日本郵政の概要
日本郵政株式会社は、2007年の郵政民営化により発足し、2015年11月に東京証券取引所に上場した日本郵政グループの純粋持株会社です。
「純粋持株会社」とは?
持株会社には、自ら事業も行う「事業持株会社」と、事業を行わない「純粋持株会社」がありますが、日本郵政は後者です。
日本郵便株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険などを傘下に持ち、グループの経営管理(経営戦略策定、ガバナンス、内部統制など)を主な目的として設立された会社形態です。日本郵政自体は直接、郵便・金融などの本業(事業)を営んではいません。
日本郵政グループは、全国約24,000の郵便局ネットワークを共通基盤として、以下の6つのセグメントで幅広い事業展開を行っています。
1.郵便・物流事業(日本郵便株式会社)
- 国内最大級の拠点網と「ラストワンマイル配送」体制を有します。
- 国内郵便サービス(手紙、はがき、ゆうパックなど)の集配や配達を全国で展開しています。
- 物流ソリューション(企業向けの発送作業請負、商品保管、ピッキング、梱包、出荷などワンストップ物流サービス)も提供。
2.郵便局窓口事業(日本郵便株式会社)
- 郵便物・荷物の引受や交付、切手・はがき・収入印紙などの販売。
- 各種物販、金融商品(貯金、ローン、保険)や投信の取扱い、公共料金の支払い受付なども行っています。
3.国際物流事業(日本郵便株式会社)
- 海外向けの輸送サービス(EMS=国際スピード郵便、国際宅配便、フォワーディング事業)を展開。
- 倉庫運営、検品・加工、関税手続き、多国間物流、B2C配送などの付加価値サービスも実施。
- グループ会社のトールグループ(豪州)や海外パートナーとの連携によるグローバルネットワークを構築。
4.不動産事業(日本郵政不動産株式会社など)
- 保有不動産(郵便局・社宅等)の管理・開発・利活用。
- 市街地再開発やまちづくり、オフィス・商業施設の開発、不動産投資、グループ保有資産の価値向上などを実施。
- グループ外不動産の取得・運用や、賃貸・分譲マンションなど収益源の多様化を目指している。
5.銀行業(株式会社ゆうちょ銀行)
- 日本最大級の預金規模・店舗網を持つ銀行会社。
- 預金業務(通常貯金、定期貯金、定額貯金等)、振込・決済サービス、外国為替・国際送金などの銀行サービスを全国で提供。
- 投資信託、国債販売、保険商品の提供、住宅ローン媒介、クレジットカード業務など多岐にわたる金融商品を扱う。
- 預かった資産の有価証券投資による運用も主たる業務。
6.生命保険業(株式会社かんぽ生命保険)
- 国内最大級の生命保険会社のひとつ。
- 養老保険・終身保険などシンプルで小口な生命保険商品の提供が中心。
- 医療保障(特約)のある保険や個人年金保険も取り扱い。
- 保険契約の引受、保険金の支払い等のほか、預かった資金の有価証券への投資など資産運用業務も展開。
「郵政民営化」とは?
郵政民営化とは、日本郵政公社(国営の郵便組織)を解体し、民間企業である日本郵政株式会社とその傘下の事業会社(郵便事業株式会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険、郵便局株式会社)に分社化・再編した大規模な制度改革です。
2007年10月1日の民営化以前、日本郵政公社の職員は「国家公務員」でしたが、民営化と同時にその身分は「民間人」となり、公務員ではなくなりました。具体的には、約25万人以上の日本郵政公社職員が、民営化で一斉に非公務員化されています。
日本郵政の平均年収は864.4万円
日本郵政(単体)の平均年収は、2021年3月期に788.5万円だったのが、2024年3月期には867.4万円まで上昇し、2025年3月期も864.4万円と高水準を維持しています。
一方、従業員数(同)は同期間に2,039人から1,235人へと大幅に減少しました。その主な要因として、2024年4月に施設管理や建築業務を担う日本郵政建築が新設され、日本郵政本体から該当業務の従事者が出向したことが挙げられます(※有報のデータには、出向中の社員は含まれません)。
決算月 | 平均年収 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 従業員数 |
---|---|---|---|---|
2025年3月期 | 864.4万円 | 43.3歳 | 16.2年 | 1,235人 |
2024年3月期 | 867.4万円 | 45.3歳 | 18.3年 | 1,533人 |
2023年3月期 | 840.8万円 | 44.9歳 | 18.2年 | 1,485人 |
2022年3月期 | 798.4万円 | 45.1歳 | 17.9年 | 1,994人 |
2021年3月期 | 788.5万円 | 44.3歳 | 17.4年 | 2,039人 |
出典:日本郵政・有価証券報告書
