本記事は、DXCテクノロジー(DXC Technology Company、米DXC)が投資家や規制当局に向けて英文で公表した以下の開示書類に加え、日本国内の採用実務に関する公式情報を照らし合わせ、転職志望者の視点で多角的に分析しました。
- Form 10-K:2025年3月31日を期末とする米国証券取引委員会(SEC)年次報告書。詳細な財務データ、事業リスク、セグメント別業績の法的報告。
- Proxy Statement(Form DEF 14A):2025年6月発行。役員報酬体系(調整後EBITマージン、有機的収益成長率、フリー・キャッシュ・フロー等との連動)およびガバナンスの詳細報告 。
- Annual Report 2025:経営陣による戦略メッセージ(CEOレター)と事業概況、中長期的なビジョンの報告。
- DXC 2024 ESG Report(GRI Report):人的資本経営、認定資格保有数、人材育成(リスキリング)、DEIの実績報告。
1. DXCとはどんな会社か:組織の簡素化と「運用上の規律」を追求するITサービスリーダー
DXCテクノロジー(以下、DXC)を検討する上で不可欠な視点は、同社が現在、巨大合併に伴う複雑性を解消し、「運用上の規律(Operational Discipline)」に基づく収益構造の抜本的な転換期にあるという事実です。
2024年に就任したラウル・フェルナンデスCEOの下、同社はミッションクリティカルな支援を中核に据えた「文化のリセット(Culture reset)」と「パフォーマンス駆動型文化(Performance-driven culture)」への移行を進めています。
■1-1 沿革:CSCとHPESの統合による「独立系」最大手の誕生
DXCは2017年4月1日、コンピュータ・サイエンス・コーポレーション(CSC)と、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)のエンプラ・サービス事業部門(HPES)がスピンオフ・合併する形で誕生しました。
- CSC(1959年創業):ITアウトソーシングのパイオニアとして、米連邦政府や金融機関など、極めて公共性の高い広範な顧客基盤を保有。
- HPES(旧EDSの資産を継承):エレクトロニック・データ・システムズ(EDS)時代からの強固なインフラ運用能力と、グローバルなデリバリー拠点を保有。
この統合の目的は、特定のハードウェアやソフトウェアの販売(再販)に依存しない「独立系ITサービスプロバイダー」として、世界最大級の規模を確立することにありました。現在ではフォーチュン500企業の約半数を顧客に持ち、世界の重要インフラの稼働を支える役割を担っています。
■1-2 経営陣:CEOラウル・フェルナンデスによる「文化のリセット」と「規律」の徹底
ラウル・フェルナンデス(Raul Fernandez)氏は、2024年2月1日に社長兼最高経営責任者(CEO)に就任。その経歴はDXCが現在進めている「財務・運用の規律強化」と「組織文化の刷新」の両面を裏付けるものです。
- 実務と統治の経験:1991年にeコマースソリューションの先駆者である「Proxicom」を創業し上場させた起業家としての側面を持つ一方、Broadcom Inc. や GameStop Corp. の取締役を歴任し、資本効率と企業ガバナンスの専門家としての知見を有しています。
- プロスポーツ経営への関与:NBAワシントン・ウィザーズやNHLワシントン・キャピタルズ等を傘下に持つMonumental Sports & Entertainmentの副会長も務めています。
- 戦略的優先事項の提示:CEO就任直後から、組織の「文化のリセット(Culture reset)」を宣言しました。これは、意思決定の階層を削減し、20名以上の新たなシニアリーダーを外部から招聘することで、説明責任(Accountability)が明確な「パフォーマンス駆動型文化(Performance-driven culture)」へ移行させるためのものです。
- 運用上の規律と実行:同氏は経営の柱として「運用上の規律(Operational Discipline)」と「実行力(Execution)」の強化を掲げています。これは、持続的で収益性の高い成長(Sustained, profitable growth)を実現するために、すべての業務プロセスにおいて高い基準を課すことを意味しています。
■1-3 Mission & Values:世界を動かすインフラを支える「社会的責任」
DXCは現在「ミッション」と「5つのバリュー」を経営の指針としています。
Mission(使命)
- "To deliver mission-critical IT services that move the world’s most important companies and government agencies."(世界を動かす重要な企業や政府機関に、ミッションクリティカル〔任務遂行に必要不可欠〕なITサービスを届けること)
このミッションに基づき、同社は自社の役割を「世界の重要機関を動かすインフラの守り手」と再定義しています。これは、後述する第2章の財務戦略(低収益な非中核事業の縮小・撤退)を正当化する強力な基準となっています。
Values(行動規範)
5つのバリューは、社員の具体的な行動指針であると同時に、評価制度の核となる評価項目です。
- Deliver(確実な遂行):原文は "We do what we say we are going to do."。言ったことを確実に実行するという誠実さと実行力を最重要視しています。
- Do the right thing(誠実な行動):常に高い倫理基準を持ち、正しい判断を下す。
- Care(思いやり):多様性と包摂性を尊重し、バーチャル・ファーストの働き方を支援するインクルーシブな環境を作る。
- Collaborate(協力):グローバルな知見を統合し、一つのチームとして機能する。
- Community(コミュニティ):持続可能な社会への貢献。
Values and mission | DXC Technology
Our values drive our people and impact our customers and communities.
