トリケミカル研究所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

 トリケミカル研究所 転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態

東証プライム上場の化学メーカーです。半導体製造に必要な高純度化学薬品の開発・製造・販売を主力事業としています。直近の業績は、生成AI向け半導体需要の増加や中国市場の投資拡大などを背景に、売上高は前期比約68%増、経常利益は約2倍となるなど、大幅な増収増益を達成しています。


※本記事は、株式会社トリケミカル研究所 の有価証券報告書(第47期、自 2024年2月1日 至 2025年1月31日、2025年4月25日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。

1. トリケミカル研究所ってどんな会社?


半導体製造工程で使用される高純度化学薬品に特化した研究開発型企業です。最先端技術に対応する材料開発力を強みとしています。

(1) 会社概要


同社は1978年12月に設立され、1983年には半導体用エッチング材料の量産化に成功し供給を開始しました。2007年8月に大阪証券取引所ヘラクレス市場へ上場し、2016年には韓国に関連会社SK Tri Chem Co., Ltd.を設立しました。2018年1月に東京証券取引所市場第一部へ市場変更し、現在はプライム市場に上場しています。

現在の従業員数は連結で274名、単体で228名です。筆頭株主は資産管理業務を行う日本カストディ銀行(信託口)、第2位は日本マスタートラスト信託銀行(信託口)です。第3位には創業者で現代表取締役会長の竹中潤平氏が名を連ねています。

氏名 持株比率
㈱日本カストディ銀行(信託口) 14.38%
日本マスタートラスト信託銀行㈱(信託口) 13.13%
竹中潤平 12.81%

(2) 経営陣


同社の役員は男性9名、女性1名の計10名で構成され、女性役員比率は10.0%です。代表取締役社長執行役員は太附聖氏が務めています。社外取締役比率は30.0%です。

氏名 役職 主な経歴
竹中潤平 代表取締役会長 1966年日東弗素工業入社。1978年同社設立・代表取締役社長。2016年4月より現職。
太附聖 代表取締役社長執行役員 1987年同社入社。営業本部長、専務取締役等を経て2014年社長就任。2022年4月より現職。
大杉宏信 取締役執行役員 1995年同社入社。製造部長、製造・生産技術統括部長を経て2023年4月より現職。
鈴木欣秀 取締役執行役員 1994年同社入社。経営企画室長、管理部長等を経て2024年4月より現職。


社外取締役は、橋本利久(弁護士)、飯田仁(元古河電子代表取締役社長)、加藤京子(ブルカージャパンマネージャー)です。

2. 事業内容


同社グループは、「半導体等製造用高純度化学化合物事業」および「その他」事業を展開しています。

(1) CVD材料


半導体ウェハ上に薄膜を形成するCVD(化学気相成長)工程で使用される化学材料を提供しています。半導体メーカー等が主な顧客です。絶縁膜や金属・導体膜などの材料として使用されます。

収益は、半導体メーカー等への製品販売による対価です。半導体の微細化・高性能化に伴い、誘電率の低い膜(low-k)や高い膜(high-k)が得られる材料など、新たなニーズに対応した製品を提案しています。運営は主にトリケミカル研究所や台湾の子会社である三化電子材料股份有限公司などが行っています。

(2) ドライエッチング材料


ウェハ上の薄膜の不要な部分を化学反応により削り取り、回路パターンを形成する工程で使用される材料を提供しています。環境問題や微細化に対応した材料が求められています。

収益は、製品の販売代金です。同社の主力製品の一つである臭化水素(HBr)は、環境問題や微細化の課題をクリアする材料として需要が増大しています。運営はトリケミカル研究所や、臭化水素の製造を行う関連会社のエッチ・ビー・アールなどが行っています。

(3) 拡散材料


ウェハ内部に不純物を注入し、トランジスタ等の素子を形成する工程で使用される材料を提供しています。シリコンの性質を変えるために、リンやホウ素などの化合物が用いられます。

収益は、製品の販売代金です。顧客の細かな要求に対応した容器に封入して出荷するほか、新規化学薬品の受託合成や受託実験などの付加サービスも提供しており、これらも収益源となっています。運営は主にトリケミカル研究所が行っています。

3. 業績・財務状況


同社の連結業績をデータで分析します。

(1) 業績推移


直近5期間の業績を見ると、売上高は第46期に一時減少したものの、第47期には大幅に増加し過去最高を更新しています。経常利益も同様の傾向で、高い利益率を維持しています。特に直近では生成AI向け需要の拡大等が寄与し、成長軌道に戻っています。

項目 2021年1月期 2022年1月期 2023年1月期 2024年1月期 2025年1月期
売上高 98億円 116億円 138億円 112億円 189億円
経常利益 43億円 53億円 62億円 33億円 66億円
利益率(%) 44.1% 45.7% 44.8% 29.1% 34.8%
当期利益(親会社所有者帰属) 34億円 41億円 48億円 25億円 50億円

(2) 損益計算書


直近2期間の比較では、売上高が大幅に増加したことに伴い、売上総利益、営業利益ともに大きく伸長しています。特に営業利益率は大幅に改善しており、増収効果が利益面に強く反映されています。

項目 2024年1月期 2025年1月期
売上高 112億円 189億円
売上総利益 41億円 80億円
売上総利益率(%) 36.3% 42.4%
営業利益 19億円 53億円
営業利益率(%) 17.3% 27.8%


