円 | 26.8% |
| その他 | 3億円 | -2億円 | -86.5% |
| 調整額 | - | -7億円 | - |
| 連結(合計) | 54億円 | 27億円 | 51.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
デジタルグリッドは、事業活動を通じて資金を獲得し、投資活動で資金を使用し、財務活動で資金を調達するサイクルを回しています。
営業活動では、主に税金等調整前当期純利益や未払金の増加により資金を獲得しましたが、未収入金や売上債権の増加などが資金の減少要因となりました。投資活動では、有形固定資産や投資有価証券の取得により資金を使用しました。財務活動では、株式発行収入や長期借入収入により資金を獲得しましたが、短期借入金の減少が資金の減少要因となりました。
| 項目 | 2025年7月期 |
|---|---|
| 営業CF | 3億円 |
| 投資CF | -2億円 |
| 財務CF | 5億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「エネルギーの民主化を実現する」をミッションとし、「エネルギー制約のない世界を次世代につなぐ」というビジョンを掲げています。デジタルの力で従来の閉鎖的な電力取引構造を刷新し、多くの企業が自社のリスク許容度や脱炭素ポリシーに合った電力取引を選択できる社会の創造を目指しています。
■(2) 企業文化
創業の精神を発展させたバリューとして「エッジに立とう」「遠くへ、ともに」「青春をあきらめない」を掲げています。これらをキーワードに、待ちの姿勢ではなく自律的に挑戦するカルチャーの醸成を目指しています。また、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)について社内で話し合う機会を設けるなど、浸透活動に注力しています。
■(3) 経営計画・目標
持続的な事業拡大と利益成長を重視し、重要な経営指標(KPI)として以下を設定しています。
* 売上高および売上高成長率
* 営業利益および営業利益率
2025年7月期の実績として、売上高成長率は75%、営業利益率は44%を達成しており、今後も電力PF事業を中心にこれら指標の上昇を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
電力PF事業では、AIによる業務自動化で競争力を維持しつつ、代理店連携の強化や、直販営業による大口需要家への伴走支援を強化します。再エネPF事業では、「エコのはし」「RE Bridge」「DGP」を連携させ、需要家の再エネ導入を段階的に支援するエコシステムを構築します。
* 市場調達+αの取引形態(固定価格調達など)の訴求による解約リスク低減
* コーポレートPPA等の長期契約の積み上げによるストック型ビジネスへの移行
* 調整力事業における蓄電池運用の拡大とアルゴリズムの改良
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
優秀な人材を重要な経営資源と位置づけ、経営理念に共感した人材を積極的に採用する方針です。育成面では、全部門責任者による事業紹介等の入社時研修や、リモート環境下での1on1ミーティングを実施しています。また、バリュー評価制度を通じて目標進捗や貢献度を確認し、従業員の成長と働きやすい環境整備に努めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年7月期 | 40.8歳 | 3.1年 | 9,832,000円 |
※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」等の規定による公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 電力市況の変動
LNG等の燃料価格高騰により電力市場価格が上昇した場合、完全市場連動型プランを契約する需要家の解約リスクが高まる可能性があります。同社はこれに対し、固定価格と変動価格を組み合わせたハイブリッドメニューの提供等でリスク低減を図っています。
■(2) 制度変更リスク
電気事業法改正やFIP制度、容量市場など、電力業界は大規模な制度改革が続いています。想定外の制度変更や新たな規制が生じた場合、同社の事業運営に制約が生じたり、対応コストが増加することで、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) システムリスク
DGPの運営は自社開発システムに依存しています。プログラムの不具合やサイバー攻撃等により、システム停止や情報漏洩、誤入札等が発生した場合、社会的信用の低下や損害賠償等により、同社の業績に重大な影響を与える可能性があります。
■(4) 財務健全性の最適化
電力PF事業ではJEPXへの支払いが先行し、需要家からの回収までにタイムラグがあるため、立替金や未収入金が多額になる傾向があります。市場価格高騰時などに資金繰りが悪化するリスクに対し、複数の金融機関とのコミットメントライン契約等で備えています。



上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。