こうした組織構造の変化に伴い、平均勤続年数(単体)は2024年の18.3年から2025年には16.2年に、平均年齢(同)も45.3歳から43.3歳へと低下しました。出向者の増加が結果的に、給与水準の上昇とともに、組織の若返りや人材構成の再編につながっていることが読み取れます。
日本郵政グループの従業員数は
日本郵政グループの従業員数は2021年の243,612人から2025年の218,718人へと約25,000人(10.2%)減少しました。
郵便・物流事業(日本郵便の国内事業)と、銀行業(ゆうちょ銀行)は、比較的安定した推移を示していますが、変動は主に以下の3つの要因によるものです。
セグメント | 2021年3月期 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 |
---|---|---|---|---|---|
郵便・物流事業 | 100,599 | 98,887 | 98,216 | 101,964 | 101,759 |
郵便局窓口事業 | 97,285 | 96,471 | 81,396 | 76,681 | 75,043 |
国際物流事業 | 21,887 | 13,584 | 13,673 | 9,540 | 9,363 |
不動産事業 | ― | ― | ― | ― | 317 |
銀行業 | 12,451 | 12,219 | 11,807 | 11,419 | 11,034 |
生命保険業 | 8,252 | 8,144 | 19,776 | 19,092 | 18,656 |
その他 | 3,138 | 2,807 | 2,501 | 2,691 | 2,546 |
合計 | 243,612 | 232,112 | 227,369 | 221,387 | 218,718 |
※2025年3月期より「不動産事業」セグメントが新設されました。
※郵便局窓口事業は、2021年以前は金融窓口事業として表示されていました。
(1) 国際物流事業の大幅縮小
- 2021年の21,887人から、2025年には9,363人へと半減以上(57.2%減)しています。これは主に、豪州経済低迷の影響でToll Personnel社の取扱量減少により業務量が縮小したことによります。
(2) 金融窓口事業(2022年以降は郵便局窓口事業)の減少
- 2021年の97,285人から、2025年には75,043人へと22,242人(22.9%)減少しました。これは2022年4月からの新しいかんぽ営業体制への移行に伴い、日本郵便からかんぽ生命保険へ従業員が出向し、その後転籍したことが主因です。
(3) 生命保険業の大幅増加
- 2021年の8,252人から、2023年には19,776人へと倍増しています。これは上記のかんぽ営業体制変更により、従業員がかんぽ生命保険へ移管されたことを反映しています。
また、2025年には不動産事業が新設され、日本郵政不動産株式会社やJPビルマネジメント株式会社等の営む事業が新たなセグメントとして独立しました。
日本郵政の年代別平均年収と中央値
■日本郵政の年収中央値は30代で580.2万円
続いて年収実態により近い年収中央値を見てみます。20代から50代までの平均年収・平均月収・平均ボーナス・年収中央値を表にまとめました。
年代 | 平均年収 | 平均月収 | 平均ボーナス | 年収中央値 |
---|---|---|---|---|
20代 | 336.9万円 | 21.9万円 | 63.7万円 | 303.21万円 |
30代 | 580.2万円 | 36.9万円 | 109.9万円 | 522.18万円 |
40代 | 760.3万円 | 47.9万円 | 144.1万円 | 684.27万円 |
50代 | 752.7万円 | 47.4万円 | 142.7万円 | 677.43万円 |
※キャリコネの口コミ、有価証券報告書、厚労省・経産省・国税庁発表の調査資料を元に、編集部で独自に算出
日本郵政の年収が高い理由
■賞与は安定的に4ヶ月分
日本郵政の年収が高い理由は、基本給の高さももちろんありますが、賞与のボリュームの大きさがまず挙げられます。
社員の口コミを見ると、支給月数は「年4ヶ月分」と、突出した数字ではないものの、「個人間の評価による差はほとんどない」という特徴があります。つまり、全社員に対し安定的に年4ヶ月分が支給されるということです。成果主義を求める社員にとってはやや不満かもしれませんが、年収の安定性を支えるという意味では、この賞与が大きく寄与していると言えます。
また、後に詳述しますが、同社は「完全な年功序列」であり、「マネージャーまでは必ず昇進できる」という昇格制度です。評価によって大きく差を付けられることもないため、全員が毎年安定的に昇給していくという仕組みが、平均年収を引き上げていることが推測されます。
ただし、日本郵政グループは近年、事業セグメントの見直しからも分かるように、事業構造の変革を推進しており、人事給与制度や運用が変化している可能性があります。したがって、以前の「完全な年功序列」が続いているかどうかは、実際の面接で確認が必要です。
日本郵政の給与体系・内訳
■寮・社宅は立地・賃料ともに魅力大
