※本記事は、エア・ウォーター株式会社の有価証券報告書(第26期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年7月31日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. エア・ウォーターってどんな会社?
産業ガスを祖業とし、医療や農業、食品、エネルギーなど多角的な事業展開で社会インフラを支える企業です。
■(1) 会社概要
1929年に北海酸素として設立されました。1993年に大同酸素と合併して大同ほくさんに商号を変更し、2000年に共同酸素と合併したことで現在のエア・ウォーターに社名を変更しています。M&Aによる事業拡大を積極的に進めており、2012年にゴールドパック、2016年に川本産業、2025年には歯愛メディカルを子会社化しています。
従業員数は連結で21,824名、単体で685名が在籍しています。筆頭株主は資産管理業務を行う信託銀行で、第2位、第3位も同様に信託銀行となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.56% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.62% |
| 三井住友信託銀行 | 3.46% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.0%です。代表取締役 社長執行役員は千歳喜弘氏が務めています。社外取締役の比率は35.7%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 千歳喜弘 | 代表取締役 社長執行役員 | 日立マクセル入社後、同社代表取締役社長やマクセルホールディングス代表取締役会長等を歴任。2022年よりエア・ウォーター社外取締役、2026年7月より現職。 |
| 唐渡有 | 代表取締役 副社長執行役員 本社部門管掌 兼 経理・財務統括責任者 | 住友金属工業入社後、経理部長等を歴任。2006年エア・ウォーター取締役就任後、副社長等を経て2026年7月より現職。 |
| 西村浩和 | 取締役 専務執行役員事業部門管掌 兼 産業事業本部長 | ほくさん(現エア・ウォーター)入社後、中国エア・ウォーター広島支店長やエア・ウォーター東日本代表取締役社長等を歴任し、2026年7月より現職。 |
社外取締役は、芳賀裕子(芳賀経営コンサルティング事務所代表)、ロッシェル・カップ(Japan Intercultural Consulting社長)、加藤三紀彦(元日本特殊陶業顧問)、松下満俊(梶谷綜合法律事務所弁護士)、川崎真一(元大阪科学技術センター常務理事)です。
2. 事業内容
同社グループは、「デジタル&インダストリー」「エネルギーソリューション」「ヘルス&セーフティー」「アグリ&フーズ」「その他の事業」を展開しています。
■デジタル&インダストリー
酸素や窒素などの産業ガスのほか、電子材料、機能材料の製造・販売を手掛けています。また、北米やインドでの海外産業ガス事業や、無停電電源装置(UPS)事業も展開しています。
主に顧客企業からのガス販売代金や装置の販売代金を収益源としています。運営は同社やエア・ウォーター東日本、エア・ウォーター・メカトロニクスなどが行っています。
■エネルギーソリューション
LPガスや灯油の販売、LNG関連機器の製造・販売に加えて、炭酸ガスや水素ガスの製造および販売を行っています。
家庭や企業へのエネルギー販売代金、関連機器の販売代金を得ています。運営は同社やエア・ウォーター・ライフソリューション、エア・ウォーター・グリーンデザインなどが担っています。
■ヘルス&セーフティー
医療用ガス、歯科材料、衛生材料の製造・販売のほか、病院設備工事や在宅医療、防災設備工事などの事業を展開しています。
医療機関や一般顧客からの製品販売代金や、工事の請負代金を収益源としています。運営は同社や川本産業、歯愛メディカルなどが手掛けています。
■アグリ&フーズ
青果物の加工・流通をはじめ、冷凍食品や食肉加工品の製造・販売、清涼飲料水の製造受託などを行っています。
小売店や消費者からの食品販売代金、飲料の製造受託代金を得ています。運営は同社やゴールドパック、九州屋などが行っています。
■その他の事業
一般貨物や食品などの物流事業、業務用塩やマグネシアを扱う海水事業、木質バイオマス発電事業、専門商社事業を展開しています。
物流サービス料金や製品販売代金、電力販売代金を収益源としています。運営は同社や日本海水、エア・ウォーター物流などが担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益はM&Aの推進や製品の適正な価格改定により、5期連続で増加傾向にあります。一方で利益面は、直近の決算において不適切会計事案に伴う調査関連費用や、事業計画の見直しによる大規模な減損損失を計上したため、大幅な赤字へと転落しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 8,468億円 | 9,540億円 | 9,664億円 | 10,131億円 | 10,668億円 |
| 税引前利益 | 615億円 | 208億円 | 570億円 | 609億円 | -514億円 |
| 利益率(%) | 7.3% | 2.2% | 5.9% | 6.0% | -4.8% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 417億円 | 93億円 | 366億円 | 399億円 | -639億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益は堅調に推移し、売上総利益も前期を上回る水準を確保しました。しかし、販売費及び一般管理費が大幅に増加したほか、減損損失などの計上により、営業利益の段階で赤字となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 10,131億円 | 10,668億円 |
| 売上総利益 | 2,238億円 | 2,403億円 |
| 売上総利益率(%) | 22.1% | 22.5% |
| 営業利益 | 625億円 | -372億円 |
