※本記事は、日本電設工業株式会社の有価証券報告書(第84期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. 日本電設工業ってどんな会社?
鉄道インフラを支える電気工事を中心に、社会の基盤となる設備構築を担う総合インフラ設備工事会社です。
■(1) 会社概要
1942年、当時の鉄道省の要請により鉄道電気設備を担う企業として設立されました。1949年に現在の日本電設工業へ商号を変更し、1973年には東京証券取引所市場第一部へ指定替えを果たしました。2016年には監査等委員会設置会社へ移行し、コーポレート・ガバナンスの強化を図りながら事業領域を拡大しています。
現在の従業員数は連結で4,645名、単体で2,582名です。筆頭株主は最大の得意先でもある東日本旅客鉄道で、第2位は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行です。第3位には従業員の福利厚生を目的とした日本電設工業共済会が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 東日本旅客鉄道 | 19.36% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.58% |
| 日本電設工業共済会 | 5.13% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長は安田一成氏が務めており、社外取締役の比率は50.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 安田一成 | 代表取締役社長 | 東日本旅客鉄道に入社後、同社電気ネットワーク部長等を歴任。2018年同社取締役に就任し、2022年より現職。 |
| 谷山雅昭 | 代表取締役専務取締役社長補佐、経営企画・安全・鉄道・情報通信・システム担当 | 1985年同社入社。情報通信本部長、経営企画本部長等を歴任し、2023年代表取締役専務取締役を経て、2024年より現職。 |
| 外川友司 | 常務取締役営業・環境エネルギー・技術開発担当 | 1984年同社入社。東北支店工務部長、営業統括本部長等を歴任し、2022年常務取締役を経て、2024年より現職。 |
| 松井克彦 | 常務取締役関連事業・監査・財務・人事・総務担当 | 1992年同社入社。人材開発部長、総務部長、西日本統括本部大阪支店長等を歴任し、2024年より現職。 |
| 水上渉 | 取締役常勤監査等委員 | 1983年同社入社。総務部長、人事部長、経営企画部長等を歴任し、2019年より現職。 |
社外取締役は、倉元政道(明電舎特任顧問)、加藤修(東日本旅客鉄道常務執行役員)、川俣尚高(丸の内総合法律事務所パートナー)、近藤邦弘(元みずほ銀行執行役員)、福島美由紀(税理士法人FLAIR代表社員)の5名です。
2. 事業内容
同社グループは、「設備工事業」の単一セグメントの中で、事業領域ごとに複数の部門を展開しています。
**鉄道電気工事**
電車線路、発変電、送電線、信号などの鉄道インフラに不可欠な電気工事を行っています。主な顧客はJR東日本をはじめとする各鉄道会社です。
工事の請負による収益を柱としており、同社のほか、日本電設電車線工事や日本電設信号工事などのグループ会社が施工を担当しています。
**一般電気工事**
駅周辺の大型再開発やオフィスビル、データセンターなどの建築電気設備工事を行っています。民間企業や官公庁が主要な顧客です。
建築物の電気設備の設計・施工による工事代金を収益源としており、同社やNDK総合サービス、NDK電設などが事業を運営しています。
**情報通信工事**
通信事業者各社の基地局建設工事やネットワークインフラ構築工事、通信インフラシェアリング事業を行っています。
情報通信設備の工事代金やインフラシェアリングのサービス提供による収益を得ており、同社や日本電設通信工事、JCrocなどが担当しています。
**環境エネルギー工事**
脱炭素社会に向けた再生可能エネルギー工事、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)対策工事、空気調和・給排水衛生設備工事などを行っています。
省エネルギー設備や空調設備の施工請負から収益を得ており、同社や東日本電気エンジニアリング、石田工業所などが運営しています。
**関連事業等**
電気設備の企画・設計、保守管理、鉄道信号機器等の製作・販売、不動産の賃貸・管理などの周辺事業を展開しています。
機器の販売代金や不動産賃貸料、保守点検サービス料などを収益源とし、NDK設備設計やNDK総合サービスなどが担当しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績は、売上高および経常利益ともに堅調な拡大傾向を示しています。特に直近の数期間は、民間設備投資の持ち直しや鉄道会社の安全輸送に向けた投資需要を的確に取り込み、利益率も段階的に向上しています。
| 項目 | 2022年3月期 | 2023年3月期 | 2024年3月期 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,736億円 | 1,721億円 | 1,940億円 | 2,169億円 | 2,292億円 |
| 経常利益 | 87億円 | 109億円 | 149億円 | 194億円 | 253億円 |
| 利益率(%) | 5.0% | 6.3% | 7.7% | 8.9% | 11.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 48億円 | 62億円 | 89億円 | 114億円 | 172億円 |
■(2) 損益計算書
売上高の増加に伴い、売上総利益および営業利益も順調に拡大しています。原価低減の取り組みや付加価値の高い提案営業が奏功し、売上総利益率と営業利益率の双方が前期から改善しており、収益力の高さがうかがえます。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2,169億円 | 2,292億円 |
| 売上総利益 | 343億円 | 409億円 |
| 売上総利益率(%) | 15.8% | 17.8% |
