昨今のゼネコン業界では、社長交代が相次いでいます。
そのなかでも、とくに世間を騒がせたのが、西松建設の社長交代です。西松建設は今年で145年を迎える老舗ゼネコンの一つで、土木事業に大きな強みを持っています。しかし新しい社長は、2人続けて建設事業出身者が経営に携わることになりました。
それまで社長を務めていた近藤貞社氏は会長に就任し、新しく社長となったのは、髙瀨伸利氏です。社長交代は9年ぶりで、経営体制の若返りを図る目的があるようです。
建設に関わった経験を経営に生かせるというメリットはありますが、なぜ土木事業出身者ではないのでしょうか。実はここに、西松建設の生き残りの施策が隠されているのです。2人続けて建設出身ということが意味するものとは何なのか、そして、老舗の伝統を受け継ぎながら時代の流れを変革していくのか、その手法の一端を年収という切り口から見ていきましょう。
また西松建設は年収が高いことでも有名で、3000社を超える上場企業の中でも常に上位に位置しています。
では一体どれくらい高いのか、高い理由はなにか、年収の高さ以外のメリットやデメリットはあるのかなどに迫っていきましょう。
西松建設の平均年収は835万円
■年収は順調に右肩上がり傾向
それでは、はじめに西松建設の平均年収について見ていきます。西松建設の平均年収は、西松建設の有価証券報告書によると、835万円です。キャリコネに寄せられた給与明細から算出した西松建設年代別年収レンジは、20歳代で470〜520万円、30歳代で670〜720万円、40歳代で870〜920万円となっています。正規雇用者の平均年収は495.7万円(国税庁・令和2年分民間給与実態統計調査結果)で、比較して約1.69倍の額です。
西松建設の平均年収推移
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
2022年3月期 | 835万円 | 44.4歳 | 18年 | 2794人 |
2021年3月期 | 866.2万円 | 44.4歳 | 18年 | 2762人 |
2020年3月期 | 866.8万円 | 44.3歳 | 17.9年 | 2684人 |
2019年3月期 | 836.3万円 | 44.4歳 | 17.9年 | 2606人 |
2018年3月期 | 803.7万円 | 44歳 | 17.8年 | 2542人 |
出典:西松建設・有価証券報告書
過去5年間の平均年収の推移をグラフと表組みで示しています。
西松建設の平均年収は前年を下回り835万円でした。
過去5年間では2番めに低い額になりました。
西松建設の年代別平均年収と中央値
■西松建設の年収中央値は30代で691.8万円
続いて年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値を表にまとめました。
年代 | 平均年収 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|---|
20代 | 495万円 | 32.6万円 | 85.4万円 | 445.5万円 |
30代 | 691.8万円 | 45万円 | 119.5万円 | 622.62万円 |
40代 | 887.8万円 | 57.5万円 | 153.5万円 | 799.02万円 |
50代 | 1121.3万円 | 72.2万円 | 193.9万円 | 1009.17万円 |
※キャリコネの口コミ、有価証券報告書、厚労省・経産省・国税庁発表の調査資料を元に、編集部で独自に算出
西松建設の職種別年収
■"現場主義"手厚い手当で労に報いる
2015年度から優秀な職長や技能者に手当を増額すると発表した西松建設では、技能者に対する手当が厚い傾向にあります。
現場の作業に長く従事する「上級職長」と呼ばれる職務では、従来の4倍となる2000円が手当として支給され、その上級職長の中でもトップの位置に属する「西松マイスター」は、従来の2.4倍となる3000円が支給されるのです。
年収ベースで見てみると、上級職長は年間で48万円、西松マイスターは72万円を上限に上乗せされます。
これらの制度は、若手社員に希望を与えるとともに、全社員のモチベーションアップにもつながるのではないでしょうか。現段階では「上級職長」と「西松マイスター」に限定されていますが、一つの目標として捉えると、仕事に対しての関わり方も変わってくるかもしれません。
キャリコネに寄せられた給与明細を見ると、世代間での違い、同年代・同職種なのになんでこんなに差が生まれるのかの理由が確認できます。
西松建設社員の給与明細(キャリコネ)
