興研 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

興研 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証スタンダード市場に上場する興研は、防じん・防毒マスクなどの労働安全衛生保護具やオープンクリーンシステム等の製造・販売を主力事業として展開しています。直近の業績は、マスク関連事業の安定推移と環境関連事業の好調な売上が牽引し、増収増益を達成しており、過去最高益を更新する好調な推移を見せています。


※本記事は、興研の有価証券報告書(第63期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月25日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。

1. 興研ってどんな会社?


同社は、労働安全衛生保護具等のマスク関連事業や環境関連事業を主力とする研究開発型企業です。

(1) 会社概要


1943年に興進会研究所として創業し、1963年に製造・販売部門が分離独立して興研が設立されました。1986年に店頭登録を果たし、2004年にはジャスダックへ上場しました。その後、2012年にタイへ製造子会社を設立して海外展開を進め、2022年に東証スタンダード市場へ移行しています。

現在の同社グループは、連結従業員数312名、単体従業員数251名の体制で事業を展開しています。大株主の状況としては、筆頭株主が関連財団である公益財団法人酒井CHS振興財団であり、第2位および第3位は創業一族の役員である酒井眞一氏ならびに酒井宏之氏となっています。

氏名 持株比率
公益財団法人酒井CHS振興財団 11.93%
酒井眞一 11.75%
酒井宏之 11.12%

(2) 経営陣


同社の役員は男性11名、女性1名の計12名で構成され、女性役員比率は8.3%です。代表取締役会長は酒井眞一氏、代表取締役社長は村川勉氏が務めており、取締役8名のうち社外取締役は1名(比率12.5%)となっています。

氏名 役職 主な経歴
村川勉 代表取締役社長 1989年同社入社。品質保証室長、テクノヤード所長、海外部門責任者などを歴任。2010年に常務取締役、2013年に専務取締役を経て、2014年より代表取締役社長として現職。
酒井眞一 代表取締役会長 1964年レナウン商事入社。1967年同社に入社し同年取締役就任。1981年に代表取締役社長を経て、2003年より代表取締役会長として現職。
堀口展也 代表取締役副社長製造本部担当 1982年同社入社。安全衛生部門責任者等を経て、2010年常務取締役就任。タイ子会社社長などを歴任し、2014年より代表取締役副社長として製造本部を担当し現職。
村松光二 専務取締役マーケティング本部担当 1978年富士銀行(現みずほ銀行)入行。支店長や部長を歴任後、2006年同社出向。2007年に常務取締役として入社。2014年より専務取締役として現職。
井端秀明 常務取締役管理本部担当 1986年富士銀行(現みずほ銀行)入行。支店長や部長を歴任後、2014年に同社出向。2015年より常務取締役として管理本部を担当し現職。
長坂利明 取締役内部統制担当 1982年同社入社。テクノヤード所長やコンプライアンス室長等を歴任。2014年に取締役経理部長に就任。2025年より取締役として内部統制を担当し現職。
酒井宏之 取締役相談役 1967年同社入社。1974年取締役就任。常務、専務、代表取締役副社長を歴任し、2003年に代表取締役社長就任。2014年より取締役相談役として現職。


社外取締役は、櫻井しのぶ氏(順天堂大学大学院教授)です。

2. 事業内容


同社グループは、「マスク関連事業」「環境関連事業」および「その他事業」を展開しています。

(1) マスク関連事業


防じんマスク、防毒マスクなどの労働安全衛生保護具等の製造および販売を行っており、主な顧客は製造業、公共インフラ整備の工事現場、医療機関、自衛隊などです。産業用から医療用まで過酷な環境下に対応する幅広い用途のマスクを提供しています。

収益源は、各顧客からの製品販売代金です。主に企業や官公庁に対する製品供給によって販売収益を計上しており、当該事業の運営は同社および製造を担うタイの連結子会社SIAM KOKEN LTD.が行っています。

(2) 環境関連事業


オープンクリーンシステム「KOACH」などの環境関連機器の製造および販売を行っており、主に高い清浄度を求める半導体製造市場などの顧客に製品を提供しています。ナノレベルの粉じんや分子状汚染物質への対策が可能なシステムを展開しています。

収益源は、クリーンシステム製品の販売代金ならびに据付けおよび調整等に伴う対価です。主に販売代理店を通じた製品提供による収益を得ており、当該事業の運営は同社が行っています。

(3) その他事業


マスク関連事業や環境関連事業の報告セグメントに含まれないその他の事業活動を展開しています。同社の持つ技術やノウハウを活かした独自の製品やサービスの提供を行っています。

収益源は、顧客からの製品およびサービスの販売代金です。当該事業の運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績は、売上高が100億円台で安定して推移し、当期は環境関連事業の好調などにより119億円へと大きく伸長しています。経常利益も概ね10億円前後を維持しており、当期は原価率低減の取り組み等も寄与して過去最高となる12億円を計上するなど、着実な成長傾向を示しています。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 102億円 106億円 106億円 108億円 119億円
経常利益 9億円 12億円 10億円 10億円 12億円
利益率(%) 9.0% 10.9% 9.2% 9.3% 10.3%
当期利益(親会社所有者帰属) 8億円 8億円 7億円 7億円 9億円

