川岸工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

川岸工業 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

スタンダード市場に上場し、大型建築物の鉄骨やプレキャストコンクリートの設計・製作・施工を手掛ける老舗メーカー。2025年9月期は、大型工事の前倒し完成などが寄与し、売上高は前期比で減収となったものの、各利益段階では増益を達成しました。自己資本比率が高く、財務基盤は安定しています。


※本記事は、川岸工業株式会社 の有価証券報告書(第79期、自 2024年10月1日 至 2025年9月30日、2025年12月22日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. 川岸工業ってどんな会社?

鉄骨構造物の専業メーカーとして、超高層ビルなどの大型案件を多数手掛ける企業です。

(1) 会社概要

1906年に大阪で創業し、鉄骨構造物の製作を開始。1962年に東証二部(現スタンダード)へ上場した老舗メーカーです。千葉、茨城、大阪、山口などに工場を展開し、生産体制を拡充してきました。近年では川岸工事の吸収合併など組織再編も実施し、効率化を進めています。

連結従業員数は273名。筆頭株主は鉄鋼商社の伊藤忠丸紅住商テクノスチールとエムエム建材が同率で並び、第3位は不動産業を営む川岸興産となっています。大手商社系企業との強固な関係基盤を持ちます。

氏名 持株比率
伊藤忠丸紅住商テクノスチール 18.22%
エムエム建材 18.22%
川岸興産 5.65%

(2) 経営陣

同社の役員は男性12名、女性1名の計13名で構成され、女性役員比率は7.7%です。代表取締役社長は清時康夫氏が務めています。社外取締役比率は30.8%です。

氏名 役職 主な経歴
金本 秀雄 代表取締役会長執行役員 1973年入社。取締役東京支店製造担当、常務取締役、代表取締役社長を経て、2023年より現職。
清時 康夫 代表取締役社長執行役員 1979年丸紅入社。伊藤忠丸紅住商テクノスチール副社長などを経て2022年入社。2023年より現職。
松本 正憲 取締役専務執行役員 1991年入社。西日本支店長、常務取締役などを歴任し、西日本地区統括として2023年より現職。
松本 龍丈 取締役執行役員 1993年入社。東京支店営業部長などを経て、東京支店長兼東京支店営業統括部長として2023年より現職。
深潟 志向 取締役執行役員 1986年入社。千葉第一工場長などを経て、東京支店生産設計統括部長として2024年より現職。
薮田 浩志 取締役執行役員 1990年安田信託銀行入社。アセットマネジメントOne執行役員などを経て入社。経営企画室長として2024年より現職。


社外取締役は、松原弘幸(伊藤忠丸紅住商テクノスチール取締役)、菅原二康(エムエム建材エンジニアリング代表取締役)、神尾諭(元りそな銀行融資管理部長)、宮田桂子(弁護士)です。

2. 事業内容

同社グループは、「鉄骨」および「プレキャストコンクリート」事業を展開しています。

(1) 鉄骨事業
超高層ビルや大型施設に使用される鉄骨の設計、製作、現場施工を行う主力事業です。ゼネコンなどの建設会社を主要顧客とし、首都圏の大型再開発案件などを手掛けています。
収益は、顧客である建設会社から受け取る工事代金が主となります。運営は主に川岸工業が行い、子会社の川岸プランニングが積算・設計業務を担っています。

(2) プレキャストコンクリート事業
建築用のプレキャストコンクリート(PC)製品の製造、販売および取付工事を行っています。物流倉庫や集合住宅などの建築現場向けに製品を供給しています。
収益は、建設会社等に対する製品販売および工事代金となります。運営は主に川岸工業が行っています。

3. 業績・財務状況

同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

直近5期間の業績を見ると、売上高は2024年9月期に276億円まで拡大した後、2025年9月期は242億円へ減少しました。一方、利益面では経常利益率が6%台から8%台へと改善傾向にあります。特に直近は、売上の減少にもかかわらず利益率が向上しており、採算性の高い案件の寄与が見て取れます。

項目 2021年9月期 2022年9月期 2023年9月期 2024年9月期 2025年9月期
売上高 189億円 220億円 260億円 276億円 242億円
経常利益 20億円 15億円 17億円 20億円 21億円
利益率(%) 10.8% 6.6% 6.6% 7.2% 8.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 13億円 10億円 12億円 15億円 14億円

(2) 損益計算書

2024年9月期と2025年9月期を比較すると、売上高は減少したものの、売上総利益および営業利益は増加しました。これは採算性の良い大型工事が前倒しで完成したことなどによるものです。営業利益率は6.1%から7.7%へと上昇し、収益性が高まっています。