| 営業利益率(%) | 6.2% | -3.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が797億円(構成比40%)、減価償却費及び償却費が224億円(同11%)、運賃荷造費が203億円(同10%)を占めています。
■(3) セグメント収益
デジタル&インダストリーは先端半導体向けの需要が堅調だったものの、海外事業を中心とした減損損失の計上で大幅な赤字となりました。ヘルス&セーフティーは新規子会社の連結化で大幅な増収となりましたが、全体的に減損損失などの一時費用が響き、各セグメントで減益や赤字が目立っています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| デジタル&インダストリー | 3,571億円 | 3,393億円 | 301億円 | -409億円 | -12.1% |
| エネルギーソリューション | 1,028億円 | 1,077億円 | 81億円 | 64億円 | 5.9% |
| ヘルス&セーフティー | 2,211億円 | 2,697億円 | 119億円 | 104億円 | 3.9% |
| アグリ&フーズ | 1,505億円 | 1,536億円 | 50億円 | 37億円 | 2.4% |
| その他の事業 | 2,184億円 | 2,284億円 | 75億円 | 15億円 | 0.7% |
| 調整額 | -369億円 | -319億円 | -1億円 | -182億円 | - |
| 連結(合計) | 10,131億円 | 10,668億円 | 625億円 | -372億円 | -3.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業である健全型の状態です。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 927億円 | 1,076億円 |
| 投資CF | -603億円 | -886億円 |
| 財務CF | -283億円 | -57億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-15.4%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も26.2%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「創業者精神を持って、空気、水、そして地球にかかわる事業の創造と発展に、英知を結集する」を経営理念に掲げています。事業の原点である「空気」と「水」をはじめとした地球資源を活かし、事業を通じて社会や人々の暮らしに貢献し続けることを使命としています。
■(2) 企業文化
パーパスである「地球の恵みを、社会の望みに。」を再認識し、事業活動を通じた社会課題解決への貢献を重視しています。現在はコンプライアンスを最重視し、「健全で風通しがよく、正しい行動を促す」企業風土へ向けた抜本的な改革と、自由闊達に意見を言える組織の醸成に取り組んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2030年のマイルストーンとしてSDGsを位置づけています。また、資本効率性を重視した財務運営を行っており、中長期的にはROEを12%以上、ROIC(投下資本利益率)を8%以上とする水準を目指して取り組んでいます。
■(4) 成長戦略と重点施策
不適切会計事案を受け、経営の最優先課題として再発防止策を実行し、社会的信頼の回復に努めています。全社戦略として、事業のコアとノンコアを再定義し、事業ポートフォリオの見直しを推進します。「既存事業の深化」と「新規事業の進化」を念頭に、ガバナンス強化や技術開発への戦略的な投資配分を実施します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
「人を活かす経営」を人的資本経営の基軸とし、次世代経営人材の育成、多様性の尊重(DE&I)、リカレント教育、健康経営の推進を重視しています。「自主自立」「個の尊重」「人が育つ風土の醸成」を人事基本方針に掲げ、社内公募制度を用いた自立的なキャリア形成支援などを進めています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.5歳 | 9.9年 | 8,164,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 5.9% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 60.5% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 60.0% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 62.5% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、新卒採用者に占める女性比率(50.0%)、女性主任・係長層の比率(30.6%)、男性社員の育休平均取得日数(50.1日)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) ガバナンスの機能不全に関するリスク
連結子会社等において不適切な会計処理が判明したことを受け、企業風土改革やガバナンス改革などの再発防止策を推進しています。東京証券取引所から特別注意銘柄に指定されており、内部管理体制等の改善が不十分と判断された場合は上場廃止となる可能性があります。
■(2) 資金調達・財務制限に関するリスク
不適切な会計処理が判明した影響により、同社やグループ会社が金融機関と締結しているシンジケートローン等の一部において、財務制限条項に抵触し、期限の利益を喪失するリスクが生じています。主要取引金融機関との協議を通じて継続的な支援の獲得に努めています。
■(3) M&Aに伴う海外事業リスク
成長戦略の一環として、米国やアジア圏を中心にM&Aを通じた海外展開を強化しています。事業を進めるうえで言語や法制、税制の相違に加えて、政治的・社会的および経済安全保障上のリスクがあり、これらが事業停滞を招く可能性があります。



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