■1-4 日本法人:独立系としての提案力と「バーチャル・ファースト」
日本法人であるDXCテクノロジー・ジャパン株式会社(代表取締役社長:西川望)は、国内に1,200名以上の従業員を擁する成長拠点です。
日本市場における最大の強みは、特定のメーカーの制約を受けない「ベンダーフリー」な立ち位置にあります。これにより、メインフレームやレガシーシステムからの脱却を図る国内大手企業に対し、AWS、Azure、SAP、ServiceNowなどを中立的に選定し、組み合わせる提案が可能です。
また、2021年から導入された「バーチャル・ファースト(Virtual-first)」は、単なる在宅勤務制度ではなく、バリューの「Care」を具現化しつつ、物理的なオフィス面積を最適化する「資産軽滅型(Asset-light)」経営を日本で実践するモデルです。社員の自律性を重んじるこの働き方は、現在のDXCが求める「パフォーマンス駆動型文化」の象徴となっています。
2. 業績と事業ポートフォリオ:規律ある経営がもたらした「量から質」への転換
フェルナンデスCEOによる「文化のリセット」と「運用上の規律」の徹底は、最新の財務諸表に顕著な結果として現れています。DXCの最新業績(FY2025)のポイントは、収益性の向上と財務基盤の健全化という「質の変化」にあります。
■2-1 主要財務指標:戦略的減収の裏にある「高利益率案件」へのシフト
2025年度の決算数値は、同社が規模の拡大よりも「マージン(利益率)の確保」を優先する規律ある経営へ移行したことを明確に示しています。
| 指標 | FY2025(実績) | FY2024(実績) | 前年比(増減) |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 128.71億ドル | 136.67億ドル | -5.8% |
| 調整後EBIT | 10.19億ドル | 10.09億ドル | +1.0% |
| 調整後EBITマージン | 7.9% | 7.4% | +0.5pts |
| 調整後希薄化後EPS(1株当たり利益) | 3.43ドル | 3.10ドル | +10.6% |
| フリー・キャッシュ・フロー | 6.87億ドル | 7.56億ドル | -9.1% |
主要財務指標の推移
2025年度の売上高が前年比で5.8%減少した主な要因は、マクロ経済環境の影響に加え、フェルナンデスCEOが進める「低利益率事業からの戦略的撤退」にあります。具体的には、収益性の低いハードウェア再販ビジネスの縮小や、採算の合わない顧客アカウントの整理を断行した結果です。
特筆すべきは、減収にもかかわらず本業の利益を示す調整後EBITが微増し、マージンが0.5ポイント改善して7.9%に達した点です。これにより、最終的な1株当たり利益(調整後EPS)は前年比10.6%増の3.43ドルを記録しました。
これは、売上の量を追うのではなく、1件あたりのプロジェクトの「質(収益性)」を徹底的に管理する「運用上の規律(Operational Discipline)」が奏功していることを裏付けています。
■2-2 キャッシュフロー重視の経営:負債圧縮と投資余力の確保
転職者が企業の長期的な安定性を測る上で最も注視すべき指標が、キャッシュ・フローと負債の状況です。
2025年度、DXCは6億8,700万ドルのフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を創出しました。この資金の使途において、同社は極めて規律ある資本配分を行っています。
- 純有利子負債(Net Debt)の削減:1年間で負債を7億8,500万ドル削減しました。
- 株主還元:3億ドル規模の自社株買いを実施し、資本効率を向上させています。
また、負債を圧縮し財務基盤を強固にすることは、金利負担を軽減し、将来的な成長投資(AIプラットフォームの開発等)や従業員への還元に回せる原資を確保することを意味します。10-Kにおいても、この強固なバランスシートの構築は、持続的な成長(Sustained growth)のための最優先事項として位置づけられています。
