※本記事は、日機装株式会社の有価証券報告書(第85期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は IFRS です。
1. 日機装ってどんな会社?
工業用特殊ポンプや航空機向け炭素繊維強化プラスチック部品、血液透析装置などを提供するメーカーです。
■(1) 会社概要
1953年に特殊ポンプ工業として創立し、1968年に日機装へ商号変更しました。1961年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、1971年に同市場第一部へ指定替えされています。1969年には国産初の人工腎臓装置を完成させ医療分野に本格参入しました。2017年には米国のクライオジェニックインダストリーズグループを買収し、事業領域を拡大しています。
同社グループは、連結で8,120名、単体で2,104名の従業員を擁しています。筆頭株主は資産管理業務を行う日本マスタートラスト信託銀行(信託口)で、第2位は従業員持株会である日機装持株会、第3位も資産管理業務を行う日本カストディ銀行(信託口)となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 11.53% |
| 日機装持株会 | 5.17% |
| 日本カストディ銀行(信託口) | 3.90% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性11名、女性2名の計13名で構成され、女性役員比率は15.4%です。代表取締役社長執行役員は加藤孝一氏が務めています。取締役9名のうち、社外取締役比率は33.3%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 加藤孝一 | 代表取締役社長執行役員 | 1995年同社入社。インダストリアル事業本部長等を経て2025年4月より現職。 |
| 甲斐敏彦 | 取締役会長 | 2000年同社入社。医療機器カンパニープレジデント、代表取締役社長等を経て2025年4月より現職。 |
| 山村優 | 取締役常務執行役員 | 1990年同社入社。インダストリアル事業本部長等を経て2025年1月より現職。 |
| 齋藤賢治 | 取締役常務執行役員 | みずほ銀行パリ支店長等を経て2020年同社入社。航空宇宙事業本部長等を経て2025年1月より現職。 |
| 木下良彦 | 取締役執行役員 | 1989年同社入社。メディカル事業本部長等を経て2023年1月より現職。 |
| ピーター・ワグナー | 取締役 | アトラスコプコグループ等を経て2018年米国子会社CEO。2024年7月より現職。 |
社外取締役は、中久保満昭(あさひ法律事務所パートナー)、菊地敦子(元人事院人材局長)、山口純子(元NTT東日本常勤監査役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「工業部門」および「医療部門」事業を展開しています。
■(1) 工業部門
同部門では、液化ガスに使用される極低温用ポンプなどの産業用特殊ポンプ・システムの製造販売や、火力・原子力発電所向けの水質調整装置、航空宇宙産業向けの炭素繊維強化プラスチック(CFRP)成形品などの製造を行っています。主に国内外のインフラ関連企業や航空機メーカーが顧客となります。
収益は、製品の販売やメンテナンスの提供に対する代金として顧客から受け取ります。運営は主に同社および宮崎日機装、クライオジェニックインダストリーズなどのグループ会社が行っています。
■(2) 医療部門
同部門では、血液透析装置や人工腎臓透析用剤、ダイアライザー、血液回路などの血液透析に関連した製品のほか、マイクロ波外科手術用エネルギーデバイスなどの製造、販売およびメンテナンスを行っています。国内外の病院やクリニックなどの医療機関および医療機器商社が主な顧客です。
収益は、医療機器や関連消耗品の販売、および機器の保守・メンテナンス料として顧客から得ています。運営は主に同社および上海日機装貿易、威高日機装などの関係会社が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
売上収益は直近5期間において継続して拡大傾向にあります。税引前利益は事業譲渡などにより一時的に大きく変動する期があるものの、当期はインダストリアル事業の好調や不採算事業の整理が進んだことで前年から大幅な増益となり、高い収益水準を確保しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上収益 | 1678億円 | 1771億円 | 1926億円 | 2134億円 | 2156億円 |
| 税引前利益 | 40億円 | 327億円 | 116億円 | 100億円 | 173億円 |
| 利益率(%) | 2.4% | 18.5% | 6.0% | 4.7% | 8.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 2億円 | 136億円 | 91億円 | 80億円 | 137億円 |
■(2) 損益計算書
売上収益が底堅く推移するなか、事業構造改革の進展や成長ドライバーの拡大により利益率が大きく向上しています。売上総利益率および営業利益率ともに前年から改善し、本格的な利益体質への転換が顕著に表れています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 2134億円 | 2156億円 |
| 売上総利益 | 244億円 | 282億円 |
| 売上総利益率(%) | 11.4% | 13.1% |
| 営業利益 | 64億円 | 153億円 |
| 営業利益率(%) | 3.0% | 7.1% |
販売費及び一般管理費のうち、給料及び手当が65億円(構成比13%)、運送費及び保管費が37億円(同7%)、研究開発費が29億円(同6%)を占めています。また、売上原価は1506億円で、売上収益合計に対する構成比は70%となっています。
■(3) セグメント収益
