AGC 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

AGC 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場のAGCは、ガラス、化学品、電子部材などを展開する素材メーカーです。当期は為替の影響や電子部材の好調により売上高は増収なるも、ライフサイエンス事業の減損損失やロシア事業譲渡の影響等により、最終損益は赤字転落(減益)となりました。


※本記事は、株式会社AGC の有価証券報告書(第100期、自 2024年1月1日 至 2024年12月31日、2025年3月28日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。

1. AGCってどんな会社?


ガラス世界大手として建築・自動車用ガラスを展開するほか、電子、化学品、ライフサイエンス分野へも事業領域を拡大しています。

(1) 会社概要


1907年に旭硝子として創立し、1909年に日本初の板ガラス工業生産を開始しました。1950年に株式を上場し、2018年にはAGCへ社名を変更しました。2017年にはバイオ医薬品開発製造受託事業を本格化させるなど事業ポートフォリオの転換を進め、2024年にはロシア事業からの撤退を完了しています。

連結従業員数は53,687名、単体従業員数は8,014名です。大株主の構成は、筆頭株主が資産管理業務を行う信託銀行で、第3位には生命保険会社が名を連ねています。また、公益財団法人や取引先持株会、従業員持株会も上位株主に含まれており、安定的な株主構成となっています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 16.00%
日本カストディ銀行(信託口) 8.16%
明治安田生命保険相互会社 3.62%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性3名の計12名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長執行役員CEOは平井良典氏が務めています。社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
平井 良典 代表取締役社長執行役員CEO 1987年入社。事業開拓室長、技術本部長、CTOを経て、2021年より現職。
宮地 伸二 代表取締役副社長執行役員CFO、CCO 1990年入社。電子カンパニーエレクトロニクス事業本部長、経営企画本部長などを経て、2023年より現職。
倉田 英之 代表取締役専務執行役員CTO、技術本部長 1987年入社。化学品カンパニーライフサイエンス事業本部長、技術本部長を経て、2023年より現職。
島村 琢哉 取締役会長 1980年入社。化学品カンパニープレジデント、電子カンパニープレジデントを経て、2015年社長執行役員CEOに就任。2021年より現職。


社外取締役は、柳弘之(元ヤマハ発動機社長)、本田桂子(元多数国間投資保証機関長官兼CEO)、手代木功(塩野義製薬会長兼社長CEO・報酬委員長)、有馬浩二(デンソー会長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「建築ガラス」「オートモーティブ」「電子」「化学品」「ライフサイエンス」の5つの報告セグメントおよび「セラミックス・その他」事業を展開しています。

建築ガラス


建築用板ガラスや複層ガラス、強化ガラスなどの建築用加工ガラスを提供しています。主な顧客は建設業界や住宅メーカー等です。

製品販売による対価を主な収益としています。運営は、同社およびAGC Glass Europeなどの子会社が行っています。

オートモーティブ


自動車用ガラスや車載ディスプレイ用カバーガラスを提供しています。自動車メーカーなどが主な顧客です。

製品販売による対価を主な収益としています。運営は、同社およびAGC Automotive Europeなどの子会社が行っています。

電子


液晶・有機ELディスプレイ用ガラス基板やディスプレイ用特殊ガラス、半導体関連部材、光学関連部材などを提供しています。電子部品・デバイスメーカー等が顧客です。

製品販売による対価を主な収益としています。運営は、同社およびAGCエレクトロニクスなどの子会社が行っています。

化学品


苛性ソーダ、塩化ビニル樹脂などのエッセンシャルケミカルズや、フッ素製品(樹脂、ガス、溶剤)、ヨウ素製品などのパフォーマンスケミカルズを提供しています。

製品販売による対価を主な収益としています。運営は、同社およびAGC Vinythai Public Company Limitedなどの子会社が行っています。

ライフサイエンス


合成医農薬の開発製造受託(CDMO)、バイオ医薬品の開発製造受託、医農薬中間体・原体の製造販売を行っています。製薬会社や農薬会社が主な顧客です。

開発製造受託サービスや製品販売による対価を収益としています。運営は、同社およびAGC Biologics Inc.などの子会社が行っています。

セラミックス・その他


セラミックス製品の製造販売や、物流・金融サービス等を行っています。

製品販売やサービス提供による対価を収益としています。運営は、AGCセラミックスなどの子会社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の推移を見ると、売上収益は2022年12月期まで増加傾向にありましたが、その後は横ばいで推移しています。利益面では、2021年12月期に高い利益率を記録しましたが、その後は低下傾向にあり、当期(2024年12月期)は多額の減損損失等の計上により税引前損益および当期損益が赤字に転じています。

項目 2020年12月期 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期
売上収益(または売上高) 14,123億円 16,974億円 20,359億円 20,193億円 20,676億円
税引前利益 571億円 2,100億円 585億円 1,228億円 -501億円
利益率(%) 4.0% 12.4% 2.9% 6.1% -2.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 327億円 1,238億円 -32億円 658億円 -940億円

