※本記事は、カルナバイオサイエンス株式会社の有価証券報告書(第23期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. カルナバイオサイエンスってどんな会社?
同社はキナーゼに特化した創薬基盤技術を活かし、画期的な新薬の研究開発と創薬支援事業を展開しています。
■(1) 会社概要
2003年に日本オルガノンからスピンオフして設立されました。2008年にジャスダックNEOに上場(現在はグロース市場)し、同年米国に子会社を設立しています。一貫して細胞内の情報伝達を担う酵素であるキナーゼに特化した創薬支援事業および創薬事業を推進し、アンメット・メディカル・ニーズに対する画期的な新薬創製を目指しています。
従業員数は連結で61名、単体で57名です。筆頭株主はMSIP CLIENT SECURITIES(常任代理人モルガン・スタンレーMUFG証券)で、第2位は個人の川村剛氏、第3位は事業会社である小野薬品工業となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| MSIP CLIENT SECURITIES(常任代理人 モルガン・スタンレーMUFG証券) | 4.99% |
| 川村剛 | 2.90% |
| 小野薬品工業 | 2.63% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性8名、女性1名の計9名で構成され、女性役員比率は11.1%です。代表取締役社長は吉野公一郎氏が務めています。社外取締役は4名です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 吉野公一郎 | 代表取締役社長 | 日本オルガノン医薬研究所長等を経て2003年より現職。 |
| 澤匡明 | 取締役チーフサイエンティフィックオフィサー | 大日本製薬等を経て2007年入社。創薬研究部長等を経て2023年より現職。 |
| 山本詠美 | 取締役経営管理本部長兼経理部長兼人事総務部長兼CarnaBio USA, Inc. President | 公認会計士。CSKベンチャーキャピタル等を経て2004年入社。2018年より現職。 |
| 有村昭典 | 取締役チーフデベロップメントオフィサー兼CarnaBIO USA, Inc. Chief Development Officer | 塩野義製薬等を経て2018年入社。臨床開発部長等を経て2023年より現職。 |
| 増岡国久 | 取締役知的財産・法務部長 | 弁理士。武田薬品工業、日本新薬等を経て2025年入社。2026年より現職。 |
社外取締役は、有田篤雄(元鐘紡事業統括室長)、松井隆雄(元有限責任あずさ監査法人パートナー)、鈴木香(元ロシュファーマジャパン代表)、寺田勝基(元有限責任監査法人トーマツ代表社員)です。
2. 事業内容
同社グループは、「創薬事業」および「創薬支援事業」を展開しています。
■創薬事業
がん疾患や免疫・炎症疾患を重点領域とし、細胞内の情報伝達を担うキナーゼを標的とした低分子医薬品(分子標的薬)の研究開発を行っています。自社単独および他機関と共同で基礎研究から臨床試験までの開発を進め、画期的な新薬の創製を目指しています。
創出した医薬品候補化合物の開発・商業化の権利を製薬企業等に導出(ライセンスアウト)し、契約一時金やマイルストーン収入、上市後のロイヤリティ収入を獲得するビジネスモデルです。運営は同社およびCarnaBio USA, Inc.が行っています。
■創薬支援事業
製薬企業やバイオベンチャー、大学等の各種研究機関に向けて、キナーゼ阻害薬の創薬研究を支援する製品やサービスを提供しています。多種多様なキナーゼタンパク質やアッセイキットの販売のほか、セルベースアッセイなどの受託サービスも展開しています。
製品の販売や、顧客の化合物に対するキナーゼプロファイリングおよびスクリーニング等の受託サービスを提供することで安定的な収入を獲得し、創薬事業へ研究開発資金を融通しています。運営は同社およびCarnaBio USA, Inc.が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
創薬ベンチャーとして臨床試験等へ多額の研究開発投資を先行して行っているため、売上高は変動しつつも経常損失および当期純損失を計上する状態が続いています。直近の売上高は6億円で、研究開発費の負担により21億円の経常損失となっています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 20億円 | 14億円 | 16億円 | 6億円 | 6億円 |
| 経常利益 | -5億円 | -13億円 | -11億円 | -21億円 | -21億円 |
| 利益率(%) | -25.9% | -92.2% | -69.3% | -327.0% | -370.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -6億円 | -14億円 | -12億円 | -22億円 | -21億円 |
■(2) 損益計算書
売上総利益率は高い水準を維持していますが、将来の成長に向けた研究開発への積極的な投資により、多額の営業損失を計上しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 6億円 | 6億円 |
| 売上総利益 | 5億円 | 4億円 |
| 売上総利益率(%) | 73.2% | 67.0% |
| 営業利益 | -21億円 | -21億円 |
