セーラー万年筆 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

セーラー万年筆 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東京証券取引所スタンダード市場に上場するセーラー万年筆は、万年筆を中心とする文具事業と、プラスチック射出成形品用自動取出ロボットなどを手掛けるロボット機器事業を展開しています。直近の業績は、売上高が前期比減収の43億円となり、営業損失約2億円を計上するなど、連続して減収・営業赤字の厳しい状況が続いています。


※本記事は、セーラー万年筆株式会社の有価証券報告書(第113期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. セーラー万年筆ってどんな会社?


セーラー万年筆は、万年筆などの文具の製造販売と、射出成形品用自動取出ロボットの製造販売を手掛ける企業です。

(1) 会社概要


1911年に創業し、1932年に法人組織として広島県呉市に設立され万年筆等の製造販売を開始しました。1961年に東京証券取引所市場第二部へ上場し、1969年にはロボットマシンの製造販売を開始しています。2022年にプラスの子会社となり、現在は東京証券取引所スタンダード市場に上場しています。

同社は連結で197名、単体で184名の従業員を抱えています。筆頭株主は親会社であり事業会社のプラスで、第2位は個人の山中央行氏、第3位はセーラー万年筆取引先持株会です。

氏名 持株比率
プラス 57.81%
山中 央行 1.35%
セーラー万年筆取引先持株会 1.33%

(2) 経営陣


同社の役員は男性6名、女性2名の計8名で構成され、女性役員比率は25.0%です。代表取締役社長は田村光氏が務めています。社外取締役は3名で、取締役全体の37.5%を占めています。

氏名 役職 主な経歴
田村  光 代表取締役社長 1988年プラス入社。同社ステーショナリーカンパニーのマーケティング統括部部長などを経て、2019年セーラー万年筆に出向。2025年3月より現職。
木村  孝 常務取締役管理本部長 1987年セーラー万年筆入社。文具事業部天応工場長、執行役員管理本部長などを経て、2023年に取締役管理本部長へ就任。2025年1月より現職。
和田 直樹 常務取締役開発本部管掌 1989年ぺんてる入社。同社画材企画開発部長や執行役員茨城工場長などを経て、2023年セーラー万年筆に出向し執行役員製造本部長に就任。2025年10月より現職。
米澤 章正 取締役製造本部長 1985年セーラー万年筆入社。文具事業部天応工場長、取締役管理部長、取締役製品開発本部副本部長などを経て、2025年10月より現職。
佐山 嘉一 取締役営業本部長 1987年セーラー万年筆入社。文具事業部販売本部九州支店長、執行役員文具事業部販売本部長などを経て、2022年取締役国内営業責任者に就任。2025年5月より現職。


社外取締役は、中澤俊勝(元スミリンフィルケア社長)、熊王斉子(島村法律会計事務所の弁護士)、長谷川弥生(東京中央法律事務所の弁護士)です。

2. 事業内容


同社グループは、「文具事業」および「ロボット機器事業」を展開しています。

文具事業


万年筆、ボールペン、シャープペンシルなどの筆記具の製造販売および文具仕入販売を行っています。主に国内外の個人ユーザーやコレクター向けに、世界で唯一の21金ペン先を用いた高付加価値な万年筆や、万年筆用インクなどのこだわりの筆記具を提供しています。

顧客に対する商品および製品の販売を通じて収益を得ています。国内営業の業務は親会社であるプラスに委託しており、同社および海外における連結子会社のSailor Pen Europe SASなどが販売網を構築して運営を行っています。

ロボット機器事業


プラスチック射出成形品用自動取出ロボットや、特注自動化装置(プラスチック射出成形工場のFA化システム等のオーダーメード装置)の設計、製造および販売を行っています。主な顧客は、医療や食品関連機器分野などの高度な品質が求められる成形工場です。

成形機メーカーや機械商社との協業、または直接のパッケージ提案による販売代金から収益を得ています。運営は同社および海外販売会社である連結子会社のTHE SAILOR(THAILAND)CO.,LTD.が連携して行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


売上高は減少傾向にあり、利益面でも厳しい状況が続いています。物価高による個人消費の鈍化や海外市場での景気停滞、さらには金地金を中心とした原材料価格の高騰などが影響し、連続して経常赤字を計上しています。コストダウンや高価格帯製品の販売強化などにより赤字幅の縮小を図っていますが、収益力の回復が急務となっています。

項目 109期 110期 111期 112期 113期
売上高 54億円 50億円 46億円 47億円 43億円
経常利益 1.0億円 -1.5億円 -3.3億円 -2.2億円 -1.9億円
利益率(%) 1.9% -2.9% -7.2% -4.6% -4.4%
当期利益(親会社所有者帰属) 0.7億円 -2.0億円 -15億円 -11億円 -2.2億円

