※本記事は、長谷川香料株式会社 の有価証券報告書(第64期、自 2024年10月1日 至 2025年9月30日、2025年12月16日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 長谷川香料ってどんな会社?
食品や飲料、香水などに使われる香料の製造・販売を行う総合香料メーカーです。国内市場でのシェア拡大とともに、海外展開も積極的に進めています。
■(1) 会社概要
1903年に長谷川藤太郎商店として創業し、1961年に設立されました。2001年には東京証券取引所市場第一部に上場しています。1978年の米国現地法人設立を皮切りに、2000年には中国・上海、その後も東南アジア各地に拠点を展開し、グローバル体制を構築しました。2024年には米国ABELEI, INC.を子会社化しています。
連結従業員数は1,942名、単体では1,154名です。筆頭株主は創業者の名を冠する株式会社長谷川藤太郎商店で、第2位および第3位は資産管理業務を行う信託銀行等が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 長谷川藤太郎商店 | 16.36% |
| ジェーピー モルガン チェース バンク 380055 | 12.22% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.06% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性12名、女性2名の計14名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は長谷川 研治氏が務めています。社外取締役比率は40.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 海野 隆雄 | 代表取締役会長 | 三井銀行(現三井住友銀行)入行。さくらカード(現三井住友カード)社長を経て、2008年長谷川香料入社。2017年社長就任、2024年より現職。 |
| 長谷川 研治 | 代表取締役社長 | 中埜酢店(現Mizkan Holdings)入社。同社社長を経て2020年長谷川香料入社。経営企画部長等を経て2024年より現職。 |
| 知野 善明 | 代表取締役 | 1972年入社。深谷事業所長、生産部門管掌、総合研究所長等を歴任。2023年代表取締役兼副社長執行役員に就任。 |
| 中村 稔 | 取締役 | 日本鋼管(現JFEエンジニアリング)、三井銀行を経て2006年入社。経営企画部長、人事部長等を歴任。2025年より現職。 |
| 中村 哲也 | 取締役 | 1982年入社。技術研究所長、総合研究所長等を歴任。ビジネスソリューション本部長として研究部門を管掌。2024年より現職。 |
| 天池 正康 | 取締役 | 1984年入社。フレグランス研究所長、上海現地法人総経理等を歴任。国際部門等を管掌し、2024年より現職。 |
社外取締役は、大門 進吾(元TOPPANホールディングス常務)、和泉 昭子(生活経済ジャーナリスト)、Paul Dupuis(ランスタッド会長兼CEO)、只 雄一(元ブラザー工業専務)です。
2. 事業内容
同社グループは、「日本」「アジア」「米国」の3つの報告セグメントで事業を展開しています。
■(1) 日本
国内において、飲料や菓子、即席麺などに使用されるフレーバー(食品香料)および香水やシャンプーなどに使用されるフレグランス(香粧品香料)の製造・販売を行っています。顧客は食品メーカーや化粧品メーカーなどが中心です。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は主に長谷川香料が行っており、子会社の長谷川ビジネスサービスが農畜産物の加工等を担当しています。
■(2) アジア
中国(上海、蘇州、平湖)、マレーシア、インドネシア、タイ、台湾等の拠点において、現地の市場ニーズに合わせた香料の製造および販売を行っています。食品メーカー等が主な顧客です。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営は長谷川香料(上海)有限公司、長谷川香料(蘇州)有限公司、T HASEGAWA FLAVOURS (KUALA LUMPUR) SDN. BHD.などの現地法人が行っています。
■(3) 米国
北米市場において、食品香料を中心とした製造・販売を行っています。現地の食品・飲料メーカー等に対し、トレンドに即したフレーバーを提供しています。
製品の販売対価を主な収益源としています。運営はT. HASEGAWA U.S.A., INC.および2024年に子会社化したABELEI, INC.が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は着実な増加傾向にあります。利益面では、経常利益および当期利益ともに高い水準を維持していますが、直近では原材料価格の高騰や販売費及び一般管理費の増加などの影響を受け、利益率はやや低下傾向にあります。
| 項目 | 2021年9月期 | 2022年9月期 | 2023年9月期 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 558億円 | 624億円 | 649億円 | 716億円 | 735億円 |
| 経常利益 | 75億円 | 91億円 | 82億円 | 97億円 | 93億円 |
| 利益率(%) | 13.4% | 14.5% | 12.6% | 13.6% | 12.6% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 48億円 | 80億円 | 47億円 | 72億円 | 69億円 |
■(2) 損益計算書
前期と比較すると、売上高は増加しましたが、売上原価および販売費及び一般管理費の増加により、営業利益は減少しました。売上総利益率は微増しましたが、営業利益率は低下しており、コストコントロールが課題となっています。
| 項目 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 716億円 | 735億円 |
| 売上総利益 | 296億円 | 303億円 |
| 売上総利益率(%) | 41.4% | 41.3% |
| 営業利益 | 94億円 | 85億円 |
