**記事タイトル:「ダブル・スコープ転職ガイド:有価証券報告書等から読み解く会社の実態」**
※本記事は、ダブル・スコープ株式会社の有価証券報告書(第21期、自 2025年2月1日 至 2026年1月31日、2026年4月17日 提出)の公開情報に基づき作成しています。会計基準は Japan GAAP です。
1. ダブル・スコープってどんな会社?
リチウムイオン電池の安全性と性能を左右するセパレータなどの開発・製造を手掛ける企業です。
■(1) 会社概要
2005年にリチウムイオン二次電池用セパレータの開発製造および販売を目的に設立され、同時に韓国に子会社を設立しました。2011年に東京証券取引所マザーズへ上場し、2015年に市場第一部へ市場変更しました。その後も韓国や香港、中国、ハンガリーに拠点を拡大し、グローバルに事業を展開しています。
現在の従業員数は連結で274名、単体で6名です。大株主の筆頭は創業者の崔元根氏で、第2位および第3位には信託業務や海外の資産管理業務を行う金融機関が名を連ねています。
| 氏名 | 持株比率 |
|---|---|
| 崔元根(CHOI WON-KUN) | 8.42% |
| 日本マスタートラスト信託銀行(信託口) | 8.38% |
| KOREA SECURITIES DEPOSITORY-SHINHAN INVESTMENT | 3.07% |
■(2) 経営陣
同社の役員は男性5名、女性2名の計7名で構成され、女性役員比率は28.6%です。代表取締役社長は崔元根氏が務めており、社外取締役の比率は57.1%となっています。
| 氏名 | 役職 | 主な経歴 |
|---|---|---|
| 崔元根 | 代表取締役社長 | 1990年韓国三星電子入社。2000年韓国ワイド取締役副社長。2005年同社代表取締役社長就任。2016年W-SCOPE CHUNGJU PLANT代表理事就任。 |
| 大内秀雄 | 取締役 | 1985年住商機電貿易入社。2005年PMCテクニカ入社。2006年同社入社、営業本部長。2008年取締役就任。2017年戦略企画本部長就任。 |
| 全永鈺 | 取締役 | 1979年サムスングループ入社。1999年サムスンSDIマレーシア法人常務理事。2011年W-SCOPE KOREA監査役。2022年同社取締役就任。 |
社外取締役は、李俊範(J・Kコンサルティング代表取締役)、須山敦子(須山公認会計士事務所代表)、龍田有理(punctum代表取締役)、増田庸司(東京エクセル法律事務所入所)です。
2. 事業内容
同社グループは、「セパレータ事業」および「イオン交換膜事業」を展開しています。
■(1) セパレータ事業
リチウムイオン二次電池の主要材料であるセパレータ(ポリオレフィン微多孔膜)を開発・製造し、アジアや欧州、米国などの二次電池メーカーへ提供しています。正極材と負極材を隔離しつつリチウムイオンの伝導性を確保し、異常発熱時には孔を塞いで電池の機能を安全に停止させる役割を担っています。
電池メーカーからの製品販売代金を主な収益源としています。製品の製造は韓国の連結子会社W-SCOPE KOREAおよび関連会社W-SCOPE CHUNGJU PLANTが行い、同社がグループ全体を統括してアジアや欧米市場へ営業活動を展開しています。
■(2) イオン交換膜事業
セパレータ事業で培ったメンブレン技術を応用し、水処理やリチウム精製プラントなどで使用されるイオン交換膜を提供しています。陽イオン交換膜、陰イオン交換膜、双極交換膜やこれらを組み合わせた双極電気透析モジュールを展開し、浄水や脱塩、抽出などに利用されます。
顧客へのモジュールやフィルムの販売代金を収益源としており、すでにリチウム析出事業等に採用されています。運営および製造は主に韓国の連結子会社W-SCOPE KOREAが行っており、今後は水処理事業や水電解事業への参入も計画しています。
3. 業績・財務状況
同社の連結業績をデータで分析します。
■(1) 業績推移
直近5期間を見ると、売上高は一時拡大したものの、直近ではEV需要の低迷等により大幅な減少に転じています。それに伴い経常利益および当期利益もマイナスとなっており、収益性の回復が急務となっています。
| 項目 | 2021年12月期 | 2022年12月期 | 2024年1月期 | 2025年1月期 | 2026年1月期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 300億円 | 451億円 | 480億円 | 310億円 | 36億円 |
| 経常利益 | -34億円 | 83億円 | 46億円 | -32億円 | -114億円 |
| 利益率(%) | -11.4% | 18.4% | 9.6% | -10.4% | -314.4% |
| 当期利益(親会社所有者帰属) | 83億円 | 6億円 | -2億円 | -2億円 | -57億円 |
■(2) 損益計算書
直近2期間の傾向として、売上高の急減に伴い売上総利益と営業利益がともに大幅なマイナスに転じています。生産量の減少で固定費を賄いきれなかったことが主な要因です。
| 項目 | 2025年1月期 | 2026年1月期 |
|---|---|---|
| 売上高 | 310億円 | 36億円 |
| 売上総利益 | 11億円 | -40億円 |
| 売上総利益率(%) | 3.5% | -109.5% |
| 営業利益 | -10億円 | -49億円 |
| 営業利益率(%) | -3.2% | -135.5% |
