カイオム・バイオサイエンス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

カイオム・バイオサイエンス 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

カイオム・バイオサイエンスは東京証券取引所グロース市場に上場し、独自の抗体作製技術を活用した創薬事業および創薬支援事業を展開する企業です。直近の業績は、ライセンス契約一時金の剥落等により売上高は5.9億円と前期比で減収となったものの、研究開発費の減少により営業損失は9.8億円と赤字幅が縮小しています。


※本記事は、株式会社カイオム・バイオサイエンスの有価証券報告書(第22期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月27日提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. カイオム・バイオサイエンスってどんな会社?


独自の抗体作製技術を用いてアンメットニーズの高い疾患に対する抗体医薬品候補の研究開発を行う企業です。

(1) 会社概要


2005年、理化学研究所等と共同開発した独自の抗体作製技術の実用化を目的に設立されました。2011年に東京証券取引所マザーズへ上場を果たしています。2013年には同業を子会社化してパイプラインを拡充し、2020年には自社初の臨床開発品であるがん治療用候補抗体の第1相臨床試験を開始しました。2025年には監査等委員会設置会社へ移行しています。

現在の従業員数は単体で49名体制となっています。株主構成については、筆頭株主の渡邊賢二氏をはじめ、上位には個人株主が名を連ねています。特定の事業会社や親会社に依存しない独立した経営体制のもと、専門性の高い研究開発スタッフを中心に抗体創薬事業を推進しています。

氏名 持株比率
渡邊 賢二 3.14%
太田 邦史 1.40%
江平 文茂 1.39%

(2) 経営陣


同社の役員は男性7名、女性0名の計7名で構成され、女性役員比率は0.0%です。小池正道氏が代表取締役社長を務めており、役員の過半数を社外取締役が占めています。

氏名 役職 主な経歴
小池 正道 代表取締役社長 協和キリンで研究開発本部の要職を歴任後、2023年に取締役就任。2025年より現職。
美女平 在彦 取締役副社長 大鵬薬品等の医薬営業・経理部門を経て2013年入社。執行役員等を経て2026年より現職。
田岡 照世 取締役開発本部長 協和キリンで臨床開発グループ長等を歴任後、2018年入社。開発本部長等を経て2023年より現職。


社外取締役は、河合弘行(元協和キリン副社長執行役員)、降矢朗行(元ペルセウスプロテオミクス社長)、山川善之(元ネクセラファーマ副社長CFO)、坂本二朗(元協和キリン執行役員)です。

2. 事業内容


同社グループは、「創薬事業」および「創薬支援事業」を展開しています。

創薬事業


アンメットニーズ(いまだ治療法が見つかっていない疾患)の高い領域における抗体創薬の研究開発を行っています。独自の技術を用いて開発候補抗体の前臨床データパッケージを作成し、早期の事業化を目指すほか、一部のプロジェクトでは自社で初期臨床開発まで実施して製品価値を高めています。

開発した医薬候補品に係る特許等の知的財産を製薬企業等に実施許諾(導出)することで収益を得ます。具体的には、契約一時金や開発の進捗に応じたマイルストーン収入、上市後の売上に応じたロイヤルティ収入を製薬企業から受け取ります。運営は同社が行っています。

創薬支援事業


製薬企業や大学などの研究機関で実施される創薬研究を支援するサービスを提供しています。独自の作製技術を用いた抗体作製や、タンパク質・抗原の調製、発現・精製など、顧客の多様なニーズに応じた研究開発のサポートを行っています。

研究支援にかかる受託サービス料を製薬企業等から受け取ります。近年は新薬開発支援やバイオシミラー開発にかかるプラットフォーム型のIDDビジネスも立ち上げ、取引先を拡大しています。運営は同社が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の単体業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


過去5年間の業績推移を見ると、売上高は創薬パイプラインの導出状況や創薬支援事業の受注動向により変動しており、6億円から8億円規模で推移しています。一方、臨床開発に向けた先行投資が継続しているため経常赤字が続いていますが、近年は研究開発費のコントロール等により、赤字幅は段階的に縮小傾向にあります。

項目 2021年12月期 2022年12月期 2023年12月期 2024年12月期 2025年12月期
売上高 7.1億円 6.3億円 6.8億円 7.8億円 5.9億円
経常利益 -13.3億円 -12.4億円 -12.2億円 -10.2億円 -9.9億円
利益率(%) -186.5% -197.2% -178.4% -130.5% -166.7%
当期利益 -14.8億円 -12.4億円 -12.2億円 -10.2億円 -9.8億円

(2) 損益計算書


売上高は前期比で減少したものの、採算性の高い案件の寄与などにより売上総利益率は改善しています。また、臨床試験の進捗等に伴う研究開発費の減少により、営業赤字幅は前期から改善しています。

