西川氏本人は関与を否定し「ゴーン体制時代の仕組みであり、見直しが必要」と述べているが、問題が起こっていることは事実だ。
日産自動車は1999年にゴーン氏によって掲げられた「日産リバイバルプラン」により、不採算工場の閉鎖、グループ人員の削減、保有していた下請け企業の株式を売却し、業績は急激に回復。つづく中期計画の「日産180」でもたちまち成果をあげ、2003年度には連結売上高営業利益率10.8%の黒字を達成、2兆1,000億円あった有利子負債も完済した。
ここ5年間の純利益は、景気や為替変動の波を受けながらも黒字を続けている。
劇的な復活劇を遂げてから早15年以上経過した日産だが、当時は身を切る思いをした社員も少なからずいたであろう。ここにきて相次ぐ経営者の醜聞に、現場の社員たちは「我々は大変な思いをしているのに、自分たちだけだけおいしい思いをしやがって」などと憤慨しているのではないかと勘ぐりたくなる。
そこでResaco編集部は、口コミサイト「キャリコネ」に寄せられた日産自動車社員やOB・OGの口コミを分析し、同社の企業体質を探ることにした。あくまで従業員目線であることから、社会的・道徳的・倫理的な観点からは判断しないことを注意したい。
意外と不満は少ない?
まず、今回の分析にあたっては、ハーズバーグの2要因理論を用いた。この理論では職務における満足度と不満足度はそれぞれ別々の要因に引き起こされるものとされている。ここでは社員の満足度・不満足度を通じて企業体質を推して知ろうとするものである。ハーズバーグの2要因理論についての説明は割愛するが、各項目についての説明は以下の通りである。
各項目に沿って口コミに点数を付与して集計する方法を用いた。具体的な方法は以下の通り。
そうして得られた結果がこのグラフだ。
グラフ上部がポジティブな感情を、下部がネガティブな感情を抱いていることを表している。
まず、この結果を見て判断したのは、「社員は会社に対して割といい感情をもっている」のではないかということだ。
項目ごとにポイントを集計し、要因ごとに合算した結果、動機付け要因は7.7ポイント、満足度要因も7.7ポイントと、両要因ともプラスになっている。もう少し細かく見ていこう。
自分の仕事が認められ、成長できる環境
まずは動機づけ要因から。このエリアのプラスポイントが多いとモチベーションが高いことを表す。
この中で顕著なのが「承認」だ。「達成すべきコミットおよびターゲットを設定し、達成度90パーセントあればボーナスは満額もらえる」といった、賃金的に評価してもらえることや「結果だけを求められるのでは無く、プロセスもしっかり加味されるので、失敗を恐れずにチャレンジできる。」といった仕事の内容の評価などがモチベーションを高めていることがうかがえる。
モチベーションを下げる要因としては「女性が働きやすい環境だが、職制以上になるには、男性と同様のアウトプットを求められるので、異動等も含め、子育てとの両立は非常に難しい」という、ダイバシティ経営が裏目に出た部分もあるようだ。
次にプラスポイントが多かったのが「昇進と成長」。
「上司、同僚、部下が多国籍で構成されるため、英語力、グローバルなマインドセットは大変鍛えられる」「若い時から海外勤務を経験、4カ国の出向経験をさせてもらえ、キャリアアップにつながった」といった、グローバル企業化した環境を賞賛する声が上がっている。マイナスポイントでは「海外経験ができなかった」ことを挙げており、そこに不公平さを感じているようだ。
外国人、中途入社、女性…ダイバシティに満足度が集まる
それでは次に衛生要因を見てみよう。グラフを見てのとおり、「作業環境」にプラスポイントが集まっている。
「キャリアにおいて男女差は無い」「ワーキングマザーに配慮した制度が多々ある。また在宅勤務も可能なため、プライベートと調整して働くことが可能」「日本人・外国人・新卒入社・中途入社に関係なく、すべての社員に出世・活躍の機会が与えられる。人種や性別、学歴等による差別は明確に禁止」といった声が多いことから、ダイバシティ化されたことに対する満足度が非常に高いことがわかった。
対してマイナスポイントを多く集めた「経営方針」では、「製品に対するこだわりが感じられない。商品としての魅力に乏しく、社員として欲しいと思われるクルマがない」「日本メーカーまたは自動車メーカーというプライドもないほど、収益志向が強く開発費や経費削減が大目標」といった、ドライな姿勢を疑問視する声が多かった。
改革真っ只中の15年前なら罵詈雑言が飛び交っていたのかもしれないが、少なくともここ数年は社員にとってはいい職場であるようだ。
この環境を作り出したのは、カルロス・ゴーン氏の功績かもしれない。だからこそ上層部のつまらぬ私利私欲で、社員の仕事に対する真摯な思いや、良い仕事環境を壊すような真似はしないでもらいたいものだ。