※本記事は、Veritas In Silicoの有価証券報告書(第10期、自 2025年1月1日 至 2025年12月31日、2026年3月23日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. Veritas In Silicoってどんな会社?
AIを活用したmRNA標的創薬のプラットフォーム事業と自社パイプライン事業を展開しています。
■(1) 会社概要
2016年、mRNAを標的とする創薬を製薬会社へ提供することを目的に設立されました。2018年、主事業をmRNA標的低分子医薬品の創薬プラットフォーム事業に転換しています。2024年に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしました。2025年からは自社で医薬品を創出するパイプライン事業も開始しています。
同社の単体従業員数は19名です。筆頭株主は創業者の代表取締役社長である中村慎吾氏で、第2位株主は共同研究先でもある事業会社の三菱瓦斯化学、第3位はベンチャーキャピタルの投資事業有限責任組合となっています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 中村 慎吾 | 21.60% |
| 三菱瓦斯化学 | 11.30% |
| New Life Science1号投資事業有限責任組合 | 8.60% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性6名、女性1名の計7名で構成され、女性役員比率は14.3%です。代表取締役社長は中村慎吾氏が務めています。社外取締役の比率は25.0%です。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 中村 慎吾 | 代表取締役社長 | 元武田薬品工業。ダウ・ケミカル日本などを経て、産業革新機構戦略投資ディレクター。2016年より現職。 |
| 萩原 宏昭 | 取締役執行役員管理部長 | 桧家HD経理部長、VTホールディングス等を経て、エムエスジャパンサービス執行役員管理部長。2024年より現職。 |
| 甲田 伊佐男 | 取締役執行役員事業開発部長 | 元日産化学工業。MSD等を経て、アポプラスステーション国際部担当部長。2024年より現職。 |
社外取締役は、小南欽一郎氏(テック&フィンストラテジー代表取締役)です。
2. 事業内容
同社グループは、「創薬プラットフォーム事業」を展開しています。単一セグメントですが、ビジネスモデルによって以下の2つの事業に分けられます。
■(1) プラットフォーム事業
独自のAI創薬プラットフォーム「aibVIS」を活用し、様々な疾患の原因となるタンパク質の設計図であるmRNAを標的とした低分子医薬品の創薬研究を、製薬会社と共同で実施しています。がん領域や中枢神経疾患など多種多様な疾患領域を対象に、ターゲット探索からリード化合物の最適化までを提供します。
収益源は、契約締結時の契約一時金、研究実施に対する研究支援金、開発進捗に応じたマイルストーン収入、医薬品販売後のロイヤリティ収入です。これらを提携先の製薬会社から受け取るビジネスモデルとなっており、同社が創薬研究を、提携先の製薬会社が開発・販売を主に担当して運営しています。
■(2) パイプライン事業
プラットフォーム事業の基盤を活かし、自社単独で核酸医薬品や低分子医薬品の創出を行う事業です。主に患者数の少ない希少疾患を対象としており、独自のドラッグデリバリーシステム「Perfusio」を用いて、臨床試験期間の短縮やコスト削減、開発リスクの低減を目指した研究開発を進めています。
収益モデルは、自社で創出した医薬品候補化合物の権利を製薬会社に譲渡(導出)することによって生み出されます。導出先の製薬会社から契約一時金を得るほか、開発や販売の進捗に応じたマイルストーン収入やロイヤリティを受け取ります。創薬研究は同社が行い、その後の開発・販売は導出先企業が担当します。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
過去5年間の業績は、新規の共同創薬研究契約の獲得等により一時的に黒字化した期もありましたが、近年は減収傾向にあります。特に直近では、新規案件の交渉の期ずれなどから事業収益が減少した一方、研究開発費や販売費などの先行投資が継続し、経常赤字が拡大する結果となっています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2023年12月期 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 0.6億円 | 1.8億円 | 3.6億円 | 1.9億円 | 0.9億円 |
| 経常利益 | -2.4億円 | -1.4億円 | 0.4億円 | -2.3億円 | -3.9億円 |
| 利益率(%) | -404.7% | -77.4% | 10.0% | -120.0% | -428.6% |
| 当期利益 | -2.3億円 | -1.4億円 | 0.3億円 | -2.4億円 | -4.3億円 |
■(2) 損益計算書
事業収益の減少に伴い、営業赤字が拡大しています。同社は創薬のプラットフォーム事業を強化するための研究開発を積極的に行っており、継続的な費用が発生する構造となっています。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1.9億円 | 0.9億円 |
| 営業利益 | -2.1億円 | -4.0億円 |
| 営業利益率(%) | -109.4% | -435.3% |
