アサヒグループホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

アサヒグループホールディングス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム市場に上場し、ビールなどの酒類をはじめ、飲料、食品の製造・販売をグローバルに展開する企業です。直近の業績は、欧州やアジアパシフィックで主力ブランドが堅調に推移したものの、サイバー攻撃によるシステム障害などの影響により、売上収益・税引前利益ともに前期比で減収減益となっています。


※本記事は、アサヒグループホールディングス株式会社の有価証券報告書(第102期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年7月27日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. アサヒグループホールディングスってどんな会社?


国内から欧州、アジアパシフィックまで幅広く酒類や飲料、食品を展開するグローバル飲料メーカーです。

(1) 会社概要


1949年に旧大日本麦酒の分割により朝日麦酒が発足し、1989年にアサヒビールへ社名を変更しました。2011年に純粋持株会社制へ移行して現社名となり、近年は欧州やオセアニア地域の酒類・飲料事業を相次いで買収し、グローバル展開を加速させています。2021年には国内事業を統括するアサヒグループジャパンを設立しています。

連結従業員数は28,560名、単体では328名体制で事業を推進しています。筆頭株主は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は日本カストディ銀行(信託口)であり、いずれも資産管理業務を行う信託銀行です。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 18.44%
日本カストディ銀行(信託口) 7.50%
JPモルガン証券 2.42%

(2) 経営陣


同社の役員は男性10名、女性8名の計18名で構成され、女性役員比率は44.4%です。代表者は取締役兼代表執行役社長Group CEOの勝木敦志氏です。社外取締役比率は13名中8名です。

氏名 役職 主な経歴
勝木 敦志 取締役兼代表執行役社長Group CEO 1984年ニッカウヰスキー入社。2002年アサヒビール転籍。豪州の地域統括会社のDirector, Group CEO等を経て、2021年代表取締役社長兼CEO。2025年より現職。
谷村 圭造 取締役兼執行役Group CPO 1989年入社。人事部門ゼネラルマネジャー等を経て、2020年取締役兼執行役員CHRO。2024年取締役EVP兼Group CPO等を経て2025年より現職。
﨑田 薫 取締役兼執行役Group CFO 1988年入社。調達部門ゼネラルマネジャー等を経て、2022年取締役兼執行役員CFO。2024年取締役EVP兼Group CFO等を経て2025年より現職。
福田 行孝 取締役 1986年東洋エンジニアリング入社。2001年同社入社後、アサヒプロマネジメント代表取締役社長等を歴任。2023年常勤監査役を経て2025年より現職。
大島 明子 取締役 1991年入社。Strategy Senior ManagerやExecutive Officer, Head of Internal Audit等を歴任。2024年常勤監査役を経て2025年より現職。


社外取締役は、大八木成男(元帝人社長・CEO)、佐々江賢一郎(元外務事務次官)、大橋徹二(元小松製作所社長)、松永真理(松永真理事務所代表)、田中早苗(田中早苗法律事務所代表)、佐藤千佳(元日本電気Chief Diversity Officer)、メラニー・ブロック(Melanie Brock Advisory代表取締役)、宮川明子(宮川明子公認会計士事務所代表)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本・東アジア」「欧州」「アジアパシフィック」および「その他」事業を展開しています。

(1) 日本・東アジア


日本および東アジア地域において、ビールを中心とした酒類をはじめ、各種飲料や、ベビーフード・サプリメントなどの食品・薬品を製造・販売しています。また、飲食店向けの酒類販売設備の制作・保守業務や物流センターの管理なども手掛けています。

消費者や小売店などからの販売代金を主な収益源としています。地域統括会社であるアサヒグループジャパンのもと、酒類事業は主にアサヒビールやニッカウヰスキー、エノテカが、飲料事業はアサヒ飲料やカルピスが、食品・薬品はアサヒグループ食品が運営しています。

