就職活動と同様に転職先候補として、仕事の内容が似通っている同業他社を選択肢にする場合も少なくありません。待遇面を見比べるのは容易だとしても、勤務先の状況や雰囲気など内情を比較することはなかなか難しいものです。そういう場合にもっとも有効的なのは口コミを活用すること。今回は日本を代表する鉄道会社のJR東海とJR東日本の2社を比較します。
働きやすさは、ほぼ互角の評価
まずは「働きやすさ評価チャート」を見てみましょう。 このチャートは、キャリコネの口コミ投稿者に、労働時間、仕事のやりがい、仕事のストレス度、休日数、給与、ホワイト度の各項目についての満足度を5点満点で評価いただき、その平均を表しています(総合評価は6項目の平均値)。点数のつけ方には基準を設けておらず、主観的な判断で採点してもらっています。
グラフが重なるほど、両社の口コミ評価は拮抗しています。「働きやすさ」の総合評価では、JR東海3.2、JR東日本3.3と、その差はわずかマイナス0.1ポイントしかありません。
個別に見ていくと、「仕事のやりがい」「仕事のストレス度の低さ」などでは拮抗していますが、JR東海が「給与の満足度」のポイントを多く獲得しました。JR東日本は「労働時間」「休日数」「企業のホワイト度」でポイントを多く獲得しています。このことから、JR東海では仕事内容に対しての給与の満足度、JR東日本では余暇への満足度が高いことが特徴です。
両社ともに、「仕事のストレス度の低さ」では平均である3を下回っていますが、他の項目は全て3を上回っています。総合的に見て従業員の満足度は高いといえるでしょう。
口コミのポイントではJR東海が優勢
続いて、実際に投稿された口コミを分析していきます。
同じく投稿者の主観的な目線での情報ですが、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した二要因理論を応用し口コミを分析、数値化しました。
二要因理論にならい、動機づけ要因に「達成」「承認」「仕事」「責任」「昇進と成長」、不満誘発要因に「経営方針」「監督」「人間関係」「作業環境」「賃金と雇用の安定」を設定し、1つの口コミに対し、プラス評価なのかマイナス評価なのかを判断してポイントを加算していきます。そうして算出された結果が【図2】のグラフで、各項目が獲得した数値は左の表に記載しました。
両社を比較したところ、動機づけ要因(モチベーション)ではJR東海が-2.6ポイント、JR東日本が-10.8ポイントと、2社ともマイナスですが、その差は約8ポイントとJR東海のほうがプラスに寄っています。
これは、JR東日本よりも、JR東海のほうが、仕事に対する「やる気」「意欲」を維持しやすい、すなわち積極的な動機付けが行われている環境である、ということを意味しているのでしょうか。
動機づけ要因のポジティブ意見/ネガティブ意見をみながら、両社の違い、そして共通点を類推していきましょう。
■動機付け要因
まず、モチベーションを高めたポジティブ要因を分析します。
目立つのは2社で大きく差がついた「仕事」の項目です。この項目は、仕事そのものの面白さや楽しさを表しており、JR東海がJR東日本の2倍以上のスコアになっています。実際の口コミを見ていきましょう。
JR東海では「日本のインフラを支えているという誇りがある。」「東海道新幹線やリニアを支えているのだと考えるとやりがいを感じる。」「さまざまな方と出会う機会があるということが一番大きいです。」、JR東日本では「駅業務については完全なお客様相手の接客業なので、大変な部分もあるが感謝されたり他の社員と協力して一つのことをやり遂げるとやりがいは感じます。」「社会の当たり前を当たり前のままにすることの苦労と面白さはインフラ企業ならではと思う。」という口コミが見られました。
どちらの会社でも、お客様からの感謝と日本の重要なインフラを支えていることにやりがいを感じているようです。内容はかなり似ていますが、ポジティブな口コミの数はJR東海のほうが多くなっていました。
それでは、モチベーションを下げたネガティブ要因を見ていきます。
「承認」のスコアが、両社ともに低く出ました。ポジティブ意見vsネガティブ意見のポイントで比べると、JR東海ではネガティブ意見がポジティブ意見の約3倍。JR東日本では約2.2倍です。
