エア・ウォーター 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エア・ウォーター 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

エア・ウォーターは東京証券取引所プライム市場および札幌証券取引所に上場し、産業ガスの製造・販売や、エネルギー、医療・防災、農業・食品分野などの多角的な事業を展開しています。直近の業績では売上収益は拡大傾向にあるものの、のれん等の減損損失や不適切会計事案に伴う費用の計上により減益となっています。


※本記事は、エア・ウォーター株式会社の有価証券報告書(第26期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年7月31日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. エア・ウォーターってどんな会社?


産業ガス事業を祖業とし、医療や農業、食品、物流など多角的な事業を展開する全天候型の複合企業です。

(1) 会社概要


1929年9月に北海道で酸素の製造・販売を目的とする北海酸素が設立されたのが始まりです。1966年にほくさんへ商号変更し、1979年に株式を上場しました。1993年に大同酸素と合併し大同ほくさんに、2000年に共同酸素と合併して現在のエア・ウォーターとなりました。近年もM&Aにより事業領域を積極的に拡大しています。

従業員数は連結で21,824名、単体で685名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)であり、第2位も信託業務を行う日本カストディ銀行(信託口)、第3位は三井住友信託銀行と、金融機関が上位を占めています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 11.56%
日本カストディ銀行(信託口) 3.62%
三井住友信託銀行 3.46%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性3名の計14名で構成され、女性役員比率は21.0%です。代表取締役 社長執行役員は千歳喜弘氏が務めています。取締役における社外取締役の比率は62.5%です。

氏名 役職 主な経歴
千歳喜弘 代表取締役 社長執行役員 1971年日立マクセル入社。同社社長や会長、マクセルホールディングス会長等を経て2022年より同社社外取締役に就任。2026年より現職。
唐渡有 代表取締役 副社長執行役員 本社部門管掌 兼経理・財務統括責任者 1977年住友金属工業入社。同社経理部長等を経て2006年同社取締役経理部長に就任。副社長等を経て2026年より現職。
西村浩和 取締役 専務執行役員事業部門管掌 兼産業事業本部長 1991年ほくさん入社。中国エア・ウォーター広島支店長や同社中・四国支社長、エア・ウォーター東日本社長等を経て2026年より現職。


社外取締役は、芳賀裕子(芳賀経営コンサルティング事務所代表)、ロッシェル・カップ(Japan Intercultural Consulting社長)、加藤三紀彦(元日本特殊陶業常勤監査等委員)、松下満俊(弁護士)、川崎真一(元KRI社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「デジタル&インダストリー」「エネルギーソリューション」「ヘルス&セーフティー」「アグリ&フーズ」および「その他の事業」を展開しています。

デジタル&インダストリー


同セグメントでは、酸素や窒素、アルゴンなどの産業ガスの製造・販売に加え、半導体向け電子材料や機能材料の開発・製造を行っています。また、北米やインドをはじめとした海外での産業ガス事業や、高出力UPS(無停電電源装置)の提供も手がけています。
収益は、鉄鋼・化学などの素材分野や半導体分野の顧客からのガス販売代金、電子・機能材料の販売代金から得ています。事業の運営は、同社やエア・ウォーター東日本、エア・ウォーター西日本、海外子会社など多数のグループ企業が担っています。

エネルギーソリューション


同セグメントでは、LPガスや灯油の供給、LNG関連機器の製造・販売のほか、液化炭酸ガスやドライアイス、水素ガスの製造・販売を行っています。また、脱炭素社会に向けて液化バイオメタン等のクリーンエネルギーソリューションの提供にも注力しています。
収益は、主に家庭や法人顧客へのLPガスや灯油の販売代金、製鉄所・化学プラントなどからの炭酸ガスや水素の販売代金によって構成されています。事業の運営は、同社やエア・ウォーター東日本、エア・ウォーター西日本等のグループ各社が行っています。