工業部門は、産業ガス・LNG関連の堅調な需要や航空機産業の増産を背景に、売上・利益ともに伸長し全社の業績を牽引しました。医療部門は、国内市場が抑制的だったものの、海外市場の需要回復が寄与し増益を達成しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 工業部門 | 1303億円 | 1370億円 | 73億円 | 135億円 | 9.9% |
| 医療部門 | 833億円 | 789億円 | 40億円 | 61億円 | 7.7% |
| 調整額 | -2億円 | -2億円 | -49億円 | -42億円 | - |
| 連結(合計) | 2134億円 | 2156億円 | 64億円 | 153億円 | 7.1% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
当期は営業で利益を出し、子会社株式の売却などにより投資CFがプラスとなり、それらの資金で借入金の返済を進める改善局面となっています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -66億円 | 176億円 |
| 投資CF | -50億円 | 1億円 |
| 財務CF | 134億円 | -98億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は9.2%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は50.1%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社グループは、「人々の良質な暮らしの実現のために、他にない技術の提供を通じて、流体を扱う多様な産業、航空宇宙、透析医療等の暮らしの根幹分野で創造的な貢献を果たすこと」を経営の理念として掲げています。社会の一員として健全な倫理・価値観を共有し、持続的な成長と企業価値の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、「それぞれの事業分野において、独創的な技術を活かし、市場のニーズに応えた特長ある製品、サービスを提供することにより社会に貢献すること」を経営の基本方針としています。「品質」を原点とした技術革新への飽くなき追求を通じ、新たな事業機会の開拓に挑戦する文化を大切にしています。
■(3) 経営計画・目標
同社グループは、2026年から2028年までの3カ年を対象とした新中期経営計画「NIKKISO 2028 – Toward a Healthier World」を策定し、企業価値の最大化と持続的な成長を目指しています。最終年度となる2028年には以下の数値目標の達成を掲げています。
* 売上収益:2,700億円
* 営業利益:220億円(営業利益率 8.1%)
* ROE:9.0%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
長期ビジョンの実現に向け、継続成長を見込むLNG関連事業や海外血液透析事業での利益創出をベースに、脱炭素関連ビジネス等などの新規ビジネス領域へ積極的な投資を実行します。また、成長鈍化が見込まれる事業の構造転換を図り、次世代技術の社会実装の加速や資本効率の最大化、グローバル事業のインフラとガバナンスの強化を推進します。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は「人材活躍の最大化」を人材戦略として掲げ、脱炭素やDXなどの社会変化に対応できる組織基盤への変革を進めています。事業横断的な次世代リーダーの育成プログラムや、専門性を職務等級の基準とするプロフェッショナルコースの導入を通じ、事業を牽引する中核人材と技術を支える専門人材の育成・強化に注力しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや下回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 43.2歳 | 12.7年 | 6,788,035円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 6.1% |
| 男性育児休業取得率 | 82.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 61.1% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 60.4% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 70.6% |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、管理職の男女賃金差異(89.9%)、総合職の男女賃金差異(83.5%)、専任職の男女賃金差異(92.3%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 法令・規制変更に関するリスク
同社は複数地域で事業を展開しており、医療機器に関わる調達要件や現地化比率など各国の法令・規制動向の影響を受けます。特定地域で部品の調達比率引上げが法制化された場合、条件を満たせないと入札参加の制約や販売機会の減少を招き、サプライチェーン再構築のための追加コストが発生する可能性があります。
■(2) 税務に関するリスク
同社はグローバルに生産・販売拠点を持ち、グループ会社間で国際取引が多く発生しています。移転価格税制に準拠するよう管理を行っていますが、各国の税務・税関当局と見解の相違が生じた場合や、租税法令の改廃があった場合には、追加の税負担やペナルティが発生し、業績に影響を及ぼす可能性があります。
■(3) 為替変動に関するリスク
同社は世界の様々な市場で製品・サービスを提供しており、主な取引通貨である米ドルやユーロの為替変動の影響を受けます。グループ全体で外貨建の売上や資産が外貨建の仕入や負債を上回っているため、急激な円高が進行した場合には、収益やキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。



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