※本記事は、イチケンの有価証券報告書(第100期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. イチケンってどんな会社?
商業施設を中心とした建設事業および不動産事業を展開し、企画から施工まで手掛ける総合建設企業です。
■(1) 会社概要
1930年6月に第一相互住宅として設立されました。1989年10月に現在のイチケンに商号変更し、1990年9月に東京・大阪証券取引所市場第一部に上場しました。その後、全国に営業拠点を開設し、2018年11月にベトナムにハノイ事務所を開設、2024年7月には片岡工業を連結子会社化し事業を拡大しています。
従業員数は連結で722名、単体で680名です。筆頭株主は総合レジャー施設の運営などを行う事業会社のマルハンで、第2位は取引先企業で構成される一栄会持株会、第3位は個人投資家です。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| マルハン | 40.00% |
| 一栄会持株会 | 3.63% |
| MURAKAMI TAKATERU | 3.28% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.1%です。
代表取締役社長は政清弘晃氏です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 政清 弘晃 | 代表取締役社長 社長執行役員 | 1986年同社入社。関西支店長、事業本部長などを歴任し、2026年4月より現職。 |
| 長谷川 博之 | 取締役会長 | 1982年同社入社。常務執行役員などを経て、2015年6月に代表取締役社長に就任。2026年4月より現職。 |
| 磯野 慶治 | 取締役 常務執行役員(事業本部長) | 1991年同社入社。東京支店副支店長、福岡支店長、関西支店長などを歴任し、2026年4月より現職。 |
| 小谷 実弦 | 取締役 常務執行役員(経営戦略本部長) | 1988年同社入社。管理本部副本部長、管理本部長などを歴任し、2026年4月より現職。 |
社外取締役は、武内秀明(武内法律事務所所長弁護士)、伊知地俊人(ウィル相談役)、久保田裕丈(マルハン執行役員西日本カンパニー建設購買部部長)、初瀬貴(TH総合法律事務所パートナー弁護士)、井上明子(西東京いこい法律事務所代表弁護士)、城戸澄仁(VIAパートナーズ代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「建設事業」および「不動産事業」を展開しています。
■建設事業
同社グループの中核事業であり、商業施設を中心に建築・土木・舗装・内装仕上工事全般に関する事業を展開しています。品質の向上と安全の徹底に努め、顧客のニーズに応じた快適で豊かな商業空間を提供しています。
収益は、顧客である民間企業や官公庁等からの工事請負代金として受け取ります。事業の運営は、同社および連結子会社の片岡工業が行っています。
■不動産事業
建設事業を補完する事業として、不動産の開発、売買、賃貸に関する事業を展開しています。保有不動産のバリューアップなど、継続的な循環投資を通じて事業基盤の強化を図っています。
収益は、顧客への不動産販売代金や不動産賃貸による賃料として受け取ります。事業の運営は主に同社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近2期間の業績を見ると、建設事業における完成工事高の増加により、売上高は順調に増加しています。経常利益も工事採算性の向上などが寄与して増益となり、利益率も改善傾向にあります。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 990億円 | 1,062億円 |
| 経常利益 | 68億円 | 90億円 |
| 利益率(%) | 6.8% | 8.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 47億円 | 62億円 |
■(2) 損益計算書
同社の損益構造を見ると、売上高の増加に伴い売上総利益も増加し、売上総利益率は改善しました。原価管理の強化や採算性の高い案件の受注が利益率の向上に貢献しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 990億円 | 1,062億円 |
| 売上総利益 | 105億円 | 131億円 |
| 売上総利益率(%) | 10.6% | 12.3% |
| 営業利益 | 68億円 | 90億円 |
| 営業利益率(%) | 6.9% | 8.5% |
販売費及び一般管理費のうち、従業員給与手当が11億円(構成比28%)、賞与引当金繰入額が2億円(同4%)を占めています。売上原価の内訳としては、外注費が674億円(構成比75%)、労務費が61億円(同7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
主力の建設事業は、商業施設を中心とした民間工事の受注が好調に推移し、売上・利益ともに増加しました。不動産事業も堅調に推移し、全体として各セグメントで安定した収益を確保しています。
| 区分 | 売上(2025年3月期) | 売上(2026年3月期) | 利益(2025年3月期) | 利益(2026年3月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 建設事業 | 987億円 | 1,059億円 | 87億円 | 113億円 | 10.7% |
| 不動産事業 | 3億円 | 3億円 | 1億円 | 1億円 | 35.5% |
| 連結(合計) | 990億円 | 1,062億円 | 68億円 | 90億円 | 8.5% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、本業・投資・財務いずれもマイナスで資金繰りが危機的な状態を示しています。
| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 81億円 | -32億円 |
| 投資CF | -14億円 | -3億円 |
| 財務CF | 1億円 | -17億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は17.3%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も53.7%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「品質の向上と安全の徹底に努め、いかなるときもクリエイティビティを発揮し、商業空間事業を通じ、快適で豊かな社会の実現をめざします」という経営理念を掲げています。より豊かで快適なくらし空間を創造することで広く社会へ貢献する企業を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、技術者集団として品質・安全・環境・原価・生産性を徹底的に追求する文化を有しています。また、働きやすい職場を追求し、従業員一人ひとりの能力と働きがいを向上させることや、社会のニーズに常に対応し、環境の変化に負けない組織風土を重視して事業活動を行っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、2026年度からの長期経営計画「ビジョン2035」において、以下の経営目標を掲げています。
* 売上高1,500億円
* 営業利益率7%以上
* ROE10%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、「成長投資と収益力の強化」を基本方針とし、商業施設の建築やリニューアル工事など中核となる建設事業を強化します。あわせて、不動産事業への継続的な循環投資やベトナムでの海外事業の体制強化、新規事業の模索などを通じて業容の拡大と財務基盤の充実を図ります。
* 保有不動産のバリューアップなど不動産開発への投資
* 事業拡大のためのM&A等の成長投資
* デジタル技術を活用したDX関連への投資
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、持続的な成長に向けて人的資本への投資を重要課題と位置付けています。創造性豊かで多様な人材を育成するため、評価制度や研修制度の見直しを進めるとともに、適正工期の確保による長時間労働の是正やDX推進を通じたライフ・ワーク・バランスの充実を図り、働きがいのある職場環境の構築を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年3月期 | 43.6歳 | 16.2年 | 8,582,880円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 4.2% |
| 男性育児休業取得率 | 21.2% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 63.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 67.3% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 40.9% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 受注環境と建設資材価格等の動向による影響
中東情勢の悪化に伴う原油価格上昇に起因する建設資材価格の高騰や調達環境の悪化、慢性的な労働力不足による労務費の高騰などが懸念されます。また、他社との受注競争激化により工事採算性が悪化した場合、同社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 取引先の信用リスク
同社グループは、取引先に関する信用力や支払条件などの厳格な審査を実施し、信用不安情報の早期収集に努めています。しかし、景気の減速や建設市場の縮小などにより発注者や協力業者等の取引先が信用不安に陥った場合、経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 工事代金の回収による影響
今後の事業計画において、商業施設に経営資源を集中し住宅関連工事の選別受注の強化を図る方針です。その過程において、請負代金の全額回収までに通常よりも期間を要する大型工事等を受注した場合には、キャッシュ・フローの状況に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(4) 施工上の契約不適合等による影響
施工体制の強化を経営上の重点項目として捉え、品質管理に万全を期しています。しかしながら、万が一施工上の契約不適合責任を追及され、訴訟等により損害賠償が発生した場合には、同社グループの財政状態および経営成績に影響を及ぼす可能性があります。



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