手当の差が年収に影響する
20代・建築設計・非管理職の 給与明細
30代・建築設計・非管理職の 給与明細
基本給・手当・賞与に大きな差
20代・建築土木施工管理・非管理職(賞与なし)の 給与明細
20代・建築土木施工管理・非管理職(賞与あり)の 給与明細
年収の高さばかりに目を奪われがちですが、就職・転職を検討するにあたり気をつけなければならないことはないのでしょうか。
西松建設と競合他社の平均年収を比較
西松建設の競合や同業界である熊谷組、安藤・間、飛島建設、東急建設の5社で平均年収を比較します。
各社の最新有価証券報告書に記載されている額は、西松建設が835万円、熊谷組が840.9万円、安藤・間が861.4万円、飛島建設が823万円、東急建設が732.6万円です。
この5社の中で最高額は安藤・間の861.4万円で、最低額が東急建設の732.6万円。その差はおよそ129万円で、かなりの差があります。
この比較企業の中では西松建設は3番目に位置します。
社名 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数(単体) | 売上高 |
---|---|---|---|---|---|
安藤・間 | 861.4万円 | 45.7歳 | 17.6年 | 3261人 | 3158.67億円 |
熊谷組 | 840.9万円 | 44.1歳 | 19.2年 | 2626人 | 3310.21億円 |
西松建設 | 835万円 | 44.4歳 | 18年 | 2794人 | 3106億円 |
飛島建設 | 823万円 | 45.5歳 | 19.3年 | 1180人 | 1057.47億円 |
東急建設 | 732.6万円 | 45.1歳 | 19.7年 | 2624人 | 3012億円 |
西松建設の競合企業の年収についてはこちらの記事をご覧ください
来たる急激な需要減にいち早く対応を
手持ち工事の少ない準大手ゼネコンとしては、2021年開催予定の五輪後の不安が大きいと言えます。手持ち工事が潤沢な大手と比べると先行きの不安がつきまといますし、工期が1年前後の案件が多いことから、五輪後の需要の影響が直撃してしまいます。受注競争が激化する可能性もあるとされているため、留意しておくとよいでしょう。
また業界全体が人手不足のため、一人あたりの負担が増える可能性があります。日本建設行連合会によると、2014年度には約343万人いた技能労働者のうち、2025年度までにその3分の1程度の約128万人が離職する見通しであることが発表されていることもあり、重大な局面を迎えることになります。これらの課題を踏まえた上で慎重に判断する必要がありそうです。
西松建設には年収以外にメリットはある?
ここまで西松建設の年収面を見てきました。ただ就職先、転職先として年収の高さだけで決めることはできません。その他にメリットは無いのでしょうか?
実は西松建設は、今後「建設しない事業」すなわち不動産開発やビル管理で収益拡大を目指しています。自らは建設に携わらず、賃料や管理手数料を収益源にすることで安定的に稼ごうという方針です。
またインフラ整備の需要が年々高まっているため、西松建設にとっては追い風にあります。高度経済成長期以降に整備された道路橋やトンネル、下水道等は、今後20年で建設してから50年以上経過する施設の割合が加速度的に高くなるため、メンテナンス工事が増えることになりそうです。これに対して土木の名門と呼ばれる西松建設は、2011年から「インフラの総合病院」として土木リニューアル事業を開始しています。こうした先見の明ある事業展開が明暗を分けていくことでしょう。
さらに西松建設では、下請け会社との関係にも着目しています。今までは現金で支払う基準が50万円だったのに対して1000万円に引き上げました。これにより、自社の人材に頼るだけではなく、下請け会社の資金繰りを支援しつつ良好な関係を築き、受注機会を増やしていくことも予想されます。このような先を見越したさまざまな改善が、今後の西松建設の土台になっていくかもしれません。
西松建設の面接対策はこちらの記事をご覧ください
出典・参考
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」「2019年国民生活基礎調査」
経済産業省「2021年企業活動基本調査速報-2020年度実績-」
国税庁「令和2年分民間給与実態統計調査」
マイナビ「2022年版 業種別 モデル年収平均ランキング」
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