(2) 損益計算書


売上高は減少したものの、原価低減や高付加価値製品の販売注力により、売上総利益と売上総利益率は改善しています。しかし、販管費の負担により営業赤字は継続しており、依然として利益水準の抜本的な改善が課題となっています。

項目 112期 113期
売上高 47億円 43億円
売上総利益 13億円 14億円
売上総利益率(%) 28.8% 32.6%
営業利益 -2.7億円 -2.0億円
営業利益率(%) -5.8% -4.6%


販売費及び一般管理費のうち、支払手数料が4.3億円(構成比27%)、従業員給与・手当が4.1億円(同25%)を占めています。売上原価の内訳については詳細なデータが公開されていませんが、原材料である金地金などの価格高騰が原価に影響を与えています。

(3) セグメント収益


文具事業は、欧州で高価格帯製品が好調だったものの、国内の消費鈍化や米国での関税の影響で微減収となりました。ロボット機器事業は、企業の設備投資先送りや米国市場での営業活動の遅れが響き、大幅な減収となりました。

区分 売上(112期) 売上(113期)
文具事業 34億円 33億円
ロボット機器事業 13億円 10億円
連結(合計) 47億円 43億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社は、営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナスの健全型となっています。これは、本業で生み出した資金を将来への投資と借入金の返済に充てている状態を示しています。

項目 112期 113期
営業CF -4.1億円 0.3億円
投資CF -0.7億円 -0.8億円
財務CF 3.9億円 -0.1億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-19.3%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も24.0%で市場平均を下回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は、創業者・阪田久五郎の経営理念である「文化の発展に貢献する万年筆をつくる」を掲げています。手書き文化を支える先駆者であり続けながら、精緻を極めた技術で本物の美しさを追求し、お客様に表現する喜びや感動を提供するブランドとなることを目指しています。

(2) 企業文化


同社は、ものづくりへの熱い思いと挑戦する魂を大切にする文化を持っています。社員一人ひとりが自らに枠を設けず、勇気をもって新たなことに挑戦し続ける「チャレンジ精神」と、一度決めた目標を最後まで粘り強くやり遂げる「執着心」の醸成を重視し、組織内の意識改革を推進しています。

(3) 経営計画・目標


同社は、収益性を高める抜本的な経営改革を推し進めており、2026年度の経営数値目標として以下の目標を掲げています。なお、中長期的な経営目標や指標を定める中期経営計画については、現在精査中としています。

* 売上高:48億円
* 営業利益:0.1億円
* 親会社株主に帰属する当期純損失:0.2億円

(4) 成長戦略と重点施策


文具事業では、世界唯一の21金ペン先を活かした高付加価値製品によるブランド力強化と、非金素材を用いた製品拡充による利益率改善を図ります。ロボット機器事業においては、医療・食品業界などの安定需要分野に対するパッケージ提案の強化や、米国を中心とした海外市場での営業体制拡充に取り組んでいます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は人材を重要な経営資源と位置付け、変化する経営環境に柔軟に対応できる多様性のある人材の育成を目指しています。プラスグループの資格取得支援制度やeラーニングシステムを活用し、従業員の意欲向上とスキルアップを支援しています。また、健康管理や多様な働き方の推進により、従業員の定着率向上を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はスタンダード市場の平均を大きく下回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
113期 42.9歳 17.3年 4,020,372円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 4.8%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 61.2%
男女賃金差異(正規雇用) 74.9%
男女賃金差異(非正規雇用) 60.4%

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 万年筆市場の縮小と環境変化


文具事業は万年筆や万年筆インクを中核としているため、国内外での万年筆ユーザーの規模が想定を超えて急速に減少した場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。同社はエントリークラスの製品群強化や販促活動により、新たなユーザー層の育成に努めています。

(2) 金地金などの原材料価格高騰


同社は樹脂材、金属材、金地金などを原材料として使用しています。原油価格や金地金価格、物流費の高騰が長期化した場合、製造原価が上昇し利益率を圧迫するリスクがあります。これに対して、複数社購買や代替品対応、生産効率化によるコスト低減を図っています。

(3) 海外市場でのカントリーリスク・為替変動


海外市場での事業拡大を重点戦略としていますが、為替変動のほか、各国の法制度や税制の変更、関税政策の動向、不安定な政情などがリスクとなります。特に米国や中国など主要市場における急激な政治・経済状況の変化は、同社の事業展開に影響を及ぼす可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。