ヘルス&セーフティー


同セグメントでは、病院など医療機関向けの医療用酸素をはじめとするガスの供給、歯科材料や衛生材料、注射針などの医療機器の製造・販売を行っています。さらに、病院設備工事や院内物流管理(SPD)、在宅医療サービス、防災設備の提供も手がけています。
収益は、医療機関や患者への製品販売代金やサービス提供に対する対価、データセンター等へのガス消火設備工事の請負代金から得ています。事業の運営は、同社やエア・ウォーター防災、川本産業、歯愛メディカルなどが担っています。

アグリ&フーズ


同セグメントでは、農産分野において契約農場を通じた青果物の加工・流通事業を展開し、食品分野では冷凍食品やハム・デリカなどの食肉加工品の製造・販売を行っています。また、飲料分野では清涼飲料水などの受託生産も行っています。
収益は、スーパーや量販店、コンビニエンスストアなどへの青果物や加工食品の販売代金、飲料メーカー等からの製造受託に伴う手数料から得ています。事業の運営は、同社やゴールドパック、九州屋、エア・ウォーターアグリ&フーズなどが行っています。

その他の事業


同セグメントでは、一般貨物や食品、医療、環境関連の物流サービスを展開するほか、業務用塩やマグネシア化合物を製造・販売する海水事業を行っています。加えて、木質バイオマスによる電力事業やエレクトロニクス関連の専門商社事業なども手がけています。
収益は、荷主からの物流受託代金、塩や化合物の販売代金、電力の売電収入、電子部品等の販売代金によって構成されています。事業の運営は、同社や日本海水、エア・ウォーター物流、タテホ化学工業などのグループ各社が担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近の業績では、売上収益は順調に拡大傾向にありますが、利益面では大きく悪化しています。特に直近の事業年度においては、のれん等の非金融資産に関する多額の減損損失や不適切会計事案に関連する調査費用などを計上したことにより、税引前利益および当期利益が赤字に転落する結果となりました。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 10,131億円 10,668億円
税引前利益 609億円 -514億円
利益率(%) 6.0% -4.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 399億円 -639億円

(2) 損益計算書


売上収益は堅調に推移し、売上総利益率も改善を見せていますが、営業利益は赤字に転じています。これは、事業の再編や不適切会計問題への対応、それに伴う各種費用の計上などが販売費および一般管理費やその他の費用を大きく押し上げたことが主な要因です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上収益 10,131億円 10,668億円
売上総利益 398億円 482億円
売上総利益率(%) 3.9% 4.5%
営業利益 625億円 -372億円
営業利益率(%) 6.2% -3.5%


販売費及び一般管理費(単体ベース)のうち、委託手数料が143億円(構成比40%)、給与手当・賞与が67億円(同19%)、減価償却費が36億円(同10%)を占めています。

