農協職員が「自爆営業」で借金生活? ボーナスは消え「消費者金融に手を出す人も」

農協職員が「自爆営業」で借金生活? ボーナスは消え「消費者金融に手を出す人も」

農協職員が「自爆営業」で借金生活? ボーナスは消え「消費者金融に手を出す人も」

JA(農業協同組合)が提供するのは、農業支援に直接関係するものだけではない。お米・野菜・加工品といった食品のほか、ジュースなどの飲料、貯金やローン、共済保険、広報出版物などの販売もある。そんな幅広い商品・サービスの販売が、すべて職員のノルマになったとしたら……。就職先の少ない地方で雇用と引き換えに行われていることとは?


JA(農協)職員が過重なノルマに苦しむ声が、企業口コミサイトの「キャリコネ」に相次いでいる。茨城県のあるJAに勤める30代の男性職員によると、そのノルマは、もはや「生活を困難にするほど」重くなっているという。

賞与が出ても、ノルマの縛りがあるため、それに支払って、ほとんど消えてしまい、大多数の職員がカードローンを組んでいる。中には消費者金融から借り入れして生活せざるをえない職員もいる・・・

「着服」「横領」は報じられただけでも年20件

過重なノルマが消化できず、自腹を切って達成(=自爆)している人が全国のJAにいることは、ネットのQ&Aサイトなどにも見られる。

しかし、給与やボーナスの多くをノルマ消化に回した結果、生活できなくなって借金をせざるをえない職員がいるという異常な事態は、新しい情報である。

このカードローンがもしもJAバンクの商品だとすれば、その借金自体がノルマ達成の一部になっているといえるのかもしれない。生活全体がJA関連商品・サービスのノルマに絡め取られている形になるが、他に仕事のない地方では仕方のないことなのだろうか。

気になるのは、よく聞かれる「JA職員による不祥事」と、この過重なノルマとの間には、何の関係もないのかということだ。ネットを検索すると、2017年に報じられたJA職員の着服・横領のニュースは、主なものだけでも20件はヒットする。

【2017年に報じられた主なJA職員の着服・横領】

  • JA芸南(広島県)で30代男性職員が約320万円着服で懲戒解雇(2017年2月)
  • JA佐久浅間(長野県)で着服続き、県が業務改善命令(2017年2月)
  • JA長生(千葉県)の40代臨時職員が計約945万円着服(2017年3月)
  • JAグリーン近江(滋賀県)の40代男性職員が約284万円横領(2017年4月)
  • JA北さつま(鹿児島県)の伊佐営農センターの元センター長の約3700万円の着服が発覚し、さかのぼって懲戒解雇(2017年5月)
  • JA北びわこ(滋賀県)の40代男性職員が計約4470万円横領(2017年6月)
  • JAさがの30代男性職員が少なくとも1億3000万円の横領で懲戒解雇。別の20代職員、50代職員の件も発覚(2017年7月)
  • 愛知県内のJA、横領など5年間で4億円 県への情報公開請求で発覚(2017年7月)
  • JAうつのみや南部営農経済センターの20代男性職員が約47万円着服(2017年7月)
  • JA福井市の40代男性職員が15年間にわたり計約1億6000万円横領(2017年8月発表)
  • JAちばみどりの50代男性職員が計約5120万円横領(2017年9月)
  • JA長崎せいひの40代男性職員が計約620万円着服で懲戒解雇(2017年9月)
  • JA岡山の40代男性職員が85万円横領(2017年9月)
  • JA秋田ふるさとの50代常勤監事が14年間にわたり計約9400万円横領(2017年9月)
  • JAふくしま未来の20代男性職員が約1000万円着服で懲戒解雇(2017年10月)
  • JA鳥取中央の50代男性職員が2780万円横領で懲戒解雇(2017年10月)
  • JA邑楽館林(群馬県)の50代男性職員が125万円着服で懲戒解雇(2017年11月)
  • JAアルプス(富山県)の20代男性職員が1015万円着服で懲戒解雇(2017年12月)
  • JAさがで50代男性職員による約3700万円着服が新たに発覚(2017年12月)
  • JAおおいたの20代男性職員が約700万円横領の疑い(2018年1月)

この中で最も大きな話題となったのは、JA福井市の事件だ。1億6000万円という額の大きさもさることながら、15年間にわたって不正が発覚しなかったことに対し、「誰もチェックしていなかったのか?」と批判が殺到した。

さらにその後、JA秋田ふるさとで14年間にわたり横領が行われていたケースでは、この職員が「常勤監事」(企業でいう監査役)であったことから、「組織の健全性を監査する監事自らが不正に手を染めるというのもなかなかお目にかかれない」と呆れる人も現れた。

