2018年1月15日付の読売新聞第一面に「銀行員の転職希望急増」という衝撃的な見出しが踊り、大きな話題となったことがあった。大手人材紹介会社に転職希望者として新たに登録した銀行員が、2017年度上期に前年同期比で約3割増加したというのだ。
メガバンクは2017年秋、コスト競争力の強化に向けたリストラ策を発表したばかりだ。みずほFGは2026年度末までに従業員を1万9000人削減。三菱UFJFGと三井住友FGも数千人から1万人近い削減を行うという。
職場いじめが「自主的な流出」を加速か
グループ全体の従業員が10万人を超えるところもあるメガバンクから見ると、この程度の人数を何年もかけて減らすために、大胆なリストラが必要とも思えない。しかし「売り手市場のうちに転職しておこう」という理由からか、自主的な流出が加速しているようだ。
企業口コミサイト「キャリコネ」の書き込みを見ると、退職の意向を示した銀行員の書き込みが増えている。その内容は、銀行の内部に組織上の大きな闇を抱えているのではないかと思わせるものが目につく。
それは「パワハラ」や「いじめ」に関する書き込みの異様な多さだ。あるメガバンクで法人営業に携わる男性は、このほど20代にして退職を決意した。その理由は次のようなものである。
上司の責任を押し付けられて、地方に転勤になった。役員の息がかかっている人は、基本的にパワハラやイジメをしてもダメージがない。そういう社風に辟易。同期と後輩の自殺も退職を考え始めた理由の一つ。回収業務で客に自殺未遂されたのも理由の一つ。
パワハラによる地方転勤、同期社員や後輩の自殺、顧客の自殺未遂――。衝撃的な言葉が並ぶ。週刊誌などが報じた件も含むのだろうか。別のメガバンクでコンサルティング営業に携わっていた20代女性も「この会社で頑張っていく気力がなくなった」と明かす。すでに退職したという。
上司には常に詰められる、怒られる。成績が取れるかは運しだい。人のミスは吊し上げて、人を犠牲にしてまで営業成績をとる。そんな風習があると思います・・・
「怒鳴ることで優位に物事を進める」常套手段
このメガバンクについては、財務・会計職に就いていた派遣社員からも、卑劣すぎる職場いじめに関する告発があがっている。
新人はいじめの対象に陥りやすい。まず私の同期がいじめられ、辞めるまでネチネチと追い込まれていった。その後、その同期の相談をよく聞いていた自分がターゲットに・・・
陰口をささやき、時にせせら笑い、職場のメンバーの前でわざと恥をかかせ、仕事に集中できないメンタルと環境を作り上げ、ついには「仕事ができない人間」として上長に報告する。恐ろしいことに、この人も退職に追い込まれたという。
同じメガバンクの男性も「上司によっては、パワハラ、モラハラが耐え難いものがある」と告発。30代前半で年収は1000万円に達したが、「将来にわたり働き続けるのに限界を感じ」、退職を検討しているという。
別系列の信託銀行の20代男性も「事業によるがやはりパワハラ部署、上司・先輩が多い」と書き残し、転職を決意した。
怒鳴ることによって相手を萎縮させ、自分優位に物事を進めようとする人間があまりにも多く、辞める人が後を絶たない・・・
激しい過当競争「破綻が来るのが目に見えている」
なお、これらは過去の話ではなく、すべて最近の書き込みである。しかも退職を明かしているのは、すべて若い世代の人たちばかり。「転職希望急増」の理由はリストラでもフィンテックでもなく、横行するパワハラといじめではないかと思ってしまうほどだ。
とはいえ、銀行ビジネスの将来性に不安を漏らす人も、これに劣らず多くいる。北陸地方の地銀で働く30代男性は、追い込まれた現状をこう説明している。
将来的に人口が減っていくことが分かっている中で、(銀行ビジネスは)過当競争に陥っていくことが予想される。というより既に始まっており、条件に見合わない企業でも優良な条件で借入を提案せざるを得ない状況になっている。結果、体力の削り合いをして、先に耐えられなくなった方が負けのチキンレース状態に。今は何とかなっているが、破綻が来るのが目に見えている・・・
中国地方の地銀で働いていた30代男性は、昨年夏に退職を決めた。「現在の事業モデルから将来性がないと思った」からだが、顧客のためにならないことを強いられるのも「やる気を失う一因」になったという。
恐ろしいのは、銀行員といえども「財務、法務に関する知識はある程度身に着くが、世間一般で言われるような専門性は身に付かない」ということ。
これでは現職にしがみつくしかないし、居場所を守るためにはパワハラをも辞さない風土を作り出してしまいがちだ。退職を明かしているのが30代までの若い人ばかりなのは、そういう理由もあるだろう。
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