販売費及び一般管理費のうち、給料手当が2億円(構成比25%)、支払報酬が1億円(同15%)、支払手数料が1億円(同14%)を占めています。
■(3) セグメント収益
セパレータ事業はEV需要の停滞等により大幅な減収となりました。一方、新たに立ち上げたイオン交換膜事業は新規案件の開始により売上を計上していますが、全体としては減少傾向にあります。
| 区分 | 売上(2025年1月期) | 売上(2026年1月期) |
|---|---|---|
| セパレータ事業 | 297億円 | 22億円 |
| イオン交換膜事業 | 13億円 | 14億円 |
| 連結(合計) | 310億円 | 36億円 |
■(4) キャッシュ・フローと財務指標
営業で利益を出し、借入によって積極投資を行う状態です。
| 項目 | 2025年1月期 | 2026年1月期 |
|---|---|---|
| 営業CF | 40億円 | 7億円 |
| 投資CF | -287億円 | -7億円 |
| 財務CF | 173億円 | 0.2億円 |
企業の収益力を測るROE(自己資本利益率)は-27.6%で市場平均を下回る一方、財務の安定性・安全性を測る自己資本比率は78.5%で市場平均を上回っています。
4. 経営方針・戦略
同社が掲げる経営理念と、それを実現するための企業文化、および今後の具体的な成長戦略について解説します。
■(1) 経営理念
同社は環境保全と社会貢献を経営理念として掲げています。同社が持つメンブレン技術を活かし、環境にやさしく社会に貢献する製品を生み出すことを事業の柱として位置づけています。事業規模を拡大して企業価値を極大化させ、持続可能な社会の成長と連動した経営を目指しています。
■(2) 企業文化
同社は、「コミュニケーション」「オーナーシップ」「チャレンジ」の3つをコアバリュー(中核となる価値観)として設定しています。変化の激しい事業環境下で会社が成長し成功を収めるためには、これらの価値観を体現する姿勢が社員に不可欠であると考え、採用や育成の基盤としています。
■(3) 経営計画・目標
同社は、企業価値の向上と事業規模の拡大を目指し、投資家の期待に応えるための重要な指標としてROIC(投下資本利益率)を重視しています。中短期的な目標として、以下の数値を掲げています。
・ROIC:5%以上
■(4) 成長戦略と重点施策
同社は、業績回復と持続的な成長に向けて、特定の顧客への依存から脱却し、顧客や製品用途の多様化を最重要課題として掲げています。また、メンブレン技術を進化させるための研究開発投資を継続しつつ、生産設備の改良による生産性の向上を図り、コスト競争力の強化に取り組んでいます。
5. 働く環境
同社の人材戦略と、給与水準や働きやすさに関する指標を解説します。
■(1) 人材戦略・方針
同社は、自社のコアバリューを具現化できる人材を確保・育成するための戦略的な採用と研修プログラムを運用しています。新入社員向けの体系的な研修に加え、階層別のリーダーシップ研修や、生産工程や品質向上に関する職務能力強化研修を実施し、従業員の専門性と安全意識の向上を支援しています。
■(2) 給与水準・報酬設計
同社(単体)従業員の平均年間給与はプライム市場の平均とほぼ同じ水準です。
| 項目 | 平均年齢 | 平均勤続年数 | 平均年間給与 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月期 | 41.0歳 | 6.8年 | 7,742,000円 |
※平均年間給与は賞与及び基準外賃金を含みます。
■(3) 人的資本開示
同社は以下のような人的資本・多様性の開示を行っています。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 女性管理職比率 | 0.0% |
| 男性育児休業取得率 | - |
| 男女賃金差異(全従業員) | 46.5% |
| 男女賃金差異(正規) | - |
| 男女賃金差異(非正規) | - |
また、同社は「サステナビリティ」等のセクションにおいて、法定開示以外の指標も掲載しています。例えば、有給休暇取得率(41.8%)、災害件数度数率(5.31%)などです。
6. 事業等のリスク
事業環境やシステムに関連する主なリスク要因を概観します。
■(1) セパレータ事業への収益依存
同社の売上の大部分は、リチウムイオン二次電池用セパレータに依存しています。これらの製品は電気自動車やポータブル機器などに使用されているため、経済状況の悪化等により関連機器の需要が縮小した場合、同社の業績や財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
■(2) 技術革新と製品ライフサイクルの短期化
リチウムイオン二次電池産業は技術革新が加速しており、部材の性能改善が強く求められています。同社も研究開発を強化していますが、予測よりも早く技術革新が起こり、新製品の投入遅れや既存製品の陳腐化が生じた場合、市場での競争力を失うリスクがあります。
■(3) 特定顧客への売上集中
同社の売上高は一部の特定企業に大きく依存しており、当期においては1社で売上高の50%以上を占めています。顧客からの製品購入が大幅に減少したり取引が中止されたりした場合、同社の事業や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。



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