つまり、仕事をきちんと評価されたと満足している人が一定数いる一方、正当に評価されていないと感じている人はその2倍以上いるわけです。
JR東海では「完全に学歴社会であると思われる。大学、大学院卒で入社した場合は、現場を数年経験し、支社、本社を経験して、出世して現場のリーダーとして帰っていく。高卒で入社した場合は一生現場で仕事をするか、その中で優秀な人は間接に何人か上がっていくが、係長以上に出世する人は稀であると思われる。」「総合職はほぼ横並びで出世し、差がつくのは40代から。プロフェッショナル職は体育会系で上司といい関係を築ける人間が出世するが、総合職と比べると格段に遅い。」、JR東日本では「管理職手前までは昇進試験により昇進していく。筆記と面接があるが、点数などは非公開なため、透明性に欠けるところがある。」「頑張らなくてもボーナスに多少の差が出るくらいで給料は変わらないので、一生懸命やっている社員は面白くないと思います。」「ポテンシャル採用とプロフェッショナル採用の二つがあり、入社の時点で大きく出世のし易さが異なります。最近はどの役職もポテンシャル採用が多くなってきており、今後のプロフェッショナル採用での入社については大きな昇進は難しくなると思います。ポテンシャル採用者をみると明らかに高学歴者が多いです。」という口コミがみられました。
どちらの会社も学歴が昇進や採用に少なからず影響しているようです。また、基本的には給与は横並びということも共通点としてあげられます。
次に、「仕事」の項目についてみていきましょう。
JR東海では「仕事自体は単純なので、やりがいを感じにくい人も存在する。」「ひとつのミスも許されないというプレッシャーのなか仕事をこなしています。」「東海道新幹線やリニア建設という大事業を持ちながらも、巨大組織の一部へと埋没し、全体感をもった仕事は簡単には出来ない。」、JR東日本では「基本的にルーティンワークが多い。」「仕事に何を求めるのかによる。技術的な内容や頭脳労働が好きな人には、非常に物足りない(というかそういう仕事が存在しない)」「系統と呼ばれる業務分担がはっきりしていて、あまり協力し合う雰囲気ではない。他部署との調整や上司へのお伺い(決裁)に時間がかかってストレスを感じる。」「駅によっては和気あいあいなところもあれば、ノルマ的なものを重視する駅もある。小さな駅だと、一人当たりの負担も大きい。」という口コミが見られました。
どちらの会社にも共通しているのは、ルーティンワークが多いためやりがいを感じ辛いことや、自身の成長に繋がらないという意見です。一方、JR東日本では、他部署との連携の難しさとノルマに関する意見もありました。
■満足度要因
「経営方針」「監督(上司の監督スキル)」「人間関係」「作業環境」「賃金と雇用の安定」という5つの要因がありますが、これらの要因について「不十分である」と感じたときに、人は不満足感を覚えます。ただし、これらの要因がたとえ満たされたとしても、いわば当たり前であるべきことなので、積極的な満足感をもたらすとは限りません。
ここでも、両社の共通点が見出せます。ともに「作業環境」「賃金と雇用の安定」における満足度が、他項目よりも高いという評価を得ています。実際の口コミを見ていきましょう。
まずは「作業環境」です。この項目は残業時間や休日出勤、福利厚生などを表しています。
JR東海では「残業はほとんどありません。パソコンをつけていた時間が勤務時間となり、たとえ残業をしたとしてもその時間で5分単位の残業手当がつきます。」「部署にも依りますが、平均して月に30時間程度です。休日出勤は、災害や事故が発生しない限りは無いようです。」「東海道新幹線に格安で乗れるのが最大の長所。」「住宅補助なども出ますし福利厚生面での不満を聞いたことはあまりありません。」、JR東日本では「コンプライアンスを非常に気にするので残業は月に45時間を超えることは無い。たとえ仕事が残っていようが、帰宅させられる。」「福利厚生はいい。有給休暇は100%取得できるが、お盆や年末の休暇を有給で取る必要があり、自分の都合で長期休暇を取ることは難しい。寮は35歳まで入居可、社宅は15年の入居制限があるが、料金は格安。」「列車は基本無料、新幹線は破格の値段なので、旅行好きにはよい制度となっている。」「子会社のスポーツジムが格安で利用できたり、スキー場の大幅割引、社員とその家族専用の切符を購入できる制度があったりする。すべてをフル活用すれば、年間で100万円以上の価値はあるように思う。」という意見がみられました。