(2) 欧州


チェコ、ポーランド、ルーマニア、ハンガリーなどの中東欧や、イタリア、オランダなどの西欧地域において、プレミアムビールやビールテイスト飲料の製造および販売を展開しています。

各国の消費者や小売・飲食店への酒類販売による代金を収益源としています。地域統括会社であるAsahi Europe & International Ltdのもと、Birra Peroni S.r.l.やKoninklijke Grolsch N.V.、Kompania Piwowarska S.A.などの現地法人が事業を運営しています。

(3) アジアパシフィック


オーストラリアおよびニュージーランドにおける酒類の製造・販売と、オーストラリアやマレーシアを中心とする東南アジアでの飲料および乳製品の製造・販売を展開しています。

各地域における酒類・飲料・乳製品の販売代金を収益としています。地域統括会社のAsahi Beverages Pty Ltdのもと、酒類はCUB Pty LtdやAsahi Beverages (NZ) Limitedが、飲料・乳製品はAsahi Lifestyle BeveragesやEtika Beverages Sdn. Bhd.などが運営を担っています。

(4) その他


グループの持続的な発展に向けた中長期的研究や、飼料添加物・肥料原料の提供、米国でのスタートアップ投資ファンドの運営、グローバル調達に関する戦略立案と管理などを行っています。

グループの成長を支える基盤として機能し、技術や製品の提供、投資活動からのリターンを収益としています。アサヒクオリティーアンドイノベーションズやアサヒバイオサイクル、Asahi Global Procurement Pte. Ltd.などの各法人が運営しています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上収益はM&Aの実施やプレミアム戦略の推進、価格改定の効果などにより順調に拡大基調を描いていましたが、直近の事業年度ではサイバー攻撃によるシステム障害の影響などを受け、減収に転じています。また、システム関連費用や原材料費の増加などが影響し、利益面でも大きく減益となる結果となっています。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上収益 2兆2,361億円 2兆5,111億円 2兆7,691億円 2兆9,394億円 2兆8,947億円
税引前利益 1,998億円 2,060億円 2,419億円 2,670億円 1,793億円
利益率(%) 8.9% 8.2% 8.7% 9.1% 6.2%
当期利益(親会社所有者帰属) 1,535億円 1,516億円 1,641億円 1,921億円 1,216億円

(2) 損益計算書


売上収益の減少に伴い、売上総利益も微減となっています。一方で、売上総利益率は約38%台で推移し、製品の付加価値は維持されています。しかし、営業利益率は前期から約2.8ポイント低下しており、システム障害等の一次的な費用増や各種コストの上昇が収益性に大きな影響を与えたことがうかがえます。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 2兆9,394億円 2兆8,947億円
売上総利益 1兆977億円 1兆928億円
売上総利益率(%) 37.3% 37.8%
営業利益 2,691億円 1,859億円
営業利益率(%) 9.2% 6.4%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給付費用が2,359億円(構成比28.4%)、運搬費が1,165億円(同14.0%)を占めています。また、売上原価は1兆8,018億円で、主要な要素として原材料費が7,695億円(売上原価合計に対する構成比42.7%)を占めています。

(3) セグメント収益


主力の日本・東アジアはシステム障害や原材料費増が響き、減収減益となりました。一方、欧州は数量減があったものの単価向上により増益を確保しています。アジアパシフィックは、為替影響や物流費増により売上は横ばいながら減益という結果になっています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期) 利益(2024年12月期) 利益(2025年12月期) 利益率
日本・東アジア 1兆3,781億円 1兆3,272億円 1,336億円 626億円 4.7%
欧州 7,628億円 7,682億円 708億円 794億円 10.3%
アジアパシフィック 7,828億円 7,832億円 813億円 632億円 8.1%
その他 265億円 267億円 38億円 43億円 16.0%
調整額 -107億円 -106億円 -205億円 -236億円 -
連結(合計) 2兆9,394億円 2兆8,947億円 2,691億円 1,859億円 6.4%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う「積極型」のキャッシュ・フローとなっています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 4,037億円 1,048億円
投資CF -1,187億円 -2,005億円
財務CF -2,728億円 1,259億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.3%で市場平均を下回り、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も35.3%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