日本郵政の給与体系は、基本給と諸手当からなる月給と、年2回の賞与で構成されています。諸手当は、扶養手当、通勤手当、住居手当などのほか、営業・勤務実績に応じて手当が支給されます。
その他に福利厚生として、財形貯蓄制度、従業員持株会、寮・社宅など、幅広い制度が整備されています。中でも寮・社宅については、「1万円前後で入ることができる」と利用料の安さとともに、「寮は一等地にある」「都内などの人気物件は、順番待ちになりますが、ほぼ希望は通っている」と好条件であり、社員からの評判も上々です。退寮後については、「27000円の補助のみ」となるようです。
日本郵政社員の給与明細(キャリコネ)
20代でも650万円超
20代営業(非管理職)の 給与明細
30代営業(非管理職)の 給与明細
年功序列とは言え、20代と30代で年収差がないケースも
20代管理部門(非管理職)の 給与明細
30代管理部門(非管理職)の 給与明細
日本郵政の職種別年収
■コースや職種で幅がある場合も
日本郵政の職種は、「総合職」と総称されますが、新卒採用の場合は、その中で「IT技術系」「建築技術系」など、専門分野別に採用窓口が分かれています。しかし賃金制度としては、「総合職」として共通であり、初任給についても、以下の通り、全コース共通で、学歴別に設定されています。
なお、初任給は近年引き上げられており、2021年度と2024年度を比較すると以下のようになります。
<2021年度初任給>
- 修士了/月給 220,500円~246,960円
- 大学卒/月給 212,500円~238,000円
<2024年度初任給>
- 博士課程了/月給 313,040円程度(コースや職種で幅あり)
- 修士了/月給 299,260円
- 大学卒/月給 290,300円
年代、職位別の年収目安としては、20代が450~600万円、30代主任クラスで650~750万円、課長クラスになると850万円を超える水準となります。
日本郵政社員の給与明細(キャリコネ)
職種が違えど年収はほぼ同水準
20代金融系(非管理職)の 給与明細
20代営業(非管理職)の 給与明細
30代は安定的に700万円を超える
30代広告宣伝(非管理職)の 給与明細
30代営業(非管理職)の 給与明細
日本郵政で年収を上げる方法
■年功序列の風土が色濃い
日本郵政の年収は、職位・資格と紐づいているため、年収を上げるためには昇格することが必要です。口コミを見てみると、「年功序列の色が濃い」という声が多数見られます。つまり、「長く働けば給与が上がるため、もちろん賞与も上がる」「成果主義の割合は低く年功序列に報酬は大きく左右される」とのことです。また、同社の賃金制度は、「役職が上がるごとに一気に給料が上がるシステム」であり、一般社員から主任、課長、と順に昇格するにつれて、大きく年収が上がるようです。
評価制度としては、「年度ごとに個人目標を各自定めて、その達成度合いに応じて、昇給やボーナスに反映される」という仕組みですが、実際は「よほどのことがない限り査定で悪い評価はつけられない」「標準的な評価人数が多く、ボーナス加算される人数は少ない」と、「横並び」評価であるようです。また、「昇進スピードは遅いが、マネージャーまでは必ず昇進できる」と、安定的・長期的に働きたい人にとっては魅力的な職場であると言えます。
日本郵政社員の口コミ(キャリコネ)
年功序列の風土が根強い
「民営化されたとはいえ今でもまだまだ年功序列 年齢が上であればお給料も上……」
年齢が上がれば、安定的に昇給できる
「相変わらずの横並び主義で年功序列 ある程度の年齢になるまで、不安定な経済情勢でも安泰……」
日本郵政への転職
日本郵政は中途採用を実施しています。公式採用ページや転職サイトで随時、職種ごとに求人情報が公開されています。
主な募集職種には、「総合職(営業企画・経営企画・商品開発・ロジスティクス・国際事業展開・不動産関連など)」や「IT・DX系の総合職」などがあります。管理・コーポレート、デジタル施策、システム関連も中途採用の主な領域です。
応募資格や歓迎される経験・スキルは職種によって異なりますが、総合職やIT職では実務経験や専門知識、マネジメント経験が求められるケースが多くなっています。
年収レンジは職種・経験・役割にもよりますが、求人例ではおおむね年収450万円〜980万円程度の提示が見られます。
コーポレートサイトによると、2023年度の中途採用数は、日本郵政グループ全体で408人。日本郵政単体では83人で、男性が23人、女性が60人でした。
なお、新卒採用は、日本郵政グループ全体で1,678人。日本郵政単体では23人で、男性が11人、女性が23人でした。新卒よりも中途採用数の方が多いことになります。
中途採用比率(各年度中に正社員として採用した数のうち、中途採用数と正社員登用数を合わせた割合)は、日本郵政グループ全体では65.2%。日本郵政単体では78.9%であり、比較的高めです。
伝統的な会社ということで、新卒重視のイメージもありますが、キャリア採用の道は十分開かれているといえるでしょう。
東京大学卒業後、大手自動車メーカー入社。人事部門に配属。女性の働き方プロジェクトリーダーを担当。