※本記事は、アンジェス株式会社の有価証券報告書(第27期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. アンジェスってどんな会社?
遺伝子の力を活用した革新的な医薬品開発と、希少遺伝性疾患の検査事業を展開する創薬バイオベンチャーです。
■(1) 会社概要
1999年に遺伝子治療薬等の研究開発を目的に設立され、2002年にマザーズへ上場しました。2019年に国内初のHGF遺伝子治療用製品の販売を開始し、2020年にはゲノム編集技術を持つEmendoBio Inc.を子会社化しました。2024年に早老症治療薬の販売を開始しています。
現在の従業員数は連結で56名、単体で35名体制です。大株主の構成を見ると、筆頭株主は金融業を展開するセントラル短資で、第2位は外資系金融機関等のMSIP CLIENT SECURITIES、第3位は日本証券金融となっており、上位を金融関連の法人が占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| セントラル短資 | 2.57% |
| MSIP CLIENT SECURITIES(常任代理人 モルガン・スタンレーMUFG証券) | 2.47% |
| 日本証券金融 | 1.89% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性7名、女性1名の計8名で構成され、女性役員比率は12.5%です。代表取締役社長は山田英氏が務めており、取締役5名のうち社外取締役が3名と過半数を占めています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 山田英 | 代表取締役社長 | 1982年三菱化成工業に入社。そーせい、宝酒造などを経て2001年同社に入社し、2002年より現職。AnGes USA Inc.のPresident等を兼任。 |
| 佐藤尚哉 | 取締役 | 1985年三菱化成工業に入社。田辺三菱製薬等を経て2020年同社に入社。経営企画部長や財務部長を歴任し、2025年より現職。EmendoBio Inc.等の役員を兼任。 |
社外取締役は、栄木憲和(元バイエル薬品社長)、原誠(元大日本住友製薬専務)、満倉靖恵(慶應義塾大学教授)です。
2. 事業内容
同社グループは、「医薬品」の単一セグメントのもと、複数の事業分野を展開しています。
■(1) 遺伝子医薬品の開発・販売
遺伝子医薬品を中心とする新薬の開発から販売までを手掛けています。対象疾患は慢性動脈閉塞症や椎間板性腰痛症などで、これまでにない革新的な治療法の提供を目指し、米国や日本国内などで臨床試験を進めています。
収益は、自社開発した新薬の販売収入や、製薬企業等との提携による契約一時金、マイルストーン、ロイヤリティなどから得ています。事業の運営は主に同社および米国子会社のAnGes USA, Inc.が行っています。
■(2) 希少遺伝性疾患の検査受託
アンジェスクリニカルリサーチラボラトリー(ACRL)において、新生児を対象とした希少遺伝性疾患のオプショナルスクリーニング検査を中心とする検査受託サービスを実施しています。
収益は、自治体や医療機関からの検査受託に伴う手数料収入から得ています。早老症治療薬「ゾキンヴィ」の対象疾患に関する遺伝学的検査体制も整備しており、事業の運営は同社が行っています。
■(3) ゲノム編集製品の研究開発
今まで治療法のなかった疾患の治療を可能にするため、新規のゲノム編集技術プラットフォームを活用した遺伝子治療薬の研究開発を進めています。
他社への技術ライセンス供与による契約一時金などの収益モデルを見込んでいます。事業の運営は米国子会社のEmendoBio Inc.およびイスラエル子会社のEmendo Research and Development Ltd.が行っています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5年間の業績推移を見ると、新薬の販売開始や検査受託の拡大により事業収益は増加傾向にあります。一方で、創薬ベンチャー特有の先行投資型ビジネスモデルのため研究開発費等の負担が重く、経常損失および当期純損失が継続しています。前期にはのれん等の減損損失により大幅な赤字を計上しましたが、当期は赤字幅が縮小しています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 0.6億円 | 0.7億円 | 1.5億円 | 6.4億円 | 8.7億円 |
| 経常利益 | -135.9億円 | -146.1億円 | -56.5億円 | -75.4億円 | -52.9億円 |
| 利益率(%) | -21183.6% | -21786.1% | -3693.9% | -1171.1% | -605.1% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -136.8億円 | -147.1億円 | -74.4億円 | -281.3億円 | -51.2億円 |
■(2) 損益計算書
事業収益の増加に伴い売上総利益も拡大していますが、研究開発費などの先行投資により営業赤字が継続しています。ただし、当期は販売費及び一般管理費が大幅に減少したことで、営業損失の赤字幅は縮小しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 6.4億円 | 8.7億円 |
| 売上総利益 | 2.5億円 | 3.2億円 |
| 売上総利益率(%) | 38.5% | 36.7% |
| 営業利益 | -91.1億円 | -51.5億円 |
| 営業利益率(%) | -1415.3% | -588.6% |
販売費及び一般管理費のうち、支払手数料が9.4億円(構成比49%)、租税公課が2.7億円(同14%)、給料及び手当が2.1億円(同11%)を占めています。また、売上原価の多くは検査受託にかかる原価や商品の仕入原価が占めており、加えて事業費用として研究開発費を35.5億円計上しています。
