トリケミカル研究所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

 トリケミカル研究所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

トリケミカル研究所は東京証券取引所プライム市場に上場し、半導体や光ファイバー製造等に用いられる高純度化学化合物の開発・製造・販売を主力事業として展開しています。直近の業績は、先端半導体向けの需要拡大を背景に製品出荷が増加したことで、売上高、各段階利益ともに前期を上回る増収増益を達成し好調に推移しています。


※本記事は、株式会社トリケミカル研究所の有価証券報告書(第48期、自 2025年2月1日 至 2026年1月31日、2026年4月24日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. トリケミカル研究所ってどんな会社?


同社は、半導体や太陽電池等の製造に不可欠な高純度化学薬品の開発・製造・販売を主力とする化学メーカーです。

(1) 会社概要


1978年に無機化学工業製品の製造等を目的に設立されました。1979年に光ファイバー用原材料の供給を開始し、1983年からは半導体用エッチング材料の供給を始めました。2007年に大阪証券取引所ヘラクレスに上場後、市場統合等を経て、2018年に東京証券取引所市場第一部へ市場変更し、現在はプライム市場に上場しています。

従業員数は連結313名、単体265名です。大株主については、筆頭株主は創業者であり現代表取締役会長の竹中潤平氏で、第2位および第3位には資産管理業務を行う信託銀行が名を連ねています。

氏名 持株比率
竹中潤平 12.81%
日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 12.48%
日本カストディ銀行(信託口) 10.90%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役会長の竹中潤平氏、代表取締役社長執行役員の太附聖氏をはじめとする体制となっています。社外取締役比率は30.0%です。

氏名 役職 主な経歴
竹中潤平 代表取締役会長 1966年日東弗素工業(現AGCセイミケミカル)入社。1978年同社設立に伴い代表取締役社長就任。2001年代表取締役会長などを経て、2016年より現職。
太附聖 代表取締役社長執行役員 1987年同社入社。2004年営業本部長などを歴任し、2014年代表取締役社長に就任。関係会社の取締役等も務め、2022年より現職。
大杉宏信 取締役執行役員 1995年同社入社。2006年製造部長を経て同社取締役に就任。エッチ・ビー・アール代表取締役社長を務め、2023年より現職。
鈴木欣秀 取締役執行役員 1994年同社入社。2014年管理部長などを経て2018年取締役に就任。関係会社の取締役等も務め、2024年より現職。


社外取締役は、橋本利久(中外合同法律事務所入所)、飯田仁(元古河電子代表取締役社長)、加藤京子(ブルカージャパン入社)です。

2. 事業内容


同社グループは、「高純度化学化合物事業」の単一セグメントで事業を展開しています。

CVD材料

半導体デバイス製造において、ウェハの表面上に薄膜を化学反応を用いて堆積させるCVD(化学気相成長)法に用いられる化学材料を提供しています。半導体メーカー等が顧客となります。
次世代半導体の微細化や高性能化に伴う新たなニーズに対応するため、誘電率の低い膜が得られる材料や、逆に誘電率の高い膜が得られる材料などをいち早く提案し、同社および関係会社が安定的に供給して収益を得ています。

ドライエッチング材料

CVD法等で堆積させた膜の不要な部分を腐食による化学反応で削り取り、ウェハ表面を加工するプロセス向けの材料を提供しています。主に半導体メーカー向けに販売しています。
環境問題や半導体の微細化に対応するため、従来のフロンに代わる臭化水素などの材料を同社や関係会社のエッチ・ビー・アールなどが製造・販売し、顧客からの製品代金を収益源としています。

拡散材料

ウェハ上にトランジスタなどを形成する際、内部に不純物を注入する工程で使用される材料を提供しています。また、光ファイバーの光拡散制御用材料なども扱っています。
材料の性質や顧客の要求に応じた特殊な容器に封入して出荷するほか、新規化学薬品の受託合成や受託実験などの付帯サービスも提供し、同社や台湾の連結子会社である三化電子材料股份有限公司などを通じて収益を得ています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5年間の業績推移を見ると、半導体市場の市況変動による影響を受けた期間もありましたが、総じて売上高は拡大基調にあります。特に直近2期間は先端半導体向けの需要増加に伴い、大幅な増収と高い水準での利益を確保し、成長を継続しています。

項目 2022年1月期 2023年1月期 2024年1月期 2025年1月期 2026年1月期
売上高 116億円 138億円 112億円 189億円 239億円
経常利益 53億円 62億円 33億円 66億円 71億円
利益率(%) 45.7% 44.8% 29.1% 34.8% 29.7%
当期利益(親会社所有者帰属) 32億円 66億円 43億円 43億円 43億円

(2) 損益計算書


売上高と各段階利益はともに前期から増加しており、好調な事業環境を反映しています。売上総利益率は製造経費等の増加によりやや低下したものの、依然として高い水益性を維持しています。