■2-3 セグメント別分析:GISからGBSへ、成長領域の見極め
DXCの事業は、高付加価値なサービスを担う「GBS」と、IT基盤を支える「GIS」の2つのセグメントで構成されています。
- GBS(Global Business Services):2025年度の売上高は67.43億ドル、利益率は12.0%を維持しています。後述する第3章の「プラットフォーム戦略」の主戦場であり、コンサルティングやAI活用といった高マージン案件が収益を牽引しています。
- GIS(Global Infrastructure Services):売上高は61.28億ドル、利益率は7.2%(前年比0.5ポイント向上)となりました。売上高は減少傾向にありますが、これは「資産軽滅型(Asset-light)」モデルへの移行によるものであり、運用効率の徹底的な追求(Execution)によって利益率の底上げを実現しています。
これらの財務結果は、第1章で述べた「文化のリセット」が、数字に裏打ちされた経営実務として浸透していることを証明しています。売上減少の裏側で、DXCは「利益を生む力」を確実に強化しています。
3. 事業と組織:収益構造を支える「独自のソフトウェア基盤」と「資産軽滅型モデル」
「売上減少局面における利益率の向上」を支えているのは、DXCが提供するITサービスの「中身」の変化です。同社は現在、ベンダーフリーの「中立性」を維持しつつ、自社の知的財産(Proprietary IP)をソリューションに組み込む戦略を推進しています。
■3-1 独立系のジレンマと、それを打破する収益モデル
DXCのビジネスは、特定のハードウェアやソフトウェアの自社販売に縛られない「独立系ITプロバイダー」としての地位に立脚しています。これは、顧客に対してAWS、Microsoft、Google、ServiceNow、SAPといった多様なエコシステムから最適なものを中立的に選定できるという強みになります。
しかし、10-K(年次報告書)でも触れられている通り、他社製品の単純な導入や保守といった「労働力(人月)に依存するサービス」だけでは、価格競争が激しく、収益性が低くなるリスクがあります。この課題に対し、DXCは以下の2つのアプローチで「付加価値の組み込み(Embedding)」を行っています。
■3-2 「Powered by」戦略:他社プラットフォームを自社IPで付加価値化
DXCは、他社の優れたプラットフォームを土台(Foundational Platform)として活用し、その上に独自のソフトウェアや業務ロジックを搭載して提供しています。
- DXC Assure(保険業界向けソリューション):公式に「Powered by ServiceNow」などの表現で語られるこのモデルは、汎用的クラウド基盤のServiceNowを活用しつつ、その上にDXCが長年培った保険業務の専門知識や自動化機能を「自社ソフトウェア」として実装したものです。これにより、ゼロからの受託開発ではなく、完成された独自の資産(Asset)を提供することで高い利益率を確保しています。
- DXC AI Workbench:顧客が生成AIをビジネスに導入する際、他社のAIモデルを安全かつ迅速に自社のデータと連携させるための「独自のエンジニアリング環境」です。これをソリューションに組み込む(Embedding)ことで、単なるAIの導入作業ではなく、AIを使いこなすための高度な基盤提供という価値を生み出しています。
- DXC Platform X:ITインフラの運用を自動化する「独自のソフトウェアプラットフォーム」です。あらゆる環境(ハイブリッドクラウド等)で稼働し、AIが障害を自動で予見・修復します。これにより、GISセグメントにおいて、第2章で見た「人的リソースの削減とマージンの改善」を同時に実現しています。
DXC Assure Risk Managementの紹介:AIを活用した自家保険団体向けクレーム処理ソリューション
バージニア州アッシュバーン, 2025年7月29日/PRNewswire/ -- Fortune 500に名を連ねる世界有数のテクノロジー・サービス・プロバイダーであるDXC Technology(N...
