※本記事は、AGCの有価証券報告書(第101期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. AGCってどんな会社?
建築・自動車用ガラス、電子部材、化学品、ライフサイエンスなど幅広い素材を提供するグローバル企業です。
■(1) 会社概要
1907年に旭硝子として創立し、1909年に日本で初めて板ガラスの工業生産を開始しました。1956年に自動車用ガラスの生産を始め、その後も電子部材や化学品、ライフサイエンス分野へと事業を拡大しています。2018年に社名をAGCに変更し、独自の素材・ソリューションを提供する企業として進化を続けています。
現在の従業員数は連結で52,896名、単体で8,122名体制です。大株主の構成を見ると、筆頭株主および第2位は資産管理業務等を行う信託銀行となっています。第3位には機関投資家である明治安田生命保険相互会社が名を連ねており、国内外の機関投資家から広く支持される安定した資本基盤を構築しています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 15.28% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 7.01% |
| 明治安田生命保険相互会社 | 3.62% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性9名、女性3名の計12名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長執行役員CEOは平井良典氏が務めています。社外取締役は4名選任されています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 平井良典 | 代表取締役社長執行役員CEO | 1987年入社。執行役員事業開拓室長、常務執行役員技術本部長、取締役兼専務執行役員CTOなどを経て2021年より現職。 |
| 宮地伸二 | 代表取締役副社長執行役員社長付 | 1990年入社。電子カンパニーエレクトロニクス事業本部長、取締役兼常務執行役員CFOなどを経て2026年より現職。 |
| 倉田英之 | 代表取締役専務執行役員CTO、技術本部長 | 1987年入社。化学品カンパニーライフサイエンス事業本部長などを経て2023年より現職。 |
| 島村琢哉 | 取締役会長 | 1980年入社。化学品カンパニープレジデント、電子カンパニープレジデント、代表取締役兼社長執行役員CEOなどを経て2021年より現職。 |
社外取締役は、柳弘之氏(元ヤマハ発動機社長)、本田桂子氏(元多数国間投資保証機関長官兼CEO)、手代木功氏(塩野義製薬会長兼社長CEO)、有馬浩二氏(元デンソー社長)です。
2. 事業内容
同社グループは、「建築ガラス」「オートモーティブ」「電子」「化学品」「ライフサイエンス」および「セラミックス・その他」事業を展開しています。
■建築ガラス
住宅やビルなどの建築用板ガラスをはじめ、複層ガラス、強化ガラス、合わせガラス等の建築用加工ガラスを製造・販売しています。欧米やアジアを含めグローバルに製品を提供しており、地域によっては関連製品の納入と取付工事も行っています。
建設・住宅関連企業等の顧客に対して製品を納入し、その販売代金や工事代金を収益としています。本事業は同社および国内外のグループ会社が主体となって運営しています。
■オートモーティブ
自動車用ガラスや、車載ディスプレイ用カバーガラスなどの製造・販売を行っています。日本・アジア、欧州、米州に開発・生産拠点を有し、世界中の自動車メーカーのニーズに応える製品を提供しています。
国内外の自動車メーカー等の顧客へ製品を納入し、その販売代金から収益を得ています。本事業の運営は、同社および各地域のグループ会社が担っています。
■電子
液晶や有機ELディスプレイ用のガラス基板をはじめ、半導体関連部材や光学関連部材などの製造・販売を行っています。エレクトロニクス市場の拡大を背景に、最先端の技術を活かした独自製品を供給しています。
国内外のディスプレイメーカーや半導体・電子部品メーカーへ製品を納入し、販売代金を受け取るビジネスモデルです。本事業は同社や各地域のグループ会社によって運営されています。
■化学品
苛性ソーダや塩化ビニル樹脂などのエッセンシャルケミカルズと、フッ素製品やヨウ素製品などのパフォーマンスケミカルズを製造・販売しています。インフラ整備やエレクトロニクス、モビリティ分野に貢献しています。
主に商社などの卸売業者や関連企業へ製品を納入し、その販売代金を収益源としています。本事業は同社を中心に、東南アジア等のグループ会社と連携して運営されています。
■ライフサイエンス
合成医農薬の中間体・原体の開発製造受託や、バイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)などをグローバルに展開しています。医薬・農薬関連企業のパートナーとして、安定した品質と実績を提供しています。
国内外の製薬企業や農薬企業から開発・製造を受託し、その対価として受託費用や販売代金を受け取るビジネスモデルです。本事業は同社および海外のグループ会社が運営しています。
■セラミックス・その他
ガラス溶解窯の構造材などにも使われる各種セラミックス製品の製造・販売のほか、グループ向けの物流・金融サービスなどを手がけています。
顧客への製品販売代金や、グループ内外へのサービス提供に対する手数料等を収益としています。同社およびAGCセラミックスなどの関連会社が運営を担っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上高は直近5期間を通じて2兆円前後の規模を維持し、安定した推移を見せています。一方、利益面では事業環境の変化や構造改革費用等の影響により変動が大きく、赤字を計上した期もありました。しかし、直近の2025年12月期には収益改善施策が奏功し、税引前利益および当期利益ともに大幅な黒字回復を果たしています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 16,974億円 | 20,359億円 | 20,193億円 | 20,676億円 | 20,588億円 |
| 税引前利益 | 2,100億円 | 585億円 | 1,228億円 | -501億円 | 1,248億円 |
| 利益率(%) | 12.4% | 2.9% | 6.1% | -2.4% | 6.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 1,238億円 | -32億円 | 658億円 | -940億円 | 692億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は微減となったものの、売上総利益および営業利益はともに増加しています。これは、主にオートモーティブ事業等での価格政策や高付加価値化による収益改善が寄与したためであり、利益率もそれぞれ改善傾向を示しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 20,676億円 | 20,588億円 |
| 売上総利益 | 1,835億円 | 1,947億円 |