項目 2024年9月期 2025年9月期
売上高 276億円 242億円
売上総利益 26億円 29億円
売上総利益率(%) 9.5% 11.9%
営業利益 17億円 19億円
営業利益率(%) 6.1% 7.7%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が4.2億円(構成比41%)、役員報酬が1.5億円(同14%)を占めています。

(3) セグメント収益

主力の鉄骨事業、プレキャストコンクリート事業ともに減収となりました。予算不足による計画の先送りや工程遅れ等が影響し、工場および現場の稼働率が低下したことが要因です。

区分 売上(2024年9月期) 売上(2025年9月期)
鉄骨 257億円 227億円
プレキャストコンクリート 19億円 15億円
連結(合計) 276億円 242億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業活動によるキャッシュ・フローがプラスで、その資金で借入金の返済や配当支払いなどを行いつつ、設備投資は抑制的な範囲に留まっています。本業で稼いだ現金を財務体質の改善や株主還元に充当している「健全型」のキャッシュ・フローと言えます。

項目 2024年9月期 2025年9月期
営業CF -14億円 32億円
投資CF -2億円 -2億円
財務CF -7億円 -11億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は82.8%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略

同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

「鉄骨で日本を支える」を経営理念(ビジョン)に掲げ、主力の鉄骨をはじめとする鋼構造物メーカーとして、顧客の唯一無二のパートナーとなり、日本の空間、街づくりに貢献することを基本方針としています。また、100年先もトップ企業であり続けることを目指しています。

(2) 企業文化

ビジョンの実現に向け、「3つの基軸」を定めています。使命(ミッション)として「持続可能な社会の実現に向けて、モノづくりで貢献」すること、信条(バリュー)として「良い品質、低い原価、早い仕事」を追求すること、そして行動指針(プリンシプル)として「和を尊び、言い訳をせず、頭を使おう」という姿勢を重視しています。

(3) 経営計画・目標

「第1次中期経営計画(2024年9月期-2026年9月期)」において、成長とコア事業の収益力強化を掲げています。最終年度となる2026年9月期の見通しを含めた3か年累計での目標達成を目指しています。

* 3年累計売上高:737.8億円
* 3年累計営業利益:45.4億円
* 最終年度営業利益率:4.5%以上
* 最終年度ROE:2.7%以上
* 配当性向:期間中30%以上

(4) 成長戦略と重点施策

案件の選別と管理能力の強化、および担い手不足への対応を重要課題としています。具体的には、営業起点の案件管理、生産拠点の見直しと再編、ICT・DX化による省力化・省人化を推進します。また、将来への積極投資と適正な株主還元、人的資本経営への取り組み、BCP(事業継続計画)の整備を通じて、経営基盤の強化を図る方針です。

5. 働く環境

同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

「安全・安心な労働環境の確保」を掲げ、多様な人材が自律的かつ継続的に活躍できる環境整備を進めています。具体的には、働きやすい就労環境の整備、期待役割や成果を重視した人事制度、定年後(74歳まで)の活躍環境の整備、能力と役割に応じた人材の積極登用などに取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年9月期 38.7歳 13.5年 6,728,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.6%
男性育児休業取得率 66.7%
男女賃金差異(全労働者) 65.4%
男女賃金差異(正規) 62.0%
男女賃金差異(非正規) 81.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒・中途採用合算に占める女性採用の比率(25.8%)、年次有給休暇取得率(72.6%)などです。

6. 事業等のリスク

事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 完成工事未収入金等の債権回収リスク

主な顧客は総合工事業者(ゼネコン)であり、工事代金を受領する前に取引先が信用不安に陥った場合、回収不能となる可能性があります。成約時の信用状態の確認や早期回収に努めています。

(2) 情報システムに関するリスク

業務効率化のためにシステムを運用していますが、不正アクセスやウイルス等による情報漏洩、システム停止のリスクがあります。これらは業務効率の低下や事業中断を招く恐れがあるため、管理体制を整備しています。

(3) 自然災害その他に関するリスク

地震や洪水等の自然災害、火災等の事故により設備損壊や事業停止が発生した場合、経営成績に影響を与える可能性があります。東日本と西日本に工場を分散させることでリスク低減を図っています。

(4) 感染症によるリスク

感染症の流行により工場や施工現場の操業が停止した場合、業績や財務状況に影響を与える可能性があります。防止策の徹底やテレワーク等の対策を講じています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。