JR東海では残業の少なさや透明性についての口コミが多くなっています。JR東日本ではそれに加えて福利厚生の充実度についての口コミがかなり多くなっていました。このあたりは大企業の特権といえるでしょう。
次に「賃金と雇用の安定」についてです。
JR東海では「基本給に関しては同世代と比べれば平均か少し良い程度。基本給+各種手当の合計としては、平均以上の印象。年収の中の賞与の割合も多く、全体の年収は世間一般からみればとても良い。」「現在の仕事内容や仕事量に対する報酬は満足です。日々勉強等に時間を割く必要があります。今後も年功序列で報酬が上がっていくみたいです。」、JR東日本では「毎年、定期昇給が実施されるため、全く昇進しなくても600万程度まではいく。主務職以上に昇進するとでる手当が大きい。地方と首都圏で年収がかなり変わる。」「月給の基本給は低めで、手当てで稼いでいる会社。残業代は1分単位でしっかり出る。ボーナスはおよそ6ヶ月分で、かなり高め。非現業機関の方が手当ての関係上給与が良い。」という意見が見られました。
どちらの会社も手当てやボーナスの割合が大きい構成になっているようですが、JR東日本のほうが手当による給与の差に関する口コミが数多くありました。
それでは最後に、不満足を感じるネガティブ要因を見ていきましょう。
作業環境については、両社ともに不満足の要因となっています。ポジティブ意見のポイント数よりやや多い程度あることから、振れ幅が大きい項目といえます。個人差が出ているのかもしれません。
実際にJR東海では「36協定内を守るため、自分の仕事配分を間違えるときつい時期がある。残業は少なくない。36協定を超えそうなときは、PCの電源を切り隠れて残業をしたりする人もいるのが現状」「部署や系統によって大きく異なる。事務系<運輸<車両<土木<電気というような感じ。」「自分の部署では残業が多い。残業代は出るが、普段の仕事以外に改善活動など、事実上のサービス残業が存在し、非番の日に夜まで仕事場にいることもある。また、休みの日に労働組合の活動に出なければならないこともある。給料はいいかもしれないが、プライベートは皆無。」、JR東日本では「技術系職場のほうが圧倒的に残業が多い。保守部門だと異常時対応で休日出勤もある。工事部門は常に残業が多い印象。」「いわゆる鉄道の現場と支社や本社のような管理部門では、働き方がかなり異なることに注意が必要。特に人事部門は効率化の正社員の数を削減している中、業務が減るどころか増えているので、結果的に残業や休日出勤が多くなる。多い月では100時間程度の残業をすることもある。」「非常にウェットな組織であるため、上司や同僚のつきあい残業、もしくは休日活動(ゴルフ、社会人野球、組合活動)に積極的に取り組むことが重要。」という意見がありました。
どちらの会社も残業削減に向けて取り組んでおり、口コミが投稿された日時が新しくなるにつれて改善されてきているように感じますが、まだ部署や職種による差が大きいようです。また、両社ともに社員同士の繋がりが強いため、自分が社外でのコミュニケーションを楽しむタイプか、よく考えたほうがよさそうです。
次に、「賃金と雇用の安定」ではJR東日本がマイナスポイントを獲得しています。
実際の口コミを見てみると「基本給が低い分手当でカバーされているところがある。しかし、通常業務をするだけで手当がつく職場がある一方、多忙であるが手当がほとんどつかない職場もあり、業務負荷に対しての報酬格差が著しい。」「現場のほうが手当が多く支給されるため、昇進して支社や本社に行ったほうが給与が低くなるケースも多々ある。」と、手当に関する意見が多く見られました。
口コミから読み取れる居心地の良さはほぼ互角、社風も相似。
どちらの会社も日本のインフラを担っているだけあって安定性抜群の会社です。口コミの内容を分析してみると、働き方や社風がかなり似ている二社。
JR東海ではリニアモーターカー事業があるため、仕事へのモチベーションが更に高くなっていると感じます。JR東日本の方が福利厚生の充実度が高いと読み取れましたが、職務手当てに関して不公平感がありそうです。
この様に社員の口コミを読むことで、リアルな職場を知ることができます。口コミを利用して実際に希望の会社で活躍している自分を想像した上で、転職活動をすることをオススメします。