多木化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

多木化学 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

多木化学は東京証券取引所プライム市場に上場する化学メーカーです。肥料や農業関連資材を扱うアグリ事業と水処理薬剤などの化学品事業を主力とし、建材や不動産など多角的に展開しています。当期の連結業績は、販売数量の増加や販売価格の是正などにより増収増益を達成しました。


※本記事は、多木化学の有価証券報告書(第107期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月25日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。

1. 多木化学ってどんな会社?


アグリ事業と化学品事業を主力とし、多角的な事業を展開する化学メーカーです。

(1) 会社概要


同社は明治18年にわが国最初の人造肥料として蒸製骨粉の製造を開始したのが始まりです。大正7年に多木製肥所を設立し、昭和44年にポリ塩化アルミニウムの製造を開始しました。昭和49年に現在の多木化学へ社名を変更し、令和7年には洛東化成工業を子会社化して化学品事業の基盤を強化しています。

従業員数は連結で640名、単体で484名です。筆頭株主は信託業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位も信託業務を行う三菱UFJ信託銀行、第3位は地方銀行の中国銀行となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 7.45%
三菱UFJ信託銀行 3.62%
中国銀行 3.43%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性2名の計11名で構成され、女性役員比率は18.2%です。代表取締役社長は多木勝彦氏が務めています。

氏名 役職 主な経歴
多木勝彦 代表取締役社長 平成20年4月同社入社。経理部担当部長、取締役上席執行役員等を経て、令和6年3月より現職。
多木隆元 取締役会長 昭和52年4月同社入社。代表取締役専務取締役、代表取締役社長等を経て、令和7年3月より現職。
正木貴久 代表取締役上席専務執行役員総務人事部・内部監査部・不動産事業部担当 昭和60年4月同社入社。総務人事部長、しき島商事代表取締役社長等を経て、令和7年3月より現職。
泉一成 取締役上席常務執行役員本社工場・品質保証部・物流部・資材部担当 昭和63年4月同社入社。エンジニアリング部長、本社工場長等を経て、令和7年3月より現職。
井筒裕之 取締役上席執行役員経営企画部・サステナビリティ・経理部担当 平成2年1月同社入社。経営企画部長、執行役員等を経て、令和3年3月より現職。
鈴木吾郎 取締役上席執行役員研究所担当、研究所長きのこ事業化プロジェクトチーム担当、リーダー 昭和62年4月同社入社。技術部長、本社工場副工場長等を経て、令和4年3月より現職。
下山昌彦 取締役(常勤監査等委員) 昭和63年4月同社入社。経理部長、執行役員等を経て、令和5年3月より現職。


社外取締役は、岩木達郎(岩木達郎税理士事務所所長)、重田昇三(元損害保険ジャパン日本興亜顧問)、北嶋紀子(フェニックス法律事務所共同代表)、水野久美子(水野会計事務所所長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「アグリ」「化学品」「建材」「石油」「不動産」「運輸」および「その他」の事業を展開しています。

(1) アグリ

同社が肥料を製造・販売するほか、農業関連資材などを販売しています。農業従事者の減少や環境調和型農業への転換期において、収益構造の改革やみどりの食料システム戦略に適合した資材の開発を進めています。

収益源は、農業従事者や関連企業からの肥料および農業関連資材の販売代金です。当事業の運営は同社が行っており、生産の合理化や物流の効率化を通じた事業拡大に努めています。

(2) 化学品

水処理薬剤、機能性材料などの製造・販売を行っています。水処理薬剤は超高塩基度ポリ塩化アルミニウムの市場浸透が進み、機能性材料は自動車関連向けやスマートフォン向けの素材を提供しています。

収益源は、自治体や企業からの水処理薬剤および機能性材料の販売代金です。運営は同社および子会社の洛東化成工業が行っており、環境配慮型製品の開発や販売拡大に取り組んでいます。

(3) 建材

住宅などの建築に不可欠な石こうボードの製造および販売を行っています。新設住宅着工戸数の動向や燃料価格などの製造コスト変動の影響を受けやすい事業環境にあります。

収益源は、建築関連企業などからの石こうボードの販売代金です。当事業の運営は、連結子会社である多木建材が行っています。

(4) 石油

燃料油などの石油製品の販売を行っています。自動車のEV化や気候変動への対応に伴う化石燃料からの転換などにより、中長期的な需要の減少が見込まれる環境下にあります。

収益源は、一般消費者や企業からの石油製品の販売代金です。当事業の運営は、連結子会社であるしき島商事が行っています。

(5) 不動産

商業ビルおよびその近隣などの不動産賃貸を行っています。電子商取引の台頭などにより実店舗販売を取り巻く環境は厳しいものの、ショッピングセンターを中心としたコンパクトシティ化に取り組んでいます。