(2) 損益計算書


前期と比較すると、売上高は増加し、売上総利益および売上総利益率も改善しています。しかし、営業利益は微減となりました。営業利益率は低下しており、コスト増加等の影響が見られます。

項目 2023年12月期 2024年12月期
売上高 20,193億円 20,676億円
売上総利益 4,814億円 4,991億円
売上総利益率(%) 23.8% 24.1%
営業利益 1,288億円 1,258億円
営業利益率(%) 6.4% 6.1%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が492億円(構成比13%)、運搬費及び保管費が306億円(同8%)を占めています。

(3) セグメント収益


電子セグメントは増収大幅増益となり、化学品も増収となりましたが、建築ガラスやオートモーティブは減益となりました。特にライフサイエンスは増収ながらも営業赤字が拡大しています。

区分 売上(2023年12月期) 売上(2024年12月期) 利益(2023年12月期) 利益(2024年12月期) 利益率
建築ガラス 4,763億円 4,380億円 328億円 164億円 3.7%
オートモーティブ 4,997億円 4,988億円 218億円 139億円 2.8%
電子 3,132億円 3,645億円 184億円 545億円 14.9%
化学品 5,741億円 5,936億円 648億円 568億円 9.6%
ライフサイエンス 1,268億円 1,412億円 -124億円 -212億円 -15.0%
セラミックス・その他 834億円 791億円 33億円 51億円 6.5%
調整額 -542億円 -477億円 1億円 4億円 -
連結(合計) 20,193億円 20,676億円 1,288億円 1,258億円 6.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標

営業CFがプラス、投資CFと財務CFがマイナスの健全型です。本業で稼ぎ、将来に向けた投資も行っています。

項目 2023年12月期 2024年12月期
営業CF 2,125億円 2,848億円
投資CF -1,798億円 -1,956億円
財務CF -1,080億円 -1,319億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-6.5%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は51.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社グループは、企業理念として「Look Beyond」を定めています。これは、独自の素材・ソリューションで、いつもどこかで世界中の人々の暮らしを支え、「AGC、いつも世界の大事な一部」であり続けるというグループの存在意義(パーパス)を示すものです。

(2) 企業文化


同社は、時代の変化に対応するため、既存の「コア事業」と成長分野の「戦略事業」の両輪で成長を目指す「両利きの経営」を推進しています。また、「易きになじまず難きにつく」という創業の精神に基づき、チャレンジを奨励する風土を大切にしています。

(3) 経営計画・目標


2026年を最終年度とする中期経営計画「AGC plus-2026」を策定しています。2030年のありたい姿の実現に向け、企業価値の最大化に取り組んでいます。
* 営業利益:3,000億円以上
* 戦略事業営業利益:60%以上
* ROE:安定的に10%以上
* D/E比率:0.5以下

(4) 成長戦略と重点施策


「両利きの経営」をさらに進化させ、市況変動に強く、資産効率・成長性・炭素効率の高い事業ポートフォリオへの転換を目指します。コア事業では競争力強化による収益基盤の構築を、戦略事業では高収益事業の創出・拡大を図ります。特にエレクトロニクスやパフォーマンスケミカルズでの成長加速、ライフサイエンスの収益回復に注力します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


「人財のAGC」を掲げ、風通しの良さ・チャレンジ・主体性を重視する企業文化の醸成に取り組んでいます。多様な人材が能力を発揮できるよう、ダイバーシティの推進、外部人材の積極採用、基幹人材の育成を重点施策としています。また、女性活躍推進や従業員エンゲージメントの向上にも注力しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2024年12月期 43.2歳 16.9年 8,881,463円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.0%
男性育児休業取得率 89.4%
男女賃金差異(全労働者) 74.4%
男女賃金差異(正規雇用) 74.6%
男女賃金差異(非正規) 72.1%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、女性役員(取締役及び監査役)比率(30%)、女性執行役員比率(20%)、新卒採用女性比率(30%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 地政学・カントリーリスク


グローバルに事業を展開しているため、各国の政治経済情勢の悪化、輸出入規制、予期せぬ法令の改変、テロ・戦争等の発生により、事業活動に支障が生じる可能性があります。これらは業績や財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

(2) 市場環境の変化


製品需要は、建築、自動車、電子、化学品等の各市場動向の影響を受けます。また、世界各国の景気減退による販売数量の減少や価格下落が発生した場合、業績に影響を与える可能性があります。特に自動車生産台数や建設投資の変動は大きな影響要因となります。

(3) 競争優位性に係るリスク


各事業において競合他社が存在し、品質、価格、デリバリー等の競争に晒されています。顧客ニーズへの対応遅れや、新技術開発の長期化、知的財産権を巡る訴訟等が発生した場合、成長性や収益性が低下する可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。