【過重ノルマに苦しむJA職員の声(一部)】

以下は、キャリコネに寄せられたJA職員の声である。なお、非営利組織という建前があるJAでは、商品の営業・販売活動を「普及推進」(あるいは単に「推進」)と呼ぶようだ。

生活もままならない(福岡のあるJA)

「全職員に共済営業のノルマがあり、達成していなかったら理事から呼び出され、罵倒に近い説教を受け、『今から共済推進に行って来い』と言われる。その際の残業代も休日出勤代も発生しない。年収は320万円だが、自己契約(自爆)の共済掛け金を引くと半分以下になり・・・」

身内でまかなうノルマ(沖縄のあるJA)

「全職員に対するノルマに憤りがあります。共済の部署でもない私からすれば、商品の種類や内容が全然分からず、聞かれても説明なんてできません。いまのところノルマを身内でまかなっている状態です。稼いでも職場に搾取されている気がして・・・」

スーパーで買った方が安いのに(兵庫県のあるJA)

「保険のノルマができなければ自分で入る、身内に入ってもらう、ジュースなどの物を売る、そんなジュースはラ・ムーやドンキホーテで買ったほうが断然安いのにノルマが達成できなければ自分で買わないといけないので退職を・・・」

月刊誌・新聞2紙の強制購読(山口県のあるJA)

「強制購読の月刊雑誌、新聞2社、強制購入の生活用品数万円。ノルマが達成できなければ自爆。共済、金融、購買品…と幅広いです。新人にもノルマは与えられます。先輩方の話を聞くと家庭を持って辞められないから渋々といったところ。独身の私には自爆してまで勤める理由があるのかと思え、転職に・・・」

 

達成困難と分かっているでしょ(静岡県のあるJA)

「近年は共済保険に加入してくれない人が多いので、自爆営業は必須です。ノルマについて達成することが困難と考える上司がいるにもかかわらず、なんの対策も練っていないことが疑問・・・」

賞与がなくなるほど自爆した(埼玉県のあるJA)

「非常にノルマが多く、賞与がなくなる程、自爆をする事が多々ありましたので、退職させていただきました・・・」

全国のJA組織に「共通する何か」とは

これだけ不正が頻発するということは、全国のJA組織に共通する何かがあるとしか思えない。不正が行われやすい環境について、公認不正検査士協会は「不正のトライアングル」が揃う場合と指摘している。その3要素とは「機会」「動機・プレッシャー」と「正当化」である。

  • 1つめの「機会」とは、不正を遂行できるチャンスが存在するという意味だ。

JAでは職員が農家などを回って現金や通帳、証書などを預かることがあるというが、その気があれば容易に着服ができてしまう。十分なチェックを行っているのだろうか? また、「不正をしてはいけない」という当たり前の組織風土は醸成されているのだろうか?

  • 2つめの「動機・プレッシャー」は、言うまでもなく重いノルマと達成を求める強いプレッシャーが存在するという意味だ。

営業を担当する職員が、一定のノルマ達成を目指して活動することは不思議ではない。しかし、商品知識や営業ノウハウもない他の業務担当者にまで一律でノルマを課するのは、不当な強要とさえいえるだろう。

横領した金銭が「自爆ノルマ達成」に流れていたとしたら

  • 3つめの「正当化」とは、自分が不正をすることに正当な理由がある、と自分を納得させる論理のことである。

上記であげた不正をした数多くのJA職員の中には、20代や30代の若手もいる。ここからは推測だが、その中には過重ノルマに苦しみ、生活もままならないほど追い込まれていた人もいるのではないか。そんな中で、目の前に着服や横領が容易にできるチャンスがあったため、つい手を出してしまった人もいるのではないか。

そしてその行為は、単に個人的なものだけでなく、

  • 「これをしなければ家族が生活できないのだから仕方がない」
  • 「組合や上司が無茶なノルマを課するのがいけないのだ」
  • 「これだけ自爆しているんだから、ちょっとくらいごまかしたって許されるはずだ」

といった、ある意味では気の毒な論理で、正当化されがちだったのではないだろうか。

JA福井市で横領を行った職員は、その使途について「住宅ローンの支払いや遊興費、自分の自動車を購入する資金などに使った」と答えている。遊興費に目を奪われがちだが、残る「住宅ローン」や「マイカーローン」はJAバンクにも商品がある。

これも推測だが、これだけ多くの職員からJA関連商品の過重ノルマに対する告発があがっているのだから、この職員が住宅ローンやマイカーローンを、JA以外で支払っていたと考える方が不自然ではないか。

もしも着服・横領した金銭が、自爆ノルマ達成に流れていたのだとすれば、これほど本末転倒なことはないのだが……。

 

この記事の執筆者

ネットのお悩み相談をウォッチするコラムニスト。


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