| 営業利益率(%) | 13.1% | 11.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が85億円(構成比39%)、その他経費が49億円(同23%)を占めています。売上原価については、原材料費等の製造コストがその大半を占めています。
■(3) セグメント収益
日本セグメントは売上が微増しましたが、販管費の増加等により減益となりました。アジアセグメントは中国やマレーシアでの売上増と原価率改善により増収増益を達成しました。米国セグメントは買収効果で増収となりましたが、一時的な費用増により損失を計上しました。
| 区分 | 売上(2024年9月期) | 売上(2025年9月期) | 利益(2024年9月期) | 利益(2025年9月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 日本 | 424億円 | 425億円 | 49億円 | 38億円 | 8.9% |
| アジア | 171億円 | 180億円 | 40億円 | 49億円 | 27.1% |
| 米国 | 153億円 | 160億円 | 3億円 | -3億円 | -1.8% |
| 調整額 | -32億円 | -31億円 | 0億円 | 1億円 | - |
| 連結(合計) | 716億円 | 735億円 | 94億円 | 85億円 | 11.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業活動によるキャッシュ・フローがプラスで、投資活動および財務活動によるキャッシュ・フローがマイナスであるため、本業で稼いだ資金で投資や借入返済を行っている「健全型」と言えます。
| 項目 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 139億円 | 112億円 |
| 投資CF | -94億円 | -69億円 |
| 財務CF | -27億円 | -55億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は83.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「香りにとどまらず、幅広い技術をもって新たな価値と感動を生み出し、より豊かな生活に貢献する会社」を目指す姿として掲げています。厳しい経済環境下においても、顧客の要望に即応し、パートナーシップを強化することで、カスタマーサクセスへの貢献を目指しています。
■(2) 企業文化
成長し続ける企業を目指し、「変化を厭わずチャレンジする」姿勢を行動指針として重視しています。また、人的資本経営を推進し、エンゲージメントを高め誰もが働きやすい職場環境を構築することや、コンプライアンスの徹底とサステナブルな活動を通じて社会的責任を全うすることを基本方針としています。
■(3) 経営計画・目標
持続的・安定的な発展を通じて中長期的な企業価値向上を実現するため、以下の目標を掲げています。
* 連結売上高伸長率:3.0%以上
* 連結売上高営業利益率(2028年9月期):11.0%
* 連結売上高経常利益率(2028年9月期):12.0%
■(4) 成長戦略と重点施策
国内市場でのシェア拡大と並行して、重点地域と位置付ける米国、中国、東南アジアへの経営資源投入を進め、グローバル展開を強化します。研究開発においては、基礎研究開発力の強化や、外部知見を活かしたイノベーション推進により、他社との差別化を図ります。また、生産性の向上や業務効率化によるコスト削減にも取り組みます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人権と多様性を尊重し、従業員の福利向上と安全で働きやすい職場の実現を目指しています。人材育成においては、国籍や性別等に関わらずキャリアアップの機会を平等に提供し、女性やキャリア採用者の管理職登用を推進しています。また、従業員のエンゲージメントを高めるため、適切な評価やフィードバックを実施しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年9月期 | 44.4歳 | 17.4年 | 7,598,257円 |
※平均年間給与は基準外賃金及び賞与を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 18.1% |
| 男性育児休業取得率 | 76.9% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 75.1% |
| 男女賃金差異(正規) | 75.5% |
| 男女賃金差異(非正規) | 73.8% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、キャリア採用者管理職比率(17.6%)、外国人従業員に占める管理職比率(33.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 人権に係るリスク
サプライチェーン全体を含む事業領域で人権侵害が発生した場合、社会的信用の失墜につながる可能性があります。同社は行動規範や人権基本方針に基づき、人権デューデリジェンスやサプライヤーへの周知徹底を行うことで、リスクの低減に努めています。
■(2) 従業員エンゲージメントに係るリスク
従業員のエンゲージメント低下は、離職率の上昇や生産性の低下を招き、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。同社はエンゲージメントサーベイを実施し、その結果に基づいた改善策や労働環境の整備を推進しています。
■(3) 天候に係るリスク
天候不順により、主要顧客である飲料・食品業界等の最終商品の販売が低迷した場合、同社製品の需要減少につながるリスクがあります。この影響を軽減するため、天候の影響を受けやすい飲料向け以外のカテゴリーでの売上比率向上を目指しています。
■(4) 原材料調達に係るリスク
異常気象や地政学的要因、事故等により原材料の調達が困難になった場合、生産活動に支障をきたす可能性があります。同社は調達先の分散やグローバル購買の推進により、安定的な調達体制の構築を図っています。



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