DXCがAI Workbenchを発表、フェロビアルがアンカーのクライアントに
/PRNewswire/ -- フォーチュン500に名を連ねるグローバルなテクノロジーサービスプロバイダー、DXC Technology(DXCテクノロジー、NYSE: DXC)は本日、コンサルティング、エンジニアリング、セキュアなエンタープライズサービスを組み合わせた生成AIサービスDXC AI...
■3-3 資産軽滅型モデル:固定費削減がもたらす財務的な機動力
収益性を高めるもう一つの柱が、物理的な資産や不採算事業を極限まで削ぎ落とす「資産軽滅型」への移行です。
- ハードウェア再販ビジネスの縮小:10-Kでは、収益性が極めて低いハードウェアの再販を意図的に削減していることが明記されています。これが売上減少の主因の一つですが、利益率の改善には不可欠な判断とされています。
- 物理オフィスの最適化:「バーチャル・ファースト」の推進により、全世界でオフィス面積を劇的に縮小しています。これにより不動産関連の固定費を削減し、キャッシュフローを技術開発や人材育成に振り分ける構造を作っています。
- データセンター資産の移管:自社所有のデータセンターからパブリッククラウドやコロケーションへの移行を進め、多額の設備投資(CAPEX)を要するビジネスモデルからの脱却を図っています。
■3-4 業務の質的変化:オペレーションから「エンジニアリング」へ
この戦略的転換は、現場のエンジニアやコンサルタントに求められる役割を「作業(Manual Task)からエンジニアリング(Value Addition)へ」とシフトさせています。
- プラットフォームの活用と設計:単に他社ツールをインストールするのではなく、「DXC Assure」や「Platform X」といった自社IPを顧客の課題にどう適用させるかという、アーキテクチャ設計の比重が高まっています。
- グローバル・デリバリーとの連携:2019年に買収したLuxoftのハイエンドエンジニアリング部隊や、世界各地のデリバリーセンターの専門知識を自社のソリューションに統合し、顧客に提供する役割が求められます。
4. 評価と報酬:「成果」に対する徹底した説明責任
DXCの報酬体系は、5つのバリューのひとつ「Deliver(確実な遂行)」を評価の核に据えています。それは、個人の行動がどのように会社の利益や成長に貢献したかを、数値とプロセスで測定するシステムです。
■4-1 パフォーマンス駆動型文化に基づく評価とボーナスの連動
DXCでは、グローバル共通の枠組みを通じて、個人のアウトカム(成果)と年次ボーナスを直結させています。
- 成果と行動の同時評価:期初に設定した目標の達成度(What)だけでなく、5つのバリュー(How)をいかに体現したかが評価の柱となります。これは「規律ある組織」を維持するための設計です。
- 業績に連動するボーナスの透明性:年次の短期インセンティブは「調整後EBITマージン」と「有機的収益成長率」という2つの財務指標(各50%)で決まります。
- 成果に応じた報酬の実効性:2025年度の全社的なボーナス支給率は目標に対して91%でした。目標設定が形骸化せず、業績目標の達成度に応じて厳格に報酬が決定されている実態を物語っています。
■4-2 長期的な資産形成と「Pay-for-performance」のリアリティ
マネジメント層や専門職に提供される株式報酬は、企業の持続可能性に対する「説明責任」を問う内容になっています。
- キャッシュフローへの特化:2025-2027サイクルの業績連動型株式(PSU)は、評価指標の100%が「累計フリー・キャッシュ・フロー」に設定されました。ITサービス企業として「現金を創出する力」を最優先する経営姿勢が、社員の報酬に直接反映される仕組みです。
- 市場との同期(rTSR):他社と比較した株価の騰落率に基づき、報酬が加減算されます。株主と同じ目線で企業の市場価値向上に向き合うことが求められます。
- 「ターゲット」と「実現報酬」の乖離:このPay-for-performanceの原則を象徴するのが、経営陣の報酬実態です。資料によれば、CEOの報酬の約93%が業績等によって変動する「At-risk」な報酬です。2025年度、CEOの理論上の「ターゲット報酬」は約1,580万ドルでしたが、実際の業績や株価指標に基づき確定した「実現報酬(Realized Pay)」は約420万ドルに留まりました。
