イチカワ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イチカワ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

イチカワは東証スタンダード市場に上場し、抄紙用フエルトや抄紙用ベルトを扱う抄紙用具関連事業と、工業用フエルトを扱う工業用事業を展開する企業です。直近の業績では、海外での抄紙用具の増販や円安推移の影響により、増収増益を達成しました。国内外の製紙会社向けに競争力のある製品を提供しています。


※本記事は、イチカワ株式会社の有価証券報告書(第102期、自 2025年4月1日 至 2026年3月31日、2026年6月18日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. イチカワってどんな会社?


抄紙用フエルトなどの抄紙用具や工業用フエルトの製造販売を行い、世界の製紙業界を支える専門企業です。

(1) 会社概要


1949年に市川毛織として設立され、1951年に東京証券取引所へ株式を上場しました。1984年に米国現地法人を設立して以降、2001年にドイツ、2005年に中国、2018年にタイへ現地法人を設立し、グローバル展開を推進しています。2005年に現在のイチカワへ商号変更しました。

同社グループの従業員数は連結で639名、単体で523名です。筆頭株主は製紙業界大手の王子ホールディングスであり、第2位も同業の日本製紙と、重要な取引先である事業会社が上位を占めています。第3位には従業員持株会が名を連ねています。

氏名 持株比率
王子ホールディングス 9.47%
日本製紙 4.57%
イチカワ従業員持株会 4.19%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長兼社長執行役員は矢崎孝信氏が務めています。取締役8名のうち社外取締役は3名で、社外取締役比率は37.5%です。

氏名 役職 主な経歴
矢崎孝信 代表取締役社長兼社長執行役員 1985年入社。欧州や米国の現地法人社長、中国法人の総経理など海外拠点の要職を歴任。海外営業部長、取締役営業管掌等を経て、2023年6月より現職。
小堀渉 取締役技術統括兼常務執行役員 1988年入社。技術部担当部長、開発研究所長を歴任。執行役員技術管掌、取締役国内担当管掌、取締役生産管掌等を経て、2026年4月より現職。
遠山宏幸 取締役総務統括兼企画部・品質保証部担当兼常務執行役員 千葉銀行を経て2017年入社。人事部長、企画部長、総務部長等を歴任。執行役員企画部長兼人事部長、取締役営業管掌等を経て、2026年4月より現職。
諸川正憲 取締役生産統括兼新事業担当兼常務執行役員 1986年入社。生産技術部長、柏工場長、岩間工場長等を歴任。執行役員企画部長、取締役技術管掌等を経て、2026年4月より現職。
吉村肇 取締役営業統括兼宜紙佳造紙脱水器材貿易(上海)有限公司董事長 1986年入社。イチカワ・ヨーロッパGmbH社長、アジア企画営業部長、国内営業本部長等を歴任。2026年4月より現職。


社外取締役は、長岡弘樹(元有限責任監査法人トーマツミドルマーケット推進総括担当)、本所良太(元ジャパンフーズ社長)、福田伊津子(元東芝エレクトロニックシステムズ社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「抄紙用具関連事業」および「工業用事業」の報告セグメントで事業を展開しています。

(1) 抄紙用具関連事業


新聞用紙、印刷情報用紙、板紙、衛生用紙などを製造する抄紙機(紙を抄く機械)に使用される抄紙用フエルトや抄紙用ベルト、スレート用フエルトなどの製品を、国内外の製紙会社向けに製造・販売しています。顧客の操業条件に応じた付加価値の高い製品を提案しています。

製紙会社への製品販売により収益を得ています。運営は同社のほか、米国、欧州、中国、タイに拠点を置く各現地法人が各地域での販売を担当し、製品の加工の一部はアイケー加工が行うなど、グループ全体でグローバルな製造・供給体制を構築しています。

(2) 工業用事業


製紙以外のさまざまな産業分野で使用される工業用フエルトや、工業用関連仕入品の販売を行っています。顧客の多様なニーズや課題解決に寄与する工業用資材を提供し、幅広い産業の生産活動を支えています。

製品の販売を通じて顧客企業から代金を受け取る収益モデルです。運営は主にイチカワテクノファブリクスが担当し、工業用フエルト製品の販売活動を推進しています。加工工程はアイケー加工に委託しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績は、売上高が順調に拡大しており、安定した成長基調を維持しています。経常利益と当期利益も増益傾向にあり、利益率も6.1%から11.0%へと大きく改善しました。海外市場での販売拡大や為替の円安効果が業績の押し上げに寄与しています。

項目 2022年3月期 2023年3月期 2024年3月期 2025年3月期 2026年3月期
売上高 124億円 133億円 136億円 139億円 148億円
経常利益 8億円 10億円 12億円 12億円 16億円
利益率(%) 6.1% 7.8% 8.6% 8.7% 11.0%
当期利益(親会社所有者帰属) 5億円 7億円 11億円 8億円 12億円