事業費用(販売費及び一般管理費や研究開発費)の構成として、当期の販売費及び一般管理費は2.7億円です。うち主要な項目は役員報酬が0.8億円(構成比29%)、給与手当が0.7億円(同25%)を占めています。また、事業費用全体には研究開発費2.2億円が含まれており、先行投資型の費用構造となっています。
■(3) セグメント収益
同社は創薬プラットフォーム事業の単一セグメントで事業を展開しています。直近では、新規案件の契約交渉において条件等の妥結に至らず、見込んでいた契約一時金の発生が期ずれしたことなどから、前年比で減収となりました。
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業CFがマイナス、投資CFがプラス、財務CFがゼロ(マイナス相当)の「事業検討型」です。本業のキャッシュ流出を資金回収でカバーしている状態です。
| 項目 | 2024年12月期 | 2025年12月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | -2.2億円 | -3.0億円 |
| 投資CF | -20.1億円 | 4.5億円 |
| 財務CF | 8.5億円 | 0.0億円 |
財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は94.6%で市場平均を上回っています。一方、当期は純損失を計上しているためROE(自己資本利益率)は算出されず、収益力の改善が今後の課題となっています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
「どんな疾患の患者さまも治療法がないと諦めたり、最適な治療が受けられないと嘆いたりすることのない、そんな希望に満ちたあたたかい社会を実現し発展させる」という経営理念を掲げています。mRNA標的医薬品の創出を通じて、アンメット・メディカル・ニーズに応え、持続可能な社会への貢献を目指しています。
■(2) 企業文化
社員の人権を最大限に尊重し、働きがいのある企業風土の醸成や多様な人材を活かす組織づくりを重視しています。また、コンプライアンスがあらゆる企業活動の前提条件であると認識し、反社会的勢力との関係を一切持たず毅然とした態度で臨むことを行動指針に定めるなど、透明性と公正性の高い企業文化を育んでいます。
■(3) 経営計画・目標
2030年を目途に、自社で医薬品を開発・販売できる「スペシャリティファーマとしての地歩を確立すること」を中長期的な目標として掲げています。具体的なKPIとしては、プラットフォーム型ビジネスにおいて製薬会社との新規共同創薬研究契約の締結数を「年間2社」、パイプライン型ビジネスにおいて「年間1本の自社パイプライン創出」を目標に設定しています。
■(4) 成長戦略と重点施策
プラットフォーム事業とパイプライン事業を両立する「ハイブリッド型ビジネス」への移行を推進しています。プラットフォーム事業では既存の共同創薬研究を進捗させ、mRNA標的低分子創薬の成功例を作ることで業界の潮流を変えることを目指します。また、自社パイプラインの拡充により将来価値の高いアセットを創出するとともに、農薬事業への参入やDDSのライセンスアウトなど多角化を通じた事業の安定化を図ります。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
事業活動の原動力である社員を重要な人的資本と捉え、RNA研究に関する高い専門性や豊富な創薬研究経験を有する人材の確保・育成を進めています。社員が働きやすく、業務を通じて成長できる環境を整備することで、帰属意識や満足度を高め、組織全体のパフォーマンス向上と持続的な企業価値の拡大を図る方針です。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はグロース市場の平均を大きく上回る水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2025年12月期 | 45.8歳 | 4.4年 | 8,374,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は従業員規模が300人以下のため、法定項目における公表義務の対象ではなく、有報には本項の記載がありません。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) 収益の変動性と創薬研究の不確実性
収益の多くは契約一時金やマイルストーン収入といった臨時的収入であり、契約の遅延や提携先の方針変更により収益が変動するリスクがあります。また、創薬研究は開発期間が長く成功確率が低いため、有用な化合物が見出せない場合や副作用の懸念等により、研究が長期化または中止となる可能性があります。
■(2) 当社技術の優位性と知的財産権の確保
同社のAI創薬プラットフォームは日本、米国、欧州で特許を取得し競争優位性の源泉となっていますが、競合他社による新技術の実用化などで相対的優位性が失われる可能性があります。また、今後出願する特許が想定通りに付与されない場合や、権利が無効化された場合には、事業展開に影響を及ぼす恐れがあります。
■(3) 小規模組織と特定人物への依存
同社は小規模な組織であり、役員や社員の業務範囲が広範にわたります。計画通りの人材確保ができない場合や人材流出が生じた場合、事業運営が滞るリスクがあります。また、代表取締役社長をはじめとする特定の人物に依存している部分があり、彼らが業務を継続できなくなった場合、経営成績に影響を与える可能性があります。



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