この「ターゲット」と「実際に支払われる報酬」の差の大きさこそが、DXCが求める基準です。結果を出せば報われる一方で、未達の場合には報酬が厳格に抑制されるという、徹底した説明責任(Accountability)が貫かれています。
5. 人材・キャリア:スキル刷新と「場所」からの解放
DXCの人材戦略は、「財務規律」と「高付加価値シフト」を人的リソースの側面から完遂するための、合理的な「労働力の転換(Workforce Transformation)」として設計されています。
■5-1 スキル・ファースト:独自の「Grow My Way」と技術バッジの価値
DXCは、伝統的な職歴や学歴よりも、実際の業務に直結する専門能力を重視する方針を鮮明にしています。これは、特定のベンダーに依存しない「独立系」の強みを最大化するための経営判断です。
- 学習プラットフォームによる自律的なキャリア開発:DXCは独自の統合学習プラットフォーム「Grow My Way」を展開しています。これは、社員が自らのキャリアパスに合わせて必要なスキルをオンデマンドで習得できる仕組みであり、会社主導の画一的な研修ではなく、市場価値(Marketability)に直結した学びを推奨しています。
- 主要パートナー認定資格の集積:AWS、Microsoft、SAP、ServiceNow等の主要ベンダーとの強力なパートナーシップを背景に、組織として数万件規模の認定資格を保有しています。Proxy Statementでも、これら「パートナー・エコシステム」を通じた人材育成が、顧客への提供価値向上に不可欠な要素として位置づけられています。
- 年間300万時間以上の学習実績:グローバル全体で年間300万時間を超えるトレーニングが実施されており、一人ひとりが変化の速いIT業界で常に最新のスキルを維持することが、評価における重要な前提となっています。
■5-2 バーチャル・ファースト:不動産最適化が生んだ「自律」という働き方
2021年から導入された「バーチャル・ファースト」は、DXCの働き方の核心であると同時に、強力な経営戦略でもあります。
- 不動産最適化によるコスト構造の変革:10-KおよびProxy StatementのAppendixに明記されている通り、このモデルは物理オフィスの占有面積を劇的に削減する「不動産最適化(Real Estate Optimization)」を可能にしました。これにより削減された固定費を、第3章のPlatform X等の技術投資や人材開発へ再配分する「資産軽滅型(Asset-light)経営」の基盤となっています。
- 自律性を前提とした柔軟性:地理的な制約を排除することで、多様なライフスタイルを持つ優秀な人材をグローバルで確保しています。これはバリューの一つである「Care(社員への配慮)」の具現化ですが、同時にマイクロマネジメントを排した「プロフェッショナルとしての自律した遂行能力」が強く求められる環境であることを意味します。
■5-3 人的資本の透明性:データが裏付ける多様性と教育への投資実績
開示資料のひとつ、Proxy Statementの「Human Capital Management」セクションでは、多様性を単なる倫理的な目標ではなく、ビジネスの「パフォーマンス駆動」の源泉として位置づけています。
- 客観的な評価実績:障害者の雇用とテクノロジー活用を評価する「Disability Equality Index(DEI)」において、継続的に100点満点を獲得しています。また、女性リーダーの育成や、人種・国籍を問わない登用についても、具体的な数値による進捗管理が行われています。
- グローバル・チームとしての連携(Collaboration):10-Kでは、日本を含む各市場がグローバルなデリバリー網(GDC)の一部として機能することが強調されています。バーチャル環境下であっても、国境を越えた仲間とシームレスに連携し、結果を出すための「コラボレーション能力」が、DXCにおけるキャリア形成の不可欠な要素となっています。
6. リスクと課題:公式資料が示す「変革」の障壁
DXCの成長戦略は、「規律ある実行」を前提としていますが、公式資料(10-K)では、その実行を阻害しうる複数の重大なリスクが開示されています。これらは単なる外部環境の変化ではなく、同社のビジネスモデルそのものが抱える構造的な課題です。
■6-1 契約コストの罠:移行・変革コストがキャッシュフローを圧迫するリスク
