トレンドマイクロ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

トレンドマイクロ 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

トレンドマイクロは東京証券取引所プライム市場に上場し、コンピュータセキュリティ対策製品の開発、販売、関連サービスをグローバルに展開する企業です。法人向け統合セキュリティ基盤や個人向けソリューションを提供しています。直近の業績トレンドは増収増益となっており、サイバー脅威の拡大を背景に堅調に推移しています。


※本記事は、トレンドマイクロの有価証券報告書(第37期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. トレンドマイクロってどんな会社?


同社はコンピュータセキュリティ対策製品の開発や販売、関連サービスをグローバルに展開する企業です。

(1) 会社概要


1989年にソフトウェアの輸入・販売を目的に設立されました。1996年に現在のトレンドマイクロへ社名変更し、台湾法人の株主が同社全株式を取得してグループの親会社となりました。2000年に東京証券取引所へ上場し、2016年に米国企業から事業買収を行うなど、グローバルに事業を拡大しています。

現在の従業員数は連結で6,717名、単体で725名です。筆頭株主および第2位株主は資産管理業務などを行う信託銀行となっており、第3位には創業メンバーであり代表取締役会長を務めるチャン・ミン・ジャン氏が名を連ねています。

氏名 持株比率
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 25.72%
日本カストディ銀行(信託口) 11.15%
チャン ミン ジャン 4.10%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性3名の計10名で構成され、女性役員比率は30.0%です。代表取締役社長当社グループCEOはエバ・チェン氏が務めています。また、社外取締役比率は33.3%です。

氏名 役職 主な経歴
エバ・チェン 代表取締役社長当社グループCEO 1989年台湾法人に入社。1995年同社監査役に就任。1997年取締役技術開発部門統括責任者、2002年取締役当社グループCTOを経て、2005年より代表取締役社長当社グループCEOに就任し現職。
チャン ミン ジャン 代表取締役会長 1988年米国法人社長に就任。1995年同社代表取締役、1997年代表取締役社長を経て、2005年より代表取締役会長に就任し現職。
根岸 マヘンドラ 代表取締役副社長当社グループCFO 1995年メリルリンチ証券に入社。2001年同社管理本部長に就任し、取締役を経て、2002年代表取締役当社グループCFOに就任。2014年より代表取締役副社長当社グループCFOに就任し現職。
大三川 彰彦 取締役副社長日本地域担当 1982年日本ディジタルイクイップメントに入社。マイクロソフトを経て2003年同社に入社。日本地域担当やグローバルビジネス担当などを歴任し、2024年より取締役副社長に就任し現職。


社外取締役は、徳岡晃一郎(多摩大学大学院名誉教授)、井上福造(元東日本電信電話代表取締役社長)です。

2. 事業内容


同社グループは、「日本」「アメリカズ」「欧州」「アジア・パシフィック」の各セグメントで事業を展開しています。

(1) 日本


同社グループは、日本地域においてコンピュータセキュリティ対策製品の開発、販売および関連サービスの提供を行っています。法人向けには統合セキュリティ基盤などの製品を展開し、個人向けにはPCや携帯電話向けのセキュリティソリューションを提供しています。

収益は、顧客である法人や個人からのソフトウェアライセンス料、サポートサービス料、ハードウェア製品の販売代金から得ています。日本地域における事業の運営は主に同社が担当しており、グループ内における研究開発および販売機能の中核を担っています。

(2) アメリカズ


同社グループは、アメリカズ地域においてコンピュータセキュリティ対策製品および関連サービスの販売を展開しています。米国やブラジルなどの法人および個人顧客を対象に、多様化するサイバー攻撃からITインフラを守るためのセキュリティソリューションを提供しています。

収益は、現地の顧客からのソフトウェアライセンス料やサポートサービス料などから得ています。事業の運営は、米国のTrend Micro IncorporatedやブラジルのTrend Micro do Brasil Ltda.などの現地子会社が担っています。

(3) 欧州


同社グループは、欧州地域においてコンピュータセキュリティ対策製品および関連サービスの販売を行っています。アイルランド、ドイツ、英国、フランス、イタリアなどの各国において、クラウド関連やエンドポイント関連のソリューションを法人や個人向けに提供しています。

収益は、現地の法人や個人顧客からのソフトウェアライセンス料、サポートサービス料などから得ています。運営は、アイルランドのTrend Micro (EMEA) Limitedをはじめとする各国の現地子会社が主体となって行っています。

(4) アジア・パシフィック


同社グループは、アジア・パシフィック地域においてコンピュータセキュリティ対策製品の販売および関連サービスの提供を行っています。台湾、オーストラリア、シンガポール、アラブ首長国連邦などで、法人および個人向けに高度なセキュリティソリューションを提供しています。

収益は、現地の顧客からのソフトウェアライセンス料やサポートサービス料などから得ています。事業の運営は、台湾のTrend Micro IncorporatedやオーストラリアのTrend Micro Australia Pty. Ltd.などの子会社が担っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、売上高は一貫して拡大を続けており、堅調な成長を維持しています。経常利益については一時的な増減が見られたものの、直近2年間は高い水準で推移し、収益性の向上がうかがえます。利益率も安定した水準を保っており、持続的な成長基盤が構築されています。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 1,904億円 2,238億円 2,487億円 2,726億円 2,760億円
経常利益 445億円 342億円 362億円 528億円 540億円
利益率(%) 23.4% 15.3% 14.5% 19.4% 19.6%
当期利益(親会社所有者帰属) 214億円 418億円 1,316億円 351億円 369億円

