就職活動と同様に転職先候補として、仕事の内容が似通っている同業他社を選択肢にする場合も少なくありません。待遇面を見比べるのは容易だとしても、勤務先の状況や雰囲気など内情を比較することはなかなか難しいものです。そういう場合にもっとも有効的なのは口コミを活用すること。今回はともに日本を代表するコンピュータ関連企業であるHPとIBMの2社を比較します。
働きやすさはほぼ互角だが、休日数はHP、給料の満足度はIBMが優勢
まずは「働きやすさ評価チャート」を見てみましょう。このチャートは、キャリコネの口コミ投稿者に、労働時間、仕事のやりがい、仕事のストレス度、休日数、給料、ホワイト度の各項目についての満足度を5点満点で評価したものの平均を表しています(総合評価は6項目の平均値)。点数のつけ方には基準を設けておらず、主観的な判断で採点してもらっています。
総合評価ではHPは3.2、IBMは3.1とさほど差がありませんが内訳をみるとやや違いがあることがわかります。
HPは全ての項目が3以上を獲得しており、社員の満足度は高いと言えます。特に休日数は3.7とかなり満足していることがうかがえます。
一方でIBMは、仕事のストレス度の低さと企業のホワイト度で3を下回っています。しかし、こちらも休日数は3.4と高得点を獲得しており、給与の満足度も3.2とHPを少し上回っています。
一方、口コミ分析では、日本IBMの評価は上々
続いて、実際に投稿された口コミを分析していきます。
同じく投稿者の主観的な目線での情報ですが、アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグが提唱した二要因理論を応用し口コミを分析、数値化しました。
二要因理論にならい、動機づけ要因に「達成」「承認」「仕事」「責任」「昇進と成長」、不満誘発要因に「経営方針」「監督」「人間関係」「作業環境」「賃金と雇用の安定」を設定し、1つの口コミに対し、プラス評価なのかマイナス評価なのかを判断してポイントを加算していきます。そうして算出された結果が【図2】のグラフで、各項目が獲得した数値は左の表に記載しました。
2社を比較したところ、動機づけ要因(モチベーション)ではHPが-2.1ポイント、IBMが6ポイント、満足度要因ではHPが-0.7ポイント、IBMは0.7ポイント獲得しています。数字上ではIBMに軍配が上がっていますが、単純にHPの社員はIBMの社員よりも不満を抱えているということなのでしょうか?
動機づけ要因、満足度要因それぞれのポジティブ・ネガティブ意見をみていきましょう。
■動機付け要因
IBMでは「女性であることを理由に昇進や待遇で損をすることは一切ない」「ダイバーシティを推進していることもあり、女性は出世コースに上がりやすい」「成果を出していれば、それなりに評価される環境にある。」という女性の活躍に関する口コミが多く見られました。一方、HPでは承認に関するポジティブな口コミは見られませんでした。
「仕事」では両社共にポジティブな口コミが多く見られました。「仕事」の項目は仕事への興味や、やりがいを示しています。
HPでは「社会的な大規模システムについて、単なるハードウェアベンダとして参画するのではなく、トータルソリューション提供できることについてはやりがいを感じます。」「社会のインフラになっているシステムの構築を行う事も多いのでやりがいがある。」
IBMでは「プロジェクト予算も大きく大掛かりな案件に携わることができる点にやりがいを感じる。」「若手であっても、IBMの看板のおかげで、大きな仕事も任せてもらえる。」という口コミが多く見られました。両社共に大きな仕事に関われる事にやりがいを見出しているようです。
「昇進と成長」ではIBMが約2倍のポイントを獲得しています。実際の口コミを見てみましょう。
HPでは「社内研修もとても充実しており、基本的には希望した研修には参加可能な状態。」「どこでも通用する人材にしてくれるのでおつりがくるほどです。」