| 営業利益 | 179億円 | 236億円 |
| 営業利益率(%) | 8.3% | 10.3% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給料手当が60億円(構成比35.0%)、賞与引当金繰入額が22億円(同13.0%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の鉄道電気工事や一般電気工事が売上成長を牽引しています。特に一般電気工事は、駅周辺の大規模再開発やデータセンター関連の受注が寄与して大きく伸びており、情報通信工事や環境エネルギー工事も安定した売上を維持しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) |
|---|---|---|
| 鉄道電気工事 | 1,172億円 | 1,201億円 |
| 一般電気工事 | 601億円 | 645億円 |
| 情報通信工事 | 282億円 | 311億円 |
| 環境エネルギー工事 | 54億円 | 60億円 |
| 関連事業等 | 61億円 | 74億円 |
| 連結(合計) | 2,169億円 | 2,292億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
当期のキャッシュ・フローは、営業活動で得た資金を設備投資等に回しつつ、借入等の財務活動でも資金を調達する「積極型」の状況となっています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -43億円 | 105億円 |
| 投資CF | -58億円 | -47億円 |
| 財務CF | 2億円 | 19億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は8.8%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は64.6%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「お客様本位の精神で安全・確実な業務の遂行により顧客の信頼を高め、人々の生活や経済を支える社会的に重要なインフラの創造をとおして社会に貢献する」という企業理念を掲げています。設備工事の設計・施工・保守を行う企業として、品質の高い設備づくりを目指しています。
■(2) 企業文化
「安全は会社経営上の最重要課題」と位置付け、安全・安定輸送の重要性が高まる社会インフラの構築や維持に対して一層寄与できる企業体制づくりを推進しています。また、人間中心企業として「人間力の向上」と「本物志向の実践」により企業価値の向上を図ることで、ステークホルダーの期待に応えることを重視しています。
■(3) 経営計画・目標
持続的成長を目指し、2027年3月期を最終年度とする経営目標を設定しています。収益力の強化と事業基盤の拡大を推し進めています。
* 売上高2,423億円
* 営業利益238億円
■(4) 成長戦略と重点施策
中期経営計画「日本電設3ヶ年経営計画2024」において、「飛躍への挑戦」を副題に掲げ、5つの重点実施テーマを進めています。安全・品質レベルの向上とガバナンスの徹底、既成概念を打破する新たな価値創出、人材確保と施工体制の強化、生産性とエンゲージメントの向上などを通じ、総合インフラ設備工事会社への進化を図っています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
人材を最大の経営資本と認識し、従業員一人ひとりが健康で自立的に能力を発揮できる環境づくりを推進しています。新卒・中途採用の拡大や多様な採用手法を展開し、大規模研修施設「中央学園」を活用した体系的な教育により、社会インフラの創造を担うエキスパートの育成に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 42.8歳 | 16.7年 | 8,954,499円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 1.2% |
| 男性育児休業取得率 | 64.8% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.9% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 66.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 49.6% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、一級電気工事施工管理技士の新規資格取得者数(53人)、年次有給休暇の年間平均取得日数(15.0日)、エンゲージメントスコア(53.8)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 顧客依存のリスク
完成工事高総額に占める東日本旅客鉄道の比率が高いため、同社の設備投資計画の変更や発注方針の見直しにより発注規模が変動した場合、同社グループの受注高の減少につながる可能性があります。同社は信頼関係の維持に努めつつ、新規顧客の開拓を進めています。
■(2) 建設市場・事業環境変化のリスク
同社の事業は鉄道関連投資や民間設備投資、公共投資の動向に影響を受けます。景気後退や設備投資計画の変更、資材価格の高騰などにより事業環境が著しく変化した場合、受注競争の激化や工事採算の悪化を通じて業績に影響を及ぼすリスクがあります。
■(3) 社会的信用力低下のリスク
工事施工の過程で重大な事故や労働災害が発生した場合、損害賠償責任の発生や発注者からの信用失墜を招く恐れがあります。同社は「安全は会社経営上の最重要課題」として、安全大会や各種研修を通じて事故防止とコンプライアンスの徹底に取り組んでいます。
■(4) 施工品質不良・契約不適合のリスク
設計、施工、検査の各段階において品質管理を徹底していますが、万一、施工物に重大な品質不良や契約不適合が生じた場合、補修費用の発生や損害賠償責任を負うことになり、顧客からの信用低下により業績に影響を及ぼす可能性があります。



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