(2) 損益計算書


売上高の増加に伴い、売上総利益と営業利益も拡大しています。特に営業利益は前期比で大きく伸長し、営業利益率は7.7%から10.6%へと改善しました。製品構成の改善や増収効果が収益性の向上に直結しています。

項目 2025年3月期 2026年3月期
売上高 139億円 148億円
売上総利益 60億円 67億円
売上総利益率(%) 43.1% 45.4%
営業利益 11億円 16億円
営業利益率(%) 7.7% 10.6%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が12億円(構成比24%)、手数料が9億円(同17%)を占めています。売上原価の内訳については有価証券報告書に具体的な記載がありません。

(3) セグメント収益


日本国内の抄紙用具関連事業は紙需要の減少により売上が縮小しましたが、北米、欧州、中国、タイなどの海外事業は受注の回復や販売数量の増加、為替の円安効果もあり大きく伸長しました。工業用事業も順調に売上を伸ばしています。

区分 売上(2025年3月期) 売上(2026年3月期)
日本抄紙用具関連事業 89億円 84億円
北米抄紙用具関連事業 17億円 21億円
欧州抄紙用具関連事業 23億円 28億円
中国抄紙用具関連事業 3億円 6億円
タイ抄紙用具関連事業 3億円 5億円
工業用事業 4億円 5億円
連結(合計) 139億円 148億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業利益で借入返済を行い、投資も手元資金で賄う優良企業(健全型)のキャッシュ・フロー状況です。

項目 2025年3月期 2026年3月期
営業CF 14億円 19億円
投資CF -11億円 -26億円
財務CF -6億円 -7億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は5.1%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は75.0%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


経営理念として「私たちイチカワは社会とともに成長する企業です。革新的な挑戦を続け、新たな製品やサービスを生み出すことにより、人々の生活を持続可能な豊かなものにしていきます。」と掲げています。社会への貢献と持続可能な生活の実現を存在理由とし、高品質な製品の提供を通じてそれを体現することを目指しています。

(2) 企業文化


経営方針の中で「顧客第一」「社員成長」「迅速行動」の3つを行動の軸として定めています。特に迅速行動においては「失敗を恐れず、スピード・行動・執念(SKS)をもって目標を達成する」と明記しており、挑戦意欲が高く心理的安全性の高い職場環境づくりを重視する文化が根付いています。

(3) 経営計画・目標


中期経営計画「New Enterprise 2027(略称:"NE-27")」を策定し、「新領域への挑戦の3年」をスローガンとして掲げています。収益力の向上と成長戦略の実効性を重視した経営を推進しており、最終年度である2026年3月期の目標として以下の数値を設定して経営を行っています。

* 連結売上高:134億円
* 連結売上高営業利益率:5.4%
* 1株当たり当期純利益:131.45円

(4) 成長戦略と重点施策


国内市場を収益基盤と位置付けて安定的なキャッシュ創出を図る一方、グローバル市場ではアジア地域を中心とした成長機会を捉え、製品ミックスの改善や価格競争力の強化を通じて収益力の向上を目指します。また、社内資源の有効活用や外部機関との連携により研究開発力を強化し、DXを活用したプロセス高度化や環境負荷低減に向けた取り組みも推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、事業基盤の継続的な強化に向けて、多様性のある課題解決型の組織への変容を目指しています。ジョブ型人事制度の浸透により能力の高い若手や女性を管理職に抜擢し、社員一人ひとりが自律的にキャリアを描ける環境を整備しています。また、海外派遣要員の養成やDX推進人材の育成など、積極的な人的資本投資を進めています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年3月期 43.6歳 23.7年 6,300,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 1.5%
男性育児休業取得率 63.6%
男女賃金差異(全労働者) 75.6%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 74.5%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 91.5%


また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組み」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、健康診断受診率(100%)、ストレスチェック受検率(99.3%)、障がい者雇用率(3.3%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 国内外の紙・板紙生産動向の変化


主力である抄紙用フエルトやベルトの需要は、国内製紙会社の生産動向に大きく影響を受けます。紙媒体からデジタル化への移行による新聞用紙や印刷情報用紙の需要減少、ならびに海外市場における価格競争の激化により、収益性が低下するリスクがあります。

(2) 原材料コストの変動と調達難


主要原材料である石油関連素材は、原油価格の高騰や石油化学工業の生産動向等により、コスト増加や調達面で影響を受ける可能性があります。地政学的リスクも含めた原材料市場の変動に対し、代替原料の検討や調達先の見直しを進めています。

(3) グローバル展開に伴う為替変動


同社グループは海外売上高比率が6割を超えており、為替変動のリスクを負っています。外貨建売掛金に対しては先物為替予約等により短期的な影響を抑制していますが、中長期的に大幅な為替変動が発生した場合、業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。