IBMでは「非常に優れた人、およびそれに体化されたナレッジがあり、それが共有される環境にある。e-learningも優れたものが多い。」「多くの優秀な人材がおり、様々なプロジェクトを経験すれば、仕事をする過程で、多様なスキルを身につけることができる。」「中途入社は必須で受ける研修の期間が短く、現場で即戦力として働く傍らで自主的に社内の研修に参加し必要なスキルを高めることが求められる。」
両社共に研修の充実に関する口コミが多く見られましたが、IBMでは仕事を通じて技術の習得や、人間的な成長に繋げる事ができたという意見が特に多くみられました。ポイントには差がついていますが、どちらも研修体制や成長の実感が強い会社だと感じます。
日本アイ・ビー・エム社員の口コミ(キャリコネ)
成長について
「若いうちから仕事が任され、多数の経験によりスキルアップを望むことが出来ます。 さらに、プロジェクトに恵まれると貢献賞などのAwardもいただくことができ、……」
HPでは「休日もメールを飛ばしている社員が頑張っていると評価される風潮があり、外資によくある成果主義に沿わない部分もある。」「上に行けば行くほど外国人の上司に英語で報告する必要があるので、英語でコミュニケーションが取れることが条件となる。日系大企業とちがって、人事部が客観的に評価するような仕組みはないので、直属上司の評価がすべてであり、それが良ければ出世の可能がある。」
IBMでは「評価は上司からの一方的な評価のみ。感情での評価。」「英語ができないと出世の機会は極端に減ります。また、担当するお客様によっても出世のチャンスは大きく変わります。」「人事制度が機能しておらず、極めて短期的なオペレーションで給与調整がなされている。」という口コミが見られました。
両社共に、一般的な大企業の人事評価とは違い、上司の裁量が大きいようです。外資系の特徴ともいえますが、この評価方針が自身に合うかどうかよく考えたほうが良さそうです。加えて英語力も求められていると感じました。
日本ヒューレット・パッカード社員の口コミ(キャリコネ)
出世しやすい人について
「管理職は外部採用がほとんどです。上になればなるほど海外とのコミュニケーションが必要になるので、 英語ができ、かつ人間関係をうまく立ち回れる人が……」
■満足度要因
HPでは「社員の方が皆さん良い方ばかりで、部署が違うメンバーの方ともチームで仕事をしている感覚が得られ、モチベーションがあがる。」「部下と上司の関係は非常にフランクで、上司に対してものをいうこともできる。」というスムーズな意見交換に関する口コミが多く見られました。
一方IBMでも「子会社・ベンダーの方も一緒に働きますが、見下したり、理不尽なことをいう人は中々見たことありません。」という口コミが見られましたが、HPほどの風通しの良さを感じさせる口コミはありませんでした。
次に目立つのは「作業環境」の項目で、これは残業時間や休日に加えて、福利厚生や時短業務が可能か等を表しています。両社共にこの項目はポジティブな意見とネガティブな意見どちらも多く寄せられており、かなり意見が割れています。ここではポジティブな口コミを紹介します。
HPでは「在宅勤務などのインフラ整備も整っているので、どこでも仕事ができるしプライベートとの都合も付けやすい。」「フレックス制度を取り入れているので、出社時間は基本自由です。」「担当するプロジェクトや時期によっては忙しい時もあるが、残業は多くは無い。」「福利厚生は、保養施設の数の多さや補助金等など、とても充実していました。」
IBMでは「基本的には、帰ろうと思えば18時に帰れる。自分の仕事をしていて、チーム全体の業務量が多くなければ、何も言われない。」「仕事が出来れば好きなときに来て仕事をすればよい。フレックス制度もあり出来る人に至っては働きやすいと考えられる。」「時短勤務を活用して育児と両立するなど、ライフワークバランスを調整しながら働いている社員も多い。」という口コミが見られました。
両社共にプロジェクトによって忙しさにかなり差があるようですが、フレックス制度が導入されており、仕事が終わっていれば帰ることのできる風土といえます。二社を比較すると、HPの方が出勤時間や働く場所に関して自由な印象を受けました。一方IBMでは育休や時短での働き方に関する口コミがHPよりも多く見受けられます。