| 売上総利益率(%) | 8.9% | 9.5% |
| 営業利益 | 1,258億円 | 1,275億円 |
| 営業利益率(%) | 6.1% | 6.2% |
販売費及び一般管理費(単体)のうち、研究開発費が471億円(構成比31%)、運搬費及び保管費が317億円(同21%)、給料及び手当が274億円(同18%)を占めています。
■(3) セグメント収益
オートモーティブ事業は価格政策の効果や円安の恩恵により増収増益を達成しました。建築ガラス事業も価格水準の適正化により増益となっています。一方で、電子、化学品、ライフサイエンスの各事業は、市場環境の変化や販売価格の下落、拠点閉鎖等に伴う影響により減収減益となりました。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 建築ガラス | 4,356億円 | 4,388億円 | 164億円 | 173億円 | 3.9% |
| オートモーティブ | 4,986億円 | 5,203億円 | 139億円 | 293億円 | 5.6% |
| 電子 | 3,628億円 | 3,532億円 | 545億円 | 475億円 | 13.5% |
| 化学品 | 5,897億円 | 5,795億円 | 568億円 | 530億円 | 9.2% |
| ライフサイエンス | 1,373億円 | 1,294億円 | -212億円 | -223億円 | -17.2% |
| セラミックス・その他 | 437億円 | 376億円 | 51億円 | 26億円 | 7.0% |
| 調整額 | -億円 | -億円 | 4億円 | 0億円 | -% |
| 連結(合計) | 20,676億円 | 20,588億円 | 1,258億円 | 1,275億円 | 6.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがプラス、投資CFおよび財務CFがマイナスとなっており、本業で稼いだ利益を元に投資を行い、さらに借入金の返済や株主還元等も手元資金で賄う健全型のキャッシュ・フロー状況を示しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 2,848億円 | 2,745億円 |
| 投資CF | -1,956億円 | -1,784億円 |
| 財務CF | -1,319億円 | -1,141億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は4.7%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は53.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社はグループの全ての事業活動、社会活動を貫く企業理念として「Look Beyond」を定めています。その中で、世の中に提供すべき価値や存在意義を示すパーパスとして、「“AGC、いつも世界の大事な一部”~私たちは先を見据え、独自の素材・ソリューションで、いつもどこかで世界中の人々の暮らしを支えます~」を掲げています。
■(2) 企業文化
同社は企業理念「Look Beyond」の追求において、「One Team with Diversity」などの価値観を重視しています。常に異なる視点・意見を尊重し、多様な能力・個性を求め、互いの強みを活かして新たな価値を生み出す組織を目指しています。また、挑戦を奨励する風通しの良さや主体性を重んじる企業文化により、競争優位性を築いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は長期経営戦略「2030年のありたい姿」の実現に向け、中期経営計画「AGC plus-2026」を策定し、独自の素材・ソリューションの追求を通じた事業構造の変革を図っています。中計の最終年である2026年度に向けた主な財務KPIは以下の通りです。
* EBITDA:4,000億円
* ROE:5%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社はROE向上のため、事業管理指標としてROCE(営業資産営業利益率)を用い、収益性の不十分な事業において営業利益の向上と営業資産の適正化を進めています。また、研究開発においては「生産・基盤技術革新」「次世代・新製品開発」「新事業創出」の三軸で最先端かつ高付加価値領域への投資を強化しており、特に半導体関連事業の展開を加速させています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は継続的な企業成長を実現するため、人的資本経営「人財のAGC」を推進しています。風通しの良さ・チャレンジ・主体性を重視する企業文化を醸成し、多様な人材の強み・個性を引き出しながら、主体的な学びと成長を支援しています。外部人材の積極採用や次世代経営人材の育成を通じ、エンゲージメントの高い強い組織の構築を目指しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 43.4歳 | 17.0年 | 9,053,185円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.2% |
| 男性育児休業取得率 | 83.6% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 72.2% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 72.5% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 68.7% |
また、同社は「サステナビリティに関する考え方及び取組」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、総合職のキャリア採用者比率(約半数)、基礎・応用レベルのDX人財(5,000名超)、トップデータサイエンティスト(100名水準)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) グローバル事業における地政学・カントリーリスク
同社は国内外で広く生産・販売拠点を展開しており、進出国における政治経済情勢の悪化、外資規制、予期せぬ法令改変や経済制裁などが事業活動に影響を及ぼすリスクがあります。これらの事象による社会的混乱が、業績や財務状況を悪化させる可能性があります。
■(2) 主要顧客業界の市場環境変化
同社製品の需要は、建築、自動車、電子・ディスプレイ、化学品など幅広い業界の市場動向に連動します。関連業界の需要減少や、販売先の地域における景気減退が生じた場合、販売数量の減少や製品価格の下落を招き、収益に大きな影響を与える可能性があります。
■(3) 競合他社に対する競争優位性の低下
展開する各事業には競合会社が存在し、同社は新技術の開発や顧客ニーズへの対応に努めています。しかし、顧客ニーズの変化に適切に対応できなかった場合や、技術開発の長期化、知的財産権の訴訟等で不利な結果が生じた場合、競争優位性が低下し業績に影響する可能性があります。



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