最新のProxy Statement(財務調整項目)において、DXCのフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を圧迫する要因として明記されているのが、「移行および変革にかかる契約コスト(Transition and transformation contract costs)」です。
- 高コスト構造の継続:2025会計年度において、このコストには1億3,500万ドルが投じられています(前年度は1億9,800万ドル)。
- 収益性への影響:新規の大型案件やクラウド移行案件を開始する際、初期投資としての移行コストが想定を上回った場合、「調整後EBITマージン」や「フリー・キャッシュ・フロー」の目標達成が困難になります。これは「Deliver(確実な遂行)」を維持するための最大の財務的障壁です。
■6-2 生成AIの衝撃:既存ビジネスの「共食い」と差別化の加速
10-Kでは、生成AIの急速な普及を、機会であると同時に重大な脅威として定義しています。
- 既存ビジネスの減衰:AIによるコーディングの自動化や運用効率化が進むことで、DXCの主要な収益源である「人月単位の保守・運用(GISセグメント)」の工数が大幅に削減され、高付加価値(GBS)領域での成長がそれを補完する前に、全体の収益が減少するリスクがあります。
- 技術的陳腐化の速度:自社プラットフォーム(Platform X等)の進化が市場の技術革新のスピードに追いつかない場合、「独自IPによる差別化」が機能しなくなる可能性があります。
■6-3 人材獲得の壁:専門性の高騰によるコスト増とリテンションの課題
「スキル・ファースト」戦略の裏側には、人材市場における厳しい現実があります。
- リテンション(人材保持)の不確実性:Luxoftが担うような高度なデジタル・エンジニアリング領域や、クラウドアーキテクトの争奪戦は激化しており、報酬水準の高騰が利益率を圧迫しています。
- リスキリングの遅延:「年間30〜40時間の学習」が実効性を伴わない場合、既存社員のスキルセットと市場ニーズのミスマッチが拡大し、外部調達コストがさらに増大するリスクを10-Kは指摘しています。
■6-4 財務的制約:FCF最大化の追求が投資判断に与える影響
長期インセンティブ(LTI)の評価指標が「累計フリー・キャッシュ・フロー 100%」に設定されたことは、極めて高い財務規律を意味しますが、同時に副作用も孕んでいます。
- 投資抑制の懸念:キャッシュ創出を最優先するあまり、将来の成長に不可欠な研究開発(R&D)や戦略的M&A、あるいは日本市場のような成長地域へのリソース投下が必要以上に抑制される可能性があります。
- マクロ経済の影響:10-Kによれば、金利の上昇や為替の変動は、負債の利払い負担を増大させ、キャッシュフロー目標の達成をより困難にします。これは、社員の報酬(株式の権利確定)に直接的なマイナス影響を及ぼす要因となります。
■6-5 地政学リスク:グローバル・デリバリー網の脆弱性と日本への波及
DXCはインド、フィリピン、中東欧(Luxoft拠点を含む)に大規模なデリバリーセンター(GDC)を擁しています。10-Kの「Geopolitical risks」セクションでは、特定の地域における紛争や政情不安が、世界中の顧客へのサービス供給を遮断し、損害賠償や契約解除を招くリスクが明記されています。日本国内のプロジェクトであっても、その実務(デリバリー)が海外拠点に依存している以上、この地政学的リスクから逃れることはできません。
7. 日本法人の実態:グローバルの規律と日本の現場
日本市場におけるDXCは、旧CSCと旧HPESの強固な顧客基盤を背景としつつ、グローバル共通の「資産軽滅型(Asset-light)」モデルを最も先鋭的に実践する拠点の一つです。10-KおよびProxy Statementの財務規律を日本国内のオペレーションに照らすと、その実態が浮き彫りになります。
■7-1 Internationalセグメントの宿命:効率性とマージン改善の最前線
米SEC提出の10-K(FY2025)において、日本市場は、米国や英国以外の「International(その他の国々)」セグメントに分類されています。
- セグメント収益の源泉:「International」セグメントは全社収益の約23%(約32億ドル)を占める重要なブロックです。10-Kでは、このセグメントに対し「GDC(グローバル・デリバリー・センター)」との連携強化によるマージン(利益率)改善を明文化しています。
