※本記事は、セルシードの有価証券報告書(第25期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月26日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準はJapan GAAPです。
1. セルシードってどんな会社?
同社は、細胞シート工学を基盤技術とし、革新的な再生医療の世界的な普及を目指す研究開発型企業です。
■(1) 会社概要
2001年5月に細胞シート工学に基づく再生医療等製品・再生医療支援製品の研究開発を目的に設立されました。2004年に細胞培養器材の販売を開始し、2010年にジャスダック証券取引所NEO(現グロース市場)へ上場を果たしました。2016年には細胞培養センターを設置し、事業基盤を強化しています。
従業員数は単体で36名です。筆頭株主はJPモルガン証券で、第2位にモルガン・スタンレーMUFG証券、第3位にNOMURA INTERNATIONAL PLC A/C JAPAN FLOWが名を連ねており、上位を国内外の金融機関や証券会社が占めています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| JPモルガン証券 | 1.17% |
| モルガン・スタンレーMUFG証券 | 1.03% |
| NOMURA INTERNATIONAL PLC A/C JAPAN FLOW | 0.51% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性4名、女性2名の計6名で構成され、女性役員比率は33.3%です。代表取締役社長は橋本せつ子氏が務めており、役員の半数にあたる3名が社外取締役となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 橋本せつ子 | 代表取締役社長 | 1984年ヘキストジャパン入社。スウェーデン大使館投資官等を経て2014年より現職。 |
| 前田敏宏 | 取締役開発戦略部門長 | 1980年化学及血清療法研究所入所。ジーンテクノサイエンス等を経て2025年より現職。 |
| 中岡圭一郎 | 取締役経営管理部門長 | 2000年北里薬品産業入社。2019年同社に入社し総務法務部長等を経て2025年より現職。 |
社外取締役は、大江田憲治(元住友化学工業生命工学研究所主任研究員)、遠藤幸子(元富士通・ベリタス法律事務所代表弁護士)、間野哲臣(元新日本監査法人・間野公認会計事務所開設)です。
2. 事業内容
同社グループは、「再生医療支援事業」および「細胞シート再生医療事業」を展開しています。
■再生医療支援事業
細胞シート再生医療の基盤ツールである温度応答性細胞培養器材およびその応用製品の研究開発、製造、販売を行っています。また、医療機関や企業等から細胞シートなどの製造を受託する再生医療受託サービスを通じて、再生医療の研究開発と事業化を総合的にサポートしています。
収益は、国内外の販売代理店を通じた細胞培養器材の販売代金や、細胞シートの受託製造に伴うサービス対価から得ています。主な顧客は研究機関や医療機関、製薬企業などであり、大日本印刷への製造委託などを活用しながら事業の運営は主にセルシードが行っています。
■細胞シート再生医療事業
患者自身の細胞または他者の細胞を採取し、同社が開発した温度応答性細胞培養器材を用いて培養し、組織を作製して患者に提供する事業です。現在は主に同種軟骨細胞シートの開発など、再生医療等製品の製造販売承認の取得に向けた研究開発を自社主導で推進しています。
本事業は現在、事業化の準備段階にあり、本格的な売上計上には至っていません。将来的な収益モデルとして、製造販売を通じた製品売上や、他社との事業提携を通じた開発マイルストンなどの一時金の獲得を目指しており、運営はセルシードが行っています。
3. 業績・財務状況
同社の単体業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近4期間の業績は、売上高が1億円台で推移していましたが、直近では海外市場の需要減少などの影響により0.8億円へと大きく減少しました。また、細胞シート再生医療等製品の早期事業化に向けた研究開発投資を継続して推進しているため、経常利益および当期利益は一貫して赤字となっており、直近では赤字幅が拡大する傾向にあります。
| 項目 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1.3億円 | 1.9億円 | 1.9億円 | 0.8億円 |
| 経常利益 | -7.5億円 | -7.1億円 | -8.5億円 | -10.5億円 |
| 利益率(%) | -596.6% | -373.6% | -438.6% | -1257.0% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | -7.6億円 | -8.5億円 | -8.6億円 | -11.0億円 |
■(2) 損益計算書
売上高は前期の1.9億円から当期は0.8億円へと半減しています。これに伴い売上総利益も減少しており、売上総利益率は50%台で推移しています。一方で研究開発投資が先行しているため、営業利益は両期ともに大幅な赤字を計上しており、当期は赤字幅がさらに拡大しています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1.9億円 | 0.8億円 |
| 売上総利益 | 1.1億円 | 0.4億円 |
| 売上総利益率(%) | 57.0% | 51.1% |
| 営業利益 | -8.5億円 | -10.5億円 |
| 営業利益率(%) | -437.9% | -1250.2% |
販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が7.2億円(構成比66.1%)と最も大きな割合を占めており、次いで給与手当が0.7億円(同6.8%)、支払報酬が0.5億円(同4.4%)となっています。売上原価については、当期製品製造原価が0.5億円(構成比74.1%)で大半を占めており、次いで商品及び製品期首棚卸高が0.1億円(同18.2%)となっています。
■(3) セグメント収益
