イチケン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イチケン 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証スタンダード市場に上場する総合建設会社です。商業施設やマンションの建築を主力とし、不動産事業も展開しています。2025年3月期より連結決算に移行し、片岡工業の子会社化などで事業領域を拡大しました。当期の連結売上高は990億円、経常利益は68億円を計上し、安定した収益基盤を築いています。


※本記事は、株式会社イチケン の有価証券報告書(第99期、自 2024年4月1日 至 2025年3月31日、2025年6月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. イチケンってどんな会社?


商業施設の建設に強みを持つ総合建設会社で、創業100周年に向けた事業拡大とM&Aを推進しています。

(1) 会社概要


同社は1930年に第一相互住宅として設立され、1989年に現社名へ変更しました。1990年には東証一部へ上場し、2022年の市場区分見直しでプライム市場へ移行後、2023年にスタンダード市場を選択しています。2024年には土木工事を手掛ける片岡工業を子会社化し、事業領域を拡大しました。

連結従業員数は687名(単体650名)です。筆頭株主は総合レジャー施設を運営するマルハンで、第2位は取引先企業で構成される一栄会持株会、第3位は資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
マルハン 32.27%
一栄会持株会 3.63%
日本カストディ銀行(信託口) 2.50%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性1名の計11名で構成され、女性役員比率は9.0%です。代表取締役社長社長執行役員は長谷川博之氏が務めています。社外取締役比率は54.5%です。

氏名 役職 主な経歴
長谷川 博之 代表取締役社長社長執行役員 1982年入社。関西統括や東京支店長、営業推進本部長などを歴任し、2015年より現職。片岡工業取締役も兼務。
政清 弘晃 取締役専務執行役員(事業本部長) 1986年入社。経営企画室長や関西支店長を経て、2024年より現職。
磯野 慶治 取締役常務執行役員(東京支店長) 1991年入社。東京支店副支店長、福岡支店長、関西支店長、事業本部長などを歴任し、2023年より現職。
小谷 実弦 取締役常務執行役員(管理本部長) 1988年入社。東京支店管理部長、業務管理部長などを経て、2023年より現職。片岡工業取締役も兼務。
湯浅 史朗 取締役(常勤監査等委員) 日本流通リース財務部次長を経て2007年入社。財務経理部長などを歴任し、2021年より現職。


社外取締役は、武内秀明(武内法律事務所所長弁護士)、伊知地俊人(ウィル相談役)、久保田裕丈(マルハン西日本カンパニー建設購買部部長)、初瀬貴(TH総合法律事務所パートナー弁護士)、井上明子(西東京いこい法律事務所代表弁護士)、城戸澄仁(城戸公認会計士・税理士事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「建設事業」、「不動産事業」の2つの報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 建設事業

同社および子会社が、建築・土木・舗装・内装仕上工事などの総合建設業を営んでいます。商業空間の建設を中核とし、商業施設や宿泊施設、物流施設、マンション等の新築・内装・リニューアル工事を手掛けています。

収益は、顧客からの工事請負代金等により獲得しています。運営は主に同社が行っていますが、2024年7月に子会社化した片岡工業も土木工事などを担っています。

(2) 不動産事業

不動産の有効活用や建設事業の収益補完を目的として、不動産関連ビジネスを展開しています。

収益は、保有する不動産の賃貸料や不動産売買による代金等から獲得しています。運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移

当期(2025年3月期)より連結財務諸表を作成しているため、過去との比較はありません。当期の連結売上高は990億円、経常利益は68億円、当期純利益は47億円となり、売上高経常利益率は6.9%と高い収益性を確保しています。

項目 2025年3月期
売上高 990億円
経常利益 68億円
利益率(%) 6.9%
当期利益(親会社所有者帰属) 47億円

(2) 損益計算書

当期より連結決算を開始しています。売上高990億円に対し、売上総利益は105億円(利益率10.6%)、営業利益は69億円(利益率6.9%)を計上しました。本業の建設事業が堅調に推移し、安定した利益を生み出しています。

