※本記事は、株式会社三菱総合研究所の有価証券報告書(第56期、自 2024年10月1日 至 2025年9月30日、2025年12月10日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 三菱総合研究所ってどんな会社?
三菱グループ創業100周年記念事業として設立された総合シンクタンクで、政策提言からIT構築まで一気通貫したサービスを提供しています。
■(1) 会社概要
1970年、三菱創業100周年を記念し、三菱グループ各社の共同出資により設立されました。2005年にダイヤモンドコンピューターサービス(現三菱総研DCS)を子会社化し、ITサービス事業を強化しました。2009年に東証二部に上場し、翌2010年に東証一部へ指定替えとなりました。2024年には米国等の海外拠点を設立しています。
連結従業員数は4,695名、単体従業員数は1,217名です。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位は設立母体の一社である三菱商事、第3位は同じく三菱重工業となっており、三菱グループとの資本関係が継続しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.64% |
| 三菱商事 | 6.07% |
| 三菱重工業 | 6.07% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.4%です。代表取締役社長は籔田 健二氏です。取締役9名のうち5名が社外取締役であり、社外取締役比率は55.6%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 籔田 健二 | 代表取締役社長内部監査部担当 | 1983年三菱銀行入行。三菱東京UFJ銀行取締役副頭取などを経て、2021年同社入社。副社長執行役員を経て2021年12月より現職。 |
| 森崎 孝 | 取締役会長 | 1978年三菱銀行入行。三菱東京UFJ銀行副頭取などを経て、2016年同社入社。代表取締役社長を経て2021年12月より現職。 |
| 平井 康光 | 代表取締役副社長シンクタンク・事業戦略管掌 | 1984年三菱商事入社。同社取締役常務執行役員などを経て、2023年同社入社。副社長執行役員などを経て2023年12月より現職。 |
| 伊藤 芳彦 | 専務取締役コンサルティング・サービス管掌(兼)VCP総括 | 1992年同社入社。社会ICTイノベーション本部長、デジタル・トランスフォーメーション部門長などを経て2024年10月より現職。 |
社外取締役は、坂東 眞理子(昭和女子大学総長)、小林 健(三菱商事相談役)、平野 信行(三菱UFJ銀行特別顧問)、泉澤 清次(三菱重工業取締役会長)、志濟 聡子(元中外製薬上席執行役員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「シンクタンク・コンサルティングサービス」および「ITサービス」事業を展開しています。
■(1) シンクタンク・コンサルティングサービス
官公庁向けには社会公共分野や科学技術政策分野における調査・分析、政策策定支援等を行い、民間企業向けには経営戦略やDXなどのコンサルティングを提供しています。
収益は、顧客からの調査研究費やコンサルティングフィー等により構成されています。運営は、同社およびエム・アール・アイビジネス、エム・アール・アイリサーチアソシエイツなどの連結子会社が行っています。
■(2) ITサービス
金融、製造、流通等の各分野において、ソフトウェア開発・運用・保守、情報処理・アウトソーシングサービスを行っています。また、給与人事サービス「PROSRV」などのBPOも提供しています。
収益は、システム開発費、運用・保守料、情報処理サービス料等からなります。運営は主に中核子会社である三菱総研DCSが行っており、その他MRIバリューコンサルティング・アンド・ソリューションズなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間の業績を見ると、売上高は1,000億円台から1,200億円台で推移しています。第55期に一時減収減益となりましたが、第56期は売上高1,215億円、経常利益97億円と回復基調にあります。利益率は7〜9%台で推移しており、比較的安定した収益性を維持しています。
| 項目 | 2021年9月期 | 2022年9月期 | 2023年9月期 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,030億円 | 1,166億円 | 1,221億円 | 1,154億円 | 1,215億円 |
| 経常利益 | 76億円 | 105億円 | 100億円 | 81億円 | 97億円 |
| 利益率(%) | 7.3% | 9.0% | 8.2% | 7.1% | 8.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 41億円 | 44億円 | 42億円 | 39億円 | 35億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間を比較すると、売上高は5.3%増加し、売上総利益率も改善しています。営業利益は13.5%の増益となりました。売上の拡大に伴い利益額も増加しており、本業の収益力が向上していることがうかがえます。
| 項目 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,154億円 | 1,215億円 |
| 売上総利益 | 254億円 | 287億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.0% | 23.7% |
| 営業利益 | 71億円 | 80億円 |
| 営業利益率(%) | 6.1% | 6.6% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が67億円(構成比32%)、賞与引当金繰入額が26億円(同13%)を占めています。売上原価についても人件費や外注費が主な構成要素となっています。
■(3) セグメント収益
直近の2025年9月期は、両セグメントともに増収増益を達成し、グループ全体でも好調な業績となりました。
シンクタンク・コンサルティングサービスは、官公庁向けのICT関連業務(サイバーセキュリティ、ヘルスケア分野のDX等)や、民間企業向けの事業戦略支援、システム関連業務などが貢献して増収となりました。利益面でも、増収効果に加えて持分法による投資利益が寄与し、大幅な増益を達成しています。