■(3) セグメント収益
同社は医薬品事業の単一セグメントですが、事業収益の内訳を見ると早老症治療薬の販売開始による商品売上高の増加や、拡大新生児スクリーニングの受託件数増による手数料収入の拡大が増収に貢献しています。利益面では研究開発費等の先行投資により赤字となっています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 医薬品 | 6.4億円 | 8.7億円 | -91.1億円 | -51.5億円 | -588.6% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
同社のキャッシュ・フローは、本業赤字を資産売却+借入で補填する救済型のパターンとなっています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -66.1億円 | -57.5億円 |
| 投資CF | -1.3億円 | 0.2億円 |
| 財務CF | 42.0億円 | 59.0億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失のため算出されていませんが、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は55.2%で市場平均(製造業)を下回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は、「遺伝子の力を活用し、すべての人に治療の機会を届けます」をミッションとして掲げています。また、「遺伝子医薬のグローバルリーダーとして、未だ有効な治療法が存在しない疾患に革新をもたらし、世界中の人々のQOL(生活の質)向上に貢献します」というビジョンのもと、革新的な医薬品の開発を通じて医療水準の向上を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、遺伝子医薬の研究開発という専門性の高い領域において「人的資本こそが価値の源泉」であると考え、女性をはじめとした多様で優秀な人材の確保と育成を重視する文化を持っています。女性のキャリア形成や上位職への登用など、活躍の機会を積極的に拡大し、多くの優秀な女性社員が活躍する組織を目指す価値観が根付いています。
■(3) 経営計画・目標
同社は研究開発型の創薬バイオベンチャーであり、現在開発中の複数の新薬が上市され、あるいは提携先からロイヤリティの支払いを受ける時期に本格的な利益拡大を見込んでいます。当面は提携先からの契約一時金等で財務リスクを低減しつつ研究開発を進め、営業利益をはじめとした各種利益項目の黒字化を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、HGF遺伝子治療用製品の米国での承認取得と適応拡大による製品価値最大化を最優先の課題としています。また、次世代の創薬プラットフォームであるゲノム編集技術の深化を図るほか、他社開発品や希少遺伝性疾患治療薬の導入によるパイプライン拡充と検査事業の拡大を通じ、将来の収益基盤を強化する戦略を推進しています。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、遺伝子医薬分野の専門家領域における人的資本の強化を企業の持続的な発展に不可欠と位置づけています。このため、多様なバックグラウンドを持つ優秀な人材の確保に努めるとともに、女性管理職の積極的な登用などを通じて社員が能力を最大限に発揮できる組織体制の構築を目指す人材戦略を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 53.7歳 | 7.4年 | 10,538,741円 |
※平均年間給与は基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 47.1% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全労働者) | - |
| 男女賃金差異(正規雇用) | - |
| 男女賃金差異(非正規雇用) | - |
※同社および連結子会社は常時雇用する労働者が300人以下等のため公表義務の対象ではないため、有報には男性育児休業取得率および男女賃金差異の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 遺伝子治療の未知のリスク
同社が手掛けるゲノム編集技術を利用した遺伝子治療は、新規性が高く有効性が期待される一方で、現段階では未知のリスクを完全に否定できず、幅広い実用化に至らない可能性があります。その場合、同社の事業戦略や業績に重大な影響を及ぼすおそれがあります。
■(2) 新薬の開発遅延や製造・販売の不確実性
医薬品の開発には長期間と多額の費用が必要であり、臨床試験の遅延や有効性の未確認、製造面での品質問題などにより計画通りに進まないリスクがあります。また、競合品の登場や薬価の想定未達、予期せぬ副作用の発生により期待通りの収益を上げられない可能性があります。
■(3) 知的財産権に関するリスク
同社の事業は保有する特許権等の知的財産権に依存していますが、出願中の特許が登録されない可能性や、他社の優れた技術により特許が淘汰されるリスクがあります。また、第三者から知的財産権の侵害を巡る訴訟やクレームを提起されるおそれがあります。
■(4) 継続企業の前提に関する重要な不確実性
医薬品事業の特性上、同社は継続的な営業赤字と営業キャッシュ・フローのマイナスを計上しています。自社プロジェクトの推進や提携先の確保、資金調達などの課題に取り組んでいますが、これらが計画通りに進捗しない場合、事業継続に重要な疑義を生じさせる状況が存在しています。



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