再生医療支援事業は、海外市場における研究環境の変化や地政学的な混乱の影響を受け、売上高が半減しました。細胞シート再生医療事業は、主に同種軟骨細胞シートの開発など研究開発投資が先行しており、マイルストン収入の獲得を目指しているものの売上は微小であり、両セグメントともに研究開発費等の負担から赤字を計上しています。
| 区分 | 売上(2024年12月期) | 売上(2025年12月期) | 利益(2024年12月期) | 利益(2025年12月期) | 利益率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 再生医療支援事業 | 1.9億円 | 0.8億円 | -0.2億円 | -1.0億円 | -128.1% |
| 細胞シート再生医療事業 | 121万円 | 187万円 | -6.0億円 | -7.2億円 | -38558.9% |
| 調整額 | - | - | -2.3億円 | -2.2億円 | - |
| 連結(合計) | 1.9億円 | 0.8億円 | -8.5億円 | -10.5億円 | -1250.2% |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
キャッシュ・フローの状況は、営業CFがマイナス、投資CFがマイナス、財務CFがプラスとなる「勝負型」です。本業は赤字ですが、将来の成長に向けて資金調達を行い、研究開発等への投資を継続している状況を示しています。
なお、企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は当期純損失のため算出されていません。財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は76.0%で市場平均を上回っています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -8.7億円 | -9.9億円 |
| 投資CF | -0.2億円 | -0.3億円 |
| 財務CF | 8.6億円 | 2.0億円 |
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は「細胞の力で、世界に笑顔と希望を提供します。」をミッションとして掲げています。また、「私たちは細胞シート工学を基盤に新たな医療の未来を創造します。」というビジョンのもと、技術革新と創造性を発揮し、質の高い優れた製品とサービスの提供を通じて人々の健康と福祉に貢献することを使命としています。
■(2) 企業文化
細胞シート工学という工学・細胞生物学・化学などの学際分野にまたがる最先端の再生医療技術を基盤としているため、高度かつ多様な専門性を有する人材が不可欠という認識のもと、ジェンダーレスで多様性のある専門人材の採用や育成を推進する文化があります。また、日本国内にとどまらずグローバルで活躍できる人材の確保に注力しています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、売上高の持続的な成長を実現し、早期の安定的な黒字化を達成することを中長期的な最重要経営課題として掲げています。現時点では継続的な利益計上には至っていないため、再生医療支援事業での安定的な売上基盤の構築や、細胞シート再生医療事業における主力パイプラインの早期売上計上開始を目指しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
日本発の細胞シート工学の世界展開を加速するため、今後の注力領域として以下の施策を着実に推進しています。
・日本において、同種軟骨細胞シートの早期製造販売承認申請を目指す
・事業提携を積極的に推進し、収益基盤の拡大を図る
・再生医療支援製品の新製品開発および生産体制・生産能力の充実・強化を図る
・受託製造およびコンサルティング事業を推進し、収益機会の多様化・拡大を図る
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
持続的成長や事業価値の向上において、人材は最も重要な経営資源であると考え、ジェンダーレスで多様性のある専門人材の採用・育成を積極的に行っています。また、フレックスタイム制度や在宅勤務制度の導入により、柔軟な働き方を推奨し、ワークライフバランスを実現しやすい社内環境の構築・整備を推進しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 43.1歳 | 5.2年 | 6,114,728円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 31.8% |
| 男性育児休業取得率 | 100.0% |
| 男女賃金差異(全労働者) | 86.6% |
| 男女賃金差異(正規雇用労働者) | 90.7% |
| 男女賃金差異(パート・有期労働者) | 84.8% |
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 知的財産権に関するリスク
事業に必要な特許は原則として自社出願により確保していますが、出願中特許が登録に至らない可能性や、第三者が同様のノウハウを独自に開発・取得する可能性があり、事業戦略や提携関係に重大な影響を及ぼすリスクがあります。
■(2) 技術革新に伴う競合リスク
細胞シート工学は技術進歩のスピードが速い分野であり、後発製品が先発製品を上回る機能を有するなど、今後競争が一層激化することが想定されます。これにより計画どおりの収益を確保できない可能性があります。
■(3) 製造物責任に関するリスク
医薬品・医療機器や再生医療等製品には製造物責任に基づく損害賠償リスクが存在します。製品の欠陥等による健康被害や営業活動における不適切な対応が発生した場合、社会的評価の低下や損害賠償により事業活動に重大な影響を及ぼすおそれがあります。
■(4) 法規制改正・政府推進政策等の変化に由来するリスク
再生医療等製品に関連する法規制は、技術革新の進展等に応じて見直される可能性があり、想定どおりの製造販売承認が取得できない場合や、想定を下回る保険償還価格が設定されるなど、事業計画に影響を及ぼす可能性があります。



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