収益源は、テナント企業からの不動産賃料収入です。当事業の運営は同社と連結子会社の別府鉄道が共同で行っています。

(6) 運輸

海上および陸上輸送などの物流サービスを提供しています。景気の不透明感や荷動きの不確実性がある中、貨物輸送量や荷役量の確保に努めています。

収益源は、荷主企業からの海上および陸上輸送、荷役作業に伴う運賃および手数料収入です。当事業の運営は、連結子会社の多木商事および多木物流が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5期間の売上高は328億円から420億円へと概ね増加傾向にあります。経常利益も一時的な落ち込みを経て38億円まで回復し、利益率も9.0%に達するなど、収益性の改善が進んでいます。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 328億円 358億円 349億円 389億円 420億円
経常利益 30億円 31億円 13億円 32億円 38億円
利益率(%) 9.1% 8.8% 3.8% 8.1% 9.0%
当期利益 17億円 21億円 14億円 20億円 29億円

(2) 損益計算書


売上高の増加に伴い売上総利益も拡大しており、売上総利益率および営業利益率ともに前期から改善しています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 389億円 420億円
売上総利益 90億円 102億円
売上総利益率(%) 23.1% 24.4%
営業利益 27億円 32億円
営業利益率(%) 6.9% 7.5%


販売費及び一般管理費のうち、発送費が31億円(構成比43%)、給料及び手当が14億円(同20%)を占めています。

(3) セグメント収益


化学品事業が売上・利益ともに最大の規模を誇り、全社の業績を牽引しています。アグリ事業も増収増益となり、建材や不動産など他のセグメントも安定した利益を確保しています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期) 利益(2024年12月期) 利益(2025年12月期) 利益率
アグリ 108億円 119億円 2億円 5億円 4.1%
化学品 183億円 202億円 21億円 23億円 11.4%
建材 37億円 38億円 1億円 2億円 4.0%
石油 20億円 19億円 0.1億円 0.2億円 0.8%
不動産 13億円 13億円 7億円 7億円 54.8%
運輸 28億円 28億円 3億円 3億円 10.9%
調整額 -8億円 -8億円 -7億円 -8億円 -
連結(合計) 389億円 420億円 27億円 32億円 7.5%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

多木化学は、事業活動を通じて得た資金を、将来の成長に向けた投資や株主への還元に活用しています。

営業活動によるキャッシュ・フローは、主に事業の売上から仕入れや経費などを差し引いたもので、同社では税金等調整前当期純利益や仕入債務の増加などが主な要因となり、プラスで着地しました。投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得や投資有価証券の売却といった活動によるもので、同社では固定資産の取得が主な支出要因となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済や配当金の支払い、自己株式の取得など、資金調達や返済に関する活動によるもので、同社では自己株式の取得や配当金の支払いが主な支出要因となりました。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 43億円 23億円
投資CF -16億円 -11億円
財務CF -4億円 -15億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念

同社は「創業者精神に則り、自然と環境を守り、確かな価値の創造を通じて、豊かな社会の実現に貢献」をグループ理念として掲げています。企業の持続的発展と企業価値の向上を図り、社会の発展に貢献することを経営の基本方針としています。

(2) 企業文化

同社は、あらゆる人権および多様な価値観を尊重し、「人の成長が企業の成長の原動力である」という考えのもと、安全安心で働きがいのある職場環境づくりに取り組んでいます。目標に果敢に挑戦する人材による活力ある企業風土の醸成を重視しています。

(3) 経営計画・目標

同社は「中期経営計画2028」を策定しており、最終年度の経営目標として以下の数値を掲げています。

* 売上高440億円
* 営業利益35億円

(4) 成長戦略と重点施策

同社は、成長事業への積極的投資と新事業の創出、既存事業の深化による収益力向上、サステナビリティ・トランスフォーメーションの実践、GRCの推進を基本方針としています。高付加価値素材の開発や産官学連携、M&Aを通じた新事業創出にも注力しています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針

同社は、従業員一人ひとりの強みや目標に焦点を当て、ジョブローテーションや個別のキャリアパス構築を支援しています。継続的なスキル開発の奨励や、属性に関わらず個々の能力を最大限に引き出せるダイバーシティの推進にも注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 45.8歳 17.0年 6,645,676円

※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.5%
男性育児休業取得率 70.0%
労働者の男女の賃金の差異(全労働者) 68.5%
労働者の男女の賃金の差異(正規雇用労働者) 74.9%
労働者の男女の賃金の差異(パート・有期労働者) 48.9%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、年次有給休暇取得率(83.6%)、全管理職中の中途採用者管理職比率(12.5%)、通信教育受講率(46.7%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) エネルギーコストの高騰

同社グループが生産・販売において購入する石油・ガスの価格は、中東情勢や世界経済の変動の影響を受けます。価格の急激な上昇や炭素税の導入などによるコスト高騰が製品価格へ転嫁遅れを招いた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 事業環境の変動と製品市況の変化

機能性材料などの製品群は中間原材料であり、最終製品の市況変化による影響を受けやすい特性があります。また、不動産事業においても経済情勢の変化に伴うテナント賃料収入の減少が、グループ全体の業績に影響を与える可能性があります。

(3) 技術革新による競争力低下

機能性材料の主要販売先は技術革新が激しい業界であり、新規技術の開発によって市場構造が急速に変化するリスクがあります。代替製品の出現により同社製品の競争力が著しく低下した場合、業績に重要な影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。