販売費及び一般管理費のうち、研究開発費が7億円(構成比24%)、荷造運賃費が5億円(同19%)を占めています。

(3) セグメント収益


地域別の売上高を見ると、特に中国向けと日本向けの売上が大きく増加しており、業績拡大を牽引しています。台湾向けも堅調に推移しています。用途別では、High-k(高誘電率)材料の売上が倍増しており、最先端半導体向け材料の需要拡大が顕著です。

区分 売上(2024年1月期) 売上(2025年1月期)
日本 36億円 39億円
中国 18億円 70億円
台湾 43億円 60億円
韓国 14億円 15億円
その他 2億円 5億円
連結(合計) 112億円 189億円

(4) キャッシュ・フローと財務指標


同社のキャッシュ・フローは、本業で稼いだ資金で借入金の返済を行い、投資も手元資金で賄っている「健全型」です。

項目 2024年1月期 2025年1月期
営業CF 30億円 37億円
投資CF -18億円 -31億円
財務CF -19億円 -16億円


企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は16.8%で市場平均を上回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は85.5%で市場平均を上回っています。

4. 経営方針・戦略


同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。

(1) 経営理念


同社は「科学技術を通じて最先端テクノロジーの発展に貢献し、人々にゆとり創造を実現する」を経営理念として掲げています。開発力の向上や生産技術の改善により顧客満足の最大化を目指し、持続的な健全性と成長性を兼ね備えた事業に取り組むことで、企業価値の最大化に努めています。

(2) 企業文化


同社は「環境保全活動への取り組み」を経営の最重要課題の一つと位置づけ、化学物質が環境に与える影響を正しく認識し、安全性向上や健康増進を念頭に置いた事業活動を行っています。また、従業員一人ひとりが高い誇りと責任感を持って働くことができる、公正かつ開かれた企業風土の醸成を目指しています。

(3) 経営計画・目標


同社グループは、第50期(2028年1月期)を最終年度とする中期経営計画において、以下の数値目標を掲げています。

* 売上高:315億円
* 営業利益:86億円
* 売上高営業利益率:25%程度

(4) 成長戦略と重点施策


半導体市場の拡大に伴い、特に中国を含む東アジア市場での中長期的な成長を目指しています。日本では山梨県南アルプス市に新規材料の生産拠点を建設し、台湾や中国の子会社、韓国の関連会社と連携して生産体制の増強や営業活動の推進を図ります。また、新規材料の市場投入と既存材料の生産性向上を併せて進め、収益力の強化に取り組みます。

5. 働く環境


同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。

(1) 人材戦略・方針


同社は従業員を最も重要な経営資本と位置づけ、育成と能力発揮を重視しています。階層別研修やスキルアップ研修、資格取得支援を通じて個人の成長をサポートし、仕事と生活の調和を図りながら能力を発揮できる環境構築に取り組んでいます。また、ニッチな技術やノウハウの蓄積・継承のため、離職率を重要な指標とし、福利厚生の充実や人事評価制度の工夫により人材の定着化を目指しています。

(2) 給与水準・報酬設計


同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均をやや上回る水準です。

項目 平均年齢 平均勤続年数 平均年間給与
2025年1月期 34.8歳 9.1年 8,243,000円


※平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

(3) 人的資本開示


同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。

項目 数値
女性管理職比率 10.7%
男性育児休業取得率 80.0%
男女賃金差異(全労働者) 72.7%
男女賃金差異(正規雇用) 85.8%
男女賃金差異(非正規雇用) 82.6%


また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、従業員の離職率(2.35%)などです。

6. 事業等のリスク


事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。

(1) 半導体業界への依存


同社グループの売上高は半導体市場向けが高い割合を占めており、主要な販売先である大手半導体デバイスメーカーやシリコンウェハの生産動向に業績が大きく左右される傾向があります。先端分野の変化への対応や、新規分野の開拓によりリスク分散を図っていますが、市況の縮小や技術革新への追随遅れが生じた場合、経営成績に影響を与える可能性があります。

(2) 特定製品への依存


半導体向け材料の中でも、特に高誘電率絶縁膜材料分野への売上依存度が高くなっています。同社グループは当該分野以外の新規材料の開発や拡販にも努めていますが、この分野の売上が減少した場合には、同社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。

(3) 原材料の市況変動


製品の原料となる化学薬品や特殊金属材料、容器用ステンレス材料等は市況変動の影響を受けやすく、また入手が困難になるリスクもあります。主要原料の安定確保に努めていますが、価格高騰や調達難が生じた場合、あるいは価格転嫁が困難な場合などは、経営成績に影響を与える可能性があります。

(4) カントリーリスク


同社グループは台湾、中国、韓国に拠点を有しており、これらの地域での販売増加を成長要因としています。地政学要素を見極めながら事業運営を行っていますが、当該地域において法律・規制の変更、テロ、戦争、その他の社会的混乱等が生じた場合、事業活動に支障をきたし、経営成績に影響を与える可能性があります。

この記事の執筆者

上場企業の有価証券報告書から、事業内容・業績推移・平均年収などの客観的データを抽出。求人票の裏側にある「企業のリアル」を、転職志望者の視点で分かりやすく解説します。