(2) 損益計算書


売上高および各段階の利益はともに増加傾向にあります。特に売上総利益率が高水準で推移しており、高付加価値なセキュリティソリューションの提供が利益の源泉となっていることが分かります。営業利益率も向上しており、本業における稼ぐ力が着実に強化されています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 2,726億円 2,760億円
売上総利益 2,077億円 2,123億円
売上総利益率(%) 76.2% 76.9%
営業利益 481億円 578億円
営業利益率(%) 17.6% 20.9%


販売費及び一般管理費のうち、従業員給料が694億円(構成比44.9%)、通信費が285億円(同18.4%)、支払手数料・業務委託料が205億円(同13.3%)を占めています。

(3) セグメント収益


セグメント別の売上高を見ると、日本、欧州、アジア・パシフィックの各地域で増収となっています。特に日本地域は統合セキュリティ基盤を背景とした法人向けビジネスが牽引しました。一方で、アメリカズ地域は為替の影響や現地における投資抑制の傾向などにより減収となりました。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期)
日本 858億円 878億円
アメリカズ 588億円 552億円
欧州 585億円 614億円
アジア・パシフィック 695億円 715億円
連結(合計) 2,726億円 2,760億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


営業CFがプラス、投資CFがプラス、財務CFがマイナスとなっており、営業利益や資産売却等で得た資金を用いて借入の返済等を進める改善型のキャッシュ・フロー状況を示しています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF 468億円 646億円
投資CF 50億円 8億円
財務CF -1,309億円 -275億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は28.2%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率も30.2%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「デジタルインフォメーションを安全に交換できる世界の実現」をビジョンに掲げています。クラウドコンピューティングやAIなどのIT技術によるデジタル化の進展を背景に、世界的ITインフラを守るという大きな責務を担い、顧客に適時適切な解決策を提供することで、情報化社会のさらなる発展に寄与することを目指しています。

(2) 企業文化


同社は「Be Yourself, Be the Best Part of Yourself」という人材哲学を掲げ、全社員が自らの可能性を最大限に発揮できる組織づくりを重視しています。透明性の高い情報共有や権限委譲を通じ、役職にかかわらず全社員がリーダーシップを発揮して価値を創出できる、フラットでアジャイルな組織文化を育んでいます。

(3) 経営計画・目標


同社は、ARR(年間経常収益)の継続的増加を図るとともに、利益率の向上を目指した経営目標を掲げています。資本集約的ではないビジネス構造を活かし、売上高の増加と利益率向上の両面を追求することで、ROEの向上へとつなげていく計画です。

* 2028年12月期の営業利益率:25%~27%

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、AIなどの技術革新や攻撃対象領域の拡大に対応するため、法人向け統合セキュリティ基盤「Trend Vision One」の展開に注力しています。AIで脅威を予測し、広範囲にわたるサイバー攻撃を迅速に把握して対処することで、サイバーリスクを積極的に軽減します。また、個人向けソリューションの拡充も図り、多様化する需要に応える戦略です。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は人的資本を企業価値創造の基盤と位置づけ、市場の人材供給と事業ニーズに基づき、グローバルに人材を惹きつけ配置する戦略をとっています。研修やメンタリングを通じた専門性の深化に加え、全社員がAIリテラシーとAI活用能力を備えることを目標に掲げ、継続的な学習機会を提供することで、組織のアジリティと競争優位性を強化しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 40.3歳 9.1年 9,888,472円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 18.6%
男性育児休業取得率 58.8%
男女賃金差異(全労働者) 72.8%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 74.9%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 43.6%


また、同社は「従業員の状況」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、連結会社における女性管理職比率(24.5%)、アジア圏の従業員比率(54.1%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 単一の事業領域への依存


同社グループはサイバーセキュリティ事業に集中し、売上高の大部分をウイルス対策などのセキュリティ製品やサービスに依存しています。そのため、激化する市場競争の中で多額の費用を投じたにもかかわらず売上高が低下する可能性や、新たな技術の出現により製品が陳腐化し、事業や財務状態に重大な影響を与えるリスクがあります。

(2) 製品の製造・在庫リスク


同社グループのハードウェア製品は特定の製造業者に委託しているため、製造工程のコントロール不足や部品調達の遅れが生じるリスクがあります。過去の実績を分析し十分な在庫を確保するなどの対策を講じていますが、生産体制の不備による機会損失が発生した場合、経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 信頼失墜とシステム障害


同社グループの製品はネットワーク上の脅威から顧客を守る目的を持っていますが、誤検知や製品の欠陥、サイバー攻撃による被害が発生した場合、企業への信用が著しく失墜するリスクがあります。情報セキュリティガバナンスの強化や事前テストを徹底していますが、予期せぬ障害により損害賠償や事業停滞を招く恐れがあります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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