ITサービスは、公共向けシステム案件や、金融・カード分野における決済領域案件の伸長等により増収となりました。上期には不採算案件や本社移転関連費用の発生によるコスト増がありましたが、退職給付債務の算定における数理計算上の差異等が増益に寄与し、堅調な結果となっています。
| セグメント | 項目(億円) | 2024年9月期 | 2025年9月期 | 前期比増減 |
|---|---|---|---|---|
| シンクタンク・コンサルティングサービス | 売上高 | 454 | 470 | +16 |
| セグメント利益 | 42 | 57 | +15 | |
| ITサービス | 売上高 | 699 | 743 | +44 |
| セグメント利益 | 39 | 40 | +1 | |
| 合計(連結) | 売上高 | 1,153 | 1,214 | +61 |
| 経常利益 | 81 | 97 | +16 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業で稼いだ15億円以上の現金を元手に、成長投資(約6億円)と積極的な株主還元(約10億円の配当)をバランス良く実行できる、極めて筋肉質な財務状態です。手厚い資金支出を行っても、期末の現金及び現金同等物は約24.1億円へと着実に積み上がっており、事業の安定性と成長性を支える強固なキャッシュ基盤が構築されています。
| 項目 | 2024年9月期 | 2025年9月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 135億円 | 64億円 |
| 投資CF | -29億円 | -40億円 |
| 財務CF | -49億円 | -30億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.2%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は56.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「豊かで持続可能な未来の共創」を使命としています。世界と共に、あるべき未来を問い続け、社会課題を解決し、社会の変革を先駆けることをビジョンとして掲げ、「100億人・100歳時代」の豊かで持続可能な社会の実現を目指しています。
■(2) 企業文化
行動指針として「コミットメント(ステークホルダーへの約束)」を定めています。「研鑽(社会や顧客への提供価値を磨き続ける)」「知の統合(知の結節点となり、多彩な知をつなぐ)」「スタンス(科学的知見に基づき、あるべき未来への道筋を示す)」「挑戦」「リアリティ」の5つを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
2030年のありたい姿の実現に向け、「中期経営計画2026」を推進しています。当初目標の達成が厳しい状況を踏まえ、最終年度(2026年9月期)の目標数値を以下の通り修正しました。
* 売上高:1,220億円
* 経常利益:90億円
* ROE:8%
■(4) 成長戦略と重点施策
事業戦略の再構築と人的資本経営の強化を優先課題としています。シンクタンク・コンサルティングでは電力・エネルギー等の集中領域での価値連鎖強化、ITサービスでは金融分野等での地位確立を目指します。また、生成AIの積極的な社内活用や、リスク対応力の強化も進めていきます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を競争力の源泉と位置づけ、最適な人材ポートフォリオの実現を目指しています。社員個々の志向に応じた育成を支援する「FLAPサイクル」の導入や、年功要素を撤廃した人事制度への改定を実施しました。また、「MRIアカデミー」等の社内教育機関を通じ、経営理念を具現化する人材の育成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年9月期 | 40.4歳 | 11.7年 | 10,817,256円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 12.8% |
| 男性育児休業取得率 | 75.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 82.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用) | 83.2% |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | 67.1% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性採用比率(29.8%)、エンゲージメントスコア(73.4)、1人当たり研修受講回数(3.37回)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 情報セキュリティに関するリスク
個人情報や顧客の機密情報を多数取り扱っているため、サイバー攻撃や管理不徹底等による情報漏洩が発生した場合、損害賠償請求や信用の失墜につながり、業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対し、物理的・技術的なセキュリティ対策や社員教育を徹底しています。
■(2) プロジェクトに関するリスク
システム開発や調査研究業務はプロジェクト単位で遂行されるため、顧客要望の高度化や事業環境の変化により作業工数が増加し、採算が悪化する可能性があります。全社共通基準によるリスクチェックやモニタリングを実施し、不採算案件の発生防止に努めています。
■(3) 官公庁との取引に関するリスク
官公庁向け売上高が連結売上の約3割を占めており、政策の重点シフトや競争激化、複雑な事業内容への対応遅れが生じた場合、業績に影響する可能性があります。提案段階からの改善活動や、コンプライアンス遵守の徹底により対応しています。
■(4) 新事業に関するリスク
VCP経営の一環として新事業や業務提携を進めていますが、事業環境の変化やシステム障害等により、事業の中断や損害賠償請求が発生する可能性があります。特にAI活用事業では公平性や透明性への対応が求められます。社内審査プロセスや関連規則に基づき、リスク管理を行っています。



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