項目 2024年12月期 2025年12月期
売上高 7.8億円 5.9億円
売上総利益 4.3億円 3.6億円
売上総利益率(%) 55.4% 60.0%
営業利益 -10.3億円 -9.8億円
営業利益率(%) -132.0% -165.1%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が7.8億円(構成比58%)と最も大きな割合を占めています。売上原価においては、材料費が1.1億円(構成比47%)、労務費が0.7億円(同29%)を占めています。

(3) セグメント収益


創薬支援事業は新規顧客の獲得や付加価値の高いサービスの提供により増収増益となり、高い利益率を確保しています。一方、創薬事業は前期に計上されたライセンス契約一時金の剥落により売上が計上されていませんが、研究開発費の減少によりセグメント赤字幅は縮小しています。

区分 売上(2024年12月期) 売上(2025年12月期) 利益(2024年12月期) 利益(2025年12月期) 利益率
創薬事業 2.0億円 0.0億円 -8.1億円 -7.8億円 -%
創薬支援事業 5.8億円 5.9億円 3.1億円 3.6億円 59.9%
調整額 - - -5.3億円 -5.6億円 -%
連結(合計) 7.8億円 5.9億円 -10.3億円 -9.8億円 -165.1%

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは「勝負型」の傾向を示しています。本業の営業活動によるキャッシュ・フローは研究開発費の先行投資によりマイナスですが、将来の成長に向けた事業基盤構築のために資金調達(新株予約権の行使等)を行い、投資を継続している状態です。

項目 2024年12月期 2025年12月期
営業CF -10.0億円 -9.4億円
投資CF 0.0億円 -0.6億円
財務CF 17.4億円 1.3億円


企業の財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は64.1%で、市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「医療のアンメットニーズに創薬の光を」というミッションを掲げています。この使命のもと、「アンメットニーズに対する抗体医薬の開発候補品を生み出すNo.1ベンチャー企業を目指す」という経営ビジョンを設定し、患者に革新的な治療薬を届けることで人類の健康に貢献することを目標としています。

(2) 企業文化


同社は、独自の技術力と創薬プラットフォームを最大限に活用し、専門性の高い知識や技能を持つ人材が力を発揮できる環境を重視しています。製薬企業や学術機関との協業を通じて培ったノウハウを蓄積し、柔軟な業務遂行と高い品質のサービス提供を徹底することで、新たな価値を創出する文化が形成されています。

(3) 経営計画・目標


研究開発の各段階において複数の開発品目を保有し、事業全体の成功確度を高めることを目標としています。創薬支援事業においては、付加価値の高いビジネスモデルを遂行することで、セグメント利益率50%の確保を目指しています。また、研究投資に必要な資金を自社の収益から充当できる財務基盤の確立を目指しています。

(4) 成長戦略と重点施策


自社の初期臨床開発機能を活かし、パイプラインの製品価値を最大化させた上で製薬企業への早期導出を図る戦略を推進しています。また、次世代抗体作製技術の研究開発や、製薬企業の多様なニーズに自社の知見を提供する「IDDビジネス」の展開に注力し、単一の契約に依存しない安定的な収益基盤の構築を進めています。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、高度な専門的知識、技能、経験を有する人材の確保と育成が、競争力の源泉であり不可欠であると考えています。そのため、成長戦略に沿った人員計画や採用活動を推進するとともに、評価制度の整備やインセンティブ制度(ストックオプション、譲渡制限付株式報酬)を導入し、人材のモチベーション向上と定着を図っています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年12月期 45.8歳 6.3年 7,676,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 30.0%
男性育児休業取得率 -
男女賃金差異(全労働者) -
男女賃金差異(正規労働者) 84.8%
男女賃金差異(非正規労働者) -


※男性育児休業取得率および全労働者・非正規労働者の男女賃金差異については、法定開示義務の対象外のため記載がありません。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 医薬品開発に関する不確実性


医薬品の開発には多額の投資と長期間を要し、成功確率も低いというリスクがあります。前臨床試験や臨床開発の過程で期待された効果が得られず、開発の延長や中止を余儀なくされる可能性があります。同社は複数の開発品目を保有してリスク分散を図っていますが、計画通りの収益が得られない場合、業績に影響が及ぶ可能性があります。

(2) 特定の取引先への依存


創薬支援事業において、特定の国内大手製薬企業に対する売上高の割合が高い水準にあります。各クライアントとの良好な関係維持に努め、新規取引先の開拓も進めていますが、主要顧客の経営方針の変更による業務量の減少や契約解除が生じた場合、同社の事業に影響を及ぼす可能性があります。

(3) 収益計上に関する期ずれリスク


同社の創薬事業は、臨床試験の初期段階で製薬企業等へ導出することにより収益を獲得するモデルです。しかし、導出先での開発進捗が遅延したり、開発方針の変更で中止になったりする可能性があります。契約の締結時期やマイルストーン達成の遅れが生じた場合、収益計上の期ずれが起こり、事業計画に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。


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