項目 2025年3月期
売上高 990億円
売上総利益 105億円
売上総利益率(%) 10.6%
営業利益 69億円
営業利益率(%) 6.9%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給与手当が11億円(構成比30%)、賞与引当金繰入額が2億円(同4%)を占めています。

(3) セグメント収益

主力の建設事業は、商業施設や物流施設などの民間工事が好調で、売上高987億円、セグメント利益87億円を計上しました。不動産事業は売上高3億円、利益1億円となりました。

区分 売上(2025年3月期) 利益(2025年3月期) 利益率
建設事業 987億円 87億円 8.9%
不動産事業 3億円 1億円 36.4%
調整額 - -20億円 -
連結(合計) 990億円 69億円 6.9%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

本業で稼いだ資金に加え、借入等による資金調達を行い、M&Aなどの投資活動に充当する「積極型」のキャッシュ・フローです。

項目 2025年3月期
営業CF 81億円
投資CF -14億円
財務CF 1億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は13.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.4%で市場平均を上回っています(いずれもスタンダード市場非製造業平均との比較)。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社は、品質の向上と安全の徹底に努め、いかなるときもクリエイティビティを発揮し、商業空間事業を通じて快適で豊かな社会の実現を目指すことを経営理念としています。また、より豊かで快適な「くらし空間」を創造することで広く社会へ貢献する企業となることを経営ビジョンとして掲げています。

(2) 企業文化

技術者集団として品質・安全・環境・原価・生産性を追求する姿勢を重視しています。また、働きやすい職場を追求し、従業員一人ひとりの能力と働きがいを向上させることや、社会のニーズに常に対応し、環境の変化に負けない会社となることを基本方針として掲げ、持続的な成長を目指す風土があります。

(3) 経営計画・目標

創業100周年を迎える2030年を目標とする長期経営計画「ビジョン2030」を策定しています。初年度からの3カ年を「中期経営計画(2023-2025)」とし、以下の経営目標(2030年度)を掲げています。

* 売上高1,000億円、営業利益率5%程度
* ROE8%以上
* 配当性向30%程度
* 自己資本比率50%以上
* D/Eレシオ0.3倍程度
* 総資産900億円前後
* 期末人員数800名前後

(4) 成長戦略と重点施策

基幹の建設事業を安定・充実させつつ、不動産・海外事業を戦略事業として拡充し、M&Aを含めた業容拡大を目指しています。また、労働力不足対策として人材開発やデジタル化への投資を積極的に行っています。

* M&A等の活用による成長投資(100億円)
* 不動産事業への投資(100億円)
* ベトナム事業展開促進(30億円)
* 人的資本の拡充(40億円)
* デジタル化社会への対応(30億円)

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

「ビジョン2030」の達成に向け、人的資本への投資(デジタル化・人材教育)を拡充しています。「従業員の育成」「採用の強化」「離職の防止」「働きがい向上」の4項目に主眼を置き、人事施策と連携させた新たな人材戦略の構築を進めています。また、DX推進による長時間労働の是正にも取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計

同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年3月期 44.1歳 16.8年 8,053,641円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 3.9%
男性育児休業取得率 25.0%
男女賃金差異(全労働者) 63.1%
男女賃金差異(正規) 66.2%
男女賃金差異(非正規) 36.5%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 受注環境と建設資材価格等の動向

建設業界では労働力不足や資材価格の高騰等が続いており、他社との受注競争激化や急激なコスト上昇が生じた場合、工事採算性が悪化し、同社グループの経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 取引先の信用リスク

取引先の信用力調査や与信管理に努めていますが、景気減速や建設市場の縮小等により発注者や協力業者等の取引先が信用不安に陥った場合、貸倒れ等が発生し、経営成績に悪影響を与える可能性があります。

(3) 工事代金の回収とキャッシュ・フロー

商業施設への経営資源集中や住宅関連工事の選別受注を強化していますが、請負代金の全額回収までに通常よりも期間を要する大型工事等を受注した場合、キャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす可能性があります。

(4) 施工上の契約不適合責任

施工体制の強化と品質管理に万全を期していますが、万が一、施工上の問題により訴訟等で契約不適合責任を追及され損害賠償が発生した場合、財政状態および経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。