(2) 損益計算書


売上高の増加に伴い売上総利益も拡大しており、売上総利益率は約45%と安定した水準を保っています。また、営業利益は増収効果に加え、業務効率化や原価率低減の取り組みが奏功し、前期から大幅な増益を達成しており、本業における高い収益力を確保しています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 108億円 119億円
売上総利益 49億円 54億円
売上総利益率(%) 45.7% 45.4%
営業利益 10億円 13億円
営業利益率(%) 9.4% 10.7%


販売費及び一般管理費のうち、給料手当が10億円(構成比25%)、研究開発費が8億円(同19%)を占めており、人材と技術開発に対する積極的な投資が確認できます。また、当期の売上原価は65億円であり、売上原価合計に対する構成比は55%となっています。

(3) セグメント収益


主力であるマスク関連事業は、産業用や官公庁向けが堅調に推移し微増となりました。また、環境関連事業は国内半導体市場を中心にオープンクリーンシステム「KOACH」の販売が大きく伸び、前期比で大幅な増収を記録し、全体の売上成長を強く牽引しています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期)
マスク関連事業 93億円 96億円
環境関連事業 11億円 19億円
その他事業 4億円 4億円
連結(合計) 108億円 119億円


同社は営業活動で利益を出し、借入等の資金調達によって事業拡大のための積極的な投資を行う状態です。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 7億円 1億円
投資CF -1億円 -4億円
財務CF -11億円 4億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は6.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は61.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


「クリーン、ヘルス、セーフティ」を事業領域とし、オリジナリティの高い技術をベースとした製品を供給して社会に貢献することを基本方針としています。「世の中にない」「真に役立つ」を研究開発の出発点とし、世界にない「オンリーワン」「ナンバーワン」の技術を持つ「技術立社」を目標に掲げています。

(2) 企業文化


市場や顧客の「ニーズ」に素早く対応することよりも、顧客が未だ気づいていない「ウォンツ」を他社に先駆けて見いだし製品化し、市場そのものを創造することを常に目指しています。そのために、人間の尊厳である「イマジネーション」と「クリエーション」の発揮を全社員に求め、結果として「他社に追随しない」「徹底的に研究する」ことで新たな技術革新を続けています。

(3) 経営計画・目標


堅実性と成長性をともに重視し、企業収益の安定的拡大を目指しています。厳しい経済環境下でも市場変化へ柔軟に対応し、市場占有率を着実に高めながら、常に生産性の向上に努め、結果として営業利益の拡大および営業利益率の向上を図ることを目標としています。

(4) 成長戦略と重点施策


「クリーン、ヘルス、セーフティ」の3分野に特化し、新市場を育成することを戦略の柱としています。クリーン分野では半導体市場向けに最高水準の清浄度を実現する「KOACH」の普及を図り、環境関連事業を第2の柱に育成します。ヘルス分野では感染対策用製品を拡販し、セーフティ分野では使いやすさを追求したマスク開発と災害時の安全対策市場の拡大に注力します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


社員の生きがいと企業の存続の両立を目指し、独自の「興研トータル人事システムHOPES」を運用しています。専門能力、業務実績達成能力、管理能力を独立して評価し、年齢や性別を問わず意欲ある人材を適所に登用する多様性を受容する方針です。また、専門知識向上を図る研修や「マイスター制度」による人材育成を推進しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 40.9歳 15.0年 7,576,626円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 6.3%
男性育児休業取得率 75.0%
男女賃金差異(全労働者) 40.4%
男女賃金差異(正規労働者) 78.6%
男女賃金差異(非正規労働者) 80.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、採用した労働者に占める女性の割合(20.8%)、有給休暇取得率(69.9%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 研究開発の不確実性


同社は研究開発型企業として革新性の高い製品の市場供給に経営資源を投入していますが、全ての研究開発が新製品や収益増加に結びつくとは限りません。開発中止を余儀なくされた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。対策として、複数部門によるプロジェクトチームを編成する「マトリクス型」の研究開発体制を敷いています。

(2) 法規制の変更と製品の不適合


同社の事業は「労働安全衛生法」「医薬品医療機器等法」などの様々な法規制に関連しています。万一、製品がこれら法規制に適合しない事象が発生した場合、製品の回収や事業制限が生じる可能性があります。また、新たな法規の制定や改正に伴う設備投資等の費用発生により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 品質保証と製品欠陥の発生


同社の製品は過酷な環境下での使用や使用者の安全確保を目的とするため、高い信頼性が求められます。予期せぬ要因で国家検定規格等の不適合指摘を受けたり、製品の欠陥や故障が発生した場合、回収・修理費用の負担等により業績に影響を及ぼす可能性があります。対策として厳格な信頼性試験や品質マネジメントシステムの運用を行っています。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。