(3) セグメント収益


デジタル&インダストリーは産業ガスの価格改定や半導体関連の需要増があったものの、のれん等の減損損失により大幅な赤字となりました。エネルギーソリューションやアグリ&フーズも堅調な販売を維持しましたが減損損失の影響で減益となり、全社的に利益面での落ち込みが目立つ結果となりました。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期) 利益(2025年3月期) 利益(2026年3月期) 利益率
デジタル&インダストリー 3,571億円 3,393億円 301億円 -409億円 -12.0%
エネルギーソリューション 1,028億円 1,077億円 81億円 64億円 5.9%
ヘルス&セーフティー 2,211億円 2,697億円 119億円 104億円 3.9%
アグリ&フーズ 1,505億円 1,536億円 37億円 37億円 2.4%
その他の事業 2,184億円 2,284億円 75億円 15億円 0.6%
調整額 -369億円 -319億円 -1億円 -182億円 -
連結(合計) 10,131億円 10,668億円 625億円 -372億円 -3.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業活動で十分なキャッシュを獲得し、将来の成長のための設備投資や借入金の返済等を自己資金で賄う「健全型」のキャッシュ・フロー状況です。
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-15.4%で市場平均を下回っており、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も26.2%で市場平均を下回っています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 927億円 1,076億円
投資CF -603億円 -886億円
財務CF -283億円 -5億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、「創業者精神を持って、空気、水、そして地球にかかわる事業の創造と発展に、英知を結集する」という経営理念を掲げています。かけがえのない地球の資源である「空気」と「水」を活かして事業を創出し、社会や人々の暮らしに貢献することを使命とし、多種多様な製品・サービスを提供する企業であり続けることを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、コンプライアンスを最重視し、「健全で風通しがよく、正しい行動を促す」企業文化に向けた抜本的改革を進めています。心理的安全性が確保された組織作りや、誰もが互いを尊重し合い、自由闊達に意見を言える風土の醸成に取り組むとともに、適切な業績目標の設定と過度な業績プレッシャーの排除を徹底しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、持続的な成長を通じた中長期的な企業価値向上のため、財務の健全性を維持しつつ、資本効率性および収益性を重視した財務運営を行っています。ROEおよびROICを重要な経営指標として位置づけ、運転資本の最適化や投資規律の徹底を推進しています。

* ROE 12%以上の水準
* ROIC 8%以上の水準

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、コアコンピタンスを活かした「既存事業の深化」と「新規事業の進化」を念頭に、事業ポートフォリオ改革を推進しています。各事業の評価軸を定め、事業性やガバナンスなどの観点から投資配分や事業再構築を戦略的に行っています。また、不適切会計事案を受け、「企業風土改革」「ガバナンス改革」「経営管理基盤、内部統制の再構築」等の再発防止策を最優先課題として実行し、社会的信頼の回復に全力を尽くしています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社グループは、「人を活かす経営」を人的資本経営の基軸とし、「次世代経営人材の育成」「多様性の尊重(DE&I)」「リカレント教育」「健康経営の推進」を重視しています。社員の自立的なキャリア形成を支援するための社内公募制度や、安心して働ける職場環境づくりに向けた柔軟な働き方、介護・育児支援など、従業員一人ひとりが能力を最大限に発揮できる体制の整備を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 42.5歳 9.9年 8,164,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 5.9%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 60.5%
男女賃金差異(正規雇用) 60.0%
男女賃金差異(パート・有期) 62.5%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性管理職比率目標(10%以上)、新卒採用者に占める女性比率(50%)、女性主任・係長層(30.6%)、男性育児休業平均取得日数(50.1日)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 経営トップの関与によるガバナンスの機能不全に関するリスク
一部の連結子会社において、在庫を巡る不適切な会計処理や売上・利益の嵩上げ等が広範に行われていたことが判明しました。これを受け、同社は「企業風土改革」や「ガバナンス改革」などを柱とする再発防止策を策定し、経営の透明性と健全性を高め、社会的信頼の回復に向けた取り組みを進めています。

(2) 調達コスト上昇リスク
産業ガス事業において大量の電力を消費するため、電力コストの大幅な上昇が収益に影響を与える可能性があります。また、ヘリウムガスの地政学的な要因や、LPガス・灯油の原油価格変動、アグリ&フーズ事業における天候不順等による原材料価格の高騰も、同社グループの業績に影響を及ぼすリスクとなります。

(3) 海外事業リスク
成長戦略の一環として米国やアジア圏を中心にM&Aを通じた海外事業展開を強化しています。しかし、進出国における言語、法制、税制等の相違や、政治的・社会的状況、経済安全保障上のリスクなどにより事業が停滞した場合、同社グループの業績や財務状況に影響を与える可能性があります。

(4) 資金調達リスク
金融機関からの借入金には財務制限条項が付されているものがあり、一部の不適切会計処理の判明に伴い、当該条項に抵触する恐れが生じています。金融機関との協議結果によっては期限の利益を喪失するリスクがあり、同社グループの業績や財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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