日本ヒューレット・パッカード社員の口コミ(キャリコネ)
社内のイベントや雰囲気について
「職場では四半期ごと、または、半期ごとに様々なイベントがあり、日常的な仕事があるにもかかわらず、 イベントのほうを優先する場合もあるほどだ。それだけ職場の雰囲気としては……」
HPでは「上層部は特によその会社からヘッドハンティングで入ってきたばかりの方々が占めていて、プロパー社員はモチベーションが保てないのではないか」「マネジメントの各々の階層で求めるものが具現化されず、目標イメージにズレが生じており、現場の社員で混乱を招く。」という辛口のコメントが目立ちました。
一方IBMでも「将来のビジョンが描けておらず、方向性も曖昧なままこの数年経過しており、既にリカバリーできない状態となっている。」「日本においては明確な戦略がなく北米から降りてきた支持を実行している面が強くある。」と、HPほど多くはないものの、ネガティブな口コミが見られました。
次に、両社共にネガティブ意見が多く寄せられた作業環境について見ていきます。
HPでは「休日出勤はなくても家で仕事をするケースが多い。」「基本的にPCを持ち歩くスタンスなので、プロジェクト参画の内容によっては、休日も平日もありません。」
IBMでは「土日もよく働くのでメールが飛び交う環境です。モバイル環境も整っているので、良くも悪くも休暇先でも対応することが可能です。」「裁量労働制となっており、残業を付けられない」「トラブルになることも多く、その都度プライベートが犠牲になっていく。」という口コミが寄せられました。
両社を比較すると、HPではどこでも働けるシステムにより、メリハリを付けづらいことがマイナス要因になっているようです。IBMではプロジェクトの忙しさやトラブルにより残業や休日出勤が発生し、マイナス要因となっています。
最後に、「賃金と雇用の安定」についてです。こちらの項目ではHPが大幅にマイナス評価となっています。
実際にHPでは「良い評価を得る事も度々あったが、長期間昇給せず、昇給しても昇給額が低い。」「ワークライフバランスは良かったが給料が上がらなかったため転職を決意した。」「定期昇給的なものはありません。一度入社すると、なかなか上がりません。」といった、昇給に関する不満により転職を考えるに至ったという口コミがかなり多く寄せられました。
「中途採用時にどれだけよい待遇で入社するかが肝。」という口コミもあるため、採用時の交渉によってその後の満足度が大きく変わってきそうです。
日本アイ・ビー・エム社員の口コミ(キャリコネ)
残業について
「この業界共通だと思うが、総じて残業は多い。ほとんどのロールが裁量労働制となっており、 残業を付けられない。大きなシステム作業などは休日作業が前提となるケースが多く、……」
一見似ている会社だが、働き方に違いあり
日本ヒューレット・パッカードと日本アイ・ビー・エム、どちらも大きなプロジェクトを経験できるため、働いている人は生き生きと仕事を楽しんでいる印象をうけました。
一方、不満点などを掘り下げると、働き方に違いを感じました。
日本ヒューレット・パッカードはどこでも働けるため、いかに自身でメリハリを付けられるかという点が重要になってきます。日本アイ・ビー・エムは基本的に出社してのトラブル対応やプロジェクトに追われている印象です。しかし、日本アイ・ビー・エムでは育休や女性管理職の増加など、女性の働きやすさについての言及が多く見られました。
自分はどの様なライフスタイルを送りたいか良く考え、どちらの会社に入るかを選ぶと良いと思います。
また、両社共に外資系ならではの評価制度が課題として多く挙がっていました。特にHPでは昇給の少なさが退職理由として多く口コミにありましたので、一考する必要があります。
会社の特色は多岐に渡り、十人十色ならぬ十社十色といえます。ぜひ今後の転職活動に口コミを活用し、あなたにぴったりの会社を選んでください。