リコールの背景にも「誤ったコストダウン」
朝日新聞によると、4月にスズキが200万台におよぶリコール問題を発表したとき、記者会見では「スズキのお金をケチる考え方が根底にあるのでは」という質問が飛んだそうです。
これに対し、会長の長男である俊宏社長は「機能や性能品質を維持したうえでのコストダウンと理解すべきところが、誤った理解に結びついた」と答えています。記者の指摘を認めたといっていいでしょう。
企業口コミサイト「キャリコネ」には、会社の行き過ぎたコスト志向に不満を抱く社員の声が見られます。研究開発部門で働く30代の男性は、次のような危機感を訴えています。
「とにかくコストを絞りに絞って商品を作ってきたため、技術が他社に追いついていない。そのため、将来の生き残りをかけた他社との競争に負けるという危機感が上層部で出始めている」(2016.10.2)
男性社員は経営陣について、「会長がまだまだ影響力を持っているため、環境はすぐには変わらないと思う」と付け加えています。その環境とは、他社との競争において優れた技術よりもコストカットを優先する業務環境ということでしょうか。
「技術は取引先から買うものという風潮」
この社員と同様に「コストカット」と「技術」の問題を指摘する書き込みは、他にもいくつか見られます。機械設計を担当していた20代後半の男性は「この会社では技術者として成長できない」と感じ、退職を決めたそうです。
「技術は自ら創り出すものではなく、取引先から買うものという風潮が非常に強い。自ら開発をしないことで、開発費削減という最大のコストダウンを実現できるが、試行錯誤がないため一向に社内にノウハウが蓄積されず、技術レベルが極めて低い」(2017.5.21)
20代後半の技術関連職の男性も、「車を作ることに携われるのは非常に誇らしい」としながらも、やはり会社の技術レベルの低さを感じていると明かします。
「作っている車に乗せられている技術は他社と比較しても際立ったものがなく、この先、競争が激しくなる業界でどのように勝ち残って行くのか不安に感じた」(2017.8.12)
競合と比べて金額に遜色はないが
スズキの研究開発費は1581億円、うち四輪事業に1378億円を投入しています(2019年3月期、以下同じ)。1兆円を超えるトヨタや日産には及びませんが、売上高が近いマツダの1347億円と比べても大きな差がないように見えます。
それでは「技術は取引先から買うもの」という書き込みを含めて、技術面での不安を訴える社員の声がここまで多いのはなぜでしょうか。金額には表れない研究開発の弱さがあるのではないかと、いぶかしくなってしまいます。
社員の書き込みの中には、89歳にしていまだにカリスマ会長として君臨する修氏の存在がスズキの文化に影響していることを示唆するものが見られます。その文化が、リコール問題や技術面での出遅れにつながっているとすれば大きな問題です。