| 営業利益率(%) | -326.3% | -358.4% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が19億円(構成比75%)、支払手数料が2億円(同7%)を占めています。
■(3) セグメント収益
創薬事業は現在臨床開発の先行投資フェーズにあり、売上計上はなく営業損失となっています。創薬支援事業は国内主要顧客向けの特注受注等があったものの、一部海外の大口顧客の需要減少により減収となり、営業損失を計上しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 創薬支援事業 | 6億円 | 6億円 | -0.3億円 | -0.5億円 | -8.8% |
| 創薬事業 | - | - | -20億円 | -20億円 | - |
| 連結(合計) | 6億円 | 6億円 | -21億円 | -21億円 | -358.4% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
本業は赤字ですが、将来の成長に向けた創薬パイプライン開発のため、資金調達を行って積極的な投資を継続する「勝負型」のキャッシュ・フロー状況です。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -14億円 | -22億円 |
| 投資CF | -0.1億円 | -0.3億円 |
| 財務CF | 6億円 | 6億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)のデータはありませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は25.1%で市場平均を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、生命科学(バイオサイエンス)を探究することで「人々の生命を守り、健康に貢献することを目指す」ことを基本理念としています。社名である「カルナ(Carna)」はローマ神話の「人間の健康を守る女神」に由来しており、まさに人々の健康を守る存在でありたいという願いが込められています。
■(2) 企業文化
同社は創薬ベンチャーとして、アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患に対して画期的な新薬を一日も早く世に送り出すことを目指す姿勢を重視しています。長年の研究で培われたキナーゼに関する専門的な「創薬基盤技術」を強みとし、自社の創薬事業だけでなく、他社の創薬活動も支援する文化を持っています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、創薬事業においては短期的な業績評価よりも、研究開発中の創薬パイプラインの進捗や、導出先からのマイルストーン収入、上市後のロイヤリティの安定的な獲得を中期的な目標としています。一方、創薬支援事業では、継続的な事業成長と収益基盤の拡大を図るため、売上高および営業利益率の改善を重要な経営指標に掲げています。
■(4) 成長戦略と重点施策
同社の事業価値を拡大するため、開発段階にある創薬パイプラインの臨床試験を推進し、ライセンス契約締結による導出一時金やマイルストーン収入の獲得を最優先の課題としています。また、創薬支援事業における新規顧客の開拓による売上拡大と営業キャッシュ・フローの確保、さらに必要に応じた新たな資金調達の実施を重点施策として進めています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、事業の性質上、高度な専門的知識や経験を有する人材の維持・確保を不可欠と考えています。性別や年齢、国籍にとらわれず、能力や経験を重視した多様な人材の採用活動を実施しています。また、従業員のワークライフバランスを実現するため、フレックスタイム制度や法定を超える育児・介護短時間勤務制度などを導入し、働きやすい環境整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 47.6歳 | 11.6年 | 7,919,000円 |
※平均年間給与は基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社および連結子会社は公表義務の対象ではないため、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 創薬事業の医薬品開発・導出リスク
新薬の研究開発には長期間と多額の投資が必要ですが、有効性や安全性の観点から開発が中止・延期となるリスクや、規制当局の承認が得られず上市できないリスクがあります。また、導出先の経営方針変更による開発中断や、競合品の出現によって導出交渉が困難になる可能性もあります。
■(2) 創薬支援事業の市場依存・特定領域リスク
創薬支援事業は主としてキナーゼ関連製品・サービスに特化しているため、製薬企業等によるキナーゼ阻害薬の研究開発やアウトソーシング市場が予想通りに拡大しない場合、業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、顧客である研究部門のテーマ変更により発注が減少するリスクもあります。
■(3) 先行投資に伴う継続企業の前提に関するリスク
同社は画期的な新薬を創製するため、臨床試験等に多額の先行投資を行うビジネスモデルであり、当面は損失計上が続く可能性があります。事業によるキャッシュ・フローや資金調達で投資を賄いますが、円滑に資金調達が実施できない場合、事業継続が困難になる重要な不確実性が存在しています。



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