- 日本法人の戦略的役割:日本法人のエンジニアは、単独で完結するのではなく、インドやフィリピン等のセンターと連携してサービスを提供する「ハイブリッド・デリバリー」のフロントエンドとしての規律が求められます。これは、コスト構造改革を日本市場で実行するための必然的な布陣です。
■7-2 採用市場の動き:デジタル・エンジニアリング領域へのリソース集中
国内の求人動向は、10-Kで示された「GIS(インフラ保守)からGBS(ビジネス変革)へ」のシフトを忠実に反映しています。
- 求人ポジションの傾向:募集の過半数がSAP S/4HANA移行、ServiceNowによる自動化、クラウドネイティブ開発に集中しています。これらは第3章で述べた「独自IP(DXC Assure等)」を日本企業へ適用するための高度な専門職です。
- Luxoftとの共同戦線:公式戦略として掲げられている「デジタル・エンジニアリング領域へのシフト」に基づき、日本においても自動車業界向けのSDV(ソフトウェア定義車両)開発などでLuxoftのグローバルチームと合同プロジェクトを推進する求人が見られます。これは御用聞きSIerから「高度エンジニアリング・パートナー」への転換を実務レベルで証明するものです。
■7-3 日本におけるバーチャル・ファーストの運用実態と財務合理性
日本で徹底されている「バーチャル・ファースト」は、単なる柔軟な働き方の提供ではなく、Proxy StatementのAppendix等に現れる「不動産最適化」戦略の具現化です。
- 資産軽滅型経営の徹底:物理オフィスの占有面積を最小化することで、固定費(Real Estate costs)を削減し、最優先指標である「フリー・キャッシュ・フロー」の創出に寄与させています。
- 日本独自のオフィス活用:東京・京橋や豊洲等の拠点は「コラボレーション専用」と割り切りられており、日々の業務は自宅や顧客先での自律的な遂行が前提です。これは、オフィス維持費を削り、その原資を人的資本や技術開発へ再配分するという経営上の合理性に基づいています。
【49歳男性・技術職・年収912万円】普通の福利厚生会社のサービスを利用できる。昔あったHPのPCを安く購入できる制度はなくなった。労働時間は特に問題を感じていない。 部署によってかなり差があると思うが、自分の部署や担当している案件では、残業時間は多くはない。[キャリコネで給与明細を見る]
■7-4 キャリアパス:グローバル基準の職位と「スキル至上主義」の浸透
日本法人においても、職位の定義からキャリアアップの要件に至るまで、グローバルで統一された「スキル至上主義」の原則が徹底されています。
- 共通言語としてのジョブレベル:日本国内でもグローバル共通の職位体系(Professional Level)が導入されています。「パフォーマンス駆動(Performance-driven)」の評価体系に基づき、個人の数値目標の達成度とバリューの体現度が、役職や報酬に直接反映される仕組みです。
- 認定資格の重み:10-Kで強調されている主要技術パートナー(AWS, Microsoft, SAP, ServiceNow等)との提携を維持・強化するため、日本でも認定資格の取得が強力に推奨されています。これらは個人の専門性を客観的に証明する「バッジ」として可視化され、グローバルプロジェクトへのアサインにおける事実上の「通貨」として機能しています。
■7-5 福利厚生と就業環境:日本独自の安定性とグローバルの自律性の融合
日本法人では、グローバルな規律を維持しつつ、日本の労働慣行に合わせた独自のサポート体制を構築しています。
- 資産形成と住宅支援:確定拠出年金(401k)制度を導入しているほか、特定の条件を満たす社員に対する住宅支援制度など、生活の安定を図るための日本独自の枠組みが存在します。
- Care(思いやり)の具体化:バーチャル・ファースト環境下でのメンタルヘルスケアや、多様なライフイベント(育児・介護)に対応する柔軟な勤務制度は、バリューのひとつである「Care」を形にしたものです。ただし、これらはすべて「Deliver(確実な遂行)」を前提とした、プロフェッショナルとしての自律性が受給の条件となります。
8. 選考対策:採用視点から逆算する「合格の条件」
DXCの選考プロセスは、単なるスキルの確認ではなく、「文化のリセット」を現場で遂行できるプロフェッショナルかどうかを判定する場です。2025年度のProxy Statementで経営陣の報酬指標が「利益率」と「キャッシュフロー」に極端に純化されたように、選考でも「成果に対する説明責任」が厳格に問われます。