項目 2025年1月期 2026年1月期
売上高 189億円 239億円
売上総利益 80億円 90億円
売上総利益率(%) 42.4% 37.8%
営業利益 53億円 59億円
営業利益率(%) 27.8% 24.7%


販売費及び一般管理費のうち、荷造運賃費が8億円(構成比25.1%)、研究開発費が6億円(同19.4%)を占めています。また、売上原価の内訳としては材料費が84億円(構成比58.9%)、製造経費が34億円(同24.0%)を占めています。

(3) セグメント収益


同社は高純度化学化合物事業の単一セグメントであるため、売上高は同事業のみで構成されています。中国市場の一部顧客の需要減はあったものの、生成AIの普及に伴う先端ロジック・メモリ半導体の高い需要を受け、化学材料の出荷が増加しました。

区分 売上(2025年1月期) 売上(2026年1月期)
高純度化学化合物事業 189億円 239億円
連結(合計) 189億円 239億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標

トリケミカル研究所は、半導体等製造用高純度化学化合物事業を展開しており、営業活動によるキャッシュ・フローは増加しました。これは、利益の計上や減価償却費が主な要因です。一方、投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産や関係会社株式の取得による支出が増加しました。財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の増加が配当金の支払い等を上回ったことでプラスに転じました。

項目 2025年1月期 2026年1月期
営業CF 37億円 38億円
投資CF -31億円 -71億円
財務CF -16億円 11億円

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「科学技術を通じて最先端テクノロジーの発展に貢献し、人々にゆとり創造を実現する」を経営理念として掲げています。開発力の向上や生産技術の改善に取り組み、顧客により良い製品や技術を提供することで、顧客満足の最大化を目指しています。また、持続した健全性と成長性を兼ね備えた事業を通じた企業価値の最大化も追求しています。

(2) 企業文化


同社は、従業員一人ひとりが高い誇りと責任感をもって働くことのできる、公正かつ開かれた企業風土の構築を目指しています。また、最先端の高純度化学材料を扱う企業として、化学物質が環境に与える影響を正しく認識し、顧客や社員の安全性向上、健康増進、環境保全活動を経営の最重要課題の一つと位置づけて事業活動を行っています。

(3) 経営計画・目標


同社は、安定した売上成長を図って規模の拡大を目指しつつ、経営の効率化により確実に利益をあげられる強靭な企業体質の構築を目指しています。2029年1月期を最終年度とする中期経営計画では、以下の経営指標を掲げています。

* 売上高:317億円
* 営業利益:86.5億円
* 売上高営業利益率:25%程度

(4) 成長戦略と重点施策


同社は、生成AIの普及等による需要拡大を見込み、新規材料の市場投入と既存材料の生産性向上を図り収益基盤を強化する戦略を掲げています。また、東アジア市場での中長期的な成長に向けて、国内では南アルプス事業所を基軸とした生産拡大を進め、台湾子会社の生産体制増強、中国での工場立ち上げ準備、韓国関連会社とのシナジー強化を推進します。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は、企業価値の持続的な向上のためには従業員の育成と能力の最大限の発揮が必須であると考え、従業員を最も重要な経営資本と位置づけています。階層別研修や資格取得支援等を通じて個々の成長をサポートし、仕事と生活の調和を図りながら能力を向上させることができる職場環境の構築に取り組んでいます。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2026年1月期 34.5歳 9.0年 8,377,000円


※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 9.7%
男性育児休業取得率 100.0%
男女賃金差異(全労働者) 73.6%
男女賃金差異(正規雇用労働者) 87.5%
男女賃金差異(パート・有期労働者) 94.3%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、長期休暇取得率(83.7%)、従業員の離職率(3.5%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 半導体市況の変動と特定製品への依存

同社の売上高は半導体市場向けが高い割合を占め、大手半導体デバイスメーカーの生産動向に大きく影響されます。特に高誘電率絶縁膜材料への依存度が高く、これらの需要が縮小した場合や、業界の技術革新に追随できない場合には、同社の業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

(2) 原材料の市況変動と調達難

製品の製造には、市況変動に左右される化学薬品や特殊な金属材料を多く使用しています。世界の経済情勢や政治動向等により購入価格が急激に高騰し、それを販売価格へ適切に転嫁できない場合や、主要な原材料を安定的に確保できなくなった場合には、同社の業績に影響を与える可能性があります。

(3) 情報漏洩と技術ノウハウの流出

同社は、半導体メーカーの最先端の製造工程や材料特性等の機密情報を知った上で開発や提案を行っています。これらの顧客情報が漏洩した場合や、同社が独自に蓄積してきた高純度化や安定生産に係るノウハウが社外に流出し、技術的優位性を維持できなくなった場合には、同社の業績や信用に影響を及ぼす可能性があります。

(4) 優秀な人材の確保と維持

市場環境の変化に対応し、高度な研究開発を継続していくために、優秀な人材の確保と定着は同社の事業展開において非常に重要です。必要とする人材の獲得が困難となった場合や、社内の優秀な人材が外部へ流出した場合には、同社の研究開発力や業績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。