グループ理念「Asahi Group Philosophy(AGP)」を事業活動の原点に掲げています。社会的な存在意義である「Our Purpose(存在意義)」として、人や社会、地球に対してグループが果たす役割を示し、中長期的・戦略的に「Our Vision(目指す姿)」の実現を追求しています。

(2) 企業文化


グループ理念の中に、意思決定や企業文化、働き方を支える共通の価値観と行動指針「Our Values(価値観)」を規定しています。複雑化・不確実性が増す環境下で、事業や地域を横断した一体的な取り組みを強化し、各事業の総和を超えた企業価値の創造や環境変化への対応力(レジリエンス)を重視する風土です。

(3) 経営計画・目標


2030年を目処とする中期的なガイドラインを定めています。収益性の面では利益成長と資本政策が反映されるEPS(1株当たり利益)に一本化し、年平均成長率で「一桁台後半から二桁」をコミットしています。また、資本効率の向上を図るため、ROEとROICの目標値も設定し、資本コストとのスプレッド拡大を目指しています。

* EPS(調整後):年平均成長率 一桁台後半〜二桁
* ROE(調整後):11%以上
* ROIC:10%以上
* DOE:4%以上を目指した累進配当

(4) 成長戦略と重点施策


長期戦略として「おいしさと楽しさで“変化するWell-being”に応え、持続可能な社会の実現に貢献する」ことを掲げています。ビールを中心とした既存事業の持続的成長に加え、その事業基盤を活かした周辺領域(BAC:ビール隣接カテゴリー)や新規事業への投資を強化し、最適な事業ポートフォリオの構築を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「ありたい企業風土の醸成」「継続的な経営者人材の育成」「必要となるケイパビリティの獲得」の3つを柱とする「人的資本の高度化」を推進しています。多様な価値観を持つ社員が互いに学び成長できる環境づくりを進め、事業の持続的成長を支える高度な専門性やグローバルなリーダーシップを備えた人材の確保・育成に注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 44.9歳 13.6年 13,351,606円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 28.9%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) 58.6%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 59.5%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 54.0%


※同社の男性労働者の育児休業取得率については、育児休業取得事由に該当する労働者がいなかったため「-」としています。

また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、経営層の女性比率(25%)、持続可能なエンゲージメントスコア(81)、LTIFR(1.64)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) グローバル事業拡大に伴うリスク


同社グループは欧州やオセアニアなど海外で積極的なM&Aによる事業拡大を進めており、多額ののれんや無形資産を計上しています。想定したシナジー効果の未達や事業環境の悪化、カントリーリスクの顕在化により、これら資産の減損損失が発生した場合、財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) アルコール摂取に関する価値観の変化


不適切な飲酒による健康・社会的な影響に対し、世界的に規制や社会的要請が強まる傾向にあります。アルコールに対する価値観の変化や各国の規制強化が進んだ場合、グループのレピュテーション低下や需要の縮小を招き、業績に影響を与えるリスクがあります。

(3) 主要原材料の調達・価格変動リスク


酒類や飲料、食品の製造において、市況悪化による原材料やエネルギーの価格高騰、気候変動、自然災害等に伴う納期遅延や供給停止リスクを抱えています。これらが顕在化した場合、製造コストの上昇や計画未達が生じ、収益性を圧迫する可能性があります。

(4) 情報セキュリティおよびシステム障害


事業活動の多くをITシステムに依存しており、サイバー攻撃等の外部からの不正行為やシステム欠陥が発生するリスクがあります。実際に2025年にシステム障害による商品供給の制約が発生したように、事業中断やデータ漏洩等が生じた場合、業績やブランド価値に重大な影響を及ぼす恐れがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。