■8-1 選考プロセス:客観的な技術評価とカルチャーフィットの検証
選考フローは、グローバル共通の「スキル・ファースト」と「パフォーマンス駆動」の原則に基づき、透明性を持って進行します。
- 応募・書類審査(スキルの適合性):学位以上に「具体的な技術スタック(AWS, SAP, ServiceNow等)」と「認定資格」が重視されます。経歴書では、保有するスキルがDXCの「独自IP戦略」にどう寄与できるかを明示する必要があります。
- アセスメント(技術・論理性のスクリーニング):職種に応じ、オンラインでの技術アセスメントや論理的思考テストが実施されます。これは「Platform X」等の高度な自動化基盤を扱うに足る、客観的な技術水準を担保するためのプロセスです。
- インタビュー(複数回):現場マネジャーや事業部長による面接が行われます。技術力の深掘りに加え、Proxy Statementでも強調されている「Accountability(説明責任)」を過去の困難なプロジェクトでいかに果たしたか、その「再現性」が厳しく問われます。
- バックグラウンドチェック(最終確認):10-KのRisk Factorsにある通り、ミッションクリティカルな公共・金融インフラを支える企業として、オファー後に「経歴の真実性」を厳格に確認します。
■8-2 3つの評価基準:Execution、Learning、Collaborationの証明
DXCが求める人材像は、2025年度の経営方針と完全に同期しています。面接では以下の3点を自身の経験と結びつけて証明することが求められます。
- Execution & Delivery(実行と完遂):5つのバリュー、特に「Deliver(確実な遂行)」を体現できるか。計画を立てるだけでなく、厳しい財務目標や納期を、どのような創意工夫で完遂(Execute)したかを具体的に語れる必要があります。
- Growth through Continuous Learning(学習による変革):GRIレポートに記載された「年間30〜40時間の学習」という指標を、自らの成長エンジンとして捉えているか。「スキル・ファースト」の環境下で、未経験の領域でも自律的にキャッチアップし、市場価値を高め続ける意欲が不可欠です。
- Self-Driven Collaboration(自律的な連携):「バーチャル・ファースト」環境において、マイクロマネジメントを必要とせず、高いセルフマネジメント能力を発揮できるか。同時に、地理的に離れたチームやグローバルの拠点(Luxoft等)と連携し、最適解を導き出せる協調性が問われます。
【20代前半・システムコンサルタント職・男性】応募理由は外資系のSIerに興味を持ったため。内情は日系企業と変わらず、通常のSIerを受ける際の対策と変わらないもので問題ない。現職で得たスキルをどのように活かせるかを質問され、スキルの活用をSTAR法に則って説明した。[キャリコネで面接事例を見る]
■8-3 最終アドバイス:公式資料のロジックを面接の「共通言語」にする
選考を有利に進めるために、公式資料から読み取れる「DXC独自の文脈」を理解しておくことが推奨されます。
- アウトカム(成果)ベースの対話:何年経験したかという時間の長さよりも、その経験から「どのような付加価値(マージン改善、工数削減等)」を生み出したかという、数値化された実績を対話の核に据えてください。
- デリバリーの近代化への理解:DXCは、自社のデリバリー(サービス提供)をPlatform Xで自動化することで、人的ミスを排除しコスト構造を劇的に変える自社変革を断行しています。この「プラットフォーム主導のオペレーション」への移行が、自身の職種においてどのようなインパクトを持つかを考察し、自身の見解を述べてください。
- 「規律ある自由」への適応性:バーチャル・ファーストがもたらす柔軟性は、「運用の規律」と表裏一体です。自由な働き方を享受するだけでなく、オフィス外でも変わらぬ高いプロフェッショナリズムと「説明責任」を維持できることを、過去のエピソードで証明してください。



2019年より企業口コミサイト「キャリコネ」担当として、数多くの企業の口コミ情報、決算資料、中期経営計画を横断的に分析。現在はリサコ編集部長として、一次情報と現場の声を突き合わせた企業研究コンテンツの企画・編集・品質管理を統括し、転職希望者の意思決定に資する情報提供を行っている。